INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~   作:とんこつラーメン

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見えるけど、見えないもの。






No truth can be seen here

 イギリスにあるIS開発研究所。

 その前で出迎えてくれた二人と話す葉月。

 出逢ったばかりなので、まだその表情は無のままだ。

 

「私は軍から派遣されている技術士官で『アルフ・カムラ』といいます。階級は大尉ですが、余り気にしないでください。私自身はあくまでも、一介の技術屋のつもりですから」

「了解しました。カムラ大尉」

 

 言った矢先にコレだった。

 ちゃんと話を聞いているのか怪しくなってくる。

 

「カムラ大尉。少しだけよろしいでしょうか?」

「なんですか?」

「別に、私に対して敬語など使わなくてもよろしいですよ。他国から来た得体の知れない小娘に敬意を払っても仕方がないでしょう?」

「…別にそんなつもりじゃなかったんだがな。しかし、君がそう言ってくれるのであれば、遠慮なく普段通りの言葉遣いにさせて貰う。これでいいかな?」

「はい。大丈夫です」

 

 頭を掻きむしりながらカムラは考える。

 ドイツについては色々とキナ臭い話を聞いてはいるが、こんな小娘一人だけしか派遣をしないなんて、一体どう云う了見だ、と。

 

(それとも、この少女が噂に聞く『ドイツの秘密兵器』とやらの使い手なのか…?)

 

 詳しい事情を全く知らない彼には、現段階では判断のしようが無い。

 それはこれから自分の目で確かめていくしかない。

 

「それじゃあ早速、研究所の中を案内しよう。着いて来てくれ。セシリア、行くぞ」

「あ…はい。分かりましたわ、カムラおじ様」

 

 先程まで、腕を組んで葉月の事をジロジロと見定めるようにしていたセシリアであったが、カムラに声を掛けられると途端に大人しくなった。

 

(この二人…ただのパイロット候補と技術屋の関係じゃなさそうね)

 

 セシリアがふと零した『おじ様』という言葉を聞き逃さなかった葉月は、すぐに二人の関係を簡易的ではあるが推察した。

 彼女が試作機のテストパイロットに選ばれたのも、それが関係しているのかもしれない。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 葉月はこれまで、研究所のような施設を破壊することはあっても、中をじっくりと見て回る事は一度も無かった。

 どこもかしこも小奇麗になっていて、彼女にとっては全てが新鮮で、全てが真新しく見える。

 

「本当は、もっと詳しく案内してやりたいところなんだが、生憎とここにはそこかしこに機密があってな。ドイツから来た君には、ISがある格納庫と休憩所などの場所しか教えてやれない。済まないな」

「お気になさらず。それぐらいは初めから承知しているので。逆の立場であっても、私はカムラ大尉と全く同じことをしたでしょう」

「そう言ってくれると、こちらも幾分かは気が楽になるよ」

 

 前を歩きながら、後ろを歩く葉月の事を見ているカムラだったが、心の中では困惑をしていた。

 

(余り良い噂を聞かない、あの『グレイヴ』の秘蔵っ子って話だったから正直、どんな奴かと思っていたが…意外と気遣いが出来る子なのか? いや…それだけじゃないな)

 

 先程から、ずっと葉月は右に左にと目を動かし続け、何かを必死に観察しようとしていた。

 幾ら仕方がない事とは言え、他国の軍の人間を研究所に入れるなんて前代未聞だ。

 そんな悠長な事を言っている暇じゃないというのに加え、彼女を派遣させたグレイヴが相当な権力を有していることが大きく起因している。

 イギリス政府も、形振り構ってはいられなくなった証拠だ。

 

「あなた…先程から、ずっと何を見ているんですの?」

「目に見える物全てを。こんな風にISを開発する施設に入るのは初めてなもので」

「仮にも軍から派遣されている身なのに、それはどうなんですの?」

 

 セシリアに呆れられてしまっているが、葉月には返す言葉も無い。

 正確には何も言えないが正しいが。

 常に『壊す』立場の葉月は、無意識の内に建物内を見る時に常に『どこから攻めたら破壊しやすいだろうか』と考える癖が付いてしまっていた。

 ある種の職業病とも言える。世界一物騒な職業病だが。

 

「…もうすぐ格納庫に付く。そこに、護衛対象である試作ISが置いてある」

「おじ様。今更ながら本当にいいんですの? 他国の人間、しかも軍人にアレを見せるだなんて」

「構いやしないさ。どうせ、遅かれ早かれ世界中にお披露目するんだ。それが少し早くなっただけだ。それに……」

「それに? なんですの?」

「イグニッション・プラン。お前も知っているだろう?」

「え…えぇ……」

「それでドイツに対して先制をする意味も込められてるんだろうさ。多分な」

 

 イグニッション・プラン。

 欧州連合の統合防衛計画の別称で、現在は各国で様々なISを開発し、自機主力機の座を手に入れる為に躍起になって新型の第三世代機を生み出そうとしているのだ。

 無論、葉月が所属しているドイツとて例外ではない。

 

「おっと。軍の人間である君の前では禁句だったかな」

「御心配なく。そもそも、私は『軍の人間』ではありません」

「なに?」

「私はドイツ軍の『所有物』です。それ以上でも、それ以下でもありません」

「ハヅキさん…あなたは何を言って……」

 

 明らかに十代前半の少女が言うようなセリフじゃない。

 セシリアは本気で戸惑っていたが、カムラだけは違った。

 

(…どうやら、俺が思っている以上にドイツって国はヤバいようだな。研究第一主義者の俺でも、ここまで人道に反したことはしないぞ…!)

 

 研究者だから分かってしまう。理解してしまう。

 グレイヴが葉月に何をしたのか。彼女がどんな存在なのかを。

 

 そうこうしている間に、三人は目的地である格納庫へと辿り着いていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 格納庫には誰もおらず、いるのはやって来た三人だけだった。

 

「他の方々は?」

「今は休憩中だ」

「成る程」

 

 もしも、既に何者かが侵入をして研究員たちを手に掛けていたら、今すぐにでも動き出さなければいけない。

 こういった細かい確認は、葉月にとって非常に重要だった。

 

「まだロールアウトには至ってないが、完成は間近だろう」

「これが……ティアーズ計画の……」

「そう。一号機である『ブルー・ティアーズ』だ」

「そして、近い将来、このセシリア・オルコットの専用機となるISでもありますのよ!」

 

 青く美しい装甲がまず目に入る印象的な機体。

 機能性重視というよりは、外観重視のようにも感じた。

 前情報を何も知られていない状況ならば、真っ先に『随分と無駄が多い機体だ』なんて酷評をしていたかもしれないが、試作機ならばこんなものかと考える葉月であった。

 

「こうして拝見した感じでは、完成度は約80%ぐらいと見ますが?」

「よく分かったな。その通り、パッと見は完成しているように見えるが、まだまだ調整しなくちゃいけない箇所や追加で加えないといけない物が山ほどある。寧ろ、ここからが本番だ」

 

 余り専門的な事には詳しくはないが、それでも葉月にはこれまでずっとペイルライダーで戦ってきた経験がある。

 それにより、辛うじて今の状態を把握することが出来た。

 

「流石にカタログスペックなどは見せる事は出来ないがな。今はこれだけで勘弁してくれ」

「十分です。ところで、二号機の方はどちらに?」

「あぁ…『サイレント・ゼフィルス』か。あれはまだまだ完成には程遠いから、研究所の最奥に仕舞ってある。今は取り敢えず、一号機の完成を優先させるように上からお達しが来てるのさ」

 

 別に二号機を蔑にしている訳ではない。

 現状としては一号機の事を最優先し開発、ロールアウトさせた後にセシリアに稼働データを収集させ、それを利用して二号機をより完成度の高い代物に仕上げる算段なのだ。

 

「そういえば、君もドイツで開発された試作機のテストパイロットだと聞いているが?」

「ハ…ハヅキさんもなんですのッ!?」

「まぁ……一応」

 

 ダミーの情報が、もうこんな所にまで浸透している。

 幾らなんでも早過ぎではなかろうか?

 

「別に見せてくれなんて言うつもりはないが、一つだけ聞かせてくれ」

「答えられる質問で良ければ」

「君の専用機…それは、イグニッション・プラン用に開発されたISなのか?」

「それは違います。どちらかと言えば、私の機体は『国家防衛用』です。詳しい事は知りませんが、プラン提出用の機体は別にあると思われます」

「国家防衛用…か」

 

 聞いたことも無いカテゴリ。

 どう考えても普通じゃないのは明らかだ。

 国を守る為に産み出されたということは、逆に言えば中途半端な性能は許されないという事に他ならない。

 間違いなく、採算度外視の性能が与えられている事は明白だ。

 

「場合によっては、任務中にお見せする機会があるやもしれません。本来ならば、使わないのが一番なのでしょうが……」

「だろうな。だが、そう上手く事が運ばないのが現実だ」

 

 頭を抱えながら溜息を吐くカムラ。

 どうやら、彼は相当に困り果てているようだ。

 

「ですので、こちらも機体名称だけはお教えしておきます」

「おいおい…大丈夫なのか?」

「サービス、サービス…です」

「「は?」」

 

 前にクラリッサから教えて貰った台詞を試してみたが、不発に終わってしまった。

 もしもこの事が千冬に知られたら、間違いなく彼女の頭上に雷が落下するだろう。

 

「…RX-80PR ペイルライダー。それが私の専用機です」

 

 さっきの発言を誤魔化すように機体名を言って、腕に付いているダミーの待機形態である青いブレスレットを見せる。

 このブレスレット、別にこれといった特殊な機能は付加されていない、本当にどこにでもある代物で、敢えて言えば時計機能が付いてるぐらいだ。

 このご時世に敢えて針の時計になっていて、ちょっとお洒落。

 

「なんとも恐ろしい名前を付けたもんだ」

「おじ様はご存じで?」

「…ヨハネ黙示録に出てくる、四番目にして死を司る騎士。まるで、第一から第三までの騎士もいると言わんばかりの名前だな」

 

 葉月は何も言わないが、カムラの予想は当たっている。

 ペイルライダーはPR計画の集大成として生み出されたISであるが、その過程で数体の機体が製造されている。

 順番だけで言えば、その名の通りペイルライダーは四号機に該当するのだ。

 

「そのような機体を任せられているということは…ハヅキさんも代表候補生なんですの…?」

「残念ですが違います。私はあくまでも軍の……」

「おっと悪い。電話だ」

 

 いいタイミングでカムラのスマホに着信が来てくれた。

 もしも最後まで葉月に言わせていたら、絶対に二人に精神的ダメージを与えていただろう。

 

「どうした?」

『しゅ…主任、大変です! また『奴等』が来ました!』

「なんだとっ!?」

『こっちでどうにかしようと頑張ったんですけど、無理矢理に入られてしまって……』

「…そうか。よくやってくれた。スマンな」

『こちらこそ…申し訳ありませんでした。どうか、気を付けてください』

 

 通話が終わると同時に、いきなり格納庫の扉が開いた。

 そこから入って来たのは、高級なレディーススーツを着た三人組の女達だった。

 偉そうに腕組みをし、ニヤニヤとした表情を張り付けている。

 それを見た瞬間に葉月は全てを理解した。

 こいつ等こそが、今回の任務で自分が駆除すべき『害虫』なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




仕事の時間だ。
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