興奮して血を吐いて倒れた雁夜さんを介護してとりあえず寝かしつけて、近くにあった椅子に座って考える。
(俺がこの世界に召還、いや呼び出された切欠となった
前回の転移で俺が目印として使用しようとした魔力を帯びた大木。それを守るように命令を下し作り上げた存在。
それが氷室美久である。別名「帰還用目印防衛手段並び防衛力統括種」である。彼女は俺が目印とした大木を守るためにプレシアさんに習った使い魔を作る技術を応用して作り上げた存在でありその体全てが大木からの魔力を使用した物であり魔力供給がたたれない限りどれだけ消滅しても何度でも復活でき、逆に言えば魔力供給さえされていれば体がバラバラになったとしても消滅しないのである。
(召還の触媒に使ったものが美久の心臓と言うならば俺が雁夜さんに呼ばれた事に一応説明はつく。一応は)
『英霊召還』は触媒に使った物にもっとも縁が強い人物を呼び出すもの。使われた触媒の心臓が美久の物ならば確かに美久を作り出した俺が呼ばれてもおかしくは無いが、それならば俺よりも本人である美久が呼ばれる方が自然である。
(と言うかそもそも何で美久がいる世界ではないこの世界に美久の心臓だけがあるんだ?)
これも可笑しな話である。そもそも美久がいた世界と今現在俺がいる世界は全く別の世界である。ゆえに世界を越す技術を持たない美久の体の一部がこの世界に存在している事がおかしい話なのである。それに魔力供給が断たれたら消滅するはずの美久の体の一部がなぜ存在していたのか?
俺がこの世界に召還された事には謎が多すぎる。まさかGZの仕業でもあるまいに……。
「ま、今考えても仕方がない事か」
とりあえずこの事については終わりにして、今は雁夜さんと桜ちゃんの事を考えますか。
「ウゥ……ハッ!!」
間桐雁夜が起きた時、はじめに感じたのは不快感の無さであった。今までならば気絶に近い眠り方を繰り返してきた彼にとって意識が覚めるという事は体を蟲に蝕まれるという事であり、ゆえに目が覚めた時の精神的、肉体的、不快感は馴れる事は無かったのだが、今日に限ってはその不快感が全く感じられなかった。
「き、のうは……確か、そうだサーヴァントを召還して、それで……」
目が覚めたばかりの頭で昨夜起きた事を思い出す。
「俺が召還したサーヴァントが、サーヴァントが……」
自分自身が召還したサーヴァントのステータスの事を思い出し意気消沈とする雁夜。
「一般人と同程度のステータスしかないサーヴァントって……それにクラス名は不明だし」
幸運値がA以外は全てがEもしくはE-であるという事は一般人と同じかもしくはそれ以下という事でありそれは武芸の達人を遥かに凌駕する英霊達と比べるには余りにもお粗末なステータスであった。
「命を削りながら魔術師になったって言うのに、俺は、俺は桜ちゃんを助けられないのか……」
あらゆる願いを叶えるという万能の器たる聖杯をめぐる聖杯戦争に参加する権利を得て、自分が逃げ出したために変わりにおぞましい魔術を受け継ぐ事となってしまったかつての思い人の娘を助けるために、彼は文字通り命を削ってまで魔術を学びそして最後の希望として英霊を召還した結果、現れたのはクラス名が不明でステータスも軒並みEと言う一般人ていどのサーヴァントだった。
「こんな、こんな事って……」
最後の希望であったサーヴァントがハズレ以下であった事実が雁夜の精神に重く圧し掛かる。聖杯を手に入れ思い人の娘である桜を助けようとしたのにその希望を断たれてしまった。
だが、後に彼は思い知る。彼が召還したサーヴァントが
「あ、おはようございます。雁夜さん」
「あ、ああ。おはよう」
憂鬱な気持ちになっていたらドアを開けて盆に土鍋を載せた彼のサーヴァントが入ってきた。
「いや~昨日急にまた倒れるからビックリしましたよ。ホント」
「す、すまない」
憂鬱な気持ちになっていたせいかサーヴァントの言葉に素直に謝る雁夜。
「いえいえ、それは別に良いんですけどね。でも、体の調子には気をつけた方がいいですよ。あんな
「……昨日も気になっていたが非効率ってどういう事だ?」
「非効率も何も命を削っているのにあれだけしか魔力を作れないなんて非効率でしょ」
「え?」
「え?」
「……」
「……」
お互いに気まずい雰囲気が流れる。
「じゃ、じゃあお前が知っている効率的な魔力の作り方ってどんなのなんだ」
「俺が知ってるのは外部魔力収集増幅型魔力炉「八卦炉」っていうのでこれは周囲に漂う魔力を吸い取り内部で爆発的に増加、増幅させるもので、仮に雁夜さんの使っている魔力生産の仕方で一日に十の魔力を作れるとしたらこの「八卦炉」は百万ぐらいは普通に作れますよ」
「え」
「それに雁夜さんの魔力生産は自身の体をその寄生虫みたいな蟲に食わせて作っているせいで体に異常が残るけどこの「八卦炉」は魔力がある所に置いておけば後は勝手に魔力を作ってくれるから体に負担なんて掛からないですよ。それに作られた魔力自体は「八卦炉」内部に溜め込められるからいつでも自由に使えますし、しかも内部に溜まった魔力を放出→周囲に魔力が少量残る→それを吸い取って増加、増幅→溜まったら放出、と言う有る意味永久機関的な感じで使えますからねぇ」
「……」
魔術師としては三流と言っていい雁夜でもサーヴァントが今言った事がどれだけ異常なのかがよく分かった。
ほぼ永久的に魔力を生産できる等と言うものはそれこそ神話の中ですら出てこないというのにこのサーヴァントは事も無げにそれを実現していたのだ。
「だから昨日雁夜さんが寝ている間にその非効率な魔力生産しかできないその寄生虫は全部取り除いてしまいましたけど良かったですよね?」
「……は?」
サーヴァントの言った言葉を最初は理解が出来なかった。が、理解が出来た瞬間雁夜は自身の体の中にいる筈の刻印虫を動かそうとして気がついた。
「俺の中にいた蟲が、居ない?」
「あんな非効率な魔力生産しか出来ない蟲なんて無いほうがいいと思って勝手だけど摘出しました」
呆然とする雁夜を見てちょっと気まずそうにそう話すサーヴァント。
「あ、摘出の際に後遺症が残るとか、そんな事は無かったから大丈夫ですからね」
「当たり前だ!!勝手に摘出して後遺症が残ってたまるか!!」
「そんなに怒らないでくださいよ、雁夜さん。桜ちゃんに寄生していた蟲の親玉だってちゃんと後遺症無く摘出できたんですから」
「それこそ当たり前だ!!桜ちゃんに後遺症なんか残したら承知……摘出した?」
「ええ。昨日の桜ちゃんが寝ている間にこっそりと」
「……」
「……?」
サーヴァントが言った言葉を聞いて俯き肩を震わせる雁夜。そして
「だ・か・ら!!そういう事は最初に言えよおおおぉぉぉーーーー!!」
「あばばばばば!!」
ベットから立ち上がりサーヴァントに襟首を掴んで前後に振り回す。
目が覚めた雁夜さんに蟲の事を話したら襟首を捕まれ振り回されたアキラです。
俺を振り回した雁夜さんは今息切れを起こしながらベットの上で息を荒げています。全く病み上がりの体で暴れるからそうなるんだ。
「誰のせいだ!!」
「字の文にツッコミ入れないでくださいよ」
「だから、誰のせいだと!?」
息切れを起こしながらも俺にツッコミを入れてくる雁夜さんはきっといい漫才師になれる。
「まあ、この話は置いておいて」
「おい!!」
「摘出した蟲の事なんですけど」
俺が桜ちゃんと雁夜さんから摘出した蟲の事を切り出すだすと雁夜さんの顔つきが変わった。
「摘出した蟲は、どうしたんだ」
「とりあえず隔離閉鎖結界の中に投げ込んでありますけど。この家中に居た蟲も一緒に」
「隔離閉鎖結界?」
「この世界から
「……続けて」
結界の事を説明したら凄い引き攣った顔になったけどどうしたんだろう。
「とりあえず今の所は大人しくしてますけど最初は全ての蟲を使って結界を壊そうとしてたけどたかだか魔力を持っただけの蟲程度に壊されるほど軟な結界では無いので安心してもらって大丈夫ですよ」
「そうか」
「で、どうしましょうか?あの蟲と親玉の蟲は」
「……」
蟲をどうするかを聞いて見たら下を向いて考え込む雁夜さん。十分ぐらいしてから顔を上げて言った言葉は力強かった。
「あの蟲は、全て消してくれ」
「良いんですか?あれって老人を作っていた蟲とかも含んでますけど」
「構わない。全部跡形も無く消し去ってくれ。頼む」
そう言いながら頭を深く下げる雁夜さん。
「分かりました。じゃあ消し飛ばしますね」
そう言って俺はGZに指示を出す。
「GZ!!結界内部にオメガプロトンサンダーを叩き込め」
GZは俺の指示に従い隔離閉鎖結界の内部に蠢く蟲に
結果、逃げ場など無い結界内部に居た蟲の全てはその体を構成する全てを微粒子化され完全に消滅してしまった。こうして何百年と行き続けてきた間桐家の当主、間桐臓硯は誰にも最後を見取られる事なくこの世界から完全に消滅した。
「……はい今結界内部に居た蟲全てが消滅しました」
「……そう、か」
何か思い入れがあったのか何所か遠い所に意識を飛ばし感傷に浸る雁夜さん。
「雁夜さん」
「何だよ」
「こらから、どうするんですか?」
「これから?」
「言い難い事ですけど雁夜さんの体はあの蟲のせいでかなりボロボロになってます。持って後数ヶ月しか無いです」
「そう、だろうな……」
俺が言った寿命の話を聞いても取り乱したりせずに受け入れる雁夜さん。
「桜ちゃんもあの蟲が寄生していたせいなのかこのままでは成長するに連れて体の何所かに障害を発症する可能性が高いです」
「な!?……いや確かにそうかもしれない」
「どうしますか?」
雁夜さんは一度目を閉じ、そして確固たる決意を秘めた瞳で俺を見る。
「……聖杯を、手に入れる。この『聖杯戦争』で、俺は聖杯を手に入れて、あの子を、桜ちゃんを助けてみせる!!だから、俺に力を貸してくれないか」
ゆっくりとした動作で半ば壊死しかけた手を差しこちらを見つめる雁夜さんに俺はその手を掴む事で応える。
「……ありがとう」
ぎこちない笑顔を浮かべ、感謝の言葉を言う雁夜さんに俺はこう応えた。
「あの、雁夜さんと桜ちゃんの体なら俺が普通に治せるんですけど」
「……だ・か・ら!!先に言えよそういう事はああぁぁぁーーーー!!」