INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~ 作:とんこつラーメン
斬り付けた女を踏み台にして、リーダー格と思われる女に向かって飛び掛かる葉月。
自在に空中を駆ける事が出来るISを纏っているにも拘らず、まさかそんな方法を使うとは思ってもみなかったのか、素人が見てもハッキリと分かるレベルの多岐過ぎる隙を堂々と晒してしまった。
そんなものは、代表候補生のセシリアや、これまでに幾多の戦場を掛けてきた葉月にとっては『どうぞ攻撃してください』と言っているようなもの。
無論、最大のチャンスをみすみす見逃すほど、二人は甘くは無い。
それ以上に、襲撃者に対する慈悲なんて防衛者である彼女達が持ち合わせている筈も無いのだ。
「隙だらけ」
「このっ! このっ! このぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ぶべらっ!?」
半ばパニック状態になって我武者羅にアサルトライフルを連射するが、そんなものが葉月に命中する筈も無く、それどころか葉月の背後にいた仲間達に対してフレンドリーファイアをしてしまう始末。
「やめ…止めてください! ぐぎゃっ!?」
「哀れな……では、いきます」
両手に持ったビームサーベルを大きく振り被りながら全身のスラスターを器用に吹かし、その場で素早く何度も回転して遠心力を付ける。
そのままの勢いのまま、地面に叩きつけるかのように二振りの光の刃で斬り下ろした。
巨大な激突音や煙と共にリーダー格の女は悲鳴すら上げる事も無く大きなクレーターを作って、大の字になりながら倒れているが、ISの機能により辛うじてまだ意識だけは保っていた。
それが彼女にとって更なる恐怖と不幸の幕開けだとも知らずに。
「逃がしません」
ダメージで碌に動く事も出来ないのに、葉月にとっては『生きている』というだけで逃亡の危険性があると判断されてしまう。
葉月は追撃をする為に逃げられる筈も無い相手に向かって突っ込んでいき、地面に降りてから女の身体を蹴り飛ばしてから腹を踏みつけてから足蹴にする。
「や…やべで……あやまるがら……!」
「『ごめんなさい』で全てが許されるのなら、こんな世の中にはなっていない」
女の命乞いを冷徹に突き放しながら、腰部背面の支持用アームに折り畳み式のキャノン砲を展開。
すぐに砲身を展開してからグリップを握りしめ、月明かりに鈍く光る砲口を女の顔面へと向けた。
「この距離なら誤射もしない」
「ひ…ひいぃぃぃぃぃぃっ!? あ…あんた正気なのッ!? 私達を敵に回せばどうなるか……」
「そんなもの、根こそぎ排除すればいいだけの話」
「ば…化け物…!」
「私はそんなご立派なものじゃない。私は兵器。お前達のような『人類種の天敵』を一匹残らず駆逐する為に産み出された存在」
トリガーに指が掛かり、葉月の全身から殺気が溢れ出る。
まだHADESを発動していないにも拘らず、女にはペイルライダーのツインアイが真紅に光って見えた。
「ハ…ハヅキさん……」
まだ上空にいる女達に向けて狙いを定めながらも、セシリアは言葉を出せないでいた。
あれが葉月の本気にして本性なのかと。
任務の為ならば、どこまでも自分の事を『兵器』にする事が出来る少女なのかと。
「小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅っこでガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」
「あ…ああぁぁ……!」
自分達は、とんでもない少女に戦いを挑んでしまった。
否、彼女にとってこれは戦いではない。『蹂躙』だ。
元来『戦闘』とは実力が拮抗した者同士が行う事であり、蚤が人間に飛び掛かる行為を誰も『戦い』とは言わない。
これはまさに、それだった。
「せめて、IS乗りらしい悲鳴でも上げてみせろ」
ズドン!!
熱を帯びた薬莢が排出されて、甲高い音を奏でながら地面に転がる。
「もう一発」
ズドン! ズドン! ズドン!
残弾が全て無くなるまで撃ち続け、トリガーがカチッカチッと鳴ってから攻撃を止めた。
「…どれだけ粋がっていても、所詮はこんなものかゴミ女。お前はまるで糞のような女だ。本当に犬の糞にでもなってしまえ」
「あ…が……」
完全に白目を向き、涙と鼻水と涎を流しながら、女の装備していたリヴァイヴが強制解除されて横に鎮座した。
それが切っ掛けになったのかは知らないが、本当に小便まで漏らしてしまう。
「そもそも、ISのシールドがある限り死ぬことは無いのは知っているでしょうに。それでも、身の内から湧き出る恐怖心には勝てなかったようですが」
それだけISが丈夫であっても、操縦者の心までは守れない。
故に、葉月は利用する。その恐怖心を。その絶望感を。
「…セシリア」
「あ…はい!」
「残りもとっとと片付けてしまいましょう。幾ら研究所の敷地内とはいえ、長引かせていい理由にはなりませんから」
「わ…分かりましたわ!」
第四の騎士の蹂躙は終わらない。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「掃除完了です」
数分後、二人の目の前には同じように白目を向いて気を失い、ISが強制解除された女達が無様な姿を晒しながら転がっている。
どちらとも、葉月によって決定的なトドメを刺されていた。
「素晴らしい腕前でした、セシリア。いつもは一人で任務を行っているのですが、後方からの火力支援があるだけで格段に戦い易かったです。即席とはいえ、貴女は良い
「そ…そんな…私なんてまだまだで……」
冗談やお世辞なんてことを言う思考回路を持ち合わせていない葉月の率直な褒め言葉の前に、セシリアは先程まで頭の中に浮かんでいた疑問や戦慄なんて遥か彼方へと吹き飛んでしまった。
「さて…問題は、こいつらをどうするか、ですけど……」
「それなら俺に任せてくれ」
いきなりの声に誰かと思って振り向くと、そこには煙草を吸いながら現れたカムラがいた。
「このタイミングでの登場ということは…見ていたのですか?」
「監視モニター越しにな。最初は思わず駆けつけようとしちまったが、俺みたいな奴がいたって何の役にも立たないし、却ってお前さんらを危険に晒す可能性もあった。そう思って踏み留まり、せめて戦闘の様子ぐらいがモニターしようと考えてな」
「賢明な判断です」
伊達に軍の研究員をしている訳ではないらしい。
いざという時の冷静な判断力は流石としか言わざるを得ない。
「それで、こいつらをどうするおつもりで?」
「朝まで拘束してから、軍の連中に引き渡すさ。ここに来る前に連絡をしておいた」
「警察ではないんですの?」
「権利団体が台頭し始めてからの警察連中は対して役には立たないよ。下っ端共はいざ知らず、上層部の大半は権利団体の傀儡とかしてるからな。じゃなきゃ、ああも堂々とした横暴が許されるわけがないだろ?」
軍関係者だからこそ知る裏事情。
葉月もその辺りの事は詳しいのだが、ここはカムラの顔を立てることにした。
「にしても、流石は『ドイツの秘密兵器』と言われるだけはあるな。見事過ぎる腕前だった。全身装甲のISとは驚いたが……」
「任務の関係上、こちらの方が色々と都合がいいので」
「…ま、その『任務』の内容は聞かない方が良いんだろうな」
「はい」
やりきれない感情を噛み締めながら、カムラは頭をガリガリと掻いた。
たった一人の少女と出会っただけなのに、それだけでドイツの闇を垣間見た気がしたから。
「…まだ礼を言ってなかったな。ありがとう。ティアーズもセシリアも、研究所の事も守ってくれて。ドイツ…というか、お前さん個人に特大の借りが出来ちまったな……」
「気にしないでください。任務ですので」
「そうやって割り切られると、何にも言えなくなるんだよな……」
葉月は損得勘定で動いている訳ではない。
以前は単純に任務として。
今はそれに加え、大切な人達を守る為に戦っている。
仮に彼女に対する報酬があるとすれば、それは『今日も守れた』という安心感だ。
「セシリアも、暫く見ない間に随分と強くなっていたんだな。正直、見違えたよ」
「ウフフ…仮にも代表候補生ですので。これぐらいは当然ですわ」
カムラがセシリアを褒めていると、研究所の中からカムラの部下の研究員たちがロープやら手錠やらを持ってやって来た。
「お待たせしました!」
「来たな。それじゃあ、頼むぞ」
「「「はい!」」」
彼らも女達には相当な鬱憤が溜まっていたのだろう。
気絶している相手に対して全く遠慮することなく力強く縛り付ける。
「こいつらのISはどうしますか?」
「軍との相談次第だな。取り敢えずはこっちで保管しておくが、もしも軍の方で許しが出れば、こっちの方で修復してコアを初期化して訓練施設にでも寄付するさ。研究用のISは一機あれば十分だし、今回セシリアが乗ってくれたお蔭で貴重なデータを取得できた。望外の事ではあったが、だからと言って無駄にする気はないんでね」
良くも悪くも研究者の鏡のようだ。
だが、こういう人間の方が逆に葉月としては好感が持てる。
少なくとも、歯の浮く偽善者のようなセリフを吐く優男よりはずっと信頼できた。
「取り敢えずは迎撃できましたが、奴等もこれで終わるとは思えません。まだまだ油断は禁物です」
「そうですわね。寧ろ、これからが大変になるかもしれませんわ」
勝って兜の緒を締めよ。
その精神を体現するかのような会話をしている少女達を尻目に、カムラは夜空に向かって煙草を吹かしていた。
(その精神は立派だが…そこまで心配する必要はないと俺は思うがね……)
火を消してから携帯灰皿に煙草を押し込む。
もう一本吸おうと思ったところで、目の前に未成年の少女が二人もいる事を思い出し、寸前で手が止まる。
(今回の事で、今まで腰が重かった軍の連中も動き出すだろうよ。このまま奴等をのさばらせていたら、こんな事じゃ済まされないって実感してな。更に、自分達の怠慢のせいでドイツに非常に大きな借りを作る羽目になった。無駄にプライドだけは高いお上には耐えられないだろう。下手をすれば、他の国の介入まで許してしまう危険性まであるわけだしな)
どれだけ技術が進歩しても、共通の敵がいたとしても、互いに手を取る事が出来ない世の中に辟易しながら、自分の前で話し込んでいる少女達を見つめる。
(…大人が水面下でギスギスしてるのに、子供達は国境なんて関係無しに仲良くなれる…か。どうして、世界ってのはもっと、この子達みたいに単純に出来てないのかね……)
これからの事を考えるだけで溜息が出る。
一度でも考え始めたら、ネガティブな考えしか浮かんでこない。
カムラが自己嫌悪に陥りそうになっていると、ふと葉月が話しかけてきた。
「カムラ技術大尉。少しよろしいですか?」
「ん? なんだ?」
「経過報告をしたいので、今から通信室をお借りしてもよろしいですか?」
この通信がまた、葉月の運命を大きく分ける事になるとは、まだ誰にも知らなかった。
腐った物は、もう二度と元には戻らない