INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~   作:とんこつラーメン

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決意と覚悟。







Being chased by the stage one by one

 カムラと別れて格納庫と出た葉月は、そのまま研究所の中庭まで来て空を見上げる。

 まだまだ明るい時間帯であり、青く澄みきった青空が遠くまで続いていた。

 

(奴等とて、戻ってすぐに動き出すような愚行は犯さないだろう。自分たちなりに時間とタイミングを見計らって仕掛けて来る筈。機種に関してはリヴァイヴ一択だろう。もしもここがアジア圏だったならば打鉄なども選択肢に入っていたかもしれないが、あのゴミ共がわざわざそこまで行って別の機体を手に入れるとは考えにくい)

 

 ふと疑似待機形態であるブレスレットの時計を見てみる。

 時間は午前の11時に差し掛かろうとしていた。

 

(…道理で空腹を感じると思った。今頃、ハーゼ隊の皆さんは日陰に座って休憩をしている頃だろう)

 

 ハーゼ隊と出会ってからこっち、葉月は『稼働』してから初めて人間らしい食事をした。

 それにより、今まで特に深く考えてこなかった『空腹』という状態に関しても深く考慮するようになっている。

 

(あいつ等は基本的に、遠くの薔薇よりも足元の野花を好む習性がある。機種や性能なんて特に気にしない。とにかく、全てのISが自分達の元にある事を好んでいる。今回、ティアーズ型を狙ってきたのは単純に『自分達の近くに薔薇があった』からに過ぎない。もし仮に奴らの手に渡ったとしても、絶対に宝の持ち腐れになるだろうけど)

 

 目の前でブルー・ティアーズを見た時からずっと感じていたこと。

 あのISは自分に最も相応しい主を待っている。

 それは決して、あのバカな女達などではない。

 幼いながらも、高貴な魂と気高き誇りを持つ少女を待っている。

 

(…私のペイルライダーとは違う。ブルー・ティアーズは人々に感動を与えるISだ。同じ『青』でも、害虫駆除しか出来ない私とは雲泥の差だ)

 

 だからこそ絶対に守らなくてはいけない。

 ブルー・ティアーズも、セシリアも。

 初めて葉月は、任務でも命令でもなく、自分の意志で戦うことを決めた。

 

「ハヅキさん!」

 

 上の方から声がしたので顔を向けると、カムラが言っていた研究用のリヴァイヴを纏ったセシリアが隣に降りてきた。

 その動きは非常にスムーズで、この歳で代表候補生の地位にいるのは伊達ではない事を示してくれる。

 

「お待たせしましたわ」

「別に待ってなどはいませんが……」

 

 葉月はただの一度もセシリアに対して『一緒に来てほしい』なんて言っていない。

 彼女が己の意志で戦うと決めただけだ。

 

 それよりも、葉月には気になっている事があった。

 

「青い…リヴァイヴ…?」

 

 セシリアの守っているリヴァイヴは、ブルー・ティアーズと同じ鮮やかな『青』に塗装されていた。

 彼女のISスーツも青くなっているので、非常に統一感がある。

 

「やっぱり、そこが気になりますわよね。私も見た時は驚きましたわ。まさか、リヴァイヴを青くしているだなんて」

「そうですね。場所や搭乗者によって、同じ機体でも別の色に塗り分けている例は有りますが…青は始めて見ました」

 

 実際、ハーゼ隊仕様のリヴァイヴは部隊のイメージカラーに合わせて黒く塗装されている。

 ある意味、その国や企業の特色が出ているのかもしれない。

 

「ハヅキさんはISを装備しませんの?」

「ギリギリまでは控える事にします。少しでもSEを節約したいので」

「いざとなれば補給ぐらいはしてくれますわよ?」

「それでもですよ」

 

 本人は自覚していないが、葉月は貧乏性である。

 基本的にドイツ軍では、『兵器』を『整備』することはあっても『優遇』することは無い。

 これまでに彼女に与えられてきた弾薬などは全て、必要最低限の物しか渡されていない。

 限られた弾薬をやりくりして、出来るだけ消費を抑える必要があるのだ。

 半ばハーゼ隊所属扱いになっている現状ではそれは無いのだが、それでも癖というものは中々抜けにくいものなのだ。

 

「夜までまだ時間はたっぷりあります。オルコットさんは中に入っていてもいいのですよ?」

「いえ、可能な限りはこのまま見張りをするつもりです。この程度の事が出来ないようでは、代表候補生もオルコット家の当主も務まりませんから」

「…ご立派なお覚悟で」

「そ…それ程でもありませんわ」

 

 皮肉のつもりで言ったのに、普通に照れてしまった。

 なんだか下手にツッコむのもあれなので、ここは敢えて黙っておくことに。

 

「それに、ハヅキさんともお話してみたかったので」

「私と?」

「えぇ。別の国からやって来た、同い歳の女の子のIS操縦者と話す機会なんて、それこそIS学園にでも行かないと難しいですから」

 

 IS学園。

 葉月も名前ぐらいは聞いたことはある。

 日本にあるという、文字通りISに関する様々な事を勉強する学園だ。

 入学倍率が世界最高峰の大学レベルという噂だが、真偽は定かではない。

 少なくとも、ドイツ軍の所有物である葉月には縁も所縁も無い場所だ。

 

「私と話しても、面白い事なんて何も無いと思いますけど」

「あら。それを判断するのは私でしてよ?」

 

 正論だ。

 自分と彼女の感性は全く違う。

 どれだけ自分が面白くないと思っていても、向こうからしたら違ったなんてことは往々にしてよくある事だ。

 実際、葉月はハーゼ隊や千冬との出会いでそれを学んでいる。

 

「はぁ……で、一体何をお聞きになりたいので?」

「ハヅキさんはドイツからいらしたというお話ですけど、貴女自身はドイツ人のようには見えませんわ。どちらかと言えばアジア系の顔つきに似ているような…」

 

 …成る程。観察眼は優れているようだ。

 なんとなく、彼女が代表候補生になれたのも頷けてしまった。

 

「それは間違ってはいませんよ。確かに、私自身はドイツ出身ではありませんし、ドイツ人でもありません。聞かされた話によると、私は幼少期に日本からドイツに連れてこられたらしいです」

「らしい…とは?」

「…私は、己の過去に関する記憶が一切ありません。その理由については誰も話してはくれませんでしたけど」

「……ごめんなさい」

「オルコットさんが謝る必要はありませんよ」

 

 聞いてはいけない事を聞いてしまったと思い、暗い顔になるセシリア。

 最初に出会った時は、貴族特有の高飛車な少女かと思っていたが、どうやらそれだけではないようだ。

 彼女には他者を気遣う優しさがある。思いやりがある。

 この優しさは、今の世界において非常に貴重で、ともすれば宝と呼んでも差し支えないだろう。

 増々、セシリアを守る理由が出来てしまった。

 

「カムラさんから聞きました。オルコットさんがご両親を亡くされている事を。その原因も」

「おじ様ったら……」

「それを聞いた時、不謹慎にもこう思ってしまったのです。『あぁ…あの人も私と同じなんだ』って」

「同じとは…まさか?」

「えぇ。後で聞かされた話なのですが、私にはもう血の繋がった家族はいないようなのです。ある事件に巻き込まれて死亡したと伝えられました。その事件については教えて貰えませんでしたけど」

「ハヅキさんも……」

 

 同じ身の上の同じ歳の少女。

 普通ならば、こんな偶然は滅多にないかもしれないが、ISが台頭している今の世界情勢では、そこまで珍しくもない。

 

「…すみません。余計な事を言いました。忘れてください」

「いいえ。決して忘れませんわ」

「え?」

 

 目を丸くする葉月に、ISから降りて寄り添うようにするセシリア。

 そして、そっと彼女の頭を撫でた。

 

「貴女も…大変でしたのね」

「オルコットさん程ではないかと」

「…少し座りません?」

 

 そういうと、徐にセシリアは傍にあった芝生の上に座り、自分の隣をぽんぽんと叩いてから葉月に座るように促した。

 

「はぁ……」

 

 小さく溜息を吐いてから、葉月も同じように芝生の上に座った。

 

「…少し前まで、私はあの者達と似たような存在でした」

「今日やって来た女達…ですか」

「えぇ…。私は父が余り好きじゃありませんでしたの」

 

 いきなり何の話なのかと思ったが、ここは黙って聞き手に回る事に。

 

「婿養子という事で色々と引け目を感じていたせいか、よく母の顔色を伺ってばかりの人でした。だからでしょうね…自然と『男なんて皆こんなもの』なんて思うようになっていきましたの。今は違いますけどね」

「何か切っ掛けが?」

「カムラおじ様ですわ。両親の知り合いだという、あの人と知り合った事で男性に対する価値観が変わっていきました。どこまでも研究熱心で、自分の信念を貫ける人。そんな彼から両親の真実を知らされた時、亡き父への印象も変化しました」

 

 確かに、葉月から見たカムラの印象もそんな感じだった。

 研究一筋ではあるが、だからと言って人道に反することはしない。

 このご時世では珍しい、良識ある研究者なのだろう。

 

「父は母を愛するが故に、自ら周囲のアンチを一身に引き受けていたのだと。どうやら、母に対しても誰かの目がある時は自分に対して厳しくするように言っていたらしいのです」

「愛……」

 

 自らを兵器と定義している葉月には絶対に分からない感情。

 好きとはなんなのか。嫌いとはなんなのか。

 それらを知った時、葉月は『人』として成長するのかもしれない。

 

「それを知った時、無暗矢鱈と男性を毛嫌いしていた自分が恥ずかしくなりました。それが決定的となったのは街中で女尊男非主義者を、女性権利団体を見たときですわ」

 

 震える自分の手を見つめながら、セシリアは自分に言い聞かせるように話を続ける。

 その姿を、葉月は黙って見つめていた。

 

「まるで鏡を見ているかのようでした。これまで自分のやっていた事とは、傍から見ると、こんなにも醜くて愚かな事だったのかと。生まれて初めて自己嫌悪を感じた私は、そのまま公衆トイレに直行して盛大に嘔吐しました。嘗ての自分が恐ろしくて、憎らしくて……」

 

 遂には顔を俯かせたセシリアに対し、今度は葉月が頭を撫でてあげた。

 これまでにも何度か頭を撫でられていることから、相手が落ち込んだりしている時は頭を撫でるといいと学んだから。

 

「だからこそ許せないのです。あのような物言いを、あのような思想を。自分勝手かと思われるでしょうけど、今の私の偽らざる本心ですわ…」

「オルコットさん……」

 

 そっと彼女の身体を引き寄せてから、そっと顔を寄せた。

 至近距離で見る事になった葉月の顔に胸をドキッとさせながらも目を離せない。

 

「人間なんですから、色んな方向に感情や気持ちが揺れ動くのは当然の事です。決して恥じる事はありません。寧ろ、自分の意志で闇の中から這い上がって来た自分を褒めてあげるべきです」

「ハヅキ…さん……」

「貴女のような強い人こそ、これから先の世界で絶対に必要な人間なんです。あんな連中の好きにさせてはいけない」

 

 体を離してから立ち上がり、振り向きながら力強く宣言する。

 ちょっとだけセシリアは名残惜しそうにしていたが、葉月は気が付いていない。

 

「オルコットさんも、二体のティアーズも、この私とペイルライダーが絶対に守ってみせます」

 

 自分自身の事を兵器と言っていた少女。

 けれど、兵器にこんな表情なんて出来るだろうか?

 決意と信念に満ちた表情を。

 

「セシリア。そう呼んでくれませんか?」

「よろしいのですか?」

「あら。お友達を名前で呼ぶのは普通ではありませんこと?」

「友達…私が……」

 

 これまた、自分とは最も遠い場所にある単語を聞かされた。

 血に塗れた己を、殺す事しか出来ない自分を『友』と呼んでくれるのか?

 

「…了解しました。セシリア」

 

 そう呟いた葉月の顔は、確かに優しく微笑んでいた。

 

 そして…夜が来る。

 

 

 

 

 

 




大人達が思っているよりも、少女達は強い。
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