もしもゾンビの世界でVOICEROIDのキャラが誰かと出会ったら 作:ロッキード
…結月ゆかりside
「嫌なものですね、自分の住んでいた場所のこんな姿を見るのは」
ゾンビが世界に蔓延ってから幾日経っただろうか。
知り合いだっただろう人間がゾンビになっている姿を見るのも、それを撃たなければならないという事も辛いものだ。
だが、人間とは不思議なものだ。それを繰り返して行く内に、躊躇いや悲しみは無くなっていった。
都会の方ではゾンビの規模も被害も大きいという。
幸い自分の住んでいたところは、都会から少し外れた住宅街というのもあってか、物資も武器もそこそこにあった。
「訓練というのも、当てになりませんね……」
元々、テロやパンデミック等の“非常事態”に備えた特殊部隊というものに所属しており、そこではサバイバルの知識や銃の使い方を覚えていた。
とはいえ、政府が無くなれば特殊部隊を動かす権限も人もいなくなる訳であり、覚えたサバイバル術は役に立てど、部隊などという名目は飾りにすらならなかった。
「まぁ、装備を備えることが出来たってのは救いですね。」
今の自分の目的は一つだけ、弦巻マキを探すこと。
あのパンデミックの騒ぎの時に一緒に連絡が付かなくなった。
「マキさんならしぶとく生きてますよ。
……あの乳が仇になってるかもですがね」
なんて冗談を口にしても、相手にしてくれるのは精々ゾンビくらいなものだ。
彼女を信頼している。
だから何処かでしぶとく生きてるだろう。
案外怯えてるかもしれない。
それとも勇猛果敢にゾンビに立ち向かってるかも?
いずれにしろ、その光景を思い浮かべると笑いが込み上げてくる。
どれも彼女らしいし、どれも弄りがいがある。
ゾンビが一生居なくならなくても、
何年でも弄れるネタだろう。
そう思いに耽けながら、コンビニを見つける。
そういえばこんな所にもあったと思い出す。
何気にここら辺に立ち寄るのは初めてかもしれない。
割れたガラスの上を踏み歩き、中へと入る。
物色する為に奥へ行くと、人影があった。
すかさず拳銃を抜く。
だが、そこには見覚えのある後ろ姿があった。
その金髪を忘れる訳が無い。
彼女だ。
そう確信し、声を掛けようとする。
「マキさん!?こんな所にい」
とそこで息詰まる。
振り返る彼女の顔に生気は無かった。
聞き馴染みしかない声で、唸るような声を出す。
手が震え、力が抜けて、銃を落としそうになるのをなんとか抑える。
今まで失っていた躊躇いや悲しみが蘇る。
いや、それ以上の何かが湧いてくる。
言葉に出来ないような、言い表せないような、
そんなよく分からない感情が湧き上がる。
彼女は静かに唸りながらゆかりに近づく。
だが、撃てなかった。
引き下がることも、逃げることも。
もしかしたら、ここで彼女に殺されてしまった方が楽なのではないかとまで考えた。
ここで彼女に息の根を止めてもらった方が、
彼女を撃つ以上の心の傷を負わなくて済むのではないかと。
死を受け入れても、非難する者はいない。
大切だった人はもう生きていない。
なら、生きていてもしょうがないのだ。
だから、銃を下ろし、彼女を受け入れようとする。
歯を食いしばり、これから来る痛みを受け入れようと、目を瞑る。
だが、来るはずの痛みはいつまで経っても来ない。
生気のない顔で彼女は、私を認識すると座り込み、
少し顔下げるようにする。
疲れて寝てしまったように、私を受け入れるように。
私を襲うことなく、ただそこに居た。
震えそうになる声を必死に抑えて何とか言葉にした。
「マキさんは意地悪ですね」
そう少し微笑みながら銃を構える。
涙が出そうになるのを必死に抑える。
彼女を見送るのならせめて…
せめて笑顔で、いつものようにしなくてはと思ったからだ。
そうして彼女の頭に銃を放つ。
…弦巻マキside
たまたま外に出て、今日はいつも行かない場所に行ってみたいと思い、散歩に出た。
普段は行かない道を行くと思いがけない場所を見かけたりする。この前はパン屋を見つけたし、その前は変わった宗教の施設を見つけた。
狭い道を抜けると少し広い道に出る。
そこにはコンビニがあった。
人はほとんど居なかったが、店内は整っていた。
店の奥に行き、飲み物を見る。
炭酸の飲み物が多い。最近はエナドリ系統も増えてきた印象がある。
「美味しいのかなぁ…?」
そう呟いていると、ガシャンとガラスが割れる音と共に車が突っ込んでくる。
車はギリギリ私に当たらなかったが、後ろから何かがボトリと落ちていった。人間だった。
そのまま車はバックをして、カーチェイスをしているように何処かへと行ってしまった。
とりあえず落ちた人に駆け寄り声をかける。
だが、返事はない。
いや、無いという訳では無い。
低く唸るような声を発した。
それを何かと理解する前にその者は私に噛みつく。
咄嗟に引き離すが、その後見た生気のない顔はまるで化け物だった。
何をするんだと、店員が私を庇うように駆け寄った。
とそこで店員は噛みつかれ、そのまま食い殺される。
それを見た客は近隣の人間はパニックになり、一目散に逃げている。
それを化け物は追うように何処かへと言ってしまう。
そして店内は空になる。
噛まれたせいか、少し息苦しくなり、意識が遠のく。
売っていたもので、何とかなりそうな物を口にして見たが、どうにもダメそうだった。
少し前にやったゾンビのゲームだなと思い出す。
ゆかりちゃんは元気だろうか。
確か何かの部隊に入ったと話していた。
彼女なら、なんとか生きているだろう。
確証はないが、何故かそう確信出来た。
死期を悟っていて尚、自分は冷静だった。
どうせ死ぬのならかっこよくとか、
誰かに囲まれて死にたかったとか、
ゆかりちゃんの傍で…とか。
そう考えていく内に苦しくなってくる。
意識が遠のき、そのまま自分が消えていく。
少し寒くなってくる。
…
…
…
…
「…さん!?」
そんな聞き覚えのある声が私を呼び覚ます。
身体も自由に動かせない死人なのにも関わらず、
その声は一時的に私を思い出させた。
微かな自分の視界には、見覚えしかない人間を映し出す。
ようやく迎えに来てくれたんだと、少し嬉しくなる。
一番好きな人に最期に居てくれるのなら、それ以上の望みはない。
座り込み、下を向くように死を受け入れる。
彼女なら一人でも大丈夫。
何処へ行っても、誰といても、きっと。
その思いは届かないだろうけど、祈りを捧げる。
そしてまた、彼女は自分に声をかける。
唯一の悔いがあるとするのなら、
彼女に声がかけられない事だろうか。
そして銃声と共に、私は消える。
幸せなんてないです(キッパリ)
こんなノリが多分幾つか続くだけのものです。
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