INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~ 作:とんこつラーメン
The girl goes to the battlefield again
ドイツ国内某所。
グレイヴは自分のパソコンと睨み合いをしながら何かをブツブツと呟きながら考え事をしていた。
「矢張り、奴等の元へ潜入させ、そのまま内部から崩壊させるのがいいか…? 今の奴ならば、潜入だけでなく街中に紛れ込んでの調査も可能だしな…。人間性が増えた事で作戦の幅が広がるとは皮肉な事だな……」
これから先の葉月の運用方法について色々と検討しているようだが、まだ上手い具合には纏まらないようだ。
机の中から葉巻を出して、それを加えてから愛用のジッポライターで火を着けようとした時、いきなりグレイヴは自分の口を押えてから大きく咳き込んだ。
「ゴホッ! ゴホッ! おのれ…!」
口を押さえた自分の手を見てみると、そこには血が付着していた。
傍にあったティッシュでそれを拭うと、ごみ箱へと捨てた。
「何も知らない少女を復讐の道具にしている罰とでもいうか…。それに関しては一向に構わんさ。その程度の罰ならば喜んで受けてやる。だが、私もタダでは死なんぞ…! 必ずや、奴等も地獄への道連れにしてくれる…!」
拳を握りしめ決意を新たにするグレイヴ。
その顔からは、並々ならぬ執念を感じ取れた。
そんな彼の元に、突如として部下から通信が入ってきた。
『グ…グレイヴ少将! 大変です!!』
「そんなにも慌てて一体どうした?」
『つい先程、フランスの権利団体の動向を探っていた者達から緊急連絡がありました!』
「内容は?」
『それが、あのデュノア社が……』
報告を聞いて行くうちに、普段は滅多に表情を崩す事のないグレイヴが顔面蒼白になっていく。
「な…なんだとっ!? それは本当かッ!?」
『間違いありません!』
「なんということだ…! あの蛆虫共が……!」
悔しそうに歯を食いしばりながら、グレイヴは何処かへと通信を繋げようとする。
その相手は勿論、『彼女』しかいなかった。
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・
葉月がイギリスから帰国してから数日。
基地内はいつもの日常を完全に取り戻していた。
「そこ! 反応が遅いぞ! 何をやっている!」
「すみません!」
「お前はもっと、足を踏ん張ってから力を入れるんだ! 幾らISが空中浮遊できるからといって、地上戦が無いという訳ではないんだぞ!」
「は…はい!」
基地の敷地内にある訓練場では、今日も千冬の声と隊員達が訓練している姿があった。
その近くには、いつでもサポートに入れるように葉月が控えているのだが、今の彼女は今までとは全く格好が違っていた。
「……あ~…葉月?」
「どうしました? 織斑教官」
「お前がイギリスから戻ってきてずっと、いつ言おうか迷っていたんだが…今日こそは言わせて貰おう」
「何をですか?」
「…………どうしてメイド服なんて着てるんだ?」
そう。今の葉月が着ているのは、クラリッサから貰った正真正銘のメイド服。
コスプレ用などではなく、本職の人間が着用する物である。
「イギリスにてお世話になった人物に頂きまして。その方も非常に立派なメイドで、私などが同じ服を着るのが烏滸がましいのは承知しているのですが、私自身もドイツという国に仕えるメイドのような存在でないのかと考えた結果、私なりに国家への忠誠を誓う証として、このメイド服を着用している次第です」
「そ…そうか……」
要は、自分なりの愛国心を示す為にメイド服を着ていると。
一体何をどう解釈すれば、そんなぶっ飛んだ発想に行きつくのだろうか?
基地内の全員が全く同じ感想を抱いたのだが、誰一人としてそれを言う者はいなかった。
その理由は単純明快で、メイド服を着た葉月の格好が余りにも似合いすぎていたから。
何より、本人の顔が真剣そのものなので誰も無粋な事なんてしなくはなかったのだ。
「ま…まぁ…よく似合っているのだから、いいんじゃないか?」
「ありがとうございます」
表面上はポーカーフェイスを装っている千冬であったが、その心の中は全く違っていた。
(メイド服を着た葉月…可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い♡)
完全に一撃ノックアウトになっていた。
この場に千冬と葉月の二人きりだったら、一体どんな凶行に走っていたか分らない。
千冬ですらここまでやられているのだから、ハーゼ隊…特にクラリッサ辺りが一体どうなっているのかは…お察しの通りである。
「メイド服を着たハヅキたん! 可愛過ぎて興奮する――――――!!!」
「うわぁ…クラリッサお姉さま、両方の鼻の穴にティッシュを詰め込んだままの状態でよくグラウンドを全力疾走とか出来るよね…」
「ああでもしてないと、鼻血が出ちゃうんだって」
「なんで?」
「本人も言ってるじゃない。葉月ちゃんのメイド服が可愛いからだって」
「確かに、同じ女の私達でも羨むレベルの可愛さだけど……」
小休止をしながら日陰で水分補給をしている二人の隊員が話している最中、ギリギリの所でなんとか理性を保っているクラリッサにトドメを刺す光景が目の前に現れる。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「お疲れ様です、ボーデヴィッヒ少尉。水分とタオルです」
「あぁ…すまないな」
「どういたしまして」
メイド服を着た葉月が、ラウラにタオルとドリンクを手渡す。
あの模擬選以降、すっかり葉月に懐いたラウラを知っている彼女達からすれば、何気ない日常の一ページに過ぎない。
だが、クラリッサだけは全く違うように見えていた。
(こ…これはっ!? ツンデレ美幼女なお嬢様に仕える、無表情ながらも献身的で根は優しい美少女メイド……た…たまらん!!!)
本当は全く違うのだが、クラリッサには葉月とラウラの二人がそんな風に見えていた。
その衝撃は、彼女の鼻に詰まっていたティッシュを鼻血の勢いによってロケットのように噴出させるほど。
「も…もうダメェ~…」
「「「「たいちょーっ!?」」」」
クラリッサ、遂にダウン。
だが、地面に倒れた彼女の顔は何故か満面の笑みを浮かべていた。
「止まるんじゃねぇぞ……」
「お前はどこのオルガだ」
千冬にツッコミを入れられつつ、クラリッサは他の隊員達によって医務室へと直行された。
「ハルフォーフ大尉はどうなさったのですか?」
「さぁな。大方、熱中症にでもなったんだろうさ」
ある意味でいつもの事ではあるので、適当に流してから訓練を再開することに。
葉月も慣れてきてしまったのか、特に気にする様子も無かった。
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約一名を除いた状態での全員揃っての全体休憩。
地面に座って汗を拭いたり、水分を取ったりして各々に自分の身体を癒している。
「織斑教官も水分補給をなさってください。今日は特に暑いですから」
「そうだな…ありがとう。葉月もちゃんと水分補給をしておくんだ」
「承知しました」
二人揃って日陰に移動してからドリンクを飲む。
傍から見ていると姉妹のようにも見えるが、本人達は気にしていないだろう。
…ここにクラリッサがいたら、今度こそ出血多量で緊急入院をしなくてはいけなくなっていたかもしれない。
「ん?」
そんな時だった。いきなり葉月の腕に装着されいるブレスレットが震えだす。
イギリスに行った際にペイルライダーの待機形態として誤魔化す為に身に着けていた物だったが、その後に少しだけ改良が加えられ、通信機能が追加された。
その機能が今、葉月に何かを知らせようとしている。
「どうした?」
「どこからかの通信のようです。出ます」
ブレスレットのボタンを押してから通信を繋ぐと、そこには珍しく焦っている様子のグレイヴの顔があった。
「少将閣下…? いかがなされたので……」
『コード80! 緊急事態だ!! 直ちにフランス、パリ郊外に出撃せよ!!』
「グレイヴ少将? 一体どうしたと言うんだ?」
『ええい! ブリュンヒルデ! 今はお前と話している暇はない! コード80! 復唱せよ!!』
「了解しました。コード80、直ちに出撃します…が、その前に任務の内容を説明して頂けないでしょうか?」
『そんな暇は……いや、これは話しておくべきやもしれんな……』
葉月の言葉で冷静さを取り戻したのか、グレイヴは背凭れに体を預けてから息を吐く。
『時間が無いので手短に説明する。女性権利団体のフランス支部が、あのデュノア社を内部から密かに掌握しようと動いているらしい』
「デュノア社と言えば、量産型ISのシェアが第三位で、あのラファール・リヴァイヴを開発した大会社……」
『そうだ。どうやら、密かに会社内にスパイを送り込み、社長を脅迫して会社の書集権を含めた全権を奪おうとしようとしているらしいのだ』
「なんと……!」
常日頃から無表情である葉月ですら思わず驚愕してしまう。
デュノア社が権利団体の手に落ちる事がどんな意味を持つのかが一発で分かった。
『国の情勢や内情などはこちらが送り込んだエージェントによって把握することが出来るが、会社の内部までは難しいのが現状だ。奴等はそこに付け込んできたのだ…腹立たしいことにな!!』
バンッ!!!
己の激情をぶつけるかのように拳を机に叩きつける。
それでようやく熱が冷めたようで、いつもの冷静なグレイヴに戻った。
『だが、奴らは自分達の勝ちを確信し、ここに来て大きく動いてしまった。情報が不足しているのでまだ詳しい事は不明だが、奴らは何らかの弱みに付け込む事で社長を脅して会社を乗っ取るつもりなのだろう。もしも、そんな事になればどうなるか…分かるな?』
「デュノア社という強大な後ろ盾とスポンサーを手に入れた奴は一気に増長し、戦力と戦火が拡大していく……」
『その通りだ。それだけは絶対に阻止しなくてはならん。一刻も早く権利団体の企みを打ち砕き、デュノア社を奴らの手から解放しなくてはならん』
「了解しました。コード80、必ずや緊急任務を全うしてご覧に入れます」
『よく言った。本当ならば輸送機にて貴様を運ぶところなのだが、今は本当に時間が惜しい。よって、今回の任務では特別に『アレ』の使用を許可する』
「『アレ』とは、まさか……」
『そうだ。我がドイツ軍が開発したIS用の試作兵装……』
『ソロモン・エクスプレスを使ってフランスへと飛び立つのだ!!』
新たなる出会いが彼女を待っている。