シャングリラ・フロンティアには、気配が実装されている。
それは例えば辻斬・狂想曲:オンラインの『直感』システムのような挙動を取り、時にプレイヤーの命を救うこともある。エンジンを同じくするネフィリム・ホロウ2にも、そのシステムはそのまま流用されていた―――そして、それ故。
『危なァ!?』
サンラクは、避けた。
もっとも、絵面から考えると、その行動は避けたとは言い難いものだった―――あまりにも特殊であり、目にしたモルドが硬直するのも無理もない、そんな避け方だったのだ……即ち三岐腸は、断捨離を繰り返して最速を手に入れる多角形的ネフィリムは。
『―――分離した!?』
その過熱剣でもって、己を両断したのだ。
それは、見方によっては半身を断捨離したようにも見えたし、また別の見方によっては全身を分割したようにもみえた。頭頂部から切り下すように真っ二つにされた肉体は、ブースターを噴かすことを決して辞めず―――まだ生きていたのだ。
『ふふふふふ……まさかこいつを使うことになるとはなァ』
『……サンラクさん、それは』
聞きながら、モルドは退避しつつ武装を展開する。
『いいかモルド、お前らは可逆的でない分離機構を作るのは簡単だと、そう言った』
半身が―――といっても、どちらの半身かはわからなかったが―――告げる。モルドに、もう片方と共に襲い掛かりながら。
『でもな―――俺は考えたんだよ。そもそも分離機構を作る必要があるか?機体を分離させたいなら、わざわざジョイントを何やらするより物理的に切断した方が早いだろう―――実際、早かったようだしなァ!』
残存する6機の八砲微塵が、幾万の演算の末に攻撃を選ぶ―――しかし、三岐腸の切断部から出現したレーザーガンたちの敷く弾幕に阻まれ、その全体機数を5機へと減少させるのみである。
『さて―――ちょっと予定は狂ったが、何にせよ勝つのは俺のようだなァ!』
振るわれた過熱剣が空気を焦がし、世界そのものを揺らがせた。
◇
モルドは、ネフィリムの操作を得意としない。
彼は本質的に操縦者というより操作者であり、今回の陽動作戦において奇襲を仕掛ける役についたのも、単にその方が意外性があるから、という理由だ。彼の手札は既に切られ尽くしており、眼前の二つの半身への抵抗手段は、傍目には無いに等しかったのだ。
しかし。
一方で―――それは、あくまでも傍目にはの話でしか無いのも事実である。モルドは展開した盾で斬撃を防ぎつつ、人工知能たちに指示を出す―――このゲームにおける人工知能は、ある程度のカスタマイズ及び命令の設定が可能なのだ。
(縦に斬った以上、コアはどうしても浅い場所に存在せざるを得ないはずだ―――だったら)
現在、三岐腸はかなり遅くなっている―――重量だけで見れば半減状態だが、これ以上自爆する部位が無い。分割された状態での姿勢維持は極めて絶妙なバランスの元に成り立っており、これ以上の断捨離は無理である。そう、モルドは分析していた。
だからこそ、彼は―――人工知能たちに、接近のコマンドを出したのだ。
◇
弾幕がうねり進み、空隙を全力で埋め始める。しかして連射速度には制限があり、5機の八砲微塵達は、その空隙を縫って直進していく―――三岐腸の内スナイパーレールガンを持つ側は弾幕を強化すべく後ろを向き、過熱剣を持つ側はモルドへと攻撃を仕掛けている。それは単なる役割分担だったのかもしれなかったし、或いはAIと人間の差を表しているのかもしれなかった―――投射砲が命中し、八砲微塵は4機に減少する。
『オイオイ随分粘るじゃないかモルドォ~!』
モルド機は、既に左腕を失っている。迫り来る過熱剣への対処は必然的に右腕のみを使ったそれとなり、モルドは戦局的に不利になりつつあった。
しかし、それは同時に気付きをも生んだ。
(やっぱりだ……サンラクさんの本体は右半身にいる。この発言は明らかに僕を直接攻撃していなければ出てこないそれだ)
モルドはそこまで考えると、コマンドの内容をより詳細なそれに変更し―――そして。
自爆した。
◇
八砲微塵のコアを持つ本体―――ルストが乗っていたものでもモルドが乗っていたものでもない最後の一機は、残っていた全ての同胞が自爆を終えたタイミングで、一人だけ別に組んであるルーチンに従い、結果の確認へと向かっていった。
誰も見ることのない『YOU WIN!』のウィンドウが誰も見ることのない祝福を撒き散らし、一つの機体の両断された残骸と、六つの機体の粉砕された残骸だけが、そこにはただ転がっていた。
その光景は、さながらすべてに対する処刑だったのだ。