INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~ 作:とんこつラーメン
葉月が天井から突入する少し前…。
「パリ上空に突入…! 少将閣下の方で私がフランスの領空に入る事は許可が出ている筈……」
ブースターの燃料が徐々に無くなり始め、速度が一気に激減していく。
通常の航行速度にすら劣るほどになってから、葉月はセンサーを起動させてから社長たちの居場所を確認する。
「現在地がここで…反応が出ているのがここ……目の鼻の先か…」
思ったよりも目的地へと接近していた事を望外の幸運と捉えながらも、さっきからひっきりなしに鳴り続けているアラームに目を向ける。
「稼働率84%に低下……損傷率89%……仕方がなかったとはいえ…無理をさせ過ぎましたか……」
どれだけ強固にバリアーを張っていても、襲い来る衝撃には耐えられなかったようで、先程からずっと機体各部から火花が散っている。
肉体の方には損傷はないが、衝撃から来る疲労が尋常ではない。
まるで、フルマラソンを最初から最後まで全力疾走したかのような疲労感が葉月の全身を覆い尽くしていた。
今にも気を失いそうな程だが、装甲の下で必死に歯を食いしばって意識を保ち続けている。
(あれは……)
眼前にはセンサーが示している目的地…廃工場が見えた。
その周囲にはドイツから派遣されてきている軍の同志達が隠れ潜んでいるのが確認でいる。
どうやら、隙を見つけて突入をしようといるようだが、相手は女性権利団体。
変に刺激をすれば何をするか本当に分からない、暴走寸前の機械のような連中。
最悪の場合ISを持ち出してくる可能性もあるので、先程からずっと攻めあぐねているのだ。
(矢張り…私が突破口を開くしかないか…!)
だが、問題はどうやって突入するかだ。
バカ正直に地上に降りてから廃工場に入って行くのは論外として、ここは奇襲が一番いいだろう。
(全身オーバーホール確定のペイルライダーで突撃するのは単なる自殺行為…ならば……)
ハイパーセンサーで機体全体を覆い尽くしている超大型ブースターの状態を目で確認する。
本体と同様に火花が散り、所々から煙も出てきている。
誰がどう見ても、もう使い物にはならない。
このままスクラップ工場へ一直線だろう。
だが、これはこれでそれなりの質量がある。
どうせ粗大ゴミになるのならば、最後に役に立ってもらうとしよう。
「…全ブースター強制パージ。同時に、ペイルライダーも解除」
廃工場の真上に到達した所で全身に装着されていたブースターを外してから、そのまま落下させる。
すると、脆くなっていた工場の屋根に直撃し、そのまま貫通していった。
センサーが正確ならば、パージした要救出者は双方揃って端に方にいたから大丈夫なはずだ。
「ご苦労様…ペイルライダー。ここからは……」
葉月の体を守っていた青い装甲が量子化し消えていく。
空中に残されたのは、メイド服を着た彼女だけ。
「私の仕事です」
こうして、少女は倒すべき敵と救うべき相手がいる場所へと空から突入したのであった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「御無事でしたか? お二方」
「あ…あぁ……」
「貴女は一体……」
いきなり天井をぶち抜いてから現れたメイド服の少女に対して疑問を抱くのは、ある意味では当然の事だった。
「第4の騎士…と言えばお分かり頂けますか?」
「その名は…まさか、君がそうだと言うのか……!」
量産型ISの製造を担っている会社の社長なんてやっていれば、当然のように裏の情報も彼の耳には入ってくる。
世界各地で猛威を振るっている『青い死神』の存在などは、その最たるものだった。
「…あの拘束されている少女が、ご夫婦のご息女ですか?」
「えぇ…私達の大切な娘よ…!」
「……了解しました」
ロベルタの涙声を聞き、葉月は瞬時に己がまず最初にやるべき事を導き出す。
念の為に、ペイルライダーを解除して落下する直前に拡張領域内から彼女専用の薬物を投与しているので、無理矢理に近い形ではあるが通常時とほぼ同じように動くことは出来る。
「な…なんなのよアンタは!」
「さっきも言ったでしょう。害虫駆除をしに来たと。けど、その前に……」
目だけを動かして、葉月は捉われている少女『シャルロット』と視線を合わせる。
すると、彼女も葉月が何を言おうとしているのか理解出来たようで、先程までの弱々しい表情から一変し、力強く頷いてくれた。
それを見た葉月もまた、同じように力強く頷く。
「ち…近づくんじゃないわよ! この小娘がどうなってもいいのッ!?」
シャルロットを捕まえている女が拳銃を取り出して彼女に眉間に突き付ける。
典型的な悪党のお手本のような事をする女に溜息を吐きつつ全身に力を込めた。
「舐めているのか? 言っておくが、お前がその引き金を引くよりも早く……」
地面を思い切り蹴ったかと思ったら、次の瞬間には葉月の姿は無く、女とシャルロットの目の前にまで移動していた。
「私は貴様をぶん殴る事が出来る」
「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!!?」
気が付いた時にはもう、葉月の拳が女の顔面にめり込んでいて、引き金を引く暇すら与えられずに辺りに散らばっていた廃材などを巻き込みながら廃工場の壁に激突した。
「ついでに言わせて貰えば、安全装置を外していない拳銃なんて脅しの道具にすらなりませんよ?」
足元に落ちた拳銃を拾いながらそう呟いた。
因みに、女が落とした拳銃は『PAMAS9ミリメートルG1』で、嘗ては国家憲兵隊が、現在では空軍や陸軍、フランス海軍で正式採用されたモデルである。
「一体どこで調達したのやら……」
完全な宝の持ち腐れだなと思いつつも、ちょっとだけ欲しくなった葉月はそのままメイド服のポケットの中へと仕舞い込んだ。
「大丈夫でしたか?」
「う…うん。助けてくれてありがとう…」
「一先ずは…ですけどね。まだ安心するのは早計です。捕まってください」
「ちょ…えぇっ!?」
シャルロットに付けられていた猿轡を外してから無事を確認すると、彼女の体を横抱きにしてから大きく跳躍し、デュノア夫妻のいる場所まで一気に移動した。
「お二方。無事にご息女の救出に成功しました。外で私の同志達が待機しているので、彼らに保護して貰って下さい」
「ありがとう! だが、君はどうする気だっ!?」
「決まっています。私に与えられた任務は、あなた方を救出する事。そして……」
あっという間の逆転劇に呆然としている女達を一瞥し、拳を握りしめてから構える。
「奴らの駆除です」
「「「…………」」」
初対面のデュノア家の人々ではあったが、それでも分かってしまう。
彼女は確固たる信念を持ってこの場に立っているのだと。
自分達の言葉程度では彼女の決意は微塵も揺るがせられない事も。
本当は、この場で家族三人抱き合って喜びを分かち合いたいが、自分の娘と同い年ぐらいの少女が体を張って戦おうとしているのを見せられ、三人はグッと堪えた。
「よ…よくも……よくもやってくれやがったな!! このクソガキが!!!」
リーダー格の女が急に血管を浮き上がらせながら激高し、先程までの余裕は微塵も無くしていた。
無駄に高いそのプライドが、その怒りを更に加速させていく。
「おい!! ISを使うぞ!!」
「は…はい!!」
(矢張り、ISを所持していたか!)
想定はしてたこととはいえ、当たってしまうと余り良い気分ではない。
だからと言って泣き言なんて言ってられないのだが。
生身でISを打倒する術ぐらいは葉月だって習得している。
問題があるとすれば、今の状態でそれが可能かどうかだ。
「アハハハハハハハハハハハハハ! お前達も、そこの小娘も逃がすもんかよ!! この場で揃って仲良くぶち殺してやる!!」
リーダー格の女と、その取り巻くの一人である女は予め待機形態にしておいたと思われるラファールを装着し、派手に高笑いをしている。
恐らく、これが彼女の素なのだろう。
「よもや…自社のISが己に牙を剥く日が来ようとはな…!」
「あなた……」
「お父さん……」
万事休すか。
流石の彼女もIS相手では勝ち目がない。
普通ならばそう思うだろうが、生憎と葉月は『普通』ではない。
それに、相手がISを纏った程度で負けを認めるような教育も調整も受けた覚えはない。
「へぇ…まだやる気? 状況分かってる? こっちはISを身に着けてるのよ? その気になればアンタなんてすぐに……」
「ピーピー鳴いてる暇があるなら、とっとと掛かってきたらどうですか?」
「このガキ…! 死んであの世で後悔しやがれ!!」
拡張領域からライフルを取り出して葉月に銃口を向ける。
このままでは近くにいるデュノア家の三人にも被害が出てしまう。
ここは、どれだけ傷ついても自分が盾になるしかない。
両手をクロスさせてから防御の体勢を取り、今から襲い来るであろう激痛に耐える為に歯を食いしばる…が、それは再びこの場に落下してきた『ソレ』によって無駄に終わった。
「「…え?」」
女達と葉月たちを別つかのように、両者の真ん中に落ちてきた巨大な物体。
それは『ニンジン』だった。巨大で機械仕掛けのニンジン。
装甲表面にはデフォルメされたウサギのマークが描かれていた。
「こ…これは…?」
完全に予想外の事に流石の葉月も口を開けたまま呆けてしまった。
一体これは何なのか。誰がこんな事をしたのか。
それらは全く分らないが、これだけは言える。
(これで、この三人を逃がす隙が出来た!)
このチャンスを活かさない手は無い。
すぐさま葉月は後ろで同じように呆けている三人に向けて叫んだ。
「皆さん!! 急いで工場から脱出してください! 早く!!」
「わ…分かった!! ロベルタ! シャルロット! 行くぞ!」
「で…でも、あの子が!!」
「彼女の決意を無駄にするな!!」
「………うん」
シャルロットは恩人である葉月を置いていくことに抵抗したが、アルベールの叱咤により渋々受け入れた。
父と養母に手を引かれながら走るシャルロットは、後ろを振り返りながら葉月の背中を最後まで見つめていた。
(お願い…死なないで……!)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
走り去る三人を見て、ホッと胸を撫で下ろす葉月。
上空から見た感じでも、周囲には奴らの仲間はいなかった。
いつも通り慢心をした結果だろうが、今回ばかりはその慢心に感謝をする。
「これで、心置きなく……ん?」
改めて戦闘態勢に移行しようとしたら、落下してきた機械仕掛けのニンジンが煙を吐き出しながら静かに開いていく。
その中にあったモノ、それは……。
「I…S…? これは…打鉄…?」
全身が紫にカラーリングされた、日本製量産型第二世代IS『打鉄』のように見えたが、色んな場所が葉月の知っている打鉄とは違っていた。
肩付近にある盾には鋭く尖ったスパイクが増設されて攻撃能力を得ていたし、腕部装甲にもスパイク付きの増加装甲が設置され、見るからに重装甲となっている。
だが、全身の増加されたブースターによって機動力は低下するどころか向上しているようだ。
そして、最も特徴的なのは全身に渡って装備されているダガーの存在だった。
「頭に…名前が……?」
葉月の中にあるISコアを通じて、彼女の頭の中に改造打鉄の名前が流れ込んでくる。
それは決して不快な感じではない。寧ろ、どこか懐かしささえ覚える。
「イフリート……シュナイド……?」
名前を呟いた途端、葉月は全てを悟った。
このISは、己と共に戦う為にここにやって来たのだと。
「いいでしょう……どこの誰がこれを製造し、ここまで送り届けたのかの考察は後に回します。それよりもまず、私にはやるべき事がある」
薄れ掛かっていた意識が急にクリアになり、葉月は目の前に鎮座している新たな相棒に向かって全力で叫んだ!
「私と共に戦え!!
葉月の叫びに呼応するかのようにイフリート・シュナイドは眩く光を放ち、量子化の後に彼女の体の周囲を覆い尽くしていく。
(あぁ…こうして体に触れる事でハッキリと分かる。これは、
両腕、両足、体が次々と装甲に覆われていく。
ペイルライダーを装備する時とはまた違う。
これが『ISを纏う』という感覚。
着ていたメイド服はペイルライダーの拡張領域へと収納され、ISスーツ姿になってイフリートを身に纏う。
自分でも驚くほどに違和感が無くしっくりと来ている。
パーツの一つ一つ、細かな調整に至るまで全て葉月が搭乗する事を前提としているかのような作りだった。
「これなら…いける!」
葉月の目に再び火が灯った。
さぁ…反撃の時間だ。
焼き尽くせ、その炎で。