INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~   作:とんこつラーメン

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あなたは正しい。けど、間違っている。






The truth that the world cannot be saved

「ここだ」

「ありがとうございます」 

 

 カムラに案内されて、研究所内にある通信室に来た葉月。

 ドイツとイギリスでは多少なりと操作方法が違う筈なのだが、葉月はそんな事なんて全く気にせずに淡々と操作していく。

 

「凄いな…慣れてるのか?」

「いえ。そこに簡易ながらも操作方法が記載されているので、それさえ見れば後はどうにかなります」

 

 そう言って葉月が指さしたのは、新人の為に壁に張り付けてあるマニュアルだった。

 確かに、アレを見れば何とかなるかもしれないが……。

 

(それでも手馴れすぎだろ……)

 

 後ろから見ていると、まるで子供が背伸びをしているかのようにも見えるが、実際にはそこらの大人などよりも遥かに操作が滑らかだ。

 

「これでよし…っと」

 

 接続が完了し、目の前の大型モニターにグレイヴの姿が映し出される。

 

『ん? コード08か。こんな時間にどうした?』

「少将閣下。任務の経過報告をする為に連絡をしました」

『経過報告だと?』

「はい」

 

 葉月は、淡々とした口調で今日起こった出来事を事細かに説明をした。

 報告を聞いている間、グレイヴは肩を震わせながら笑いを我慢していた。

 

『ククク…! ある程度の時間は掛かると想定していたが、まさか行ったその日の夜に襲撃を掛けてくるとは……クッ…ククク…!』

「閣下…?」

『アハハハハハハハハハハハハ! 奴らの頭の中は完全に野良犬以下だな! 犬でももう少し利口に動くというものだ! まさか、ここまで馬鹿な連中だとは思わなかったぞ! ハハハハハハハハハハハハッ!』

 

 まさかの大爆笑。

 彼がここまで大笑いをするのは非常に珍しかった。

 少なくとも、葉月は始めて見た。

 

『…で? その倒した連中はどうした?』

「現在はこっちの方で捕縛をして、ついさっき俺達がこんな時の為に密かに作っておいた特製の独房にぶち込んでいるよ」

『…貴様は?』

「こちらは、ここの研究所の主任研究員であり、軍からも派遣されている技術士官の『アルフ・カムラ大尉』です」

『ほぅ…お前が……』

「初めまして、少将閣下殿。こっちもそちらのお噂は色々と聞いてますよ」

『そうか』

 

 グレイヴとカムラ。

 画面越しにて二人の男の腹の探り合いが始まる。

 

『捕縛した奴らはどうする気だ?』

「今晩はこっちで預かって、明日朝一で軍に取りに来て貰う予定ですよ」

『軍に…か。成る程な』

 

 その一言で何かを察したのか、グレイズはそれ以上の追及はしなかった。

 

「どうやら、俺が言いたい事が御理解頂けたようで」

『一応はな。イギリス軍には個人的な知り合いが多くいるからな。奴らの性格もよく知っているつもりだ』

「そうですか」

『最初は、コード80に尋問でもさせてから奴らのアジトの場所を吐かせてから一網打尽にする予定だったが…その必要は無さそうだな』

「えぇ。今まで軍の上層部はずっと権利団体をどうにかする機会を伺っていた。だが、奴らはバカではあるがマヌケではない。好き放題やってはいても、自分達の身を隠す事に掛けては中々に侮れないし、権利団体の上の方にいる連中には政治、経済の重要人物達も大勢いる。故に、手を出したくても出せないというもどかしい日々が続いていたが……」

『そんな時、今回の襲撃事件がやって来た。経緯はどうあれ、捕虜を手に入れた事のアドバンテージは絶大だ。その気になれば、自白剤やなにやらを使って無理矢理にでも全てを吐かせればいいだけだしな』

「その通り。これは間違いなく、このイギリスという国が女性権利団体への一斉攻勢に出る千載一遇の大チャンス。それをみすみすに逃すほど、うちのお上も愚かじゃないでしょうよ」

 

 話しながら、二人は生き生きとした顔で女達のこれからを予想していく。

 グレイヴとは根本的に違うとはいえ、カムラもあいつらには相当に鬱憤が溜まっていたようだ。

 

「なので、最低でも1~2日ぐらいは様子を見るべきじゃないかと」

『そうかもしれんな』

「正直、彼女が来てくれて本当に助かりましたよ。もしもいなかったらと思うと……」

『その為に派遣したのだから当然だ』

 

 決して葉月を褒める事はせず、それが当たり前のように話す。

 道具が道具としての本分を果たして褒める人間なんていない。

 グレイヴはそんなタイプの人間だった。

 

『しかし、様子を見るのには私も賛成だ。なので…コード08』

「はっ!」

『事態に動きがあるまで、念の為にそちらにて待機をしろ。万が一の時に備えて、いつでも動けるようにな』

「了解しました」

「それなら、セシリアの屋敷で寝泊まりをすればいい。あそこなら、ここからそう遠くはないし、あの子も歓迎してくれるだろう。なにより、ここには根っからの研究員ばかりしかいないから、碌な就寝所も無いしな。どうでしょうか?」

『ふむ……』

 

 カムラにまさかの提案をされ、顎に手を当てて考えるグレイヴ。

 

『(こいつが言った『セシリア』とは、恐らくはイギリス代表候補生の『セシリア・オルコット』の事だろう。噂ではティアーズタイプの試作1号機のパイロットに任命されたと来ていたが、やはり研究所に来ていたか。しかも、コード80と既に交流をしている…と。これはまたチャンスやもしれんな。後々の事を考えれば、イギリスと敵対するのは避けたい…。国に借りを作るだけでなく、オルコット家に取り入れられれば、これから先色々と動き易くなるな……)』

 

 この間、約3~4秒。

 グレイヴは何気に頭の回転が早かった。

 

『よかろう。コード80、待機ついでに少し羽を伸ばしてくるがいい』

「……は? それは一体……」

『文字通りの意味だ。今後の任務に備え、体だけでなくメンタル面のケアをしておけと言っている。これは命令だ。いいな?』

「了解しました。コード80、待機しながら心身のメンテを行います」

『それでいい』

 

 これで話は終わりか。

 そう思って通信を切ろうとすると、そこでカムラが待ったを掛けた。

 

「済まないが、俺と少将閣下だけでもう少しだけ話をさせてくれないか?」

「それは……」

『構わん』

「…だそうです」

「ありがとな。お前さんは先にセシリアの所に戻っててくれ」

「分かりました」

 

 画面の向こうにいるグレイヴに敬礼をしてから、葉月はテキパキとした動きで通信室を出て行った。

 

「さて…と。これでようやく本当に聞きたい事を話せる」

『聞きたい事だと?』

「そうだ」

 

 コンソールに両手を置き、グレイヴを睨みつける。

 さっきまでの掴みどころのない感じは消え失せ、明らかに怒っていた。

 

「例の女共が襲ってきた時、俺はせめて様子だけでも見守りたいと思って、色々と分析をしつつ外部モニターで見ていたんだ」

『…で?』

「あの時、敷地内には5つのコアの反応があった。3つは女達が使っていたリヴァイヴ。一つはセシリアが使っていた青いリヴァイヴ。そして、最後の一つがあの子…ハヅキが使っていたペイルライダーだ。けどな、あの子の場合は他のとは明らかに違っていたんだよ」

 

 歯を食いしばり、怒りを表すかのようにコンソールを思い切り叩きつける。

 

「通常…ISコアの反応ってのはISの中から検出されるものだ。なのに…あの子の場合は、その肉体……心臓付近から反応が出ていた! これは一体どういう事だ! お前達はあの子に何をしたんだ! 答えろ!!」

 

 研究以外で怒りを露わにすることが少ないカムラが、今までにない程に憤怒している。

 ここには彼しかいないから大丈夫だが、もしもこれをセシリアや他の研究員たちが見ていたら、かなり驚いていた事だろう。

 

『…それを貴様に言う必要があるのか?』

「何…っ!?」

『あれは我がドイツ軍の誇る最強にして最高の兵器だ。それ以上でもそれ以下でもない』

「ふざけるな! あんな小さな女の子を道具のように使い潰して、お前には良心の呵責というものが無いのかッ!?」

『無い。そんな下らんものでは何も救えんし、守れん』

 

 全く表情を変えずに言ってのけたグレイヴに、逆にカムラの方が気圧されてしまった。

 

「お前…狂ってるよ…!」

『狂う? 大いに結構。私一人が狂う事で世界から『女性権利団体』という『蛆虫』を一匹残らず駆除出来るのならば安いものだ』

「あいつ等を憎む気持ちがあるのは分かるが…それでも度が過ぎている…! そもそも、あの子は一体何者なんだ?」

『何者…とは?』

「ハヅキはどう見てもアジア圏の出身…恐らくは日本人だろう。そんな少女がドイツから派遣されてくる。この時点でおかしいだろうが」

『何が言いたい』

「アンタは…あの子をどこで拾ってきた?」

『それを言って、私に一体何の得がある?』

 

 その通りだった。

 これはあくまでもカムラの個人的意見に過ぎない。

 グレイヴがそれに答える義務は何処にも無いのだ。

 

『技術大尉。他国の軍事機密に首を突っ込んでも碌な事にはならんぞ? 仮にも軍の人間ならば、それぐらいの事は理解している筈だが?』

「あぁ…分かっているさ。だが、それでも納得出来る事と出来ない事はある! 科学を志す者として!」

『青二才が……だが、気に入った。ここまで、この私に噛み付いてきたのは貴様が初めてだ。その勇気に免じて、一つだけヒントをやろう』

「ヒント…だと…?」

『白騎士事件』

「!!!」

『では、さらばだ』

「ちょ…ちょっと待て! 最後に一つだけ聞かせてくれ!」

『……なんだ?』

「アンタは…この世界をどうしたいんだ?」

『決まっている』

 

 足を組み直し、鋭い眼光を放ちながら一言。

 

『この世界をあるべき姿に戻す…それだけだ』

「ISの無かった時代まで戻すって事か…?」

『さぁな。好きに解釈すればいい。失礼する』

 

 通信が切れ、カムラは脱力するように椅子に座り込んだ。

 

「はぁ…なんつープレッシャーだよ…あのクソオヤジ…!」

 

 背中を丸め、両手を組んでから頭を下げて呟く。

 

「このままだと…本当に取り返しのつかない事になっちまうぞ……」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「…という訳になった。頼めるか?」

「勿論ですわ!!」

 

 カムラが通信室から戻ると、葉月がセシリアの玩具になっていた。

 具体的には、いつの間にか髪型がツインテールに変わっている。

 

「一応、何かあったら俺も屋敷に行くから…って、聞いてるか?」

 

 完全にセシリアは葉月をどう歓迎するかで頭が一杯になっていて、全くカムラの言葉が耳に入っていない。

 

「戻ったら、まずはハヅキさんの為にお部屋を用意しないといけませんわね! あ、お夕食はどうしましょう…ドイツから来たハヅキさんのお口に合うようなものとなると……」

「聞いちゃいねぇし……ま、無理も無いか」

 

 IS操縦者の道を歩むと決めた時から、セシリアはこれまで以上に同年代の少女達とは疎遠になっていた。

 家柄故の近寄りがたいというのもあったが、それ以上にIS操縦者とは国に誇りでありアイドルのような存在。

 そして、操縦者同士はライバルのようなもの。

 セシリアにとって、打算無しに付き合える同性の友というのは初めてであり、同時に非常に貴重な存在でもあった。

 

「まぁ…その…なんだ。とにかく、こうなっちまった以上は少しでも心身ともに癒してくれ」

「お言葉に甘えさせて頂きます」

「是非ともそうしてくれ。今日は本当にご苦労様だった。ありがとう」

「任務ですので…と言いたいですが、ここは『どういたしまして』と返答するのが正しいと判断します」

「そ…そうだな」

 

 意外な反応にカムラの方が戸惑ってしまった。

 

(この子を救うカギは、ここにあるのかもしれないな……)

 

 そんな事を考えながら、セシリアに黙って体を揺らされている葉月を微笑ましく見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




絆が生まれ、害虫がまた駆逐される。
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