INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~   作:とんこつラーメン

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意外な所に突破口は転がっている。

まずは先入観を捨て去ろう。








Tips are found in various places

 デュノア社にある食堂のテラス席。

 フランス有数の大会社ともなれば、その食堂一つとっても豪華かつシステム的に仕上がっている。

 そんな場所にて、葉月とアルベールは一緒の席に座ってから昼食を食べていた。

 

「まるで会社の食堂とは思えない場所ですね」

「我が社は社員が快適に仕事が出来るようにすることを第一に考えているからね。食事をする場所である食堂に力を入れるのは当たり前なのさ」

「成る程…。確かに、食事は人間にとって最も大事な要素であると同時に、活力を与える物でもあります」

 

 関心するように頷きながら、葉月は器用にナイフとフォークを使ってから食事をしていく。

 因みに、これらのマナーはイギリスのオルコット家に泊まった時にチェルシーから徹底的に教わった成果だ。

 最初こそは苦戦していたが、僅か十数分にて完璧にマスターしていた。

 

「しかし…ペイルライダーの損傷具合は想像以上だったようだな」

「そうですね。データとして見た時から酷いと思っていましたが、いざ作業を始めると解析だけでは見つからないような細かい破損まで幾つも発見しましたし」

「それだけ、君が使った『ソロモン・エクスプレス』のブースターのパワーが桁違いだったということか……」

「あれは本来、ISに使用するパーツを一つも使っていませんからね。ロケットや宇宙船などに使う筈の代物を無理矢理にISに使用してるんですから。並のISならばブースターに点火した瞬間に木端微塵。専用機でも一分足らずで空中分解しても不思議じゃありません」

「それに耐えたペイルライダーに驚愕すべきか…。それとも、それを使おうと考えた君達に呆れるべきか……」

 

 アルベールもISに関連する大企業の社長をしている以上、ソロモン・エクスプレスがどんな代物なのかは非常によく知っている。

 今回、ペイルライダーに接続した超巨大ブースターを最大出力で使えば、理論上は単体で大気圏突破すら可能な程の出力を誇っている事も。

 

「そうだ。実はハヅキ君にずっと聞きたいと思っていた事があったのだった。この機会にいいだろうか?」

「私などで良ければ喜んで」

「助かる」

 

 表向きはドイツ軍所属の一パイロットに過ぎない自分に一体何を尋ねようというのか。

 企業人ではない葉月には全く分らなかった。

 

「君は、我が社が最近になって経営不振になりかけている事は知っているかな?」

「噂だけならば。確か、他国が第三世代機の開発に次々と成功している中、未だにデュノア社を初めとするフランスの各企業は第三世代機の開発が出来ていないからだと」

 

 量産型ISのシェアで世界第三位にまで上り詰めたデュノア社ではあったが、今ではその地位も過去の栄光になろうとしている。

 嘗ては電子機器や車両などを販売して、それなりの売り上げは出していたが、ISが誕生してからそっち方面に経営を切り替えてから一気に会社は巨大になった。

 それに驕ることなく質実剛健な経営体制を続けてはきたが、それもそろそろ限界に達しようとしていた。

 故に求めているのだ。この危機を乗り越えられる存在…第三世代型ISの開発を。

 

「開発部の連中とも色々と話し合ったりしてはいるのだが、中々に上手くいかないのが現状でね…。そんな時に君が現れた」

「念の為に言っておきますが、流石に国家機密の類は話せませんよ?」

「それぐらいはこちらも理解しているとも。私が聞きたいのはそんな事じゃないんだ」

「では何を?」

「ハヅキくん…君を一流のIS操縦者と見込んで、パイロット目線から現行のISに求めている事を教えて欲しい」

「私が今のISに求めている事…ですか」

 

 自分なんかを一流と言ってくれるのは光栄だとは思うが、だからと言って有益になりそうな話が出来るかはまた別だ。

 葉月がこれまでに搭乗した事のあるISと言えば、自身の分身とも言えるペイルライダーを除けば、ハーゼ隊にも何機か配備されているリヴァイヴか、後はフランスに到着した直後に突如として空から降ってきた『イフリート・シュナイド』ぐらいしかない。

 だが、ここで『無理です』なんて言えば栄光あるドイツ軍に泥を塗る事になる。

 それだけは何があっても絶対に看過は出来ない。

 となれば、ここは自分に出来る範囲で妥協案を提案するしかない。

 

「現行のIS…というか、個人的にリヴァイヴに乗って感じた事で良ければ…」

「それでも構わない。ドシドシ言ってくれ」

「そうですか? では……」

 

 頭の中でこれまでの事を思い出してから記憶を整理する。

 基地内での訓練の際に、よく皆に合わせる為にリヴァイヴで模擬戦を行っていた時の事を。

 

「…拡張領域の広さと汎用性に関しては文句はありません。幅拾い運用法があるということは、同時に作戦が立て易いということにも繋がりますからね」

「ふむふむ……」

「けど、それとは別に気になった事や個人的要望はあります」

 

 葉月程の操縦者が求めている事。

 アルベールは大きく目を見開き、耳に対して全集中をした。

 

「まず、もう少し操縦性が良くなれば…と思いました。今や、リヴァイヴは欧州各国に配備されている代表的な機体の一つになっていますが、初心者には敷居が高いようにも思えます。ドイツにいる時に何度か後学の為に将来の代表候補生を育成する施設の見学をしたことがありますが、日本製の『打鉄』とは違い、リヴァイヴを使っていた方たちは操縦に少しだけ苦戦していたような印象がありました」

「操縦性か…。そう言われてれば、確かにリヴァイヴは初心者からプロまで幅広く使えるように設計はしてあるが、それ故に若干ではあるがプロ寄りになっている節は見受けられるな」

 

 使い勝手がいいという事は、同時に色んな人間が使うという事でもある。

 何も初心者が訓練用に使うだけではない。

 有事の際や上級者が後輩などに教える時に実際に乗る事が多いのだ。

 

「後は、もっと整備性が上がればいいと思いますね」

「整備性か…」

「今でも決して不満があるわけではありませんが、もっと整備性が向上すれば、一機辺りの整備時間が少なくなり、その分だけもっと訓練や装備の選択などに時間を使えると思いました」

 

 これまでずっと『兵器』として教育されてきた葉月は、勿論ではあるがISの整備もちゃんと出来る。

 実際、整備班と一緒に混ざって基地内のリヴァイヴの整備を手伝った事も一度や二度ではない。

 その度に男臭い部署である整備班の面々に大歓迎され、なんでか帰りには大量のお菓子を渡されている事がある。

 

「流石は第一線で活躍をしているだけはある。いずれも非常に実用的な意見だ。他には何かあるかな?」

「後は…そうですね。もっと換装パッケージが増えてくれれば便利だとは思いました」

「今ある物だけでは少ないと?」

「少なくはありませんが、もっと別の用途で使えるパッケージがあればと」

「例えばどんな?」

 

 現在、ラファールのパッケージは主に射撃戦重視や高機動型などが存在している。

 ラファール自体が機動性に性能の比重を置いているので、それ自体には問題は無いのだが、葉月はそれに対して何か物足りなさを感じていたのだ。

 

「まず、徹底的な近接戦重視のパッケージが欲しいですね。可能であれば刀剣類を装備した」

「剣撃戦重視か」

「刀身は赤熱化して切れ味を増すなどすれば理想的です」

「ヒート・ホークやヒート・サーベルのような感じか。他には?」

 

 なんだかノッてきたのか、体を乗り出して聞いてきた。

 葉月の方も珍しく個人的意見を出せる場で知らず知らずのうちに饒舌となっている。

 

「背部に大型レドームや頭部に高性能カメラなどを搭載した『強行偵察型』。それに少し武装を加え、更にはOSを専用の物に変えた『電子戦特化型』などもあったらいいですね」

「完全にサポートに回るタイプのパッケージか。そっち方面が得意な操縦者もいるかもしれないしな」

「それから、重装備型であるクアッド・ガトリングとは別方向の射撃戦特化のパッケージが欲しいです」

「別方向の射撃戦?」

 

 戦闘のプロではないアルベールには、葉月が何を言いたいのか全く分からなかった。

 その様子を見た彼女は、自分の指を銃の形に変えて、片目を瞑ってから狙いを定めるような仕草をした。

 

「狙撃戦特化型ですよ」

「狙撃…!」

「はい。接近された際に迎撃する最低限の武装以外には、全てを狙撃に特化させたパッケージ。偵察型とはまた別の超高感度ハイパーセンサーを設置して、後は長大な狙撃銃があれば文句なしです」

「最低限の武装には何を選べばいい?」

「近接ブレードの『ブレッド・スライサー』を一本。後はハンドガンが二丁ほどあればよろしいかと」

「本当に必要最低限なのだな……」

 

 狙撃に特化したパッケージとは想像もしなかった。

 これこそまさに目から鱗という奴だ。

 

「水中戦特化型…なんてのもあれば面白いかもしれませんね」

「水中でISを運用するというのか?」

「お忘れですか? ISは元来、宇宙空間での活動を目的とされているパワードスーツなのですよ? 宇宙飛行士の方々も、よく訓練ではプールを使用なさっていると聞きますし」

「確かにな……」

「武装は…ハープーンガンに魚雷などが宜しいかと。水中航行用の小型ジェットエンジンを脚部やバックパックに設置して、後は全身に渡ってシーリング処理をすれば……」

 

 それからも出るわ出るわ。葉月が考えた色んなラファールのパッケージ案。

 その全てをアルベールは物凄い勢いでメモしていく。

 

「…こんな所でしょうか」

「す…素晴らしい…! こんなにも鮮烈な意見を聞いたのは久し振りだ…!」

 

 感動の余り、涙を拭う事もせずに体を震わせながら葉月の手をギュッと握りしめる。

 いきなりの事でキョトンとしてしまうが、この時に反射的に手が出ないのが彼女の成長した証なのか。

 

「君に話を聞いたのは大正解だった! まだまだラファールの可能性はあるのか! それが分かっただけでも大収穫だ!」

「それは何よりです」

 

 これが企業戦士という人種なのか。

 別の意味での歴戦の勇士というのを始めて見たような気がした。

 

「そういえば、ずっと気になっていた事があるのですが……」

「まだあるのか? いやはや……」

「ずっと第三世代の新機体の開発が出来ないと困っているようでしたが、どうして『ラファールの正当後継機』を開発しようとしないのですか?」

「……は?」

 

 一瞬、葉月が何を言ったのか理解出来なかった。

 それ程までの衝撃がアルベールの脳を直撃したからだ。

 

「ずっと思っていたのです。ラファール自体は今の段階で既に完成され尽くしています。なので、そのノウハウを活かす形でラファールを再設計し、先程私が言ったことを可能な限り取り入れられれば、第三世代機とまではいかないかもしれませんが、第2.5世代機ぐらいは余裕で開発できそうな気がするのです」

 

 話を聞きながら、アルベールは自然と頭の中で彼女の言葉を整理していく。

 いつの間にか、彼の脳内には簡素ではあるがラファール後継機の設計図が完成していた。

 

「これまでラファールは幾つかの『派生機』や『カスタム機』は開発されてきましたが『後継機』はまだ生み出されていませんよね? なので、ラファールの長所を残しつつ機体性能や整備性などを向上させた後継機を作れれば…と愚考したのですが……聞いてます?」

「……………」

 

 なんで今まで、こんな事を思い付かなかった?

 ラファールは自分が仲間達と心血を注いで開発した自慢のISだ。

 各種パッケージにより幅広い汎用性を獲得したが、どうしてそこで止まっていた?

 どれだけ多くのパッケージを開発しても、ラファールが進化しなくては意味が無い。

 第三世代機開発という言葉に惑わされ、無意識のうちに『新たなるラファールの開発』という選択肢を消していた。

 その事を葉月の何気ない言葉にて思い出す事が出来た。

 

「ラファールの後継機…。つまり、『ラファール・リヴァイヴMk-Ⅱ』か…」

「もう名前を決めたのですか?」

「全く…私はなんて愚かなのだ…! ラファール・リヴァイヴこそ我が社の顔にして象徴だというのに、目先の利益に捉われてラファールで勝負をすることを忘れていたとは…!」

「はぁ……」

「よし! 決めたぞ! デュノア社はとことんまでラファール一本で勝負してやる! ラファールの子供達や孫達を生み出していくのだ!」

 

 どうやら、葉月の一言が完全にアルベールの経営者魂に火を着けるどころか、大炎上させてしまったようだ。

 本当に何気ない疑問を口にしただけなのだが。

 

「ありがとうハヅキくん! 君のお蔭で、本当に大切な事を思い出した! そうだとも! ラファール無くして何がデュノア社だ! 新規の第三世代機が生み出せないなら『第三世代機となったラファール』を開発すればいいだけの話じゃないか!! こうしちゃいられん! 早速、開発部に戻ってから設計をしなくては!」

「え? 社長自らが設計をなさるのですか?」

「ははは! 今でこそ、こうして親父の後を継いで社長をやってはいるが、若い頃は設計士としてブイブイいわせていたのさ!」

「そ…そうなのですか。人に歴史あり…ですね」

「ハヅキ君の話を聞いて、私の中に眠っていた設計士としての血が久し振りに湧き上ってきたぞ! ハハハハハ!」

 

 人生、一体何がターニングポイントになるか誰にも分からない。

 分からないが…少なくともアルベールにとっては葉月との出会いが人生の分かれ目となったようだ。

 

 心の中でシャルロットにアルベールのヤル気を必要以上に刺激してしまった事に謝罪をしながらも、すっかり冷めてしまった食事を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 




そして、デュノア社は伝説に…?







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