INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~   作:とんこつラーメン

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戦の前の日常。














Without a definite answer

 コード80がハーゼ隊の隊員達や千冬と共に過ごすようになってから約一ヶ月が経過した。

 あれからも彼女は定期的に『特殊任務』に駆り出されていき、帰還する度に目を背けたくなる程に消耗してくる。

 具体的にどんな任務をしているのかは、まだ知らされてはいないのだが、かといって目の前で幼い少女が息も絶え絶えな状態になっているのを見て何にも思わないような人間はここにはいなかった。

 良くも悪くも、シュヴァルツェ・ハーゼ隊という部隊は軍隊らしからぬ所だった。

 

 特に千冬の心配具合が酷く、コード80が任務から帰ってきたら、すぐに彼女を部屋まで運んでから優しくベッドに寝かせ、夜にはそっと抱きしめながら添い寝をする。

 完全に過保護になっているが、コード80の様子を見ていたら、そうなるのも無理はないとハーゼ隊の少女達は思っているので、誰も何も言わなかった。

 それどころか、最近は一緒になって彼女の事を気に掛けるようになっていく始末。

 ここに来たのはあくまでも護衛任務だからなのだが、その自分がどうしてこんな事になっているのか全く持って理解出来ていない。

 

 そんな今日も、千冬指導の下でハーゼ隊の訓練が始まろうとしているのだが、今朝はなんだか様子が違っていた。

 

「ん? 少し人数が足りない気が…どこに消えた?」

「もうすぐ来ると思います」

「それはどういう意味だ? よく見たら葉月もいないじゃないか」

 

 最初はふとした拍子に『葉月』と呼んでしまっていた千冬だが、今では普通に彼女の事を『本来の名前』で呼ぶようになっていた。

 『コード80』なんて呼び方は絶対にしたくなかったし、かといっていつまでも『おい』とか『お前』なんて呼ぶのも憚られた。

 彼女にとって、自分こそが全ての元凶であり仇。

 何も知らない、覚えていないとはいえ、彼女の事を蔑にだけはしたくは無い。

 ハーゼ隊の者達も千冬の事を真似して、コード80を自然と『ハヅキ』と呼ぶようになっている。

 

 勿論、本人からも『どうして自分の事をそんな風に呼ぶのか』と質問が飛んできたが、そこは『そっちの方が呼びやすいから』と答え、名前の由来に関しては『前に読んだ小説の登場人物にそんなのがいたから』と言って適当に誤魔化しておいた。

 流石に『お前の本当の名前だから』と告げるのには抵抗がある。

 

「遅れて申し訳ありませんでした!」

「「すみませんでした!」」

 

 三名の隊員が汗を流しながら駆け足でやって来た。

 だが、来たのは彼女達だけではなく、どこかで見たような黒い制服を着用した少女も一緒だ。

 

「全く…まずはどうして遅れたのか聞かせて貰お…う……か……?」

 

 溜息交じりに振り向いた千冬の身体が固まった。

 そこには、ハーゼ隊の制服を着た葉月がいたから。

 

「は…葉月…その格好はどうした…?」

「なんでも、私用に誂えた制服らしいです。別にいいと何度も進言したのですが……」

 

 完全にお揃いになっている制服に加え、ちゃんと帽子まで被っている。

 だが、一ヵ所だけ皆とは違っている部分があった。

 

「しかし、何故に私だけ短いスカートなのでしょうか? 確かに非常に動き易くはありますが……」

 

 そう。他の隊員達は軍用のズボンを履いているのに、葉月だけが俗に言う『フレアスカート』と呼ばれるタイプの物を穿いていた。

 本人は全く気にしていないようだが、傍から見ると太腿の殆どが露出していて、ほんの少しでも風が吹けばスカートの中が見えてしまいそうな程だった。

 

「前々から注文していた制服がやっと届いたので!」

「ハヅキちゃんをお着替えさせてました! サイズもピッタリです!」

「予想以上に可愛くなって驚いてます! 因みに、ズボンよりもスカートの方がもっと可愛いと判断し、彼女に穿いて貰いました! こんなにも一緒に過ごせばもう、ハヅキちゃんもハーゼ隊の一員みたいなもんですから!」

 

 敬礼をしながら軍人らしからぬことを報告する三人。

 その顔は笑顔であり、鼻血も出ていた。

 

「そ…そうか……」

 

 葉月のすっかり変わった姿を見て、千冬も顔を赤らめながら顔を背けた。

 その体は激しくプルプルと震えている。

 

(今までずっとISスーツ姿のままだったから、普段のギャップとも相まって破壊力が凄まじいな……)

 

 穿き慣れないスカートの短い裾を摘まみながらヒラヒラとさせる。

 下半身の露出だけならば、いつもとそこまで差は無い筈なのだが、布一枚付けただけでかなり落ち着かないようだ。

 

「お…おい! あんまりそうやってヒラヒラさせるな! 見えたらどうするッ!?」

「見えるとは?」

「下着だ! お前には恥じらいが無いのかっ!?」

「そう言われましても、制服の下に着用しているのはISスーツですので、そこまで気にする必要はないと思われますが……」

「なんだと?」

 

 これはどういうことだ?

 そんな意味を込めて、葉月を連れてきた三人を見つめる。

 

「いや~…流石に下着までは注文できなかったと言いますか……」

「それ以前に、ハヅキちゃんがそれ系の物を全く持っていなかったのが想定外と言うか……」

「仕方がないので、上から着させることにしました」

 

 『ロールアウト』してからこっち、衣服の類で支給されたのは専用のISスーツと、お情けで貰ったボロ布だけ。

 それ以外には私服は愚か、下着さえ全く持っていなかった。

 どうして今の今まで気が付かなかったのかと言いたくなるが、それは葉月と一緒にシャワーを浴びたりした者が一人もいなかったから。

 千冬は単純な羞恥心から、他の者達は普通にタイミングが悪かった。

 

「はぁ……葉月」

「はい?」

「今度…一緒に下着を買いに行こう」

「金銭は微塵も所持していませんが……」

「私が奢ってやる。というか、奢らせてくれ……」

「はぁ…教官がそう仰られるのであれば……」

 

 まだまだ教えなければいけない事は多い。

 小首を傾げる葉月を見ながら、頭を抱える千冬だった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 訓練の合間の小休止。

 何度も大きく呼吸を繰り返しながら、全身に汗を掻いた状態で日陰のある壁際に座って体を休める隊員達。

 葉月は、そんな彼女達にスポーツドリンクやタオルを配っていた。

 

「どうぞ。これで汗を拭いて、水分補給をしてください」

「ありがと~…」

 

 本人は無自覚だが、やっている事は完全に部活のマネージャーである。

 その光景に違和感が無いのが、また凄い。

 千冬だけはそんな彼女を見て満足そうに頷いていたが。

 

「ボーデヴィッヒ少尉も、これをどうぞ」

「う…うむ…感謝する」

 

 気まずそうにしながらも、ラウラはその手からタオルを受け取る。

 あの夜中のライバル宣言の後から、ラウラは何度も葉月に試合を挑んでは敗れている。

 勝者からの施しを受けて複雑な気持ちになっている本人だが、葉月に悪意なんて全く無い事は最初から知っているし、今はそんな余裕が無いのもまた事実だった。

 

「あの二人…すっかり仲良くなってるよね~」

「だね~。歳も近いからなのか、二人とも話し易そうにしてるし」

 

 境遇も似ているから。

 本当はそう付け加えたかったが、それだけは人として言ってはいけない事だと理解していたので、敢えて飲み込んだ。

 

「…そういえば、まだお前自身の身体能力を見たことが無いな」

「私自身の…?」

「あぁ。IS操縦の腕が超一流なのは認める。だが、それとこれとは話は別だ」

 

 ISの腕と操縦者の身体能力は比例する。

 体を鍛えなければ上手く操縦できないし、その逆もまた然りなのだ。

 そこら辺の連中なんて歯牙にもかけない時点で相当に高い身体能力を持っていることは明白だが、まだそれを直に見た事は無い。

 だからこそ気になってしまうのだ。

 葉月の運動神経を。その能力を。

 

「では、実際に測ってみるか?」

「教官?」

 

 ここでまさかの千冬からの提案。

 これには全員が目を丸くして驚いた。あの葉月でさえも。

 

「私も見てみたいとは思ってたからな。いい機会だ。少しやってみせてくれないか?」

「了解しました。では、早速着替えて……」

「だ…大丈夫! そのままでも問題無いから!」

「そう…ですか?」

 

 制服を脱ごうとした葉月を、クラリッサが咄嗟に止めさせる。

 普通ならば、また元に戻ろうとする彼女の事を考えての事だと思われるが、実際には違っていた。

 

(あんなにもひらひらとしたスカートのまま走れば、中が見えるのは必至! ISスーツだと分っていても、そのエロスは凄まじい破壊力が有る筈!)

 

 完全に自分本位の考えだった。

 無論、そんな彼女の考えを見抜かない千冬ではなく、後でクラリッサだけ追加のトレーニングが決定した瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 基地内で測れる項目と言ったら限られてくるので、取り敢えず出来そうなものから試していくことに。

 

 そんなわけで、まずは握力から。

 どうして基地内に握力計があるのかは謎。

 

「これを握ればよいのですか?」

「そうだ。思い切りやっていいぞ」

「では……」

 

 ここにある握力計は特別製で、最大で300キロまで測る事が可能だ。

 なので、多少やりすぎても問題は無い。

 余談だが、全力の千冬の握力も普通に耐えきってみせた事からも、その頑丈さが伺えるだろう。

 

「えい」

 

 そんな可愛らしい掛け声と共に手を握りしめる。

 手は思い切り握られていて、僅かに震えていることからも相当に力を入れていることが分かる。

 

「……これぐらいでいいでしょうか?」

「どれどれ……んんっ!?」

「え……?」

 

 葉月に渡された握力計に示された数値を見て、千冬は言葉を失った。

 それを横からクラリッサも覗き見たが、同じように絶句した。

 

「これが…葉月の全力……」

「よく壊れませんでしたね……」

 

 一体どんな数値なのかはご想像にお任せしよう。

 

(あ…よく見たら、グリップの部分が少しだけ罅割れてる…)

 

 見つけてしまった葉月の実力の一端。

 敢えて、クラリッサは何も見なかった振りをした。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 次に行ったのは50メートル走。

 完全に学生のスポーツテストになってるじゃないかとか言ってはいけない。

 今回は訓練場の一部を使って計測をすることにした。

 

「スタンディングスタートとクラウチングスタート。どちらでも構わないからな」

「了解しました」

 

 ゴール地点では千冬がストップウォッチを持って待機している。

 逆に、スタート地点ではクラリッサがピストルスターターを上空に向けていた。

 

「では、準備をしてください」

「はい」

 

 葉月はスタート地点でしゃがみこみ、クラウチングスタートの構えを取った。

 後ろから見学している隊員達は、そのきわどい姿にドキドキしている。

 ちょっと屈んで上を見れば、完全に見えそうだから。

 

「…………」

 

 風が吹き、それが止む。

 クラリッサは自分の耳を覆い、引き金を引いた。

 

 パァンッ!!

 

「はっ!」

 

 気合の籠った声と共に全力のスタートダッシュ。

 だが、眼下のコンクリートが彼女の脚力に耐えられなかったようで、走り出したと同時に右足があった場所が完全に粉々になっていた。

 

「速っ!?」

「もうゴールに着くッ!?」

 

 文字通り、あっという間にゴールイン。

 そのタイムを見て、またしても千冬の表情筋が仕事をボイコットした。

 

「な…なんだこれは……世界記録なんて余裕で越えてるじゃないか……!」

 

 確かに、葉月は人体改造によって人知を超越した能力を手にした。

 だが、ここまでだったとは誰が想像するだろうか。

 間違いなく、これは『人間を殺す為だけに特化』している。

 でなければ、ここまで過剰な能力なんて必要ない。

 

「ふぅ……まだまだですね」

「そ…そうなのっ!? 今のでもめちゃくちゃ速かったけどッ!?」

「いいえ。0コンマ2秒ほど、スタートが出遅れました。戦場では、この僅かな差が生死を分けます。それに、ジャストタイミングでスタート出来ていれば、もっとタイムを縮められたかもしれません」

「おぉ……意外とストイック……」

 

 もしも葉月がドイツ代表で陸上競技に出場でもしたならば、世界記録を軽々と更新した上で何枚ものメダルを貢献していたかもしれない。

 一体どちらの方が『宝の持ち腐れ』になるのかは分からないが。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 その後も、垂直跳びで3~4メートルぐらいを簡単に飛び、なんでかあった鉄球で測った砲丸投げに至っては計測不能。どこまで飛んで行ったか分からない。

 他にも色々と試していった結果、判明したのはたった一つのシンプルな答えだった。

 

「この子……可愛い顔をして、中身は完全に超人の粋だわ……」

 

 結論。普通の人間じゃ絶対に勝てません。

 そんな事を言い渡された本人は、皆の目の前で座りながら開脚をして、そのまま地面に上半身をくっつけていた。

 

「体は人並み以上には柔らかい方なので」

「体操選手かな?」

 

 別に、これはそこまで驚くような要素ではない。

 隊員達の中にも同じぐらいに体が柔らかい者はいる。

 けれど、さっきまでも超人的記録を並べられた後では全く持って印象が違ってくる。

 

「……レオタードを着せてもいいかもしれませんね」

 

 お前は少し黙れ。変態隊長。

 

「な…中々やるではないか……それでこそ、この私の好敵手に相応しい……」

「ラウラ。表情と台詞が全く合ってないよ」

 

 腕組みをして強がってはいるが、ラウラは顔中に冷や汗を掻いていた。

 ふとした疑問を口にした結果、とんでもない事実が判明してしまったから。

 これには流石のラウラも認めざる負えなかった。

 

「まぁ…確かに驚いたが、だからといって葉月が変わる訳ではない。コイツの凄さは前々から知っていたからな。それがちゃんとした数値で明らかになっただけだ」

 

 隊員達が驚愕から抜け出せない中、千冬だけはありのままを受け入れていた。

 自分もあまり人の事は言えない以上、深く追求するのは躊躇われる。

 それ以前に、葉月の事を守ると決意しているので、この程度の事で揺らぐわけにはいかないのだ。

 

「これで休憩は終了だ。訓練を再開するぞ!」

「「「「「はい!」」」」」

 

 なんだかんだいっても、ちゃんとメリハリはつけるハーゼ隊と千冬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




日常こそが最高の宝。

だからこそ守るのだ。
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