〜ショウヨウジム〜 エントランス
ポケモンジムと一口に言っても、其の内部構造は各ポケモンジムによって大きく異なる。
特に此処カロス地方のポケモンジムは其れが顕著であり、ポケモンジムの内部デザインは世界的にも評価が高い。
其の様に構造が異なる理由として、ポケモンの生態を実体験させる、というカロスリーグの方針が影響している。
勿論挑戦者の安全を確保した上でであるが、各ポケモンジムではジムリーダーの使用するポケモンのタイプを意識したチャレンジ内容となっており、少年がクリアしたハクダンジムでは、実際の虫タイプポケモンの生態を参考にした内容になっている。
そして此処、ショウヨウジムのジムリーダーは岩タイプの使い手であり、ロッククライミングにおける著名なアスリートでもある男性だ。
岩タイプのポケモンが主に生息している険しい山岳地帯を意識したのか、岩肌から突き出た岩を頼りに崖登りをし、頂点で待っているジムリーダーの元に辿り着く、という非常に肉体を酷使するチャレンジ内容となっている。
そして其のポケモンジムは崖を刳り貫いた屋内に位置する筈だが、屋内の施設に有るまじき高さを誇る岩山が、今少年の目に写っていた。
自転車屋の店主に応援され張り切ってジムに挑戦しに来た少年だったが、目の前の岩山を見て何処か引き攣った顔をする少年。
そんな表情をする少年に、普段は挑戦者に陽気に声を掛けるジム説明の男性も、少年に同情の視線を送る。
暫し茫然としていた少年だったが、意を決したのか、岩山に向かい一歩目を踏み出す。
そんな少年に、先程同情の視線を送っていた男性も応援の声を贈る。
其の声に応えると、少年は後ろを見る事なく岩山を登り始めた。
幾度もの崖を昇っては降り、少年は遂に山頂と呼べる場所に辿り着いた。
全身の筋肉という筋肉は悲鳴を上げていて、少年は既に疲労困憊と化しているが、山頂に登り切る事は前段階であり、此処からが本当の試練なのだ。
最後の気力を振り絞った少年が前に目を向けると、其処には此のショウヨウジム最後にして最大の関門である男性が立っていた。
ジムリーダーである其の男性は岩山を踏破した少年に称賛の言葉を贈り、だからこそ全力で少年に応えると宣言する。
其の言葉を聞いた少年は獰猛な笑みを浮かべ、静かにモンスターボールを構える。
少年にとって二回目のジム戦が幕を開けた。
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〜輝きの洞窟〜 最深部 壁画の間
現在は発光する苔と化石で知られる此の洞窟だが、考古学者の間では別の事で知られている。
其れは、古代の王達の時代から彫られていた壁画である。
嘗て此の洞窟は、苔が発光して洞窟全体が輝いて見える様子から、古代人の間では神秘の場所として扱われ、神が住む天界に通じる場所であると信じていた、とされている。
其の為古代人によって、カロスで何かしらの大きな出来事があれば此の洞窟に壁画という形で記録して神に報告する、という一種の聖域として使われていたそうだ。
其の壁画には狩猟や耕作、祭り等の様子が活き活きと彫られた物もあれば、地震や火災、水害等の天災の様子が恐々と彫られた物もある。
そんな壁画の中には、特に貴重な二つの壁画がある。
一つは、戦争によって愛するポケモンを失い狂乱状態になってしまったカロスの王が、水晶花の様な機械を創り上げ此のカロスを滅ぼした、とされている物。
そしてもう一つは、『魔鳥』の襲来と其れに抗う人々が、『聖獣』の力により『魔鳥』を封印する迄の過程を記した物。
其れ等の考古学的価値は測りしれず、万が一の事を考え其の壁画は一般には公開されていない。
そんな壁画の前で、少女は其の壁画を眺めていた。
其の場所に着く迄に多少の障害はあったが、少女にとっては大した物では無かった。
少女は『最終兵器』について彫られた物と、自身が片割れを保有する『聖獣』と『魔鳥』について彫られた物を其の目で確認するが、少し落胆して溜息を吐く。
何かに収穫は無いかと思い此処に来たが、想像した様な成果を得られ無かった事に少女は舌打ちし、苛ついた様子で此の場を去って行った。
そんな苔で光輝く洞窟には、此処の警備員であろう数人の警備員と其のポケモン達が目を虚ろにして立ち、少女が洞窟から出て行くと、彼等は何事も無かったかの様に仕事をし始めた。
不思議な事に誰一人として少女の事は覚えておらず、少女が壁画を見ていた時間の記憶についても、彼等は何も起きていないと認識していた。
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〜ショウヨウジム〜 バトルコート
山頂での激戦を制したのは、少年の方だった。
限界の疲労の御蔭なのか、一種の覚醒状態に入った少年はバトル中に凄まじい成長を見せ、見事ジムリーダーである男性に勝利する事が出来た。
無論少年だけで無く、彼のポケモン達の成長もあってこその勝利だ。
少年が殻を脱いだポケモンバトルが終わり、段々と少年の意識が明確になってくると、対戦相手であるジムリーダーの男性は悔しそうだが清々しい表情していた。
其後少年は、目の前の男性に勝利した証としてウォールバッジを受け取り、男性は少年に話し掛ける。
「君ならば、本当にチャンピオンを超えられるかもしれない。」と。
其の言葉に少年は、かもしれないでは無く、超えるのだ、と話す。
少年の言葉に目を瞬かせると、男性は朗らかに笑い、自分も歳を重ねたかもしれない、と呟く。
其後少年がジムのエントランスに戻ろうとした時、男性は最後に、次は本気の相棒達とバトルしよう、と少年に約束を持ち掛ける。
少年を自身と同等の相手として認める其の再戦の約束に、少年は男性に手を差し出して応える。
少年の其の返事に、男性は差し出された手に自分の手を合わせて強く握り、少年に、頑張れよ、と声を掛ける。
少年も強く握り返し、頑張ります、と返事をする。
そうしてポケモンジムから出て行く少年の背中には、在りし日の少年の父親の姿が映って見えた。
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〜八番道路〜 海岸側道路
八番道路を通りコウジンタウンに向かうには、主に二つのルートが存在する。
一つ目は、地つなぎの洞穴からコウジンタウンへと向かう崖上側ルートであり、此方からでは崖からの絶景を楽しむ事が出来る。
二つ目は、ショウヨウシティからコウジン水族館を通ってコウジンタウンへと入る海岸側ルートであり、此方では生命溢れる海を身近に感じる事が出来る。
そして釣竿を所持していれば、常識の範囲内でポケモンを釣って捕まえる事が出来る。
そんな二つのルートに別れる道路を、少年は海岸側道路に沿ってコウジンタウンに向っていた。
カロスリーグに挑戦するだけならば、正直コウジンタウンに向かう必要は無いのだが、少年はとある物を目にする為に寄り道する事にしたのだ。
少年が是非とも見たい物、其れは化石だ。
少年だって男の子であり、古代の浪漫が詰まっている化石には年相応の興味がある。
其れに、ショウヨウジムのジムリーダーが使っていたポケモン達は化石から復元したポケモンだそうで、生きた実物を目にした事が今回の決断を後押ししたのだ。
そんな少年が、崖と砂浜が対称的な美しさを醸し出す道を進んでいると、何故か周囲に人の気配を感じない。
確かに夜間では、余程の物好きか何か目的がある人位しか野外に出ないとはいえ、今は日中であり誰一人として姿が見えないのは異常である。
其の事に疑問を感じた少年が周囲を探索していると、突如少年の背後から声を掛けられる。
其の声に驚き、少年が警戒しながら声のした方へ振り向くと、其処には巨人の様な体躯をして珍しいフラエッテを連れた白髪の男性が立っていた。
男性は少年を見ると一瞬目を見開き、其後何かを呟くと、少年に、此処から急いで去る様に、と促す。
少年が男性の言葉に質問しようとすると、何やら別の声が聞こえてくる。
其の声に耳を傾けると、どうやらある人物を探している様子だった。
少年が少し声の方向を覗いて見ると、其処にはムゲン団の制服を着た二人組が彼方此方を捜索していた。
軈て其の二人組は辺りを捜索し終えたのか、少年と男性が隠れている岩場に近付いて来た。
段々と近付いて来る彼等に、少年がどうしようか迷っていると、男性は少年にポケモンを準備する様にと指示を出す。
其の男性の言葉に少年が聞き返そうとすると、ムゲン団の制服を着た二人組は白髪の男性の事を見付けた様で、ポケモンを繰り出して攻撃を始めた。
こうなっては仕方が無いとして、少年は隣にいる巨人の様な男性とタッグを組み、自身のポケモンを繰り出した。
男性を探していた二人組を少年達が追い払うと、二人組は三流の悪役の様な科白を言い残して去って行った。
少年は男性に、何故追われていたのか、と質問すると、男性は首を横に振り、其れは言えない、と答える。
其の答えに怪しさを感じた少年は、急いで男性から離れようとすると、男性は少年に警告する。
「此の世界は、滅びを迎えようとしている。」と。
男性から離れようとして背を向けていた少年は、其の一言の真意を尋ねようと男性がいるの方を向くと、其処に男性の姿は見えず、まるで蜃気楼の様に消えていた。
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〜コウジンタウン〜 ムゲン団コウジン支部
壁画のある「輝きの洞窟」から帰って来た少女は、とある捜索班から緊急の連絡を受けていた。
「それで、緊急の連絡は何かしら。私は今、虫の居所が悪いのだけれども。」
「申し訳御座いません、総帥。『愚者』捜索班からの報告によると、此処コウジンタウンで目標を発見するも逃走を許し、其後八番道路での捜索にて再び発見したが、其の場に居合わせた少年と目標の抵抗に合い確保に失敗。よって目標は現在も逃亡中であり、捜索を続行中である、との事です。」
「そう…。ならば捜索班の人員を増やし、二十四時間体制で捜索に挑めと伝えなさい。其れと、私を余り失望させない様に…ともね。」
「了解致しました。必ずや発見する様に伝えます。」
少女の不機嫌を感じ取ったのか、少し顔を青くしながら、報告を済ませた団員は部屋から足早に退出する。
先程の団員の様子から自身の苛立ちを自覚した少女は何度か深呼吸をすると、少女は自身の切り札であるポケモンが入ったモンスターボールを撫でる。
其の優しい仕草とは逆に、少女の心は激しい怒りが支配していた。
『何故こんな世界を守ろうとして、私の邪魔をするのか。』という。
そんな少女の憤怒は少女の周囲を黒く染める程であり、少女の煌々と燃えている瞳だけが、唯一怪しく輝いて見えた。
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