INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~   作:とんこつラーメン

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それもまた、一つの『運命』。







People call it love

 カムラがグレイヴを説得したことにより、葉月は図らずもセシリアの屋敷にて待機という名の休暇を取る事になった。

 これまでずっと、ドイツ軍の兵器として生き、育ってきた葉月にとって『休暇』とは最も縁が無い言葉の一つであった。

 そんな自分が、まさかの上官命令で休みを取っている。

 余りにも唐突な事で、あんまり現実感が無かった。

 オルコット邸からやって来た迎えの車の中で揺られながら、葉月はずっとそんな事を考えていた。

 

 そうしてボーっとしている間に、車は屋敷へと到着した。

 

「ここが、我が屋敷ですわ。どうぞ、こちらです」

「分かりました」

 

 そこは、今まで見た事も無い程の大きな屋敷だった。

 詳しい外観などは葉月の語彙力の問題もあって語れないが、誰もが一発でこれを『豪邸』と言ってしまうほどの高級感で満ち満ちている。

 

「只今帰りましたわ」

「「「「「お帰りなさいませ。セシリアお嬢様」」」」」

 

 そんな彼女達を真っ赤な絨毯が敷かれている広いロビーにて出迎えたのは、屋敷に仕えている沢山のメイド達。

 天井には眩しい程に煌めいているシャンデリアがあり、直視することも難しい。

 時間はもう完全に夜中になっているのも関わらず、一人も欠けることなく綺麗に整列をしていた。

 

「お嬢様。お隣にいらっしゃる方は一体どなたなのでしょうか?」

「それを今から説明するわ」

 

 メイド達の中でも唯一、雰囲気の違う女性が一人だけ前に出てきてセシリアに説明を求める。

 そうなる事は予想出来ていたようで、セシリアもちゃんとメイド達に葉月の事を説明していく。

 勿論、今回の襲撃騒ぎや権利団体の事はちゃんと伏せて。

 

「…というわけで、ハヅキさんは今日から少しの間、このオルコット邸にてお預かりすることになりました。ハヅキさんは私にとって大切な友人にして、大事なお客様…そのように振る舞うように。分かったわね?」

「「「「「承知しました。お嬢様」」」」」

 

 一糸乱れぬ動きで頭を下げるメイド達。

 葉月は何も言わないが、心の中ではその軍人も真っ青なきびきびとした動きに感嘆の意を覚えていた。

 

(…ハーゼ隊の皆さんも、これぐらいの動きが出来ればいいのですが…)

 

 最近は千冬の指導で少しずつではあるが動きは良くなり始めた。

 だが、まだまだ自分達が国の防衛の要である軍人であるという自覚が足りないように感じている。

 

「…初めまして。ドイツから来た葉月と申します。突然の来訪でご迷惑をお掛けするかもしれませんが、どうかよろしくお願いします」

 

 葉月も彼女達に習うように、一歩だけ前に出てから挨拶をすることに。

 ドイツの国防を担う者として、恥にならないような言葉を選んだ。

 

「「「「「畏まりました。ハヅキお嬢様」」」」」

「お嬢様……」

 

 ドイツ軍の兵器たる自分が、まさかのお嬢様呼び。

 流石の葉月も、それには目を丸くして驚いていた。

 

「ハヅキさん。ご自宅のように寛いで頂いて構いませんわ。それと…チェルシー」

「はい」

 

 名前を呼ばれて傍まで来たのは、先程メイド達を代表してセシリアに質問をしてきた女性だった。

 

「彼女は『チェルシー・ブランケット』。オルコット家のメイド長にして、私の幼馴染でもありますの」

「チェルシーと申します。以後、お見知りおきくださいまし、ハヅキさま」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 こういった場でどんな挨拶をすればいいのか全く知らない葉月は、決まった定型文を繰り返すように言うしかない。

 変に思われたかもしれないと危惧したが、どうやらそんな事は無いようだ。

 

「何かあれば、彼女に申し付けてください。チェルシー、客室の用意はどうなっているの?」

「勿論、用意は出来ております」

 

 貴族に使えるメイドたる者、いつ何時も突然の来客に備えて常日頃から客室は綺麗に整えておくのが鉄則だ。

 特に、今回のような場合はその心掛けが最大限に生きてくる。

 

「ありがとう。では、早速案内を…と言いたいけれど、まずはお互いに今日の疲れを取りませんこと?」

「疲れ…ですか?」

「えぇ。チェルシー、大浴場の準備は?」

「いつでもご入浴いただけます」

 

 今日はこのまま休めるかと思ったら、まさかの入浴イベント。

 自分の下着すら碌に持っていない葉月に着替えなんて上等な物が有る筈も無い。

 その事を伝えれば、向こうも遠慮してくれるかもしれない…と思っていた自分は相当に甘い考えを持っていたと数秒後に実感させられた。

 

「着替えが無い? 大丈夫ですわ! 私のお古の服を差し上げますから!」

「ハヅキ様はお嬢様よりも少し小柄なので、お嬢様が昔着ていた服が丁度よろしいかと」

「そうね! 保管はちゃんとしていますから問題は無い筈ですわ」

「ですが…私は下着も持っておらず……」

「そういえば、軍服の下にはISスーツを直接着ていましたわね。ご心配なく。それもちゃんとご用意しますから!」

 

 こちらが何を言っても全て論破される。

 この日、初めて葉月は金持ちの恐ろしさというのを身を持って知った。

 

「さぁさぁ! ご一緒に入りましょう!」

「……え?」

 

 一緒に入りましょう?

 セシリアが何気なく言った一言を葉月は聞き逃さなかった。

 

「い…一緒に…とは…?」

「お風呂にですわ!」

「誰と誰が?」

「私とハヅキさんが!」

「……………」

 

 なんという期待と好奇心に溢れた瞳。

 少なくとも、この瞳に逆らう術を葉月は持ち合わせてもいないし、全く学んでもいなかった。

 

「…お言葉に甘えさせて頂きます」

「~♡」

 

 こうして、葉月はセシリアと一緒に体を流す事になったのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「…黄金のライオンが口からお湯を吐いてる」

 

 その一言だけで、オルコット邸の大浴場がどんな場所か想像できただろう。

 至る所に大理石で作られた壁などがあり、見渡す限りの湯船。

 イギリスの一般家庭の浴場はシャワーと浴槽がセットになっていることが大半なのだが、ここは数少ない例外。

 貴族としての格式を保つ為に、このように広大な風呂になっているのだろう。

 

「入浴…か」

 

 今までは、汗を掻いたりした時はシャワーで流すだけだった。

 それだけで十分だと思っていたし、兵器である自分に人間らしい生活習慣なんて不要だと考えていたから。

 『入浴』という行為自体、『今の彼女』になってからは初めての事だった。

 

「確か…タオルを湯に付けてはいけないのでしたね」

 

 現在、葉月は体にバスタオルを巻いている状態にある。

 ISスーツなんて無粋な物は、着替えの際にセシリアとチェルシーの視線に負けて脱ぐ羽目となっていた。

 

「いかがですか? オルコット家自慢の大浴場は」

 

 声がしたので振り向くと、そこには同じようにバスタオルで体を巻いたセシリアの姿が。

 肌は白く綺麗で、まるで女神ようなイメージを持たせる程に美しかった。

 

「このような場所には初めて入ったのですが、とても素晴らしいと思います」

「そう言って頂けて、ここをデザインした方々もきっと喜んでいますわ」

 

 横に並んでから、ふと葉月の方を振り向いた。

 セシリア程の美人になれば、たったそれだけの動作でさえも非常に絵になった。

 

「では、入りましょうか」

「そう…ですね」

 

 その場にしゃがみ込むようにしながら足を湯に浸し、ゆっくりと体を入れながら器用にタオルを外していく。

 そのまま肩まで浸かった瞬間、葉月の全身に衝撃が走る。

 

「こ…これは……」

 

 全身に渡って体が徐々に温められ、体の芯から心まで癒されていくような、そんな感覚。

 これまでの任務によって凝り固まっていた全ての筋肉が解されていく。

 

「これは…とろけますね……」

 

 余りの気持ちよさに、葉月は思わず笑みを浮かべていた。

 作り笑いではない。悪巧みを思い付いた笑いでもない。

 心の底から気持ち良くて、自然と出てしまった微笑みだった。

 

「……………」

 

 一緒に湯に入ったセシリアは、そんな葉月の姿を見て硬直しながら鼻血を流していた。

 軍人然とした表情ばかりを見せていた彼女とのギャップの破壊力は想像以上のものだったようだ。

 

「どうしましたぁ~…セシリア~…」

「天使……」

「ふにゃぁ~?」

 

 少しだけ体を上げた事で改めて気が付く。

 よく見れば細かい傷跡などが数多く散見できるが、それでも葉月の肌は充分過ぎるほどに綺麗だった。

 無論、年頃の少女達のような肌のケアなんて一度だってやった経験は無い。

 これは完全に彼女の肌質によるものだ。本人には全く自覚は無いが。

 

「あ…あの…ハヅキさん? もっと近くによってもよろしいかしら?」

「構いませんよぉ~…」

 

 本人の許可も貰ったので、遠慮なく近づいてみる。

 完全に緩みきった葉月の顔を眺め、抱きしめたくなる衝動に駆られた。

 

(が…我慢しなくては…! 幾ら、フニャフニャになったハヅキさんが天使のように可愛らしくても、ここで彼女を抱きしめるだなんて事は淑女としてあってはならない事……)

 

 なんてことを頭では考えつつも体の方は正直なようで、気が付けば既に葉月の事を後ろから抱きしめていた。

 

 結局、葉月はずっと蕩けたままでいて、セシリアはそんな彼女を独り占めして堪能していた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 大浴場から上がった途端、葉月はセシリアとメイド達によって着せ替え人形と化した。

 

「…これは?」

「セシリアお嬢様が少し前に着ていたパジャマです。予想通り、サイズが合ったようでなによりです」

 

 葉月が着ているのは薄いピンクのパジャマで、サイズが合うと言ってはいるが、実際には少しだけ袖がダボっている。

 ここが日本であれば『萌え袖』と呼ばれていただろう。

 

「こういうのを着るのも初めてです。なんだか新鮮な体験ですね」

「よろしかったら差し上げますわ。とてもお似合いですし」

「それだけでなく、このような物もありますが……」

「こっちも似合いますよ!」

 

 次々とパジャマやキャミソールを着させようとしてくるが、結局は最初に来たピンクのパジャマに落ち着くことに。

 派手なのが苦手な葉月的には、それでもかなり妥協した方なのだが。

 

「それではハヅキ様。お部屋にご案内します」

「お願いします」

 

 セシリアや他のメイド達と別れて、チェルシーの後を着いていく形で廊下を歩いていく。

 二人の間に会話は無く、どっちがメイドなのか分からなくなる。

 

「ここになります」

 

 部屋に辿り着き、チェルシーが扉を開けると、中に広がっていたのは一流ホテルのスィートルームにすら匹敵する高級な部屋があった。

 兵器である自分には確実に分不相応すぎる場所だ。

 今までは薄汚れた格納庫の隅で布を被って休眠したり、場合によっては野宿をしたことだって一度や二度じゃない。

 千冬の部屋での寝泊まりが許可されただけでも十分過ぎるほどに好待遇なのに、まさかこんな部屋で寝泊まりできるとは。

 数か月前の彼女からは絶対に有り得ない事だった。

 

「お気に召しましたでしょうか?」

「はい……私のような者には十分過ぎます。ありがとうございます」

 

 ここからは彼女だけの時間になる…と思われたが、チェルシーは部屋から出る様子を見せず、ずっと葉月の事を見つめていた。

 

「大切なお客様に、このような不躾な事をお聞きするのはメイドとして失格だと自覚していますが……」

「なんでしょうか?」

「ハヅキ様……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女は一体何者なのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 




誰にでも言えない秘密はある。





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