INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~ 作:とんこつラーメン
グレイヴからの緊急通信を聞き、葉月だけでなく周りにいた隊員全員の表情が固まった。
かなり大きな声で話していたので、彼女達にも筒抜け状態になっていたのだ。
『向こうにいる工作員からの情報を基に、お前のペイルライダーにこちらから簡易的な地図に加え、社長の位置がすぐに特定できるようにしておいた。予め、万が一の時に備えて密かに彼の服に取り付けておいたおいた発信機があったらしいのでな』
「成る程…了解しました」
グレイヴの焦燥した声を聞き、葉月は今までにない程の緊張感を感じながら通信を切ろうとする。
だが、その直前に彼の元に追加の情報が届いたのか、通信越しに返事をしているのが聞こえてきた。
『なに? ふむ…ふむ…そうか。あの蛆虫共が…!』
「いかがなされました?」
『つい今しがた、新たな情報が入った。どうやら、あの蛆虫共は社長の娘を人質に取り、彼女の命と引き替えにデュノア社の所有権などを要求しているようだ』
「なんと古典的な…。聞いているだけで虫唾が走りますね」
『全くだ。よって、コード80よ。現場に到着し次第、すぐに人質を解放、その後に速やかに『害虫』を『駆除』せよ。分かっているとは思うが、これは最優先命令だ』
「了解です。お任せください」
『奴等に対する慈悲の心なんぞ必要ない! 徹底的に叩き潰せ!!』
「はっ!」
最後の激高をしてから通信を切り、葉月はゆっくりと敬礼をしていた手を下げた。
「…ということなので、織斑教官。皆さん。訓練の途中で申し訳ありませんが、今すぐにフランスへと飛ばなくてはいけなくなりました」
「また…私達はお前を見送る事しか出来ないのだな…」
「織斑教官。そう悲しい顔をなされないでください」
「葉月…?」
唇を噛み締めながら、千冬が今の己の無力さを悔やんでいると、いきなり葉月が彼女の手にそっと自分の手を重ねてきた。
「これまでとは違い、今の私には帰ってくる場所と、待っていてくれる人達がいる。たったそれだけの事で、私はどんな過酷な戦場にも飛び立てる。皆さんの存在が、私の心の支えとなってくれているのです」
「葉月……お前は……」
うっすらと、だが優しく微笑んでいる彼女の顔を見て、もう誰一人として葉月の事を『兵器』と呼ぶ者はいない。
友を、仲間を、故郷を愛する少女が…そこにはいた。
「なので…行ってきます」
「あぁ……頑張って来い」
「了解です。織斑教官」
そうして、葉月は出発の準備をする為に基地内にある戦闘機用の滑走路へと足を向けたのだった。
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メイド服の状態のままで滑走路に立ち、空の向こうを鋭い目つきで睨みつける。
胸を押さえ、目を閉じてから何かに祈るようにしてから自分の分身の名を叫んだ。
「来なさい…ペイルライダー!」
青い光に包まれ、一瞬で彼女の体が鋼の装甲に包まれる。
それ自体は何ら不思議な事ではない。これまでにも何度も見てきた光景だ。
「そういえば、あの時グレイヴ少将が言っていた『ソロモン・エクスプレス』とは一体なんなんだ…?」
せめて、彼女の見送りぐらいはしたいという隊員達の強い要望により、滑走路には千冬を初めとした全員が集結していた。
「『ソロモン・エクスプレス』とは、我等がドイツ軍が密かに開発したIS用の
「超級破壊兵器…だと…!?」
ISの機能により千冬たちの声を聞き取った葉月が、彼女達の疑問に答えた。
「一言に『超級破壊兵器』と言っても幾つかの種類が存在していて、今回の私が使用するのは『兵器』というよりは機体全体を覆い尽くすほどの大きさを誇る超大型の追加ブースターとプロペラントタンクです」
投影型ディスプレイを目の前に出し、なんらかの項目的な物の中から上から二番目を選んでからタッチする。
すると、突如としてペイルライダーの周囲に巨大なナニかが出現し、次々と全身に装着されていく。
「ソロモン・エクスプレスtype‐B。完全なる片道切符にはなりますが、理論上これを装着した時の速度は光速の約30%にまで至るとされています」
「光速の…30%だと…!?」
「そ…そんな化け物をドイツ軍が生み出していたなんて……」
千冬とラウラだけでなく、全員が信じられないような顔でソレを見る。
ペイルライダーの腰から下の全てを完全に覆い尽くすほどに巨大なブースターポッドと、それに付随するかのように装着されている細長い形のプロペラントタンクが二基。
更には、肩部からバックパックも覆い尽くす巨大さを誇る超大型のブースターが二基あり、その周囲には小さなブースターが軽く見るだけでも20基以上はあった。
「勿論、こんな化け物をISに装着して使用するのですから、当たり前のように警告文が出ます」
「だろうな…。しかし、こんなものを最大出力で使えば、ISの方が持たないのではないか?」
「一応、使用時には全てのシールドバリアーを前方に局所展開をして機体を護る事になっているのですが……」
「何か問題があるのか?」
「…正直、それでもIS自体に掛かる負担は相当な事になると思っています。これを実際に使うのはこれが初めてなので、何とも言えませんが……」
それもそうだ。
そもそもの話、こんな代物を使うような機会自体が一生に一度あるかないかだろう。
「皆さん、もっと離れた方がよろしいかと。それから、私がブースターに点火する直前に耳を塞いでください。そのままだと確実に鼓膜が破れますから」
葉月の忠告を受け、急いで全員が遠く端の方まで行き両手で耳を塞いだ。
それを見てから頷き、葉月は斜め上を…空の向こうを仰ぎ見る。
「では…カウントダウンを開始します」
ブースターの中に僅かな火が灯り、それが徐々に大きくなる。
「10…9…8…」
宙に浮き、最終調整に入る。
発進したが最後、細かな調整は絶対に不可能だからだ。
文字通り、僅かなミスが命取りになる。
「7…6…5…4…」
唾を飲み、拳を握りしめる。
頭の中で自分の任務の再確認をする。
「3…2…1……」
全てのブースターが大爆発をしたかのような爆音を放ち、巨大な火を吐き出す。
「0! ソロモン・エクスプレス…テイクオフ!!」
この場の空気が大きく震え、その衝撃だけで吹き飛ばされそうになる。
それに必死に耐え、千冬達は葉月が飛び立つ瞬間を見届けた。
(負けるなよ…葉月…!)
一瞬で空の彼方まで消えた葉月を見ながら、心の中で彼女の武運と身を案じた千冬だった。
葉月が飛び去った後には、焼き焦げたかのような巨大な黒い跡が残されていた。
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「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!」
全身の骨が粉々に砕け、何もかもが押し潰されそうな感覚に襲われながら、葉月とペイルライダーは必死に凄まじい衝撃に耐えていた。
一瞬でも気を抜けば、途端に機体も自分もバラバラになる。
機体内にある全てのエネルギーを自身を守る為に展開しているが、それでも圧倒的なまでのプレッシャーが彼女に襲い掛かった。
(なんという衝撃…! 予想はしていたけど…まさかここまでだなんて…!)
全身強化された葉月の体であっても、とてつもない負荷が掛かっている。
もしもこれが何の強化も訓練もされていない人間だったならば、一瞬で原形すらも残さずに消し飛んでいた事だろう。
(けど…このままの速度を維持できれば……10分程度でフランスに辿り着ける筈…! 本当はもっと急ぎたいけど…そうすればそれこそ私もペイルライダーもバラバラになる! ブースターも耐えられないだろうし…!)
短い間に何度も何度も意識が飛びそうになるが、その度に自分自身に喝を入れて耐え抜く。
己に課せられた任務を全うする為に。
帰るべき場所へと帰る為に。
そして、守るべき者達を守る為に。
(私は…負けない!! 意地でもフランスへと到達し…任務を遂行する!!)
ペイルライダーも、自分の身体もさっきからずっと悲鳴を上げ続けている。
だが、それがどうした。それがなんだ。
そんなもの、自分の障害には成り得ない。
(お願い…耐えて……ペイルライダー!! 私を…私を導いて!!)
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フランス パリ郊外
とある廃工場にて、一組の夫婦が焦った様子でアタッシュケースを持ち、スーツを着た女達と対峙していた。
「アルベール・デュノア…ちゃんと持ってきたんでしょうね?」
「あぁ……お前達に会社の全権を委任する書状と身代金だ…!」
「これでいいしょ!? 早くあの子を返して!!」
「いいわ……」
リーダー格と思わしき女が部下に視線を向けると、その女が奥から別の女を呼んできた。
その女の腕には、猿轡をされている金髪の少女が拘束されている。
「シャ…シャルロット!!」
「んー! んー!」
「おっと。そう焦らないの。まずはそれを渡してからよ」
「…私がこれを渡すと同時に、シャルロットを離してくれ…!」
「お前如きにそんな事を言う権利があると本気で思っているの? アルベール社長?」
「くっ…!」
この場でのイニシアチブは完全に向こうが握っている。
娘を人質に取られている以上、彼は奴らの言いなりになるしかなかった。
「にしても、愛人の娘なんかに、どうしてそこまでご執心なのかしらね? 全く持って理解出来ないわ」
「例え血が繋がっていなくても、シャルロットは私の大切な親友の忘れ形見…私にとってかけがえのない娘なのよ!!」
「夫が夫なら、妻も妻って事ね。女の身でありながら、なんて情けない……」
溜息を吐きながら、呆れ顔で首を横に振る。
侮辱的な事をどれだけ言われても、何も言い返せない自分が腹立たしい。
「ほら。とっととソレを渡して頂戴な。大事な大事な娘が傷物になってもいいの?」
「や…やめてくれ! 渡す…渡すから!!」
社員の生活と娘の命。
どっちも大切で、どっちも譲れない。
だが、社員たちは自分達が碌な目に遭わないと分かった上でアルベールに言った。
どうか、娘さんを助けてあげてください…と。
彼らの勇気と決意を無駄にしない為にも、必ずや娘であるシャルロット救出しなくては!
リーダー格の女が前に出て、アルベールもそれに合わせて前に出る。
手に持ったアタッシュケースを前に出して彼女に手渡そうとした…その時だった。
「な…なんだっ!?」
「これはっ!?」
突如、天井の一部が破壊されてそこから何かが落ちてくる。
赤熱化した巨大なブースターのような物で、所々が破損していた。
専門家であるアルベールには、すぐにそれが何なのか理解出来た。
「アルベール社長。そのような輩に大切な会社を渡す必要はありませんよ」
天井に開いた大きな穴から、今度はメイド服を着た少女が落下してくる。
落下の勢いを少しでも和らげる為に体を丸めながら回転させながら現れ、両者の真ん中付近に見事に着地。
「お待たせしました。アルベール・デュノア社長。ロゼッタ・デュノア社長夫人」
「き…君は一体……?」
「私は、どこにでもいる通りすがりのメイドです。ある方の命により、デュノア社とあなた方の娘さん、両方を救う為に参上いたしました」
少女は女達の方を向いてから鋭い目つきで睨み付け、夫婦を護るようにしながら構えた。
「これ以上、お前達の好きにはさせない」
「なんですって…!?」
「覚悟しろ。これより……」
指を動かし、骨を鳴らす。
たったそれだけの事で、女達は少女から放たれる殺気に恐れ戦いた。
「害虫駆除を開始する」
愚か者たちに破滅あれ。