【掌編集】処刑   作:Z-LAEGA

5 / 8
いうほど掌編か?


カッツォの場合

その日、アニマルファイト・オンラインに新規プレイヤーが一人増えた。

 

その(PN)は「カッツォエボシ」、友人(外道)に格ゲーのオススメが無いか聞いたところ「騙されたと思ってやってみろよ!」と騙されてこのゲームを購入した。彼はデータ型プレイヤーである一方、()()についてはむしろ自分で飛び込んで試してみるタイプだ―――ベルセルク・オンライン・パッションにおいて、惨敗とフレンドリストの増加を同時に発生させたのも、他ならずそれが招いた事象である。

 

「へぇ、本当に動物のアバターで格ゲーするんだなぁ……よし、このイノシシにしよう」

 

そうして肉体を仮置きとしての現実のものから突進攻撃を強みとする四足歩行獣に変更したカッツォエボシは、意気揚々とオンラインマッチをスタートする―――そこが蟲毒なのか楽園なのかすら、判別を付けられていない状態で。

 

 

最初に当たったのはライオンだった。一応トレーニングモードで一通りの操作を覚えてきたカッツォエボシは小手調べとばかりに突進と見せかけてフェイントを挟んで()()、空を取る―――イノシシは何も地上だけの存在ではない。その加速力は空中でも万全に生かされ、確実に敵対者の喉笛を抉り取るのである。獣毛に包まれた弾丸が、相手のライオンの息の根(HP)を止めんと牙を剥いて襲い掛かる―――()()()。カッツォエボシは手ごたえを覚えた。

 

しかし。

 

「ニャー」

 

そんな、気の抜けた一鳴で。

 

ブヒッ!?(えっ!?)

 

恐ろしいほどに短い予備動作と、恐ろしいほどに長い攻撃判定残留時間を持つ猫パンチは、猛猪へと無情なまでのクリティカルヒットを入れ。

 

「ニャーガルル、ニャーガルル、ニャ、ニャーガルル、ニャーガルル、ニャ、ニャーガルル、ニャーガルル、ニャ、ニャーガルル、ニャーガルル、ニャ…………」

 

そのまま、永劫の時(ハメ技)へと誘っていった。

 

 

「……えぇ?」

 

カッツォエボシは戦慄した。ハメ技という格闘ゲームにおける明確過ぎるイリーガルが自らの身体を対象として軽いノリで披露されたためである。そもそも無警戒に手に取ってしまったものの、冷静に考えてこのゲームは()()()に勧められたものだ―――クソゲーでないはずがない。彼は唾を飲み込み、しかし猪アバター故の規制(フィルター)がそれを断固として阻み、渇くわけがない喉が渇いたような気分になった。

 

「……アレだ、キャラ相性がちょっと極端なのかもしれない」

 

カッツォエボシは何者かに向けての―――それはひょっとしたら、このゲームを()()()()()()()()買ってしまった過去の彼自身なのかもしれなかった―――言い訳めいた呟きを漏らした後、猪以外のキャラを選択しようとインターフェースを操作する。チーター、キリン、トムソンガゼル……文字通りの動物園というべき選択肢から、彼が選び取ったのは。

 

「……カンガルー、か」

 

 

次に当たったのもライオンだった。カッツォエボシはひとまず距離を置きつつ、隙あらば懐に忍び込もうと当然のように直立二足歩行し始めるライオンを睨みつける―――先に動いたのはライオンだった。直立二足歩行をそのまま跳躍姿勢に変え、丁度先程のカッツォエボシの如く()()―――だが、その程度の回避はカッツォエボシにとって容易極まりない事である。尻尾をバネにしてバックステップ、そして着地時の硬直でカウンターを狙う―――回避は成功し、ライオンは硬直し。彼が脳内で描いた作戦(プラン)は、上手くいくはずだった。

しかし。

 

「ガオー」

 

そんな、気の抜けた一鳴で。

 

ヴェー?(は?)

 

短めとキャラ説明文に記されている物の普通にそこそこの長さを持つ咆哮(全方位確定硬直)がカンガルーにスマッシュヒットし、ステップ状態にあったカンガルーは姿勢を崩す―――落下ダメージ、そして同じく着地時硬直。しかしてすでに体勢を立て直していたライオンは、今度こそとばかりに再度の跳躍を行い、

 

「ニャーガルル、ニャーガルル、ニャ、ニャーガルル、ニャーガルル、ニャ、ニャーガルル、ニャーガルル、ニャ、ニャーガルル、ニャーガルル、ニャ…………」

 

そのまま、永劫の時(ハメ技)へと誘っていった。

 

 

「クソゲーでは?」

 

カッツォエボシは今更極まりない台詞を吐いた。もはや彼は()()()()()()()()()()()()に脳内で変換していた―――しかし、それでも始めてしまったゲームはある程度やらなければならない。

 

「……何か、何かキャラは無いのか」

 

再び彼はセレクトに戻る。ワニ、サイ、カバ……様々な動物が画面内に文字情報として表示されては、スクロールの波に押され消えていく。そんな中、彼が選び取ったのは。

 

「……クマ、か」

 

 

次に当たったのもライオンだった。カッツォエボシは開始直後にデスロールを受けて十割削られ負けた。

 

 

「クソゲー」

 

カッツォエボシは確信した。ストレスが溜まった脳が、量子波とVRシステムを隔ててアバターをも苛立たせる。彼はもはや対戦ゲームにおけるキャラ差などどうでもいいと考えており、このゲームは全員ライオンで戦って一番ライオンを使うのが上手い奴が勝ちなゲームなのだと推察し切っていた。だからもはや迷うことも無く、誘い込むようにメニューの一番上に記された「ライオン」の文字列をタップすると、急ぎ足で蟲毒(オンライン)へと潜り込んだ。

 

 

次に当たったのはライオン、では無かった。カッツォエボシは驚き、咄嗟にプレイヤーネームを―――即ち、眼前の()()()の頭上に記された文字列を―――確認して、そして、そこには。

 

「……サンラク」

 

「奇遇だな―――カッツォ」

 

カッツォエボシは、腕組みをするゴリラに若干の本能的恐怖を覚えつつ言い放つ。

 

「……このゲームのカラクリはもう知ってるよ、ゴリラだろうが何だろうが、このクソチート百獣の王で蹂躙してやる」

 

ゴリラ(サンラク)は何も答えずに、ただ腕組みをしてニヤニヤと笑っていた。ゴリラの表情筋って結構動くんだな、なんてどうでもいい思考が、ふとカッツォエボシの胸を横切った。しかし、そんなものはすぐに掻き消される―――ゴングはもうすぐ鳴る、このメタも何もないクソゲーで、最強生物たるライオン様の力をこれでもかと振るって処刑してやる。そういった思いが、代わりに台頭してきた。

 

そして、処刑が始まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。