INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~ 作:とんこつラーメン
シャルロットに連れて行かれるままにデュノア家の浴場までやって来た葉月。
彼女が何かをする前に、あれよあれよと着ているメイド服が脱がされていく。
葉月に何の抵抗もさせずに服を脱がせるとは、流石は代表候補生と言うべきか。
「あーれー」
「これでよしっと。よく見たら、所々が汚れてるね。後でちゃんと洗濯をしておかないと」
「いえ…それぐらいならば私がしますので……」
「何言ってるの。ハヅキはお客さんなんだよ? 大丈夫、ちゃんと新品同様に綺麗にして返すから!」
「はぁ……」
シャルロットの圧に負け、なし崩し的にメイド服を洗って貰う事になった。
それ自体は有り難いのだが、問題は葉月の着替えが無い事だった。
その事を説明すると、シャルロットは『自分のお古の服をあげるから大丈夫』と言ってきた。
(このパターン…前にもあったような気が…。これが俗に言うデジャビュと言うやつでしょうか?)
多分、それは気のせいではない。
基本的に自分の意志で買い物をしない葉月にとって、彼女の私物の殆どは誰かからの貰い物だ。
正確には、買い物をしないのではなく、買い物をするという思考に至らないのだが。
流石に金の使い方や買い物の仕方ぐらいは心得ている。
「そういえば、君が着ていたのってコスプレ用とかのじゃなくて、本職のメイドさんが着ている服だよね?」
「はい。以前、仕事でイギリスに行った際に、そこで知り合った友人に頂いたのです」
「メイド服を貰うって…その人もメイドさんなの?」
「御名答です。よく分りましたね」
「う…うん。まぁね…」
葉月は決して冗談は言っておらず、至極真面目に答えている。
傍から見たら、どこか残念な天然少女に見えるだろう。
(最初はカッコいいと思ってたけど…もしかしてハヅキって面白い子?)
その考えは、ある意味では間違ってはいない。
「そ…それじゃ、下着も脱いでから早く入ろうよ! ね?」
「了解しました」
因みに、今日の葉月が着ていたのは水色の縞模様のパンツとブラだった。
選んだのは千冬である。完全に彼女の趣味が出ていた。
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デュノア家の浴場はかなり広く、余裕で10人以上は入れる規模だった。
以前に彼女が入浴したオルコット家の浴場の方と遜色がないレベルだ。
世界に誇る大企業の社長の家は伊達ではない。
「さっきは驚いたよ…まさか、目の前で下着を脱ぎ始めるんだもん…」
「どこかおかしかったでしょうか?」
「おかしいというか…ハヅキは恥ずかしくないの?」
「特には。羞恥心を克服するような訓練も受けていいますので」
「羞恥心を克服する訓練って何さ…」
「お教えしましょうか? まずは……」
「だ…大丈夫! 大丈夫だから! なんか猛烈に聞いちゃいけないような気がする……」
「はぁ……」
ゆったりと湯船に浸かりながら、二人の少女の会話が浴場に響く。
葉月の隣に位置するようにシャルロットが入り、二人仲良く(?)並んで座っていた。
「あの…さ。さっきは本当にありがとう。ボクだけじゃなくて、お父さんやお義母さん…会社まで助けて貰って」
「任務でしたので。それと、お礼を言われるのは本日で四回目です」
「そうだったっけ? それだけハヅキに感謝してるって事だよ」
「感謝…ですか」
任務の特性上、これまで礼なんて述べられたことは殆ど無い。
前回のイギリスの任務の時が初めてだったかもしれない。
この短期間に何度もお礼を言われ、それに対してなんて反応を返せばいいのか、未だに葉月は分かりかねていた。
「よく見たら、ハヅキって細かい傷跡が幾つかあるね。殆ど治りかけて目立たなくなってるけど」
「ふむ…言われて見れば確かに」
「言われてみればッて…今まで知らなかったの?」
「余り気にしたことが無かったので」
「勿体無いなぁ…こんなに綺麗な肌をしてるのに……」
「肌が綺麗……」
髪の次は肌。
他国の少女達と交流するようになって、色んな部分を綺麗と言われるようになった気がする。
無論、葉月本人は微塵も自覚が無いのだが。
「お肌の手入れとかってしてないの?」
「いえ全く。髪の方は最近になって手入れをするようにはなりましたが」
「そうなんだ。ハヅキの髪って綺麗な黒髪だしね」
シャルロットが羨むように、葉月の黒い髪を手櫛で梳いていく。
全く引っかかる事は無く、真っ直ぐに指が進んでいった。
「あれ? ハヅキの胸の所…大きな傷跡が……」
「これは……」
さっき服を脱いだ時には気が付いていなかったのか、胸の中央付近にある消えない傷跡を見られてしまった。
別に見られること自体は一向に構わないのだが、言い訳が面倒くさいのだ。
「…任務で付いた傷です。これだけは深くて完全には治らなかったのです」
「そうなんだ……」
流石に『胸の中に心臓代わりのISコアが入っている』とは言い出せず、咄嗟に誤魔化した。
彼女が『PR計画』の被験体であり完成体であることは極秘中の極秘になっているのだ…表向きは。
実際には、割と多くの人々に知られてしまっている。
「…シャルロットは人質に取られて怖かったですか?」
「いきなりどうしたの?」
「いえ…少し気になったもので」
「そうだね…うん。怖かったよ。一応、候補生として対人用の訓練も受けてはいるんだけど、あの時は体が竦んで動けなかった。あの人達の『狂気』に気圧されちゃったのかな…あはは…」
笑って誤魔化そうとするシャルロットであったが、その体は震えていた。
嫌な事を思い出させてしまったか。
申し訳ないと感じた葉月は、徐に彼女の頭を抱き寄せて優しく撫でた。
「えっと…ハヅキ? いきなりどうしたの?」
「動揺した時や恐怖を感じた時、こうすれば落ち着くと友人に教わったので。どうですか?」
「うん……ありがと」
頬を赤く染めながら、葉月に頭を撫でられ続けるシャルロット。
いつの間にか体の震えは止まり、彼女の体に抱き着いていた。
お互いに裸なので、体の温もりをダイレクトに感じている。
「ハヅキは…優しいね」
「色んな人によく言われますが…そうなのでしょうか」
「優しいよ…とっても……」
湯あたりをしているのか、それともうっとりとしているのか。
シャルロットの表情はほんのりと蕩けて、ドキドキと心臓の鼓動が早くなっている。
(あの時…ハヅキに助けて貰った時、本当に彼女の事が白馬の王子様みたいに見えた…。ボク…どうしちゃったのかな…。ハヅキにこうして抱きしめられてると、すっごく落ち着くし…ずっとこうしていたいって思ってる…。ハヅキと離れたくない……。ハヅキと…一緒にいたい……)
それがどんな類の感情なのか、まだシャルロットには良く分かっていない。
勿論、ハヅキは自分が彼女から特別な感情を向けられているなんて微塵も考えていない。
シャルロットが自分の気持ちの正体に気が付いた時、彼女の前には数多くの強力なライバルが立ち塞がる事だろう。
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風呂から上がった葉月は、髪を乾かした後にロゼッタとシャルロットが作ってくれたフランス料理を馳走になった。
「まさか、こんな形で本場のフランス料理を頂けるとは思いませんでした。ありがとうございます。実に美味でした」
「ふふ…喜んで貰えて何よりだわ。ね? シャルロット」
「う…うん! ハヅキがよければ、これからも作ってあげるよ!」
「ん…?」
風呂に入る前とは明らかに様子が違うシャルロット。
まるで、初恋を覚えた少女のような表情。
(え? ま…まさか? いやいや…そんな事が……)
同年代で、命の恩人で、優しくもしっかりとした少女。
惚れる要素自体はあるかもしれないが、それでも同性だ。
別に同性愛自体を否定するつもりは毛頭ないが、まさか自分の愛娘がそうなるとは俄かには信じられないアルベールだった。
「ね…ねぇ…お父さん。お義母さん。今夜はさ…ハヅキにボクの部屋で寝て貰うってのは…ダメかな?」
「そうね。ハヅキさん本人が良いのならば、私は構わないと思うけど…」
ここでハヅキに決定権が委ねられる。
普通ならば、幾ら同性と言えども初めての相手と一緒の部屋なんて多少の抵抗感があるものだが、葉月にそんな一般的な感性を求めるのは間違っていた。
「私はそれでも構いません。ドイツでもある方と一緒に寝ていますので」
「あ…ある方って?」
「私が現在、所属している部隊の教官…織斑千冬教官です」
「お…織斑千冬…!?」
誰かと思ったら、まさかのブリュンヒルデ。
想像もしていなかった名前が飛び出し、思わずシャルロットが後ずさる。
「そういえば、第二回モンドグロッソ後に引退し、それからドイツに依頼されて特殊部隊の教官になったと聞いたことがあるが……」
「その部隊にハヅキさんも所属しているの?」
「はい。今年から配属されました」
正確には『配備』なのだが、それを言えばデュノア家の皆の顔を曇らせてしまう事は、今までの経験で学んでいたので飲み込んだ。
「ですので、私は気にしません。シャルロット、今晩はよろしくお願いします」
「う…うん! 任せてよ!」
「任せてよ?」
世界最強のライバルの出現に、シャルロットは見事に空回り。
完全に一方通行なライバル意識だが、まだ彼女は知らない。
千冬以外にも強力なライバルはいるのだと。
特に、イギリスの彼女は非常に強大なライバルになるだろう。
現時点では、葉月が自身のパートナーであると認めているのは彼女だけだから。
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夜になり、案の定と言うべきか、葉月はシャルロットと一緒のベットに寝ていた。
葉月の方は全く気にしてはいないが、シャルロットの方は心臓バクバクになっていて、まともに彼女の顔が見れなくなっていた。
「どうしました? 眠れないのですか?」
「そ…そうみたい。なんでかなぁ~? あはは……」
「ふむ……」
ここで、葉月なりにどうしてシャルロットが眠れないのか考察してみる。
恐らくではあるが、昼間の事をまだ引きずっていて、完全に緊張状態が解けていないのだろう。
確かに緊張はしているが、それは決して恐怖からではない。
単純に想い人である葉月の顔が目の前にあるからだ。
だがしかし、今まで兵器として生きてきた葉月に年頃の少女の乙女心を理解しろと言うのは酷な事。
だからこそ、彼女はまたいい意味での勘違いをしてしまう。
「シャルロット」
「ひゃ…ひゃいっ!? にゃにかにゃっ!?」
「ちょっと失礼しますね」
モゾモゾと身体を動かし、シャルロットに近づいたと思ったら…いきなり彼女の体を抱きしめた。所謂『ハグ』である。
「は…はははははハヅキっ!? いきなり何を……」
「眠れない夜は、こうして人肌の温もりを感じると眠れるようになる…と以前に聞いたことがあります」
「ハヅキ……」
自分の勝手な空回りなのに、それでも葉月は自分の事を心配してくれる。
彼女に抱きしめられ、その優しさに触れて。何も感じない訳がない。
さっきまでの緊張は完全に吹き飛び、不思議な安心感に包まれた。
(ボクって…こんなにチョロかったっけ…? けど、ここまでされて意識しないなんて有り得ないよね…。やっぱ…ボクはハヅキの事が…す……)
数秒後、シャルロットは静かな寝息を立てながら眠りに付いた。
それを見てから、葉月もまた目を瞑ってからのスリープモードへと入る事に。
(コード80…これより…スリープモードへと…移行します…。おやすみなさい…シャルロット……)
そうして、二人の少女は仲良く抱き合いながら眠ったのだった。
因みに、人肌云々の話はクラリッサから教えられていて、それを聞いた千冬によって彼女は特別訓練を受けて瀕死状態になったという。
強敵揃い。
だからこそ戦い甲斐がある。