INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~   作:とんこつラーメン

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私に孵りなさい。








Cruel Angel`s Thesis

 デュノア社地下にあるIS専用の施設まで案内され、そこで現在のペイルライダーの状態を確認、修復する為に研究員が葉月に向かって指示を出す。

 

「それじゃあ、まずは君の機体をそこにあるハンガーに固定してくれるかな?」

「了解しました」

 

 淡々と返事をすると、葉月はハンガーに向かって歩き出す。

 それ自体は何も問題は無い。近づかなければ設置は出来ないから。

 問題があるとすれば、彼女がいきなりハンガーの中に入り込んだことだ。

 

「え? ちょ…何をやってるんだっ!?」

「ISを展開する為にこうしているのですが……」

「いや…君は何を言ってるんだ? 待機形態になっているISをそこの装置に設置してくれれば、後は自動的にISが展開される仕組みになってるんだよ」

「それは知っています。ですが、私のISは通常とは少々異なっているので、こうして私自身が入るしかないのです」

「はぁ?」

 

 何を言っているのか全く分からない。

 研究員たちが首をかしげている間にも、葉月は正面を向いてハンガーの固定部に自分の足を置く。

 

「…ハヅキくん。一つだけ聞いてもいいかね?」

「答えられることであれば」

「君は私と初めて会った時に自分の事を『第四の騎士』と言った。それは即ち、君自身が『PR計画』によって生み出された存在…と見ていいのだろうか?」

「…アルベール社長はPR計画の事を御存じなのですか?」

「噂程度にはな。デュノア社のようなISに深く関わる会社を経営していると、否が応でもそういった『黒い噂』を聞く機会が多くなるのさ」

 

 黒い噂。

 たったそれだけの単語を聞いただけで、研究員たちは大抵の事を察した。

 彼らとて伊達にISの研究、開発をしている訳ではない。

 ISの良い部分も悪い部分も人並み以上に知っている。

 

「社長、その『PR計画』ってのはなんなんですか?」

「簡単に言えば、ドイツで進められていた『世代に捉われない採算度外視の超高性能ISを生み出す計画』だ」

「それ、普通にどこにでもありそうなヤツじゃないですか。フランスにだって、その手の計画は山ほどありますよ。実際にしているかは別として」

 

 ISが世界の主流となりつつある現在、世界の各国が少しでも他国よりも高性能なISを生み出そうと躍起になっている。

 その過程で数多くの高性能ISの開発計画が立ち上がり、そして白紙となっている。

 実際のISの数は非常に少ないが、紙の上でのみ生み出されたISならば軽く1万は超える。

 そのどれもが高性能を求めすぎた結果、あっという間に廃案になっていった機体ばかりだが。

 

「ドイツは、お得意の軍事力を駆使して、その計画を実行に移しているんだ」

「よく御存じですね。というか、アルベール社長はグレイヴ少将閣下と何やら親しげな感じでしたが…どこかで交流がおありで?」

「まぁ…な。腐れ縁というやつだ」

「腐れ縁…ですか」

 

 ドイツ軍の高官とフランスの大企業の社長にどんな接点があるというのか。

 基本的に戦う事しか出来ない葉月には全く想像も出来なかった。

 

「とにかく、まずは彼女の専用機を調べてみろ。そうすれば、ドイツが何をやっているのかが一発で分かる」

「分かりましたよ。ハヅキちゃん、もうそのままでも構わないからISを展開してくれ」

「了解しました」

 

 目を瞑り、大きく息を吐いて心を整える。

 心身の疲れも相まって、少しでも気を抜けば眠りに落ちそうになるが、彼らの善意を無駄には出来ないと思い、なんとか頑張って我慢をする。

 

「……ペイルライダー」

 

 自分の分身の名をそっと呟くと、彼女の体が光りを放ちボロボロの装甲で覆われていく。

 一秒も掛からずに破損したペイルライダーが姿を現した。

 

「ワォ……これはまたなんとも……」

「全身装甲のISとは、また珍しい……」

「だな。見ただけでコイツが相当な機体だってのが分かるよ。でも……」

「こいつはヒデェな…。全身の装甲に罅が入りまくってる。すぐにチェックするぞ!」

「「「はい!」」」

 

 すぐに研究員たちが機器の前に座りペイルライダーの解析を始める。

 その顔はあっという間に驚愕に染まることとなるが。

 

「ちょ…おい…なんじゃこりゃ……」

「しゃ…社長! 彼女の…ハヅキちゃんの体内からISコアの反応が出てます! これは一体……」

「…やっぱりそうか」

 

 一番当たって欲しくない想像が当たってしまい、アルベールは悲痛な顔をして俯く。

 それを見た研究員たちは、互いの顔を見合わせていた。

 

「ISと人間の融合……究極の人機一体。それがPR計画の最終到達地点なのだ……」

「ISと人間を……」

「融合させる…?」

「じゃ…じゃあ…この子の体からISコアの反応が検出されてるのは……」

「ハヅキくんの体の中にISコアが埋め込まれているせいだ」

「「「「なっ…!?」」」」

「…………」

 

 研究員たちの顔が一気に青ざめ、アルベールと同様に悲痛な面持ちとなる。

 年端もいかない少女が実験動物同然の扱いをされていれば当然だが。

 

「お前達、今話したのはドイツ軍でも最高軍事機密に該当する事だ。何があっても絶対に口外なんてするなよ? 家族諸共に消されたくなければな」

「わ…分かってますって……」

「俺等だって、ISの闇の部分がどれだけ深いかぐらいは理解してるつもりですよ」

「ハヅキちゃんのお蔭で、その闇が底知れないって改めて知れましたけどね」

「世の中…腐り過ぎだろ……」

 

 ここにいる研究員たちは、イギリスにて会ったカムラと同様に、今の世では珍しい常識人の集まりだったようだ。

 だからこそ葉月の境遇に同情し、同時に全力でなんとかしてあげたいと思う。

 

(このアルベールという人物…どこまで計画の事を知っているのでしょうか……)

 

 普段ならば『場合によっては消す』という選択肢を取っている葉月だが、彼はあのグレイヴの知己であり、グレイヴ自身も彼にならば多少は知られても構わないような口ぶりだった。

 なので、葉月もここは大人しくしておくことにした。

 

「…気を取り直して、ペイルライダーを調べるぞ。俺らの職場を守ってくれたお嬢ちゃんに、少しでも恩返しをする為にな!」

「「「おう!」」」

 

 気合を入れ直した研究員たちは、すぐに詳しい解析を始める。

 解析開始から僅か数秒で、ペイルライダーの痛ましい現状が明らかとなった。

 

「あー…ハヅキちゃん。非常に言い難いんだが……」

「なんですか?」

「君のペイルライダーは全身に渡って多大な負荷が掛かっていて、少しでも機体を動かせば、あっという間に装甲がバラバラになってしまうような状態だ。幸いなことにフレームには罅とかはないようだが、決して無傷という訳じゃない。人間で例えれば、今のペイルライダーは全身の筋肉と皮膚がズタボロになっている状態で、骨に多数の目に見えない程に小さな罅が入っているようなもんだ」

「ある程度の予想はしていましたが…相当ですね……」

 

 ちょっとやそっとの事ではペイルライダーの完全復活は望めそうにない。

 それだけの無茶をやってのけてくれたのだから当然だが。

 

「参考までに聞きたいんだが、一体何をどうしたら、これ程に高性能な機体をスクラップ寸前にまで疲弊させられるんだ?」

「ドイツからフランスまで僅かな時間で到着する為に『ソロモン・エクスプレス』を使用しました」

「ソ…ソロモン・エクスプレスッ!? あのオーバード・ウェポンを使ったのかッ!?」

「正確には攻撃用の武装ではなく、片道切符の移動用のやつですが」

「つーことは、オーバード・ブースターか……」

「理論上、最大出力を出せば大気圏も余裕で突破できるって聞いてるが……」

「あくまで『理論上』の話だ。そもそも、それに耐えられるISがまだこの世に存在していない。異常なまでに時代を先取りし過ぎている超過剰兵装…それが『ソロモン・エクスプレス』だ」

 

 ソロモン・エクスプレスを使ったのであれば、全ての謎が一気に氷解する。

 どうやって葉月が僅かな時間でドイツからフランスに来れたのか。

 ペイルライダーのような高性能なISが、これ程までに破損したのか。

 現代のISの全てが耐えられないような装備を使えば、当然のようにぶっ壊れる。

 子供にだって分かる理論だ。

 

「ウチにある資材だけでどうにかなるかな…?」

「まずは装甲材質とかから調べないといけないしな」

「一言にISと言っても、共通してるのはISコアぐらいだけだしな。今やフレームや装甲一つとっても世界各国千差万別だ。ドイツとフランスで共通している部品が果たしてどれだけある事やら……」

「完全修復が不可能そうであるなら、応急処置だけでしてくれると助かります。後は本国に戻ってから修理しますので」

 

 これは単純に彼らの事を考えて言った台詞であったが、それが却って彼らの研究者としてのプライドを刺激した。

 

「バカ言っちゃいけない! 一般企業所属とはいえ、俺達だってIS研究者の端くれだ! こうして仕事を受け持った以上は最高の結果を出させて貰う!」

「その通り! フランスの技術力ってのをハヅキちゃんにも見せつけてやるぜ!」

「寧ろ、元のスペックよりも性能を上げてみせるさ! なんなら、ウチで試作中の武器もプレゼントするよ! いいですよね社長?」

「当然だ。何度も言っているが、ハヅキ君にはどれだけ恩を返しても返しきれない程の借りがある。我が社で作った製品が少しでも彼女の役に立つのならば本望だ」

 

 自分の迂闊な一言で、なんだか大変なことになって来た。

 別に彼らの実力を疑ってはいなかったが、それでも世話になり過ぎるのは申し訳ないと感じていて、応急処置をしてくれるだけで十分だった。

 なのに、どういう訳か彼らのやる気に火を着けた挙句、いつの間にかデュノア社製の武装も貰う事になってしまった。

 ペイルライダーが強化されるに越したことはないが、それでもここまでされるとは想像もしていなかった。

 葉月は生まれて初めて、本気でどうすればいいのか分からずに困惑していた。

 

(こ…これから私とペイルライダーはどうなってしまうのでしょうか…?)

 

 装甲の下で、葉月の目はグルグル巻きになっていた。

 

 

 

 

 

 

 




口は災いの元(笑)
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