男は追われていた。
「はっ、はっ、はっ――」
「追えー!まだ近くにいるはずだ!」
逃げ込んだ森の中で大勢の侍たちが散り散りに男を探している。
「くそっ、しつこい連中だな!」
悪態を吐いてから全速力で逃げる。逃げ足には自信があった。というより、逃げることに馴れたというのが正しいのだろうか。
「見当たらない!」
「こっちもだ!」
「ここで引き返したかもしれん。一度引き返すぞ!」
侍たちが引き返したのを確認してから、地面に座り込んだ。
「ふぅ。ひとまずは乗り切ったな」
問題はここからだった。周辺にはまだ敵がうろついているはずだ。この包囲網を突破するのは簡単なものではない。
そんな時だった。辺りから不思議な音が聞こえだしたのは。
「なんだこれは……」
木々が騒めき鳥が羽ばたく。遠くからは警戒心を露わにした猿の鳴き声が聞こえる。
――ポオー……
「!」
甲高い音に思わず頭を上げる。上空から聞いたこともない不気味な音が鳴り響いたのだ。
「なんだあれは!」
生い茂る木々の隙間から、金属の物体が垣間見える。
「やかん、なのか……?」
金属の球体に鶴の首のような長い口。あれはまさにやかんが空を飛んでいるような光景だった。
男が呆気に取られていると、空飛ぶヤカンがゆっくりと地上に降りてくる。
――ポオー……ポオー……
ヤカンが近づくほど音が大きくなる。あのヤカンから発せられている音のようだ。
「あっ……」
気が付くと、ヤカンは木々を薙ぎ倒して地面に着地していた。
――シューーーー!
煙が辺りに立ち込める。朝霧のような視界の悪さ。何が起きているのか、男には理解不能だった。
*
星を眺めていると、どこまでも広がる壮大な世界に私が唯一の存在に思えて、宇宙という存在に少しだけ触れた気になれる。
私は望遠鏡から離れ、現実へと帰還する。星の世界から夢の世界へと向かう時間だ。吸い込まれるようにベッドへと飛び込む。
「寝て起きたら夏休みかぁ……」
寝返りを打つとベッドの軋みが部屋に響く。
夏休みと言っても、何がしたいとか計画を立てているわけでもない。とりあえず、メリーを誘って、秘封俱楽部の二人で遊ぶだけ。普段の休日と何ら変わりもない。ただ、いつもとちょっと違うだけでいい。ほんのちょっとだけだ。非日常が起きて欲しい願望があった。
「面白いこと、起きないかな」
そんなことを思っていると、いつの間にか睡眠の誘惑に負けてしまい、瞳を閉じて
夢の世界へ導かれた。
*
ここは、夢の世界。だけど、現実世界にいるような出来事だった。
わたしは月面にいて、月に住む住人と親しくおしゃべりをしている。太陽が見えなくなる頃、彼らとさよならする。
一人でも十分楽しいけど、彼女もここに来て欲しい。二人で一緒に月の彼方此方を見て回りたい。
どうすれば此処に彼女を連れて来れるのか、月の姫に問う。
『もう少しです。もう少しすれば、此処に来れます。その時、あの人も一緒に――』
月の姫は「あの人」を想って、数千年を生きている。
確信があったわけじゃない。だけど、わたしは月の姫と約束した。
「わたし、お姫様の言う『あの人』を必ず連れてきます!」
――わたしの夢はいつもそこで終わる。
二次創作は初です。対戦よろしくお願いします。