INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~   作:とんこつラーメン

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それでも彼女は引き金を引く。







From weapons to girls

 葉月のイギリス滞在日数が本格的に増えたと分ったその日、彼女はセシリアによってある場所へと連れてこられていた。

 

「…ここは?」

「見ての通り、美容室ですわ」

「美容室……」

 

 目の前には、洒落は看板を掲げた店が立っている。

 これまでの人生の中で全く訪れる機会の無かった場所だ。

 

「どうして私を此処に?」

「チェルシーから聞きましたわよ? ハヅキさんはこれまでに一度も髪の手入れなどをしたことが無いのだと」

「その通りです」

 

 普通に返事はしているが、内心では『情報がリークされた』と思ってしまった。

 本当にどうでもいい情報ではあるが。

 

「確かに、ハヅキさんの髪は非常に触り心地が良いですわ。それこそ、本当に手入れなんてしたことが無いのか疑ってしまうほどに」

「お褒め頂いて光栄ですが、私は本当に……」

「分かっていますとも。ハヅキさんが安易に嘘を付くような女性ではない事は、このセシリア・オルコットが一番よく知っていますとも」

 

 まだ葉月とセシリアは出逢ってから少ししか経っていないのに、この自信はどこから来るのか。

 女同士の友情の前では時間なんて些細な問題なのかもしれない。

 

「だからこそ、私は大切な友人であるハヅキさんの髪を更に美しくしてほしいのです。この髪をこのまま放置しておくなんてことは、間違いなく大きな損失ですもの」

「そう…ですか……」

 

 これまでに幾度も死線を潜り抜けてきた自分が、あろうことか貴族の少女に圧倒されている。

 それと同時に葉月は戦士としての勘で『今のセシリアには逆らわない方が良い』と悟っていた。

 

「大丈夫。お金ならば私が支払いますから」

「よろしいのですか?」

「勿論です。この程度、私のポケットマネーでどうとでもなりますわ」

 

 こと金勘定に関しては、貴族と言う存在に勝てる者はいないのかもしれない。

 別に葉月が貧乏という訳ではないのだが。

 イギリスに行く際に、流石に先立つ物が無いと対面的な意味でヤバいだろうという事で、イギリス独自の通貨である『GDP』をちゃんと受け取っている。

 美容室ぐらいの支払いならば全く問題は無いのだが、ここで彼女の善意を無下にする訳にもいかないので、ここは大人しく従っておくことに。

 

 因みに、『GDP』とは『グレートブリテンポンド』の略称である。

 

「では、入りましょうか?」

「……はい」

 

 こうして、生まれて初めてにして、最初で最後の美容室体験をする事になったのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 一時間後。

 一流の美容師の手によって、葉月の髪は見違えるように生まれ変わった。

 

 今までずっと伸ばしっぱなしになっていた長い黒髪は綺麗に整えられて、真っ直ぐなストレートになっていて、その艶もこれまでとは比較にならない程に輝いている。

 まるで、光り輝くエフェクトと『キラキラ』という効果音が出てきそうなぐらいに。

 

「セシリアお嬢様。これでいかがでしょうか?」

「パーフェクトですわ! 申し分のない出来栄え…ハヅキさんの美しさがより一層際立っているわね!」

「お褒め頂き光栄でございます」

 

 店長と思われる男性がセシリアにお辞儀をする。

 その横で直立不動になっている葉月は、鏡に映っている自分を見て大きく目を見開いていた。

 

「髪が…凄くサラサラしている…。気のせいか、頭も軽い気がします……」

 

 自分の手で自分の髪を触り、葉月は地味に感動していた。

 彼女には美容師が何をしていたのかは全く分からなかったが、一つだけ分かった事がある。

 どんな業界でも、プロの持つ力というのは決して侮れないという事だ。

 

「お嬢様のご友人は非常に良い髪をお持ちでした。私もこれまでに数多くの女性の髪を触ってきましたが、彼女の髪は間違いなくトップクラスだったと言えるでしょう。まるで、ずっと埋もれていたダイヤの原石を研磨しているような気分でした」

「そうでしょうとも! そうでしょうとも!」

 

 二人が大笑いしながら自分の髪を絶賛している中、葉月は鏡を見ながら首を何度も動かして髪全体を見ようとしていた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 美容室だけで終わったと思ったら大間違い。

 まだまだ二人の街散歩は終わらない。

 

「今度はどこなのですか?」

「ここですわ!」

 

 そう言ってセシリアが指さしたのは、貴族の女性達が頻繁に通っている高級マッサージ店だった。

 間違いなく、今までの葉月とは縁も所縁も無い場所だ。

 入る事は愚か、近づく事すらしようとしないだろう。

 

「今のハヅキさんは、休息することが任務になっているのでしょう?」

「はい。グレイヴ少将閣下はそう仰られていました」

「ならば、マッサージにて体に溜まった疲れを癒すのが一番ですわ。ここは、私の母の代から利用しているお店なんですのよ?」

「そうなのですか…」

 

 代表候補生であるセシリアが利用している店であるならば、信頼性は高いのだろう。

 確かに、これまでに葉月が自分の疲れを癒してきた方法と言ったら、精々が休眠状態になる事ぐらいだった。

 誰かの手によって体を解されるという体験は今までに一度も無い。

 だからと言って、この店の事を侮るつもりはないが。

 マッサージという行為が蓄積された疲労を取る方法として非常に有効な事は、葉月だってよく知っている。

 ではどうしてしてこなかったのかというと、今まではそんな機会が無かっただけに過ぎないだけだ。

 

「今回は私も一緒に入りますわ。さぁ、行きましょう?」

「了解です」

 

 先程の美容室とは違い、今回のマッサージ店はこれからの自分にとっても非常に有用な店になる。

 今後任務に備え、少しでも疲労を取っておかなくては……。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 店に入り、常連であるセシリアが受付で話を進める。

 その後に二人別れて個室に入り、店の水着を着た状態で台にうつ伏せで乗って、その背中から臀部にかけてバスタオルが掛けられた。

 それだけを聞けば如何わしい店に聞こえるが、実際にマッサージをするのは女性なので問題は無い。

 

「それでは、始めますね」

「よろしくお願いします」

 

 まずは葉月の身体にマッサージオイルが垂らされて、その後に女性店員の施術が始まった。

 

「思ってるよりも色んな所が凝ってますね…。普段から運動などをされてるんですか?」

「そう…んん…! です…ね……んぅ…!」

 

 『開発者』達以外の人間に初めて生肌を触れられることに抵抗感は無い。

 そんな些細な事なんて簡単に吹き飛ぶほどの衝撃が葉月を襲っているから。

 

(こ…これは凄い…ですね…! これが『気持ちがいい』という事なのでしょうか……)

 

 己の全身にゾクゾクするような快感が走っていく。

 今まではずっと『痛み』と『苦しみ』しか感じてこなかった体が、手に取るように癒えていくのが分かる。

 もしも葉月の身体に体力バーなんてものがあれば、急激に回復していっている事だろう。

 それ程までに、今の葉月は癒しを感じていた。

 

「肩だけじゃなくて、背中も……」

「うひゃぅ…!」

「腰も……」

「ひぐぅ…!」

「お尻も……」

「にゃぁぁ…!」

「両足全体も凄く凝ってますよ?」

「はぐぅぅ…!」

 

 ドイツで彼女の帰りを待っているハーゼ隊の皆が見たら鼻血を出しながら喘ぎ声を上げる葉月。

 台に敷いてあるシーツを握りしめ、口からは涎を流し、目はトロンとなり、顔は赤く染まる。

 その光景だけを見るならば、完全にアウトだった。

 

(これ…気持ちいい……マッサージ…凄く気持ちいい……)

 

 徐々に頭の中が真っ白になり、瞼が急激に重くなる。

 シーツを握っていた手からも力が抜けていった。

 

「大丈夫ですよ、お客様。眠くなったのであれば、ご遠慮なくお眠りください」

「はい……」

 

 店員の言葉に甘える形で、葉月が自らの意志で意識を手放した。

 

(強制…休眠モード…開…始……)

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「お客さま……お客様。起きてください。施術は終了しました」

「んん……?」

 

 店員に起こされる形で、葉月は瞼を擦りながら体を起こす。

 それだけの事で、彼女は自分の身体に起きた変化にすぐ気が付いた。

 

「え……?」

 

 まず、頭の中が恐ろしくスッキリとしていた。

 マッサージを受けながら寝る事で、短時間ながらもたっぷりと熟睡出来たのだ。

 

「体が…物凄く軽い…?」

 

 全身からこれまでに溜りに溜まった疲労が根こそぎ消え、まるで葉月の体に羽でも生えたかのように軽くなっていた。

 試しに何も無い空間にパンチをしてみると、何かを弾くかのような『パン!』という音が鳴る。

 

「いかがですか? すっかり良くなったでしょう?」

「はい…これは本当に凄いです…!」

 

 今ならば、ペイルライダーを使わずとも権利団体の連中を一掃出来そうなぐらいに回復していた。

 正直、ここまで効果があるとは思わなかったので、純粋に感嘆の言葉を漏らす。

 

「感動しました…。まるで、生まれ変わったかのようです」

「お喜び頂いたようでなによりです」

「ありがとうございました。マッサージに対する認識を改めてしまいますね…」

 

 何度も自分の手を握ったり開いたりをして、無意識の内に満足そうに微笑んだ。

 

「セシリアの方も、もう既に終わっているのですか?」

「はい。お嬢様は数分前に施術が終了して、今はロビーにてお客さまをお待ちしています」

「そうですか。余り待たせてはいけませんね。すぐに着替えます」

「畏まりました」

 

 店員の女性が部屋を出るのを確認してから、葉月は着替える事に。

 因みに、今の葉月が着ている服は、メイド達の一人が渡してきたフリルが付いた薄いピンクのワンピース。

 ヒラヒラした服はあまり着慣れていないのだが、これもまた今後の為の経験だと割り切って着用していた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

 着替えてからロビーに向かうと、ベンチに座っていたセシリアが立ち上がってから、こちらへと近づいてきた。

 

「ハヅキさん…とてもいいお顔をしていますわ。どうやら、私の予想通りに疲れが相当に溜まっていたようですわね?」

「そうだったようです。面目ありません……体調管理はちゃんとしていたつもりなのですが……」

「仕方ありませんわ。疲労というものは、自分が意識していない所でも蓄積していくもの。だからこそ、このような場所が必要なのですわ」

「そうですね。セシリアのお蔭で、また新しい発見がありました。ありがとうございます」

「大切な友人の為ですもの。これぐらいは当然ですわ」

 

 などと優雅に返しているが、その心の中では……。

 

(キャ―――ッ! 優しげに微笑むハヅキさん…素敵ですわ――――! しかも、またお礼を言われて…感無量ですわ……)

 

 完全に貴族らしさが消えて興奮しまくっていた。

 もしも、このまま屋敷に直帰でもしたら、自分の部屋のベッドの上でゴロゴロしながら悶絶していた事だろう。

 

「さて…疲労が取れた所で、まだまだ色んな所に行きますわよ?」

「まだ行くのですか?」

「当たり前ですわ! ハヅキさんには、女の子同士の買い物というものを徹底的に教えて差し上げますわ!」

「……了解しました」

 

 女の子同士云々以前に、葉月はこれまでに買い物なんて殆どしたことが無い。

 彼女の所有物は、その全てが軍からの支給品だったから。

 

「さぁ…行きますわよ!」

 

 こうして、セシリアと葉月の街散歩はまだまだ続くのであった。

 

 屋敷に帰ってからチェルシーに『ハヅキさまとのデートは楽しかったですか?』と尋ねられて赤面していたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




出会いがあれば別れもある。
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