〜ハクダンジム〜 バトルコート
ハクダンジム特有の蜘蛛の巣状のギミックをクリアし、初めてのジムリーダーとのポケモンバトルに勝利した少年は、見事バグバッジを手に入れた。
掌で感じる初めてのバッジの感触と、初めてのジム戦を制したその興奮に、相棒であるフォッコとハリマロン、ヤヤコマと共に少年は喜んでいる。
心做しか、少女から受け取ったタマゴも、少し揺れて喜んでいる気がしなくも無い。
そんな、仲間と勝利を喜んでいる少年に、声が掛けられる。
「チャンピオンから息子さんが挑戦するとは聞いていたけど、まさか此程とはね。正直に言って驚いたわ。」
少年が振り向くと、其処には此処ハクダンジムのジムリーダー兼写真家の女性が、此方に歩いて来ていた。
少年は、喜んでいる姿を見られたことを少し恥ずかしがりながら、彼の父親について質問する。
「貴方のお父さんと比べて、自分はどうだったかって?貴方のお父さん…いや、チャンピオンだったら、貴方と同じ位強かったわよ。というか、チャンピオンの同期は大抵強かったわ。特に、彼女はね…。」
そんな風に彼の父親の同期のことを語る女性の顔は、少年の両親が同期の話をする時と同様に、何処か悲しそうに見えた。
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〜四番道路〜
ジム戦の傷を癒し、父親から紹介のあったミアレシティのポケモン研究所に向かう為、少年はハクダンシティを後にし、四番道路に来ていた。
四番道路は、通称『庭園街道』とも呼ばれ、道路中央に位置するペルルの噴水広場や、道路両脇には延々と続く花壇と街路樹等が存在する。
その光景が非常に優雅であり、且つミアレシティという大都会に近い為、恋人や夫婦に人気のデート場所となっており、休日には非常に混雑する場所だ。
そんな四番道路をミアレシティに向けて進んで行くと、そこでは小さな女の子と、ムゲン団の応援Tシャツを身に着けた男性が、何やらざわついていた。
気になった少年が様子を見てみると、どうやら女の子のポケモンを、男性がバトルの賞金の代わりとして奪おうとしているようだった。
少年がその騒ぎに割って入り、少年が男性との勝負に勝ったらポケモンを返し、逆に少年が男性との勝負に負けたら、自身のポケモンを譲渡しようと男性に勝負を申し込んだ。
男性はそれに合意し、少年の負けられない戦いが幕を開けた。
結果として、少年はバトルに勝利し、ポケモンは無事に女の子の元に戻った。
少年に敗れた男性は、三流の悪役の様なセリフを吐きながら、何処かに消えていった。
そんな男性を尻目に、少年は女の子を家まで送って行く事にした。
少年が女の子に「お父さんとお母さんは?」と聞くと、女の子は少し悲しそうに「いない。事故で死んじゃった。」と答えた。
少年は聞く事を間違えたと思いながら、何処まで送ればいいと聞こうとした時、女の子の名前を呼ぶ声が聞こえた。
少年と女の子が、声が聞こえる方向に行ってみると、其処ではムゲン団のTシャツを着た女性が、必死に女の子の名前を呼びながら探していた。
少年が先程の男性の仲間かと思い警戒すると、女の子はムゲン団の女性に向かって走り出した。
何かが走って来る音に気付いたのか、女性は女の子の方をみると、女の子が女性に飛び付き、女性は名前を呼びながら抱き締めた。
それに困惑した少年が少し啞然としていると、女の子から事情を聞いた女性が、少年に感謝の言葉を述べてきた。
女性は少年に御礼を渡そうとするが、別に感謝される程の事では無いとして、少年は固辞しようとする。
そこで、女性は少し話を聞いて欲しいと言って、近くのベンチに座り、少年に座る様に薦める。
少年が女性の隣に座ると、女性が静かに話し始める。
話しによると、女性はムゲン団の運営する孤児院の職員らしく、遠足として四番道路に来ていたが、女の子が居なくなった事に気づき、他の職員と共に女の子を探していたらしい。
そんな女の子のポケモンは、彼女の両親の最後の形見らしく、他の遺品は全て親族に取られたそうだ。
そして、面倒を見る女性自身も、子供と夫、相棒であるポケモンを亡くしたらしく、今の職に就くまで精神的に不安定だったそうで、孤児の子供達を自身の子供の様に愛しているという。
だからこそ、子供を助けた御礼として、相棒のポケモンの形見であるメガーストーンを受け取って欲しい、という。貴方の様な優しいトレーナーが使ってくれた方が、相棒も喜んでくれる、と。
そこ迄言うのならばと、少年は御礼であるメガストーンを受け取る。
すると女性は、少し寂しそうにし、しかし嬉しそうに「ありがとう。」と告げ、女の子を連れて帰って行った。
少年は、受け取ったメガストーンを感慨深げに眺め、暫くして立ち上がり、ミアレシティにある研究所を目指し足を向けた。
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〜ミアレシティ〜 『博士』邸
「ミアレシティの見所は?」という質問には、非常に多くの答えがでる。
観光客であれば、ミアレ美術館やミアレタワー、そして御土産として人気のあるミアレガレット本店。
多少の富裕客であれば、ブランド物を扱う商店の総本店や、本場のカロス料理を扱う高級レストラン。
此処迄は極普通の市民から見た見所だが、研究者やトレーナーから見た「ミアレシティの見所」は大分異なる。
彼等にとっての見所とは、ポケモンの生態や強さに関わる場所だ。
そして、此処ミアレシティには、そんな見所が存在する。
それは、とある『博士』の名を冠したポケモン研究所だ。
その研究所は、メガシンカ研究において世界最先端を誇っており、現在は『博士』の弟子達が研究を続けている。
そんな研究所から少し離れた住宅地に、件の『博士』の邸宅が存在する。
其処の主は、此のカロスのポケモン研究において、非常に名高い人物だ。
今では弟子に研究所を譲り、自身は隠居に近い生活を送っていた。
そんな彼が研究者を辞めた理由は、高齢による健康不安とされているが、実際は違う。
彼が深く後悔した『
それに、少女に対する罪悪感があった事も、理由の一つだ。
世界の救済と引き換えに、少女の未来を奪ってしまった、という…。
しかしその為には、研究所を捨てるしかなかった。
何故ならば、ポケモンリーグからの支援を受けている研究所では、定期的な立入検査と研究報告の義務があったからだ。
だが、目的達成の為の研究、即ち時空転移に関係する研究は、国際的に禁止されている。
『博士』自身は、禁止された研究で逮捕されても構わないが、彼の弟子達の将来を、彼自身の都合で壊すのは出来なかった。
だから、彼は自身の栄光の象徴である研究所を捨て、少女の為に尽くす事にした。
それが、少女に対する償いだと考えて…。
だが、少女の考える
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〜ミアレシティ〜 四番道路ゲート付近
無事にミアレシティに辿り着いた少年は、カロス地方一の大都会の街並みに驚いていた。
少年が暮らしていたアサメタウンは、自然溢れる長閑で牧歌的な田舎街だったが、ミアレシティは時代の流行に応じて目まぐるしく変化し、人々の活気と灯りが途切れる事の無い光の都だ。
勿論、ミアレシティには旧市街と呼ばれる地域が存在し、其処では景観保護の為、土地の開発規格は厳格になっており、古き良きカロスを残している。
人々の群れと建造物に驚く上京したて丸出しの少年に、とある人物が近づいて声を掛ける。
その声に驚き、ビクビクとしながら声が聞こえた方に少年が振り向くと、其処には初老の寝癖がついた髪型の男性が立っていた。
少年の驚いた様子にその男性は少し笑いながら「チャンピオンから案内を頼まれた。」と答えた。
その言葉に少年は少し前に届いた父親からのメールを思い出した。
其のメールには「ある人物にポケモン研究所迄の案内を頼んでおいた。」と書かれていた。
メールを思い出した少年が納得し、案内を引き受けてくれた事への感謝をすると、其の男性は微笑みながら「隠居した身なので構わない。」と答えた。
少年がある程度落ち着いた段階で、「ポケモン研究所迄案内する序に、途中少年の為にポケモンセンターに寄ってから行こう。」と男性は言い、少年に逸れずに付いて来る様にと言って歩き出す。
少年は男性と逸れない様に付いて行き、無事に目的のポケモン研究所の前に辿り着くことが出来た。
其処では、ミアレシティの中央に向かう大通りの一つであるプランタン=アベニューの向こうにあるミアレタワーが見える。
そのミアレタワーを見た時、少年は何故か少女の事を思い出した。
そんな少年がミアレタワーを見て何か思い出している横で、案内人である男性は何処か複雑な表情をしていた…。
ポケモン研究所の受付に事情を話し、父親から紹介のあった人物達が来るまでに、男性は少年と別れる事にした。
少年が案内の感謝を伝えると、男性は「旅の幸運を祈っている。」と告げて去って行く。
それから数分後、仮面が似合いそうな褐色の女性と、同じく仮面が似合いそうな金髪の男性が、少年の待つエントランスホールに出て来た。
彼等は少年に「自分達が少年の父親が紹介した人物であり、此の研究所のポケモン博士なのだ。」と話す。
そして「少年に渡したい物があるので、付いて来て欲しい。」とも続けた。
少年が博士達の問いに頷くと、彼等は研究所の最上階にある所長室に向けて昇っていった。
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其の様子を研究所の入口から少し離れた場所で、案内人であった男性が静かに見ていた。
彼は弟子であったポケモン博士達や若き日のチャンピオンに瓜二つな少年に対して、罪悪感と組織の目的に対する猜疑心を抱いていた。
弟子達の栄達した姿を改めて見た事で、此の世界も悪く無いのではないかと思ったのだ。
ムゲン団の本部に居るであろう少女に対して、計画の中止を提案しようか、と思ったその時。
「まさか…此の世界を、存続させようと、思っていませんよね…『博士』。」
男性の背後から、此処に居るはずの無い少女の声がした。
男性がその声に振り向くと、其処には喪服の様な服を着た少女が、ひっそりと立ち尽くしていた。
よく見ると、レースの目隠しの向かうに見える瞳は、まるでダークホールの様に、一切の色彩を映していない。
驚きで言葉が紡げ無い男性対し、少女は少しずつ近づいて行く。
男性は金縛りを喰らったかの様に動けず、少女はそんな男性に抱き着いて、耳元で囁く。
其の声と体は二十五年前と変わらなかったが、其の精神は底知れぬ闇となる程に、大きく変化していた。
「私の未来を奪い、私を化物にした貴方を、私は絶対に赦さない。」
少女の其の言葉を聞き、男性は少女への罪悪感で、自分の過去を恨み、更なる絶望を意識した。
そんな男性を絶対零度の視線で見つめ、彼が組織を裏切ら無いと判断した少女は、暗い路地裏に消えていった。
少女が去った其処には、自分自身に絶望した男性が、ポツンと項垂れていた。
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