『轟』という字を三つ束ねられた『車』であると解釈するとして、その日ユニバース・ストームを席巻していた爆音たちは、その『轟』をさらに三つ束ねなければ表せないほどに荒れ狂い、世界を揺らしていた。
幾十の雲が立ち上り、時に食らい合って消えていく。それら一つ一つに殆ど差異は無く、他ならぬ外見の使いまわしを、その身でもって暴露していた。しかし一方、この荒野に一人として神を責める者は無い―――もはや、この世界はすでにそういった状態から脱却し、次なる段階へと足を運びつつあるのだ。
あるいは、既に運び終えてしまったのかもしれない。
「それでは、これより―――」
男が音伝者越しに、電子的な雑音を混じらせて言い放つ。
そこら中から聞こえてくる核爆発は、男の上げる声を少々不明瞭にしても、集まる人々全体を球状に包み込む反熱量場によって、中断するまでは決して至らず―――見方によっては戦場の真っただ中で、それは宣言されたのであった。
「―――一級大型宙海船操縦者サンラクの、処刑を実行する!!!」
烈風が、戦乱を体現するがごとく弾け散った。
◆
事の始まりはニ十八分前、サンラクがいつものように敵拠点に数多の核爆弾……及び、それらに少しばかりこびり付いた人間を投下しに行った時のことだ。
ユニバース・ストームは基本的に大規模なPvMだが、プレイヤーには様々な選択肢が存在する―――それはサンラクのような爆撃であり、真っ当な戦闘であり、そして何より―――裏切りである。極めてその場のノリで設立された『その場のノリでサンラクに反対団』とでも言うべき勢力は、その場のノリでサンラクを捕縛し、その場のノリで地上まで下ろし、そして今、その場のノリで死刑を実行せんとしているのである。
「貴様ら―――これは、勝機だ。確実かつ計画的かつ穏当にサンラクを処刑し、我々の時代が来たことをプレイヤー達に知らしめるのだ」
その場のノリでサンラクに反対団六代目団長は、先程まで五代目団長だったがその場のノリで下剋上の被害に遭った結果として転がっている死体を適当に蹴り飛ばしながらそう言った。いくらその場のノリと言えど既に完全なるノリは彼等にとって過去の物であり、その場のノリでサンラクに反対団はもはや、勢力としてある程度のものを持っていると言えた。一度発生した事象は止まらず連鎖し、時としてその場のノリを継続的な意志へと変貌させるのである。
「ええ、団長―――あれほどまでに注目だの刮目だの着目だの言って幅を利かせていたサンラクを完膚なきまでに処刑し、我々の力を誇示するのです!!」
その場のノリで部下になったプレイヤーですら、そのある種の組織性に酔い始めていた―――組織に行動は付きまとうものだが、時として行動が組織を作ることもあるという好例であった。サンラクが約3週間をかけて延々とプレイヤー達を大空へリリースしたことも行動であり、そのサンラクを捕獲することもまた行動であったのだ。
団長がその場のノリで起こった反乱の末にその場のノリで電解量機手錠つきで磔にされたサンラクの方を向き、言う。
「フン―――ここから逃げることは、できまい」
そして少し考えた後、
「あ、ログアウトは反則だからな!」
と付け加えた。
サンラクはいつもの注目だの刮目だの着目だのをどこかに置いて行ってしまったかのように黙りこくって、けれどもその瞳には常に星が宿っていた。六代目団長はその場のノリで溜息をつくとくるりと向き直り、そしてその場のノリで忠誠を誓った部下に殺されて七代目団長の誕生を同時として死んだ。流れ出した血液は見る者の目によって違う物に映り、さながらサンラクの相棒たる幾千の触手に包まれたスライム型宇宙人のように、形を捉え所なく変え続けていった。
◆
そうして通算二十八分後、最新の科学技術によって古来より伝わる磔の形を取らされたサンラクは、反熱量場に包まれた総計74人のプレイヤーに囲まれて、そしてそのうちの一人であるその場のノリでサンラクに反対団十二代目団長に傍立たれて、十二代目団長の長ったらしい口上の的として、やはり黙って張り付けられていた。
「さて、サンラク君―――何か、言い残すことはあるかね」
話がなげーんだよ誰かコイツ下剋上しろもう帰っていいですかを主要とする様々な罵声、そしてそれら一切を掻き消す轟轟轟音が轟轟轟く見方によっては戦場の真っただ中で、向けられた音伝者を一瞥すると、サンラクは。
一言、こう呟いた。
「―――刮目せよ」
その時―――すべてが爆ぜた。より具体的に言えば、総計74人のプレイヤーとサンラクの、総計75人のプレイヤーが爆ぜた。もしもその場のノリでサンラクに反対団を勢力と呼べるなら、勢力に反対されている以上サンラクもまた勢力だ―――そして、勢力には行動が付きまとう。その行動のうち一つが、残弾たるあらゆるプレイヤーに装着された、指向性の小型爆弾に他ならなかった。外の轟轟轟音にすら匹敵するほどの爆発は、反熱量場内部で乱反射するがごとくエネルギー移動を繰り返し、地面を抉り、あらゆるを消し飛ばした。
その光景は、さながらすべてに対する処刑だったのだ。