INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~   作:とんこつラーメン

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容赦はいらない。







A blade that kills the heart

「な…なんなんだよ……」

 

 もう本気で意味が分からない。

 いきなり悪い連中に誘拐されたと思ったら、今度は全く正体が分からない人物が乱入してきた。

 女の言葉を信じるならば、あの人物は一夏を救出しに来たという事になるが…。

 

「このガキがっ!」

「調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

 

 ナイフを持った大柄な男達が外套を被った人物に斬り掛かる。

 左右から挟む込むようにして襲い掛かってくるが、体を捻らせることでそれを器用に回避。

 しゃがんだと同時に右側にいた男の股を潜って背後に周り、そのまま足払い。

 

「ぬあぁっ!?」

 

 ほんの一瞬だけ宙に浮いた隙を狙ってからの回し蹴り。

 確実に腹筋が六つに割れていそうな腹部に直撃し、右側の男が苦しみながらも後ろに向かって吹っ飛ぶ。

 そうなると必然的に、左側にいた男にぶつかって体勢を崩す事になる。

 

「ぐわぁっ!?」

「ぬぉっ!?」

 

 二人が纏まった所に落ちていた鉄パイプを拾いながら突撃。

 近づいてから全力で振り被りながらの跳躍。

 まずは蹴られて飛んでいった方の男の脳天目掛けての一撃。

 

「が…はぁ…!」

 

 一人が倒れてから流れるようにして鉄パイプの向きを変え、下から斬り上げるようにしてぶつかられた方の男の顎に一発お見舞いした。

 

「ごがぁ…っ!?」

 

 明らかに体重差が倍以上あるにも拘らず、男の身体が僅かではあるが床から浮いた。

 そして、二人の男は重なるようにして倒れて白目を向いて気絶した。

 

「…成る程な。その気になれば殺せるのに、そうしないのは…このガキの事を考えてか」

「え?」

 

 ここでまた自分の事が話題に出て、一夏は目を丸くした。

 

「一般人であるコイツの目の前で殺しをしない事で、トラウマを作らないようにしてんだろ。そんだけの力を持ってる癖に随分とお優しいこった」

「……………」

 

 自分の事を考えて、敢えて手加減をしている?

 数の上では圧倒的に不利の筈なのに、そんなことまで考えてくれていたとは。

 増々、自分の事が惨めに思えてくる。

 どこまで色んな人に迷惑を掛ければ気が済むのか。

 

(正直、かなり舐めてたぜ。まさか、ここまでやるとはな…。こいつ等じゃ、このガキには勝てない。全滅は必至か……)

 

 女はともかくとして、仲間の男達はここでようやく自分達の状況に気が付く。

 追い詰められているのは自分達の方だと。

 

「お…おい! 織斑千冬が会場を出て、ドイツの特殊部隊の連中と一緒にこっちに向かっているそうだ!」

「ちっ…! 潮時か!」

 

 本来の計画ならば、ここで一夏だけを残して撤退する手筈になっていた。

 だが、予想外の妨害によって、そう簡単にいかなくなった。

 この状態で背中でも見せたが最後、確実に狙い撃ちされる。

 そうなれば、それこそ本当に全滅してしまう。

 

「しょうがねぇ…こうなったら『プランB』で行く」

「りょ…了解!」

 

 プランB…なんて言ってはいるが、要は女が殿を務め、その隙に他のメンバーが撤退するという単純なものだった。

 

「……!」

「おっと、ここは通行止めだ。先には行かせねぇよ」

 

 すぐに察して急いで後を追おうとすると、女が目の前に立ち塞がってきた。

 こいつは他の奴等とは明らかに違う。

 油断をすれば、食われるのはこっちの方だ。

 

「とっとと行け! あたしも適当に時間を稼いだら撤退する!」

「「「お…おう!」」」

 

 男達は真っ直ぐと前を向いて走り出す。

 結果として、犯人グループの約半数を取り逃がす事になった。

 だが、それは決して重要ではない。

 この場での最優先事項は、あくまでも誘拐された一夏の救出なのだから。

 

「本当はここで使う予定は無かったんだけどよ……こうなっちゃ、しゃーねーよなぁっ!」

「………っ!?」

 

 女の着ている黒いジャケットが内側から大きく膨張して弾けた。

 服の下から出現したのは、蜘蛛の様な姿をした多脚型の巨大なISだった。

 

「まさか、こんな簡単な仕事でISを使う羽目になるとはな…。どんな時も、念には念を入れて然るべきとはよく言ったもんだ。さぁ…どうするよ? まさか、IS相手に生身で立ち向かうとかしないよなぁ?」

「………」

 

 何も喋らない。その必要が無いから。

 相手がISを持ち出してきたとなれば、自分もやる事は一つだけだ。

 

「……」

 

 バックステップで影がある場所まで下がり、自分の姿を隠す。

 そこで初めて、自分の被っている外套を脱ぎ捨てた。

 

「おいおい…ISにはハイパーセンサーがあるんだぜ? そんな物陰に隠れても意味なんて……」

 

 ここで女の言葉が途切れる。

 自分のISが明らかにおかしな反応を示したからだ。

 

「おい…どうなってやがる。なんで…お前の身体からISの(・・・・・・・・・・)反応が出てるんだよ(・・・・・・・・・)!」

「…………」

 

 何も答えない。その義務が無いから。

 漆黒の影の中で、ISの反応だけが強くなっていく。

 そして、その小さな体を青白い光が覆い尽くした。

 

「女…の子…?」

 

 ほんの一瞬だけ垣間見えたのは、一夏と同年代ぐらいの少女で、その顔には何も表情らしい表情が浮かんでいなかった。

 当然、ISを纏っている女にも彼女の顔はバッチリと見えていた。

 

「なんだよ…かなりの美少女じゃねぇか。ちっ……こんな状況じゃなけりゃ、迷わずお持ち帰りしてたのによ。勿体無いぜ」

 

 女の俗っぽい言葉にも反応しない少女の体に、青く鮮やかな装甲が纏われていく。

 それは死の象徴。第四の騎士。冥府からの使者。

 

 暗闇の中で緑色のバイザーだけが怪しく光り、重い音を鳴らしながら影の中から現れる。

 

「は…ははは…まさか…お前がそうだったとはな……『青い死神』!!」

「青い…死神?」

 

 聞いたことの無い単語に目を大きくする一夏。

 当事者たちは、そんな彼を放置して話を進めていく。

 

「随分と世界中で暴れ回ってるみたいじゃねぇか。よぉ…可愛い死神さんよ!」

「………」

「ついこの前、女性権利団体のアメリカ・テキサス支部を壊滅させたのもテメェの仕業だろ?」

「………」

「ふん…別に答えなくてもいいさ。戦えば嫌でも分かる事だしなぁ!!」

 

 女は鋭い刃となっている『蜘蛛の足』を使って斬り付けてきた。

 足は合計で6本もあり、多方向からの同時攻撃は回避するのは非常に困難だ。

 このままではやられる。そう思った一夏は反射的に叫んだ。

 

「危ない!!」

 

 だが、その心配は杞憂だった。

 死神は腰のアタッチメントから棒状の何かを取り出し、それを両手で持ってから光の刃を形成、自分に確実に命中する足だけをピンポイントで斬り裂き、余裕を持って回避に成功した。

 

「…ビームサーベル…まさか、もうそれを実機に搭載してるISがあるとはな…。ビーム兵器を搭載できるって事は、必然的にそれだけ高出力の機体って事になるが……」

 

 その時、場の空気が一気に重くなった。

 まるで、重力が数十倍に増したかのように。

 

「な…なんだ…!?」

「く…苦しい…!?」

 

 死神は普通に立っているだけだ。

 両手に持っているビームサーベルも、だらんと下向きになっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「HADES…起動」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女の透き通った声が聞こえた瞬間、死神…ペイルライダーのバイザーが緑から真紅に染まった。

 それと同時に、機体各部のセンサーも赤に変わる。

 更には、機体全体を赤いオーラのような物が包み込んでいた。

 

「よ…ようやく声を出したと思ったら…なんだよ、そりゃあ……」

 

 そこで女は自分の身体の変化に気が付く。

 さっきまではなんともなかったのに、今は手足が震えて冷や汗も掻いている。

 自分の顔はフェイスガードで覆われているので、汗を拭う事は出来ないが。

 

(こ…このアタシが気圧されている…だとっ!? こんなガキにっ!?)

 

 信じられない。信じたくない。

 だが、少女が目の前で凄まじい殺気を放っている事は紛れもない事実だった。

 

「………!」

「んな…っ!?」

 

 姿を消したかと思ったら、一瞬で懐に入られていた。

 鮮血のように真紅に染まったバイザーに反射する自分の顔が、更なるプレッシャーを与える。

 

 右手を突き出すようにしてビームサーベルで容赦なく急所を狙う。

 反射的に首を曲げる事で、辛うじて避ける事が出来た。

 

(このガキ…! 躊躇いなく顔面を狙ってきやがった! さっきまでの不殺精神とは打って変わっての殺る気満々野郎じゃねぇか! ハデスってのと何か関係があるのかッ!?)

 

 残った蜘蛛の足でペイルライダーを絡め取ろうとするが、もう既に眼前から消えていた。

 

「ど…どこに消えて……はっ!?」

 

 ハイパーセンサーが背後に反応有りと示す。

 急いで振り向くと、其処には既にサーベルで攻撃態勢に入っているペイルライダーがいた。

 

「いつの間にっ!」

 

 動き出す前に残った足を全て斬り刻まれ、スローモーションのようにゆっくりと宙に浮いているように見えた。

 

(あの一瞬で何回の攻撃をしてやがんだ!? 明らかに人間の動きじゃねぇぞ!)

 

 急いで近接用の手持ち武装であるカタールを両手に装備するが、それもまた二つ揃って両断されてしまう。

 

「ち…くしょうが…! ビーム兵器相手に実体剣じゃ分が悪すぎるか!」

 

 完全に近距離戦に持ち込まれた以上、飛び道具は意味が無い。

 逆に、相手に更なる獲物を与えてしまうだけだ。

 

(こいつ…マジで何者なんだっ!? 幾ら耐久性に定評がある全身装甲型のISとはいえ、こんな動きをしてたら間違いなく中の人間はミンチになってんぞ!)

 

 攻撃の速度が早過ぎて目が追いつかない。

 ISのハイパーセンサーを以てしても、辛うじて斬撃の軌跡が分かる程度だった。

 女のISが見る見るうちにボロボロにされていく。

 SEもあと僅か。このままでは本当に殺される。万事休すか。

 そう思っていた、その時。幸運の女神は女に味方をした。

 

「この反応…遂に来やがったか!」

 

 待ってましたと言わんばかりに、各領域内に一個だけ隠し持っていたフラッシュ・グレネードを装備、罅だらけになったバイザーの上から腕で目を覆い、相手の攻撃に合わせて目の前に態と晒した。

 

「!?」

 

 目と鼻の先で閃光弾が炸裂し、一瞬だけだが完全に視界が遮られる。

 ISの場合は操縦者保護機能により目がやられる心配はないが、それでも目暗ましとしての効果は絶大だった。

 

「今だ!!」

 

 逃げるならば、この一瞬を置いて他にはない。

 ボロボロのISを引きずるようにして、今出せる全速力で撤退する。

 

「この借りは絶対に返してやる! 覚えとけよ死神!!」

 

 閃光が消えた時には、もう女の姿は消えてなくなっていた。

 戦闘終了。そう判断して、ペイルライダーのバイザーは元の緑色に戻り、同時にISを解除して床に降り立つ。

 そこで初めて、一夏は少女の顔をまともに見る事が出来た。

 だが、今は先程の恐怖心の方が興味よりも勝ってしまっていた。

 

「……逃がしたか」

 

 少女は細身で、一夏よりもずっと小さい。

 歳の頃は彼と同じぐらいのように見えるが、それでもかなり小柄だった。

 異性の前でISスーツを着ているにも関わらず、全く羞恥心を見せず、悠然と立っていた。

 

「大丈夫でしたか?」

「あ…あぁ……なんとか……」

「それは重畳」

 

 この場自体が暗くて見えにくいが、肌の色や顔は日本人のようで、そのお蔭でさっきまで感じていた恐怖心は僅かではあるが薄らいでいった。

 

「織斑一夏さん…ですね?」

「そ…そうだけど……やっぱり、俺の事を助けに来てくれたのか?」

「はい。どこから来たのか、などは機密により言えませんが」

「そっか……」

 

 近づいて、膝を付いてから顔を覗き込むようにする少女。

 なんだか気恥ずかしくなって目を逸らした。

 

「では、今からあなたの体を縛っている鎖を解く作業に入ります。怪我をするといけないので、可能な限り動かない事を推奨します」

「や…やってみる」

 

 拡張領域から鋸のようなギザギザの刃を持つナイフを取り出し、それで地道に鎖を斬っていくことに。

 

「あの…さ。さっき見せたビームの剣で斬るのじゃダメなのか?」

「非常に高い確率で大火傷をする可能性がありますが、それでもいいのでしたら」

「やっぱりいいです!」

 

 ビーム兵器の恐ろしさを知らないとはいえ、これは流石に恥ずかしい。

 相手が全くの無表情なのも更に追い打ちをかける。

 

 碌な会話も無く、ギコギコという音だけが廃工場内に響く。

 少女の方は気にしてはいないが、かなり気まずくなってきた一夏が耐えかねて何か話をしようとした…その時だった。

 

「一夏!! 無事かっ!?」

「ち…千冬姉ッ!?」

 

 工場の扉を粉々に破壊して、ISを纏った千冬が必死の形相で姿を現した。

 これでもう大丈夫…なのだが、少女は全く気にする様子も無く鎖を斬ることに集中していた。

 

 

 

 

 

 

 

 




原作主人公と物理的な意味でお近づきに。



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