INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~   作:とんこつラーメン

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その優しさが、貴女の心を傷つける。











The unselfish sympathy is extremely poisonous

 小窓すらない真っ暗な空間。

 時折、聞こえてくるガタガタという音と衝撃、エンジン音で辛うじて、ここが車の中であるという事が判断出来る。

 

「………」

 

 外観的には単なる輸送車であるが、実際には護送車と表現した方が正しいかもしれない。

 運転手と助手席にいる者以外に乗車しているのは、全身を真っ白な拘束衣に包み、目には特製の眼帯、更には耳栓と猿轡まで填められたコード80のみ。

 

 普段はここまでする必要は全く無いのだが、今回だけは特別だった。

 今の彼女は修復と調整が済んだ直後の状態。

 初期の頃と比べて比較的安定し始めているとはいえ、何が起こるか分からない。

 万が一にの時に備えて、こうして動きを封じる必要があるのだ。

 といっても、もしもコード80が本気になれば、この程度の拘束衣などは簡単に破り捨てられるのだが。

 

「おい、コード80。聞こえるか?」

 

 助手席に座っている軍人の男が荷台を見れる小窓から彼女を事を除き見る。

 その目は明らかに馬鹿にしていて、コード80の事を人間として見ていない。

 

「もうすぐ、お前さんが『配備』される基地が見えてくるぞ。つっても、今のお前には見えねぇか」

「おい! 余計な事をしてんじゃねぇよ! どうなっても知らねぇぞ!」

 

 運転手の男が慌てて助手席の男を注意するが、全く気にすることなく陽気に笑っていた。

 

「大丈夫だって。あそこまでガッチガチに固めてんだぜ? 何が起きても問題ねぇよ」

「忘れたのか? あの子は……」

 

 冷や汗を掻きながら話そうとしたところで、基地の入り口の到着し、見張りの隊員による検問が始まる。

 

「この基地に何の用だ?」

「…例のブツを運んできました。話は通っている筈です」

 

 運転手が許可証を見せながら見張りに説明する。

 それを見て、見張りは訝しむようにしながら許可証を二度見した。

 

「本当…なのか?」

「はい」

「後ろを見ても?」

「どうぞ」

 

 見張りが恐る恐る荷台の扉を開けると、そこには拘束衣を着せられ五感を完全に封じられた年端もいかない少女の姿が。

 コード80は台のような物に幾つものベルトで結びつけられ、まるで今から処刑される死刑囚のようで、その様子を見た見張りは嫌悪感を隠そうともせずに顔を顰めた。

 

「……外道が」

 

 そう呟かずにはいられない。

 事情を知らない正常な思考を持つ人間ならば、誰もがすぐに同じような結論に至る筈だ。

 

「大丈夫ですか?」

「あ…あぁ……問題は無い」

 

 帽子を深く被り直して、見張りは運転手の元へを戻っていく。

 その顔はさっきまでとは全く違い、明らかに軽蔑の眼差しになっていた。

 

「心は…良心は痛まないのか?」

「相手が本当に人間だったら、俺達だって良心の呵責ぐらいはあったでしょうね」

「それは、どういう意味だ?」

「さぁね……では、失礼します」

 

 輸送車は基地内へと入っていき、それを見送った見張りは後にこう証言している。

 

 人間とは、ここまで残酷になれるのか…と。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 指定された場所に駐車をし、荷台から台ごとコード80を運び出す。

 彼女自身は非常に軽いので、そこまで苦労せずに移動させることが出来た。

 

「どこに持っていけばいいんだっけ?」

「この基地のブリーフィングルームだったと思う。そこに黒兎隊が集結してて、教官としてこの前やって来たブリュンヒルデもいるらしい」

「いいなぁ~。美女や美少女ばかりの基地に配属…じゃなくて、配備されるなんてよぉ~。俺だったら、配属初日から女の子たちを抱きまくるのにな~」

「そんな事をすれば、間違いなく軍法会議行きだぞ。彼女達は我がドイツ軍における唯一無二の『IS部隊』なんだから」

「わーってるよ。言ってみただけじゃねぇか。生真面目過ぎんぞ」

「不真面目よりはマシだ。とっとと行くぞ」

「へいへい」

 

 ガラガラガラガラ…と運び始める二人。

 助手席に座っていた男は女の事を話す際、コード80の事を全く話題に出さなかった。

 彼には、コード80は異性としては愚か、同じ人間としても認識されていない。

 運転手の男はそこまでではなく、寧ろ、そう思わないとやってられないというのが本心だった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 目的地であるブリーフィングルームへと辿り着くと、機械仕掛けの自動ドアが勝手に開く。

 中には、この基地に所属している『シュヴァルツェ・ハーゼ隊』の隊員達と、訳あって少し前からハーゼ隊の特別教官をしている千冬がいた。

 当然だが、いきなり大の男が二人がかりで完全に拘束された状態の少女を運んで来れば、誰だって目を見開き固まってしまう。

 

「あ…貴方達は一体何ですかっ!? その少女は一体……」

「話は聞いている筈では?」

「軍で極秘裏に運用されていた秘密兵器をここに配備すると聞いていたが…まさか…!」

「はい。これがその『秘密兵器』です」

 

 年若い少女達が大半のハーゼ隊の中で唯一、成人していると思われる女性が代表して尋ねるが、返ってきた答えに言葉を失った。

 特に、千冬の驚く姿は酷かった。

 色んな意味で優れている彼女には一発で分かってしまったのだ。

 運ばれてきた少女の正体が。

 

「彼女は…しかし…そんな事が……」

 

 目を見開いて口をパクパクと動かす。

 普段の悠然とした彼女からは考えられない程の動揺だった。

 

「はいはい。ちょっとここを通りますよ~っと」

 

 隊員達の間を縫うようにして前へと進んでいき、通信用の大型モニターの前に大を縦にして置いた。

 これでようやくお役御免になり、運転手の男は安堵したかのように息を吐いた。

 

「それでは、これで仕事は終わりましたので失礼します」

「ま…待て! ちゃんと話を……」

「詳しい事は『少将閣下』に聞いてください。それじゃ……」

「え~? もう行くのかよ~? って、おいっ!?」

 

 余り長居はしたくないのか、運転手はそそくさと部屋を後にし、助手席の男も名残惜しそうにしながらも後を追った。

 

「ど…どうします…? これ……」

「どうと言われてもな……」

「決まっている! 急いで彼女の拘束を解くんだ!」

 

 何もしようとしない隊員達に痺れを切らした千冬が自ら向かうが、それはいきなり入ってきた通信によって妨害された。

 

『その必要はない』

「なっ…!?」

「グレイヴ・ディウス少将……」

「クラリッサ…知っているのか?」

 

 クラリッサと呼ばれた女性が驚きながらも頷く。

 千冬としては、こんな男の事はどうでもよいのだが、それでも思わず訪ねてしまった。

 

「は…はい、一応…。ドイツ軍の幹部の一人で、顔と名前と階級以外は全て謎に包まれている方で…私も詳しい事までは……」

「そうか……」

 

 そんな人物が、どうしてここに通信を入れてきた上に『拘束を解くな』と言ってきたのか。

 彼女達には分からない事ばかりだった。

 

「必要が無いとはどういう事だ?」

『そのままの意味だが?』

「なに…?」

『その程度の拘束衣、これにとっては絹も同然。だろう? コード80』

 

 次の瞬間、突如として拘束衣の腕部が中から破裂するようにベルトごと破壊され、そこから細く白い腕が出てきた。

 その腕は胴体部から下半身に掛けて次々と拘束衣と他のベルトを破っていき、僅か数秒足らずで首から下は完全に自由となった。

 

「「「「…………」」」」

 

 余りにも現実離れした光景に、誰もが開いた口が塞がらなかった。

 そんな彼女達を差し置いて、コード80は眼帯と猿轡を外して床に捨てる。

 完全に明らかとなった少女の全身を見て、苦しそうに千冬が呟く。

 

「矢張り…お前だったのか……」

 

 あの時は『いつかまた会えるだろう』と楽観的に考えていたが、まさかこんな風な形で再会するだなんて誰が想像するだろう。

 コード80にとっては何でもないが、千冬にとっては余り喜べない二度目の出会いとなってしまった。

 

「少将閣下…まさかとは思いますが、本当に彼女が『秘密兵器』なのですか…?」

『当たり前だ。でなければ、そのような場所に送らせたりなどせんよ。クラリッサ・ハルフォーフ大尉』

「しかし…彼女は人間です!」

『コード80! ここにいる隊員達に貴様の概要を説明してやれ』

「了解しました」

 

 クラリッサの叫びを無視して、グレイヴはコード80に命令を下す。

 その機械的な扱いに、誰もが悲しそうな表情をした。

 

「コード80。グレイヴ・ディウス少将直属の特殊任務実行部隊『アポカリプス』に配備されている、『PR計画』にて開発された高性能試作型IS『RX-80PR ペイルライダー』の生体コアユニットです。型式番号と私のコードの数字は、コアナンバーから取られています。本日より、シュヴァルツェ・ハーゼ隊に配備される事となりました」

 

 淡々と話すコード80の言葉の端々に、絶対に聞き逃せない単語が幾つもあった。

 特に千冬はそれらを決して聞き逃さず、モニター越しとはいえ、グレイヴに向かって凄まじい殺気を放っている。

 

「おい…生体コアユニットとはなんだ…! 貴様はこの子に何をした!?」

『何も。私自身は特に何もしてはいない。したのは主にペイルライダーを開発した技術者連中だ』

「戯言を…! お前は彼女をなんだと思っているんだ!!」

『なんだと思っている…か。コード80、言ってやれ』

「了解です」

 

 なんでここで彼女が答えるのか。

 それがグレイヴの策略であり、コード80の言葉を聞いて全員の精神に大きなダメージを与えた。

 

「私は栄光あるドイツ軍の道具であり兵器。私自身がペイルライダーであり、ペイルライダーは私なのです」

「そんな事を言わないでくれ! 一夏の…弟の命の恩人であるお前が…そんな……」

 

 彼女の肩を掴んだ千冬の目には涙が浮かび、今にも零れそうになっていた。

 他の隊員達も涙を流すほどではないが、それでも顔を逸らして辛そうに俯いている者が多い。

 その中でも最も小柄な少女は、自分の腕で自分の身体を掴み、何かに耐えるように体を震わせていた。

 

「お手をお借りします」

「え…?」

 

 徐にコード80が千冬の手をそっと掴んで、自分の胸に当てる。

 一体何がしたいのか分らずに呆然としていたが、すぐにその意味を理解した。

 

「な…なんで…鼓動を感じない……」

「そこにあるのが心臓ではなくてISコアだからです」

「コアが…ある…?」

「そうです。私とコアは完全に一体化しているのです。言ったでしょう? 私がISであり、ISは私であると。私は生命活動をしていません。ただ動いているだけです。一般的にそんな存在を『人間』とは呼称しません」

 

 ここで遂に千冬の涙腺が完全に崩壊した。

 涙を流しながら、思い切りコード80の事を抱きしめる。

 

「すまない……本当にすまない……!」

「何を謝罪しているのですか?」

「すまない……」

 

 千冬が涙を流している意味も、謝り続けている意味も全く理解出来ないコード80は、目を点にしながらされるがままになっている。

 そんな様子をモニターしていたグレイヴは、爆笑したい気持ちを必死に抑え込んでいた。

 

『(ククク…まさか、ここまでブリュンヒルデが情に弱い女だったとはな…! 多少の機密情報を公開する覚悟で引き合わせてみれば、こちらの予想以上の効果を見せてくれた! しかも、コード80がその追い打ちを掛けるとは…なんとも皮肉なものだな。自分の家族の仇であり、地獄の底に突き落とした張本人に抱きしめられる気持ちはどうだ? コード80……)』

 

 グレイヴからすれば、お涙頂戴の三文芝居なんて見せられても面白くもなんともないが、それによってこれまで以上に『害虫駆除』が進むのであれば、これを見るのも悪くは無いと感じていた。

 

『コード80は普段から常に特殊な任務に就いているが、その基地にいる時は基本的にそちらの指示に従うようにしてある。だが、任務が発生した場合はそいつの指揮権は全てこちらに渡る。いいな?』

「りょ…了解しました…少将閣下……」

 

 どうして、この男はこうも淡々と話す事が出来るのか。

 クラリッサは生まれて初めて他人に対して心の底からの嫌悪感を感じながらも、仕方なく命令を聞くことに。

 どれだけ最低でも、階級が上である以上は従わざる負えないのだ。

 

『では、これにて私は失礼する。それと、一つ忠告しておこう。ペイルライダーの事を探ろうとはしない事だ。長生きをしたかったらな』

 

 最後の最後にとんでもない脅し文句を言ってグレイヴとの通信は終了する。

 言われなくても探ろうだなんて思わない。

 幾ら、コード80が不憫とはいえ、自ら虎の尾を踏もうとする猛者はここにはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 




幸せの定義は人によって違う。



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