「あっついなぁ」
外に出ると、焼けるように輝く太陽が夏の京都市内を襲っていた。予想最高気温は三十度。私は過酷な状況下で目的地の京都駅北口に向かっている。猛暑の中、「彼女」は生真面目に外で待っているだろう。十分の遅刻だってきっと笑顔で許してくれるはずだ。
「遅いです!」
「うげ」
そんなことはなかった。
「許して!」
「許しません!」
頬を紅潮させた金髪の少女メリーは腰に手を当て私を叱りつける。
「いーーーっつも遅刻ばかりじゃないですか!ワザとですよね!絶対にワザとですよね!そんなにわたしを苛めて楽しいんですか!」
正直、楽しい。私はメリーの笑顔が大好きだが、怒った顔の方が百倍も大好きだ。
「ごめんって。明日は絶対に遅刻しないからさ、許して?」
「そんなこと言って三日連続で遅刻してますよね。どういうことですか?」
「……ごめんさない。――抹茶パフェで許してくれないか」
メリーは甘い物に眼が無い。今回も甘い物で許しを請う作戦だ。
「許しません」
頑なに首を横に振る。今日の彼女はどうやら手堅いようだ。
――ならば!
「特盛、でいかがでしょう」
「……」
表情が変わった。眉間に皺を寄せて唇を歪ませている。
「いいでしょう」
「わーい」
ちょろーい。
「ただし、メガ盛りですからね」
「はい」
そんなこんなで、じゃれ合いながら京都駅のバス停に向かった。
「それで、今日は何処へ行く予定なんですか?」
「清水寺」
「どうしてまた、そんなところへ?」
「京都と言えば清水寺でしょ」
「それはそうですけど……」
「ほら、バスが来たよ。乗った乗った!」
「ううぅ……」
私は困り顔のメリーをバスに押し込んで一番後ろの席に座った。
今日は観光客が少ないようで、清水寺の行きのこのバスに乗り込んだのは、私たちを含めても数人程度だった。
「メリーは清水寺に何回行った?」
「一回しか行ったことはありません。1回行けば十分です」
「何を言っているのだねメリー君。清水寺は何十回、何百回も行くべき場所だぞ。さてはキミ、映画は一度しか観ない人だね」
「その通りです!」
「そいつはイケない。今度の週末は映画観賞会と行こうじゃないか。まずはXファイルシーズン1を2周するとところから始めよう」
「そんなのぜーーーったい、嫌ですからね!」
メリーは顔をムスッとさせてそっぽを向いてしまった。
そんなこんなで目的地である清水寺近くのバス停に到着した。やはり、この周囲も観光客が少ない。これなら今日はゆったりと観光できるだろう。
五条坂を2人で上っていく。やがて、三年坂と合流する地点で何やら人だかりが出来ているのに気づいた。
「ん、何の騒ぎだよ。メリー、見えないから肩車して」
「出来るわけがないでしょう!」
こうしん、おそくてごめんね。
ゆるしてね。
おこっちゃいやだよ。