INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~ 作:とんこつラーメン
ドイツ本国から派遣されていた部隊の隊長に言われるがままに廃工場を後にした葉月は、その足で真っ直ぐと軍車両が駐車している場所まで向かう。
彼が言っていた『車』がどれかは不明だが、こんな時の彼女は『ちゃんと聞いておけばよかった』なとどは一切考えず、一台ずつ虱潰しに探していけばいいという考えに至る。
迷っていたり後悔している暇があるなら行動すべし。
幼少期からそう教え込まれているこの思想は、彼女にとって数少ない役に立つ教訓となっている。
例え、全身が疲労困憊で今にも倒れてしまいそうになっていても。
「さて…どれでしょうか……あ」
まずは、軍の車両に紛れて明らかに場違いな高級車から調べてみようと近づいてみたら普通にビンゴ。
一発で見つけ出してしまい、彼女にしては珍しくマヌケな声を上げてしまった。
(全員揃って下を向いて、まだ私には気が付いていない様子…ならば)
車の窓を軽くコンコンとノックする。
すると、まずはアルベールが気が付き、その後にロベルタとシャルロットも続いて気付き、急いで車から出てきた。
「き…君! 無事だったのかっ!?」
「勿論です。あの程度の者達に後れを取るような軟な鍛え方はしていませんので」
「本当に良かった……」
「うん…うん……」
アルベールは心から安心した様子で、ロベルタとシャルロットに至っては涙ぐんで葉月の無事を喜んだ。
当人からすれば大したことは無いのだが、余りにも過剰な反応に思わずキョトンとなって固まってしまった。
「あの時は言えなかったが、改めて礼を言わせてくれ。君が来てくれなかったら、私の家族も、デュノア社も、最悪の場合はフランスそのものが危機的状況に陥っていたかもしれない。君は私や家族だけじゃなく、我が社や我が祖国の大恩人だ。本当に…本当にありがとう……今の私には、それしか言うべき言葉が見つからない……」
「あなた……」
「お父さん……」
普段は決して見せないアルベールの涙に、ロベルタとシャルロットもまた同じような気持ちになる。
どれだけ感謝してもしきれない。
命令だったとはいえ、葉月は図らずもフランスという国を救ったも同然の存在となってしまった。
「君こそ正しく…救国の聖女『ジャンヌ・ダルク』の化身だ……」
「そうなると、最終的に私は火刑に処されるのですが……」
「そんな事は絶対にさせん! 私が許さん!」
「そ…そうですか……」
葉月なりの冗談のつもりだったのだが、割と本気で返されてしまった。
「ボクからもお礼を言わせて。本当にありがとう。君が来てくれなかったら、本当に全てがどうなっていたか分からない。天井を突き破って登場するだなんて、まるで映画に出てくるヒーローみたいでカッコよかったよ」
「私はヒーローなんて柄じゃありませんよ」
そう…自分は決して
影ながら社会の害悪となる者を排除する『
もしくは『
その辺りが最も妥当だ。
「そういえば、どこも怪我とかは無い? 見た感じだと平気そうだけど…」
「御心配なく。どれだけ疲労していたとしても、雑魚相手に被弾など有り得ません。寧ろ、良いハンデだったと言えるでしょう」
「そ…そこまで言えるのなら問題なさそうね……」
堂々と言ってのける葉月に対し、ロベルタは若干引き気味。
義娘と同い年の少女がこんな言動をするのだから無理はないが。
「ん?」
ここでペイルライダーの偽待機形態であるブレスレットに通信が来た。
急いで出ると、小さな投影型ディスプレイにグレイヴの顔が映った。
『コード80.応答せよ』
「こちらコード80。グレイヴ少将閣下、先程振りです」
『その様子だと、無事にフランスに辿り着き、任務を果たしたようだな』
「はっ!」
『今は…外にいるのか?』
「はい。近くにはアルベール・デュノア氏と、その奥方と御息女がいらっしゃいます」
「奥方…」
「御息女…」
普段余り言われない単語に、ちょっとだけ頬を赤らめる親子。
そんな事なんて全く気にせずに葉月は報告を続けていく。
「グレイヴ…矢張り、彼女はお前が派遣した者なのか……」
『その通りだ。久し振りだな、アルベール』
「あぁ…まさか、間接的にとはいえお前に助けられるとは思ってもみなかった」
『フフ…友人が危機的状況にあるのだ。助けない理由はあるまい?』
「どの口が言うか…!」
アルベールの顔が映るように移動すると、なにやら因縁があるような会話に葉月も驚きを隠せない。
表情筋はいつも通り、仕事をボイコットしているが。
「彼女が現れた時、私に『第4の騎士』と言った。それは即ち…『あの計画』で生まれた子が彼女ということだと受け取ってもいいのだな?」
『その通りだ。コード80こそ、計画の集大成にして最高傑作。事実、無事にお前達を救出してみせただろう?』
「あぁ…確かにな。だが、お前にだけは絶対に礼は言わん。私達を助けてくれたのは彼女なのだからな」
『ふん。別に貴様から礼を言われたくて助けたわけではない。ただ、現在の情勢でデュノア社が奴らの手に落ちる事だけは絶対に避けたかっただけに過ぎん』
「そうだろうな。お前はそういう男だ」
まるで、互いの手の内が最初から分かっているかのような会話。
明らかにこの二人は知り合い同士だ。
「失礼ですが少将閣下。閣下とアルベール氏はお知り合いなのでしょうか?」
『そうだな。まぁ…古い馴染みという奴だ』
「完全に腐れ縁だがな」
悪態を付いてはいるが、そこに悪感情は無いように思えた。
まるで、友人同士の冗談の言い合いのように聞こえる。
『それよりも、まだお前の口から報告を聞いていない』
「はっ! しかし…ここにはデュノア家の方々もいますが……」
『構わん。そいつらは当事者だ。別に隠すような事はあるまい。寧ろ、知る権利があると言ってもいい』
「了解しました。まずは……」
そこから葉月は事細かに説明を始める。
ソロモン・エクスプレスを使ってフランスまで到着した事。
その結果としてペイルライダーに大きな負担が掛かり、戦闘不能に陥ってしまった事。
相手が案の定、ISを使ってきた時に上空からいきなり謎のISが降って来て、それが自分用のISとして設定されていた事。
そのISを使って権利団体の連中を倒したこと。
敢えて『殺した』という単語を使わなかったのは、デュノア家の者達に気を使ったからなのか。
「…報告は以上です」
『予想はしていたが、ペイルライダーを持ってしてもソロモン・エクスプレスの反動には耐えられなかったか……』
「はい。流石に原形は留めていますが、全身に渡って破損が大きく、このままでは戦闘は愚か、まともに動く事すらままなりません。早急に修復、整備をする必要があります」
ペイルライダーが無ければ、対IS戦において不利になる。
決して生身では勝てないという訳ではなく、その気になれば十分に打倒は可能だ。
その為の訓練もしてきたし、肉体も強化してある。
だが、その場合は『相手の攻撃を全て回避する』ことが大前提となってしまうので、どうしてもペイルライダーがある時のような無茶が出来なくなってしまう。
『そして、謎のIS…か』
「はい。私見ではありますが、あれは間違いなく打鉄の改造機でした」
『纏った時に何か違和感などはあったか?』
「いいえ。それどころか、驚くほどに私に馴染んでいました」
『そうか……』
そこでグレイヴは考え込む。
手で顔半分が隠れてはいるが、その表情には明らかな動揺があった。
『(どういう事だ…? 振って来たコンテナの形状から察するに、十中八九『奴』の仕業だろう。だが、何故にコード80を支援するような真似をする?)』
全く思惑が読めない状況で下手な考察をするのは危ないと判断したのか、すぐに頭を振ってから切り替える。
『取り敢えずは良くやったと言っておく。現場の後始末や残党の一掃などは派遣した部隊に任せておけ。ISさえなければ、奴らなんぞ雑魚にすら劣る。ISコアの総数から考えて、アイツ等が保有していたISはお前が撃破したその二機だけだろうしな。問題はあるまい』
「了解しました。では、私はこのまま帰還という事に…?」
『その件についてだが、今回もまたお前には数日だけフランスに居て貰う事になる』
「と、仰いますと?」
『まず、今回は緊急任務という事もあって、輸送機の準備が出来ていない。その輸送機を合法的に入国させる為に手続きも今からしなくてはいけないしな。そうなると、最低でも1~2日ぐらいは時間が掛かると見ていいだろう』
「なんだかデジャヴを感じるのですが」
『気のせいだ。それよりも、ペイルライダーがそれだけ破損したという事は、お前自身も相当に疲弊しているのではないか?』
「「「え?」」」
グレイヴから指摘され、葉月は初めて目を逸らした。
どれだけ歯を食い縛って耐えていても、グレイヴの目だけは誤魔化せないようだ。
「それは……」
『命令だ。正直に答えろ』
「…了解しました。閣下の御推察の通り、突入する前から全身が悲鳴を上げていました。骨は軋み、眩暈が襲い、気を張っていなければ今にも機能停止してしまいそうな程に」
『矢張りな。では、続いて命令だ。コード80、迎えの準備が整うまで、心身の休息に勤めよ。現状、お前に倒れられては困るのでな』
「了解しました。コード80、命令を受領します」
『結構。それと、アルベール』
「その先は言わなくてもいい。お前の言わんとする事は分かっている」
グレイヴの言葉を手で遮り、葉月の方を見ながらハッキリとした口調で答える。
「帰還準備とやらが整うまで、彼女は我が家に泊める事にしよう。無論、我が社の設備を使って彼女の専用機の修復や整備も行う。彼女の元にやって来たという謎のISの解析もこちらで行おう」
『フッ…話が早くて助かる』
「これぐらいは当たり前だ。家族や会社だけではない。彼女はフランスの未来を救ったに等しい英雄的行為をしてくれたのだぞ? 寧ろ、これではまだまだ足りないとすら思うほどだ」
一人の父として、社長として、国民として、そのいずれにおいても絶大な恩義がある。
そのような相手に対して恩を返さないなんてことは彼としては絶対に有り得なかった。
そしてそれは、妻であるロベルタや娘のシャルロットも同様なようで。
「僅か数日間であっても、彼女の事は全力で持て成すと約束するわ」
「ボクも、この子に恩返しがしたいです」
「…との事だ。その点については安心していい」
『……そうか』
ここで、まさかのドヤ顔。
流石のグレイヴも普通に返事をするしか出来なかった。
『それでは、これで失礼する。次に通信をするのは準備が終わった時だ。それまでは療養して次の任務に備えよ』
「はっ!」
ここで通信が切れ、ロベルタとシャルロットは緊張の糸が切れたように体から力を抜き、アルベールに至ってはずっと眉間に皺を寄せたままだった。
その後、部隊長がやって来てデュノア家の者達に事情を聴きたいと言ってきたのだが、流石に空気を呼んだのか後日で構わないと訂正してきた。
同時に、過酷な任務をやってのけた葉月に向かって敬礼をし、それに葉月も敬礼で応える。
それを見て、アルベールは心が締め付けられるような思いがした。
あんな思いをするのは、もう私一人だけで十分だ。