INFINITE STRATOS ~The Fourth Knight of Death~   作:とんこつラーメン

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これから始まる。








A human figure who has gone off the road

 コード80の話が気に入らないラウラのいきなりの宣戦布告により、模擬戦をする事になった二人。

 他の隊員達は端の方に退避していて、ラウラとコード80は訓練場にある簡易ステージで、お互いに離れた位置にて待機をしている。

 審判として千冬が中央付近に立っていて、二人の様子を交互に見ていた。

 

「…………」

「その澄まし顔を悔しさで滲ませてやるぞ」

 

 ラウラはまだ専用機を持っていないので、隊で使っている黒いラファールを使い、コード80はISスーツのまま棒立ちになっている。

 

「…ペイルライダー」

 

 聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で呟くと、彼女のISが…本来の姿が青白い光と共に姿を現す。

 『ヨハネ黙示録』第6章第8節に記載されている通り、青白い鋼鉄の衣に身を包み。

 

「全身装甲…それが貴様の専用機か」

「はい」

「面白い…!」

 

 ラウラは強気な笑みを浮かべてはいるが、他の隊員達と一緒に見ていたクラリッサは違った。

 その威容に僅かではあるが冷や汗を掻いている。

 

「ペイルライダー…か。ISの名前にとんでもないものを付けたものだな……」

「隊長は何か知ってるんですか?」

「…ペイルライダー。ヨハネ黙示録に出てくる四人の騎士の名前の一人で、ペイルライダーは第四の騎士と呼ばれている。青白い馬に乗った『死』を具現化した存在で、傍らに冥界を連れているらしいわ。疫病や野獣を用いて、世界中の人間達を一人残さず死に至らしめる役目を担っているとか……」

 

 クラリッサの説明を聞いて、隊員達は心からドン引きした。

 

「い…幾らなんでも物騒過ぎませんかね…?」

「それだけの性能を秘めているって事でしょうね。あの佇まいを見ているだけで分かる。あの子は…只者じゃない」

 

 正直、ペイルライダーを見るまではラウラにも少なからず勝機はあるかもしれないと思っていたが、実際に見てから意見が変わった。

 この戦い…ラウラは絶対に負ける。

 彼女の成長具合には目を見張るものがあるけど、それでもまだまだ発展途上。

 今のラウラではまともな勝負をする事すら難しいかもしれない。

 

 それは、クラリッサよりも近くでペイルライダーを見ている千冬も感じていた。

 

(あれが…あの時、誘拐された一夏を救い出し、同時に誘拐犯達の使ったISを一方的に屠ったとされるISか…。全身装甲とはいえ、各部にあるスラスターを見れば一発で分かる。あれは見た目以上に高機動特化型のISだ。並の量産機では相手にすらならないだろう……)

 

 両脚部、両腕部などにハードポイントが設置されているが、現在のペイルライダーには何も装備されていない。

 あるとすれば、右手に持ったブルパップ・マシンガンだけだ。

 サイドアーマーにはビームサーベルがあるが、それは本人が引き抜く意志を見せなければ単なる飾りに過ぎない。

 

「…お前、どうしてマシンガンしか装備していない? それだけの機体の武装がまさかマシンガンだけとは言うまいな?」

「他の武装を使う必要が無いからです」

「……ハンデのつもりか?」

「いいえ。私なりに合理的判断をしたまでです」

「それをハンデと言うのだ!」

 

 コード80に悪気はないのだが、それが却ってラウラの逆鱗に触れてしまったようだ。

 他人の感情の機微に疎い彼女には、どうしてラウラが起こっているのか全く理解出来ていなかった。

 

「織斑教官。試合の前に互いの勝利条件について確認をしておきたいのですが」

「む? どちらかのSEが無くなったら負けではないのか?」

「えぇ」

 

 人差し指を立ててから、周りを見渡しながらゆっくりと説明をしていく。

 

「ボーデヴィッヒ少尉の勝利条件は、織斑教官が仰られた通りに私のSEを0にすればいいとします。しかし、私の場合は違います」

「では、なんだ?」

 

 手に持ったマシンガンを軽く掲げ、ラウラに標準を向ける動作をする。

 

「10発。ボーデヴィッヒ少尉に弾を命中させれば勝利ということで」

「貴様……!」

「その気になれば、ISのSEは強力な攻撃を5~6発ほど食らわせれば枯渇します。ボーデヴィッヒ少尉は好きなだけ強力な武装をお使いください。私は、このマシンガンだけでお相手します。これでどうですか?」

「お…お前がそれでいいのならば……」

 

 ストレートは言葉は一切使っていないが、ラウラには彼女の真意が分かった。

 『お前程度、これだけで十分だ』。

 そんな心の声がハッキリと聞こえた…気がした。多分。

 

「それでは、これより二人の模擬戦を開始する! 試合…開始!」

 

 開始宣言をしてすぐに後方に下がった瞬間、先に仕掛けてきたのはラウラだった。

 

「どこまでも私の事を馬鹿にしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 ブースト全開で真っ直ぐに突貫していき、近接ブレード『ブレッド・スライサー』を両手持ちで振りかざす。

 それに対して、コード80は試合が始まってから微動だにしていない。

 

「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 ラウラの渾身の一撃が放たれる……と思われたが、彼女の全力の攻撃は掠りもせずに空振り、何も無い空間だけを切り裂いた。

 

「な…に…?」

 

 そんな馬鹿な。

 ついさっきまで確かに目の前にいたのに、いつの間に消えた?

 速度、パワー、タイミング。

 自分なりにも最高と言っても差し支えない攻撃。

 それが難なく躱された。

 

「ここですよ」

「はっ!?」

 

 背後から声が聞こえた。

 普段ならば敵対者に声なんて絶対に掛けないのに、それをするのはこれが模擬戦だからか。

 

 ラウラは咄嗟に振り向いて、後ろに向かって水平切りをしようとするが……。

 

「わぷっ!?」

 

 それは、おでこにぶつかった液状のナニカによって妨害された。

 

「な…なんだっ!?」

 

 慌てて自分の顔に当たった物を手で確かめると、ラファールのマニュピレーターが緑色に染まっている事に気が付く。

 

「絵具…じゃない。これは…ペイント弾か!」

「正解です」

 

 クルクルとマシンガンを回しながらコード80が答える。

 その行為自体に特に意味は無いのだが、ラウラには自分を挑発しているように見えた。

 

「どうして実弾を使わない! ふざけているのかっ!」

「私は至って真面目です。こちらからすれば、模擬戦で貴重な実弾を使用するなど有り得ませんから。勝敗を決するだけならペイント弾でも十分です。それに……」

 

 ペイルライダーのバイザーにラウラの顔が反射し、怪しく光る。

 

「これがもし本当の戦場だったのならば…貴女は死んでいますよ?」

「なっ…!?」

 

 自分に向かって死を告げられ、初めて動揺するラウラ。

 だが、彼女は自分の知っている常識を使って反論した。

 

「な…何を馬鹿な事を…。我々にはISがある! シールドバリアーがある限り、頭部に銃弾を受けても死にはしない!」

「ISのSEは無限じゃありません。攻撃を受け続ければ必ずいつかは無くなります。『塵も積もれば山となる』…という日本の諺があります。どんなに小さな攻撃でも蓄積されていけば、いつかは必ず大きなダメージとなっていくのです。もしもISが行動不能になったら? 近くにISが無い時…生身の時に襲われたら? まず確実に少尉は脳と血を地面にぶちまけてあの世行きです」

「わ…私が…死ぬ…?」

「ISが常にある事を前提にしている時点で、貴女は絶対に私には勝てません。さぁ…試合を続けましょうか? 今の一撃は無しにして構いません。ここから改めて10発をカウントしてどうぞ」

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…!」

「終わりですね」

 

 模擬戦が始まってから約10分。

 首元、胸部、腹部、両肩、両脚の付け根等々。

 実弾ならば絶対に致命傷となる場所ばかりにペイント弾を10発受け、ラウラも黒いラファールもすっかり緑色に染まっている。

 当初の条件通り、コード80はラウラに10発のペイント弾を命中させた。

 ということは即ち……。

 

「試合終了。勝者は…言うまでも無いな」

 

 千冬から試合が終わった事を告げられ、コード80は溜息交じりにペイルライダーを解除した。

 

「ま…待て…!」

「まだ何か?」

「今度は実弾で勝負しろ! 無論、本気でだ!」

「お断りします」

 

 一瞥すらすることなく後ろを向き、そのまま立ち去ろうとする。

 その背中が憎らしく感じ、ラウラは疲労から地面に座ったまま吼え続けた。

 

「私と戦うには、今の貴女は余りにも未熟です」

「だからどうした! 私は誇りあるドイツ軍の士官だ!」

 

 その言葉にピタっと足を止め、ゆっくりを振り向く。

 彼女の目は珍しく怒っているように見えた。

 

「それは一人前の兵士の台詞です。少なくとも、今の貴女が使っていいような言葉じゃない」

「私が一人前ではないと言うつもりか!」

「そう言っているのです。兵士とは、仕える国の為に命を掛けて奉仕する者達の名。お聞きしますがボーデヴィッヒ少尉。貴女はこれまでに一度でも戦場に出て、そこで人間を殺したことがあるのですか?」

「あ…あるわけないだろう…!」

「兵士にとっての最大の名誉とは敵を殺した数です。日常生活では罪でも、戦場でそれは途端に勲章へと変わる。『一人殺せば犯罪者になり、百万人殺せれば英雄になる』そうですよ。因みに、全人類を殺せれば神になれるそうです」

「…………」

 

 何も言わなくなった。

 今度こそここから立ち去れる…と思っていたら、またラウラが話しかけてきた。

 

「お前は…人間を殺したことがあるのか?」

「ありますよ。それはもう沢山」

「…恐ろしくは無かったのか?」

「私は兵器。故に余計な感情は不要です」

「感情があるから…私は勝てないのか?」

「そうではありません。貴女が勝てなかった決定的な理由。それは……」

「それは…?」

「私が『兵器』であり、貴女が『兵器を使っているだけの人間』だからです。人間では兵器には勝てません。兵器とは本来、人間を殺す為だけに存在しているのだから」

「お前は……」

 

 視線で千冬達に『後はお願いします』と目配せをし、クラリッサ達が戸惑いながらも頷いた。

 それにコード80も頷くことで返し、ようやく歩き出せた。

 

「…少しマシンガンの手入れをしたいので、格納庫に行ってきます」

「ま…待ってくれ! クラリッサ、ラウラの事を頼むぞ!」

「了解です。織斑教官は彼女の元へ行ってあげてください」

「助かる」

 

 先に言ってしまっているコード80を追いかける為に、千冬は走って行った。

 彼女が追いついたのは、格納庫に到着してからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 




成長するのは彼女だけではない。
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