血のように赤い夕焼け。一般人から見ればただの綺麗な夕焼けだが、慎二から見ればどうにも色合いが血のような気がしてならなかった。
ふと夕焼けが差す窓から視線を外す。
「今日まで他の陣営も特に目立った動きはなし、か」
テレビに目を移し、ニュースを眺める。特にこれといったものはなく、強いていうならガス漏れ事故が多いという情報だけである。
聖杯戦争が膠着状態に陥ることは、ある程度慎二には読めていた。
――恐らく、この静寂を破るのはセイバー陣営、もしくはアーチャー陣営だろうな。
セイバーとアーチャーはマスターが行動的なのもあって、よく動き回る。その点に着眼しての慎二の予想だった。
「セイバーとアーチャー、ねぇ。このふたりの中だと、ライダーと互角に戦えるのはセイバーぐらいだな。アーチャーは投影した武器にもよるが、正直、それでも俺のライダーを傷つけるのはほぼ不可能に近いな」
慎二は顎に手を当てて分析し、そう断定する。
「あとの三騎士はランサーか。こいつの宝具は確か、ライダーとの相性が最悪だったはずだ。特に至近距離でランサーが宝具を開帳したりなんかしたときは……目も当てられないな。
キャスターとアサシン。奴らに関してはどう足掻いてもライダーには勝てない。せいぜい危険視するならアサシンの『燕返し』だが、真名が割れない限り、あまり心配はいらないか。
残るはバーサーカー。あの鬼畜な蘇生宝具が厄介すぎるうえ、敏捷性以外のスペックはほぼライダーを上回っている。恐らくライダーでも何回かは殺せるが、流石に十二回は無理だな……。相手にしないよう、立ち回ろう」
他のサーヴァント対ライダーを想定し、慎二は結論づけた。
と、そのとき。ライダーが霊体化を解いて現れる。
「マスター、ちといいか?」
ああ、と慎二は首を縦に振り、ライダーから四歩ほどの距離を保ち相対する。
「聞くのが遅くなったが、お前さんは聖杯に叶えてほしい願望とかあるのか?」
ライダーが紡いだ問いは、聖杯戦争に参戦するサーヴァントとして、マスターへの至極当然な質問だった。
サーヴァントにだって願望はある。しかし仮にマスターがそれと相反する願望を持ち合わせていた場合、最悪、マスター殺しに走る者だっている。
だが慎二は平然と、
「え? ないけど」
感情の籠もっていない声音で、即答した。
これにはライダーも、目をぎょっと開かざるを得なかった。
そして――
「フ――ハハハハ!」
ライダーは、腹を抱え、大笑いする。
「どうやら、俺は予想以上に豪胆なマスターに出会ったのかもしれないな!」
嬉々とした様子で、ライダーは慎二をそう称する。
「この戦い、俺は俺自身の望みを貫けそうだぜ」
満足したように口角をあげるライダー。
それを見た慎二は、ここぞとばかりに、
「じゃあ、ライダーのその望みとは?」
問いを投げる。
ライダーは胸に右手を当て、口を開く。
「俺の望みは――『英雄らしくあること』。ただそれだけだ。二度目の生なんぞにあまり興味はねぇし、聖杯も欲しいっちゃ欲しいが、その程度だ」
そんなことを、ライダーは言い放った。
慎二は大きく頷き、満面の笑みを浮かべる。
「なるほど、流石は疾風の如く英雄の道を駆け抜けたアキレウスだ」
ふっ、と息を鳴らし、慎二は感嘆する。
「――お前さんがそういうマスターで、安心したぜ」
満足げに大きく背を伸ばすと、ライダーは用が済んだのか霊体化する。
「んじゃ、この聖杯戦争、改めてよろしくな。ライダー」
慎二はボソリと呟き、椅子に背を預けた。
昨夜と同じように、妖しく黄金に輝く月。
それを眺めたある侍が、不快げに眉を顰める。
「今宵の月は、凶兆だったか」
視線を眼前に佇む男に切り替える。
「――せいぜい足掻け、雑種」
男がそう告げた刹那、侍の全身を悪寒が通りすぎていった。
しかし、侍もまけじと長刀の刃を男に向ける。
だが――
――その夜、三分も経たぬうちに、侍は討ち取られた。