INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~   作:とんこつラーメン

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日常の裏側で、悪は滅ぶ。







The fools perish unknowingly

 葉月がオルコット邸に宿泊をした次の日。

 朝食を終えた彼女は、リビングにて優雅の紅茶を飲んでいるセシリアの傍でメイト達に囲まれていた。

 

「あの…これはどういう事なのでしょうか…?」

「ハヅキ様の為に着なくなった古着を見繕うのはいいのですが、実際に袖を通してみないと正確なサイズが分からないもので」

 

 なんてチェルシーは言っているが、実際には単なるハヅキの単独ファッションショーである。

 ここで下手に暴れて彼女達に怪我をさせる訳にはいかないので、葉月は成すがままに着せ替え人形気分を味わっていた。

 

「ハヅキ様には、こっちのフリルが一杯ついたのが似合うわよ!」

「何言ってんの。ここは敢えて、ボーイッシュな感じで攻めた方が……」

「いやいや。やっぱり、昔のお嬢様が着ていたようなロングスカートを中心としたゆったりとした風の……」

 

 葉月の周囲では、メイド達があーでもない、こーでもないと話しながら、着せたい服を厳選している。

 正直、葉月自身はどれを着ても一緒だと考えているので、どうして彼女達が服装なんかでここまで熱くなれるのかが全く理解出来ない。

 

「セシリア…どうにかしてください」

「すみませんが、私にも無理ですわ」

「どうしてですか?」

「それは……」

 

 ティーカップをそっと置いてから、徐にセシリアが近づいてくる。

 それを見て、葉月の第六感が激しく警告を出す。

 

「私も一緒に混ざりたいからですわ!」

「チェルシーさん……」

 

 ダメだこりゃ。

 即座にそう判断して、今度はチェルシーに助け舟を出すが、彼女は笑顔を浮かべたまま首を横に振った。

 

(味方が一人もいない……)

 

 孤立無援。

 そんな状況はこれまでにも腐るほど経験してきたが、こんな風な孤立は生まれて初めてだった。

 何もかもが初めて過ぎて、どう対処すればいいのかが本当に分からない。

 そんな事を考えている間にも、次々と葉月は色んな服を着せられていく羽目に。

 

「ふと思ったのですが……」

「どうしました? お嬢様」

「…ハヅキさんならば、メイド服も似合うのではなくて?」

「「「「!!!」」」」

 

 そこで全員がハッとした表情になる。

 メイド達の一人が急いでメイド服の替えを持って来ようとするが、全員の間の前に新品同様のメイド服が晒された。

 

「御心配なく。もう既にご用意してあります」

「流石はチェルシーですわ!」

「オルコット家に仕える者として当然です」

 

 どうして当然なのか小一時間ぐらい問い質したい衝動に駆られる。

 何が悲しくて、自分が彼女達と同じ服を着ないといけないのだろうか。

 その問いに答えてくれる者は屋敷内のどこにも存在しなかった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「「「「「可愛い!!」」」」」

「よくお似合いです、ハヅキ様」

「…ありがとうございます」

 

 結局、皆には逆らえずにメイド服を着る羽目に。

 だがしかし、実際に着てみたメイド服の着心地は意外と悪くは無かった。

 

「思っているよりも動き易いですね」

「この服は私達の仕事着ですから。屋敷内の色んな仕事をするのに支障が出ないようにしてあるのです。巷に溢れるコスプレ用のメイド服とは違い、私達が着ているコレは所謂『本職用』なので、意外と機能性重視だったりするんです」

「ふむ……」

 

 頭に着けているホワイトプリムはともかくとして、メイド服自体は気に入った。

 これならば、思い切り暴れても全く問題が無い。

 場所によっては隠密性にも優れるかもしれない。かなり状況は特定されるだろうが。

 

「セシリアが静かですね。一体どうして……」

「お嬢様ならば、そこにてメイド服を着たハヅキ様を見てうっとりとなさっています」

 

 チェルシーの言う通り、セシリアは鼻血を出しながら目をハートマークにしてにやけていた。

 

「あぁ…ハヅキさん……本当に可愛らしいですわ…♡」

「…印象が変わりますね」

 

 葉月から見たセシリアは、歳相応の少女らしさを残しつつも、オルコット家の若き当主として、一人の代表候補生として凛とした姿勢を崩さない人間と思っていたのだが、どうやらそれだけではないようだ。

 

「まぁ…その方がセシリアらしいと言いますか……」

 

 自分のように我を殺すような真似をせず、こういった顔を見せてくれた方が不思議と安心する。

 それは、己のようになってほしくないと願ってしまっているからなのか。

 葉月にはまだその辺りの感情の細かい機微は理解出来ないでいた。

 

「あ…皆こんな所にいた…」

「あなたは…どうしました?」

 

 メイド服を着た葉月の鑑賞会に移行し始めていたリビングに、別のメイドが一人入って来た。

 なにやら、慌てている様子だが…。

 

「お嬢様。カムラ技術大尉がお越しになっています。いかがなされますか?」

「カムラおじ様が? 分かりました。ここまでお通しして頂戴」

「承知いたしました」

 

 頭を下げてから、メイドの少女はカムラを呼びにリビングを後にした。

 

「では、取り敢えずはここまでですね。ハヅキ様、その服はいかがしますか?」

「このままで結構です。正直な話、動き易ければ何でもいいので」

「それは女性としてはどうかと思いますが…分かりました。では、そのメイド服は差し上げます。お嬢様、よろしいですか?」

「勿論。異論はありませんわ」

「…だそうです」

「ありがとうございます」

 

 これならば、ドイツに戻ってからも着てもいいかもしれない。

 実際問題、国に仕える者という意味ではメイドの少女達と立場的には大差ないのだから。

 ドイツという国に付き従うメイド。うん、悪くない。

 けれど、一応念の為に汚れた時の事を考えて、後でチェルシー辺りにメイド服の洗い方を教わろうと思う。

 

「セシリアお嬢様。カムラ様をお連れしました」

「分かりましたわ。どうぞ」

 

 ドアの向こうから先程の少女の声がして、それが開くと昨夜散々と見たカムラの顔がそこにあった。

 

「おはようさん。その様子だと、何事も無かったようだな」

「おはようございます、カムラおじ様。勿論、何もある訳がありませんわ」

「そいつはよかった……で、どうしてお前さんはメイド服なんて着てるんだ?」

「この屋敷にお仕えしているメイドの方々に頂いたのです。そして、おはようございます。カムラ技術大尉」

 

 葉月もチェルシーたちの真似をして、スカートの端を握ってから開くようにしてから頭を下げた。

 

「お…おぉ…おはようさん」

 

 昨日までの戦慄を覚える程の少女戦士とは思えない程に、今の葉月は嫋やかになっていた。

 後にカムラはこの時に葉月に関してこう語っている。

 

『ビックリするぐらいに違和感が無かった』…と。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「どうぞ。ロイヤルハーブティーです」

「悪いな。有り難くいただくよ」

 

 チェルシーから紅茶を淹れて貰い、それを軽く一口。

 飲んだ途端、これまでに蓄積していた疲れが消えていくような感覚がした。

 

「相変わらず美味いな。徹夜疲れが癒えていくようだ」

「ありがとうございます。では、何か御用があればお呼びください」

 

 礼をしてから、チェルシーはリビングを後にした。

 残されたのは、セシリアとメイド服を着た葉月、それからカムラの三人だ。

 

「おじ様からこちらへと赴くだなんて珍しいですわね。何か御用でもあったのですか?」

「用事って程でもないんだが…昨夜、二人が倒した女共について報告しておこうと思ってな」

 

 葉月とセシリアのコンビによって撃破された女性権利団体の刺客達。

 倒された後はカムラの指示の元、研究員たちによって拘束された筈だ。

 

「今朝早くに軍の連中がやって来て、アイツ等を連れて行ったよ」

「当然の末路…ですわね」

「その後にどうなったか…などは聞いてはいないのですか?」

「それは聞かされていないが、これからどうする気なのかは連行する時に教えてくれたよ」

 

 紅茶をまた一口飲んでから、両肘を自分の両膝に乗せてから語り出す。

 

「連中、どうやら捕えた女共に自白剤を使ってから、奴らの本拠地を聞き出してから攻勢に出る気のようだ」

「拷問ではなくて自白剤……随分とお優しいのですね」

「自白剤でも相当だと思うがな…」

 

 人間らしい一面を垣間見ても、まだまだ彼女と自分達とでは価値観が全く違う事を思い知らされる。

 

(白騎士事件について調べろ…か。一体、この子と事件に何の因果関係があるって言うんだ……)

 

 今はまだ事後処理に追われて調べる暇が無いが、後に落ち着いた頃にでも本格的に調査をしてみようと決意する。

 そこにどんな真実が待っていようとも、こんな時代を生み出してしまった大人の一人として必ず受け入れる覚悟と共に。

 

「一体どこに隠れ潜んでいたのかは知らないが、今頃は確実に奴らの拠点は軍によって強襲されている頃だろうさ。あいつらの切り札であるISはお前達によって戦闘不能にされて、全機こっちが回収しちまったからな。ISさえなければ、権利団体の連中なんて単なる雑魚だ。あいつ等の大半が碌な軍事訓練もしたことも無い素人集団だからな」

「そうですね。権利団体が他にとってアドバンテージを取れていたのは、全てはISがあったからです。それが無くなった以上、滅びるのは時間の問題と言えるでしょう」

「だろうな。軍の連中も、これまでに何度も奴らに辛酸を舐められてるから、溜りに溜まった鬱憤が大爆発しても不思議じゃない」

「自業自得とはいえ…哀れですわね」

 

 哀れと言いつつも、セシリアは決して権利団体に対して同情などをしている訳ではない。

 セシリア自身も、あいつらに対して怒りを覚えたのは一度や二度ではない。

 それでも、高貴なる者として言葉だけでもそう言っておかないといけないのだ。

 実際には、心からスカッとして清々している。

 

「一応、お前さんの上官にも報告はしておいたよ」

「少将閣下はなんと仰られていました?」

「大爆笑してた」

「……は?」

 

 大爆笑? あのグレイヴ少将が?

 常日頃から厳格な彼の顔しか知らない葉月には、余りにも信じられない事だった。

 

「どうやら、相当に嬉しかったようだな。こっちも本気で驚いたよ」

「そ…そうですか」

「それでかなり機嫌を良くしたんだろうな。お前さんに伝言を頼まれたよ」

「伝言…ですか? 命令などではなく?」

「そうだ。ISを介して通信でもすればいいだろうが、奴さんも忙しかったんだろう」

「でしょうね。それで、その伝言とはなんですか?」

 

 カップに残った紅茶を全部飲み干し、ニコッと笑いながら伝言を伝えた。

 

「聞くところによると、当初の予定では一週間ぐらいコッチに滞在する予定だったんだろう?」

「はい。最低でもそれぐらいは掛かると思っていましたので」

「だがしかし、実際にはあいつ等の動きが予想以上に早くて、結果として任務は早々に終了してしまった…と」

「そうなりますね」

「だから、ハヅキに掛けられていた待機命令は解除。その代り、残りの時間をあの時の通信で言われた通りに休暇に当てろ…だとさ。来週の月曜辺りに迎えを寄越すそうだ」

 

 待機ついでの休暇だったのが、本格的な休みになってしまった。

 それを聞いたセシリアは、思わず聞き返してしまう。

 

「そ…それはつまり…もっとハヅキさんと一緒にいられる…という事ですの…?」

「そうなるな」

「やりましたわー!!」

「わっぷ」

 

 喜びの余り、セシリアはすぐ隣にいた葉月に抱き着く。

 突然の事だったので、全く対処が出来なかった。

 

「つーことだから、もう暫くはゆっくりとしていってくれ」

「了解しました」

「それじゃ、俺はそろそろ行くよ。まだ仕事を残してるんでね」

 

 ソファから立ち上がり、軽く手を振りながらリビングを後にするカムラ。

 疲れつつも、その顔は不思議と爽やかだった。

 

「ご報告いただいて、ありがとうございました」

「いいってことさ。そのメイド服、結構似合ってるぞ。またな」

「お疲れ様でしたわ。カムラおじ様」

 

 こうして、葉月のイギリス滞在は当初の予定通りの日数を過ごす事になった。

 この時の事が、彼女の後の運命を大きく分ける出来事の要因の一つになるとも知らずに。

 

 

 

 




紡がれた絆は不滅。
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