INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~ 作:とんこつラーメン
どこからか突如として送られてきた謎のIS『イフリート・シュナイド』を身に纏い、一気に形勢は逆転した。
何も知らない者達からしたら、これでようやく互角になったかと思われるだろうが、実際には全く違う。
相手は力に溺れて碌な訓練もしてこなかった強欲の化身。
片やこちらは、奴らを倒す為だけに身も心も徹底的に改造し、鍛え上げてきた歴戦の猛者。
何から何までが余りにも違い過ぎた。
「ふ…ふん! 誰が送ってきたかは知らないけれど、ISを手に入れたぐらいでいい気になるんじゃないわよ! 寧ろ、あんたをここで叩きのめしてから、それを頂いてやるわ!」
「……………」
女の言っている事を無視し、葉月はゆっくりを手を動かして軽く具合を確認した後に、機体各所に装着してあるダガーを手に取り、ポンポンと投げナイフの要領で扱っていく。
(この感じ…恐らくは普通のダガーじゃない。刀身を高熱化させて切れ味を向上させているヒート兵器…『ヒートダガー』ってところですか。悪く無いチョイスだ。今回のような屋内では、このような武装の方が真価を発揮しやすい)
本人も意識せずにうっすらと笑みを浮かべてるを見て、女達が無視されたと思い激高する。
「このガキ…無視してんじゃねぇよ!!」
「ぶっ殺してやる!! 糞がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「…………」
女の部下が叫びながら近接ブレードを大きく振りかざしながら突撃してくる。
常人ならば逃げ惑うかもしれないが、生憎と今回の相手は『常人』ではない。
葉月にとって、女の動きは隙だらけで回避するのは非常に容易だった。
だが、普通に避けるだけでは芸が無さすぎる。
「はぁ……」
各部にあるブースターを利用し、その場で全身を回転させるようにしながら攻撃を回避。
そこから更に、いつの間にか両手に逆手で装備していたヒートダガーを起動させ答申を高熱化させ、流れるような動作で背後に周り込み、そのままX字に切り裂いた。
「う…そ…! 避け…ながら…攻撃をするだなんて…!」
「この程度、代表候補生レベルならば誰でも容易に出来ますよ」
葉月の頭の中にあるのは、イギリスで出会った誇り高き貴族の少女。
自分の事を『友人』と言ってくれた彼女ならば、これぐらいは片手間で出来るであろうと確信していた。
「それと、冥土の土産に一つだけご忠告を」
瞬時にダガーを首筋に当て、耳元で冷たく呟く。
「バカの一つ覚えにみたいに叫びながら攻撃するのは、相手に『自分はここにいますよ』と言っているようなもの。ハッキリ言って素人以下の行為です」
「ひ…ひぃぃっ!?」
「そして、こんな場所では刀身の長い武器よりも、このダガーのように取り回し易い武器の方が効果的ですよ? ナイフやダガーのように刀身の短い武器は非常に扱いやすく、子供でも簡単に致命傷を与えられる危険な武器でもある。そう…このように」
すぐ後ろから発せられる絶対零度の殺気に当てられて身動き一つ出来ない女は、全身を恐怖で震わせながら眼前で鈍く光るダガーに映る自分の引き攣っている顔をじっと見ていた。
まるで、背骨に氷柱でも突っ込まれたかのような感覚を覚えながら、自分よりもずっと幼い少女に命を握られている事実が恐ろしい。
「が…はぁっ…!?」
ISのSEは、攻撃を受ける部位によって減少する量が大きく異なる。
人体にとって致命傷となる場所に大きなダメージを受けた場合、大幅にエネルギーが減らされてしまうのだ。
例えば、今回のように超至近距離から首筋を切り裂かれれば、最初の一撃で減っていたSEなんて一発で枯渇する。
「し…しまっ…!」
「では…お別れです」
「がはっ…!」
SEが無くなった事で女のリヴァイヴが強制解除され、生身の状態で放り出される。
そんな隙を葉月が見逃す筈も無く、女の足が地面に付くよりも早くダガーを交差させて頸動脈を一閃。
血飛沫を出しながらベチャリという音と共に冷たいコンクリートの床に伏して強欲に満ちた人生に幕を閉じた。
「た…たった数分で殺された……!?」
「ダメダメですね…。こんな蛆虫を殺すのに一分以上掛けてしまうだなんて…。ここに来るまでに相当に疲弊している証拠ですかね…」
自分の不甲斐無さを情けなく思いながら溜息を吐いている葉月を余所に、リーダー格の女はあっという間に殺されてしまった自分の部下の変わり果てた姿に今まで一度も感じた事のない程の恐怖と戦慄を覚える。
ISがあれば無敵ではないのか。決して死なないのではないのか。
今までずっと信じてきた存在が、一気に情けなく思えてきた。
「幾らISと言えど、SEさえ枯渇させれば単なる鉄の塊。この世に無敵の存在なんて何処にも無いんですよ」
「お…お前は何なのよ…! なんでこんな…!」
「言ったでしょう? 私は単なる通りすがりのメイド。そして、主な仕事はお前のような害虫をこの世から一匹残らず駆除する事だと」
血の付いたダガーを振って地面に飛ばすと、静かに一歩一歩リーダーの女に近づいていく。
「今までは任務の内容上、過剰な攻撃はご法度でしたが、今回はそんな制限は無い。デュノア社とあの家族さえ守る事が出来れば、後はどうなっても構わない」
(か…勝てない…! この小娘には勝てない…! イ…イヤだ! まだ死にたくない! まだ私にはやりたい事が沢山あるんだ!)
絶対的な命の危機に陥り、女は咄嗟に先程までのプライドを捨てることにした。
どんな事があっても、まずは自分の命が最優先。
その後の事は生き残ってから考えればいい。
だが…そんな甘い考えはすぐに覆される事になる。
「ご…ごめんなさい!! 私が悪かった…いや、悪かったです! この通り、ISも解除するから…どうか命だけは許してください!!」
急いでISを解除し、以前に彼女が脅して人生を破滅させた日本人の男がやっていたジャパニーズ・ドゲザを真似して、両手を地面に置いてから頭を必死に擦り付ける。
もうなりふり構っている余裕なんてない。ここで死んだら全てが終わりなのだから。
「いきなり態度を急変させましたね…」
流石の葉月も、こんな事は初めてなので柄にもなく少しだけ困惑する。
今までは命乞いをする前に全員が死んだり、もしくは最後の最後まで無駄にプライドを振りかざして無様に死んでいく者達ばかりだったから。
「なんでしたら、権利団体のフランス支部の場所も吐きますので!」
「仲間を売る…という事ですか?」
「はい!」
土下座をしながら、女は密かに笑みを浮かべる。
どこの所属から知らないが、この少女の狙いが自分達ならば、支部の情報は喉から手が出るほどに欲しい筈。
正直言って、支部にいる奴らを守る義理はないし、自分さえ生き残れば幾らでも再建は可能だ…と本気で思っている。
そんな目論見は往々にして瞬時に瓦解するのがお約束だが。
「そうですね……」
その場で姿勢を低くし、女の顔を覗き込む。
涙を鼻水で汚れ捲り、無様と言うしかない。
「顔を上げてください」
「は…はい!」
やった! これで自分は助かる!
そう思って安堵した瞬間、目の前に突き付けられた銃口に表情が凍りつく。
「残念ですが、お前に情報を割って貰う必要はありません。だって……」
「え……?」
葉月がチラッと視線を動かすと、そこには彼女が先程ぶっ飛ばした、シャルロットを人質に取っていた女の気絶をしている姿が。
「あいつを拷問して口を割らせればいいだけですから」
(すっかり忘れていた!)
完全に盲点だった。
まだ部下の一人は息がある。
つまり、ここでどれだけ自分が命乞いをしても意味が無いという事だった。
「自白剤なりなんなりを使えばすぐですし、ここで無理にお前を生かしておく理由は微塵も無いんですよね」
「や…やめて……お願い…助けて……」
「他人の命乞いには一切耳を貸さないくせに、自分の命乞いは聞いて貰えると思うとか、虫が良すぎると思いません?」
ガシッと髪を掴み逃げられないようにする。
女の精神は死の恐怖の前に完全に破壊され、何度も何度も『助けて』を連呼していた。
「存在価値すらないゴミに掛ける慈悲などありはしない」
「助け……」
最後まで言葉は紡がれず、廃工場内に一発の銃声が鳴る。
女の眉間に銃弾が撃ち込まれ、手を離すとスロー映像のようにゆっくりと倒れる。
その死体からは大量の血が流れ、あっという間に真っ赤な血溜りとなっていく。
「任務…完了」
大きく息を吐き、拳銃を拡張領域に収納してから穴の開いた天井を見上げる。
その顔には明らかな疲労の色が見えた。
直後、銃声を聞きつけたドイツから派遣されてきた部隊が突入してくる。
「こ…これは…!?」
「あの子が…一人でやったのか…!」
「信じられん……」
部隊員達は本気で我が目を疑った。
彼らも葉月の話は予めグレイヴから聞かされてはいたが、それでもここまでの強さを持っているとは思わなかったのだ。
数の不利なんて全く気にしない程の実力。圧倒的と言う他なかった。
「皆さんが少将閣下の仰られていた方々でしょうか?」
「あ…あぁ…そうだが……」
確認を取った葉月は、すぐに敬礼をしてから状況終了の報告をした。
「コード80。無事にデュノア家の人々を救出の後に権利団体の者達を殲滅。うち一人はまだ生かしてありますので、情報を抜き出すのに役立つでしょう。その方法は皆様方にお任せします。私がやってしまうと、間違って殺してしまう可能性があるので」
「そ…そうか。兎に角、よくやったコード80。デュノア家の人達は我々がすぐに保護し、今は車の中で休んで貰っている。一人で残った君の事をとても心配していた。後で会ってやるといい。礼を述べたいと言っていたしな」
「了解しました」
敬礼を解いてからISを解除すると、イフリート・シュナイドは魔獣のような絵が描かれたエンブレムのキーホルダーの形をした待機形態になった。
「マル…コシアス…?」
キーホルダーには、英語で確かに『マルコシアス』と書かれてあった。
だが、特別な意味なんてないだろうと判断した葉月はすぐにそれを、解除した際に再び自分の身体に纏われたメイド服のポケットに仕舞いこんだ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
モニターだけが光源となっている暗い空間にて、頭の上に機械の兎耳を付けた一人の女が頭を抱えながらブツブツと呟いていた。
「分かってる…分かってるよ…。今更…こんな事をしたって何も変わらない…それなのに…どうして私は……」
思い切り歯を食いしばり、目からはずっと涙が流れ続けている。
それは、情けない己に対する涙か。それとも、己の犯した罪に対する涙か。
「情けない…本当に情けない…! いつから、私はこんなにも弱くなっちゃったの……」
握りしめた拳からは、爪が掌の皮を破って血が流れる。
そんな痛みなんて全く気にならないのか、力の込められた拳が開かれる事は無い。
「はは……ちーちゃんのこと…全然言えないじゃないか……」
顔を上げてモニターを見ると、そこにはメイド服を着た黒い髪の少女の姿が映し出されていた。
「ごめんね……本当にゴメンね……葉月ちゃん……」
女の贖罪の言葉は、暗闇の中に虚しく響いた。
血と後悔の果てに、女達は悶え狂う。