〜ミアレシティ〜 ポケモン研究所 所長室
ポケモン博士である二人に連れられ、少年はポケモン研究所の所長室に来ていた。
部屋に置かれた周囲のボードには、少年には理解出来そうにない資料が汎ゆる場所に貼られ、其の近くには何に使うのかよく分からない計測機械が置かれている。
しかし、少年が目にした其の部屋の壁には、一枚の人物画が飾られており、しかも其の絵に描かれた人物は、少年が何処かで見た事がある様な人物だった。
少年が二人に、此の絵画の人物は誰なのか、と聞くと、博士達は、自分達の恩師である人物だ、と答えた。
少年が其の絵を眺めている間に、博士達は少年に渡す物を準備したのか、少年に声を掛ける。
博士達の呼び掛けに、少年は絵画を見るのを止めて、博士達の方へ駆け寄る。
少年が二人の前で停まると、博士達は少年にとある機械を手渡した。
博士達の説明によると、どうやら此の機械はポケモン図鑑という物らしく、一度捕まえたポケモンならば、生息地や生態が分かるという優れ物らしい。
しかも此の機械は、少年の父親が使っていたという一品だ。ネットオークションに流せば、数百万の値が付く事だろう。
流石に二十五年前とは違い、図鑑のバージョンアップはされていて、少年の父親の時代とは少し生態系が変わってしまった所がある。
例で言えば、少年の父親の時代に荒れ果てていたホテル跡地は、治安改善と観光客の誘致という目的で新たなホテルが建設され、現在其のホテルは、ミアレシティのグランドホテルと並ぶカロスを代表するホテルとなっている。
しかし、其処に生息していたポケモンは移動を余儀なくされ、ホテル跡地から十四番道路に存在する廃墟へと生態系が変化していた。
そんな父親からの思い掛けないプレゼントを受け取った少年は、仕事で忙しいであろう父親と協力してくれた博士達に感謝した。
そんな新しい玩具を手に入れた子供の様な、少年の大変嬉しそうな表情を見て、博士達は互いに微笑みを浮かべていた。
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〜ミアレシティ〜 ミアレ出版 本社ビル
ポケモン研究所でポケモン図鑑を手に入れた少年は、数日の間ミアレシティを散策する事にした。
其の散策で観た何もかもが少年にとって目新しく、又非常に興味溢れる物ばかりだった。
スタイリッシュ且つクールでなければ入れそうに無い衣料品店やレストラン、トリーミングで有名なポケモン専用の美容室や独特な名前のカフェ、ポケモンの進化の石やモンスターボールのみを扱う専門店等々、少年の年頃の感性が刺激される街並みだった。
そんな少年は、ハクダンジムのジムリーダーから、彼女の姉がミアレ出版という会社で働いている、と言っていたのを思い出し、其の会社に少し寄って見る事にした。
そして今、ミアレ出版の本社ビルに着いた少年は、ハクダンジムのジムリーダーに似た雰囲気を持つ女性から熱烈な歓迎を受けていた。
其の熱烈な歓迎に少年が困惑している事に気付いた女性は、周囲を気にしながら一度咳払いをすると、少年に自己紹介をする。
自己紹介によると、彼女こそがハクダンジムのジムリーダーが言っていた姉であり、此の出版社の編集長を務めているのだそうだ。
そんな彼女が少年に対して熱烈に歓迎したのは、妹から、次のチャンピオンになるかもしれない逸材だ、と連絡を受けたからだという。
しかも、其のトレーナーはカロスの英雄であるチャンピオンの息子だというのだから驚いた、という事も。
少年は、自身がそこ迄評価されているとは思わず、彼女の言葉を聞いて少し恥ずかしそうにしながら頭を掻く。
そんな少年の様子を見て、女性は、お勧めの場所があるから、そこでゆっくり話をしたい、と告げ、少年に紙切れを渡して出て行った。
少年は地図の描かれた紙切れを受け取り、其の紙切れが示す場所に向かった。
少年が地図に描かれた場所に着くと、プリズムタワー近くの其処には紅を基調としたカフェがあった。看板には「カフェ・ド・プルプル」と書いてある。
少年が恐る恐る店内に入ると、既に編集長である女性が席に座って待っていた。
すると、少年に気付いた女性が手を振り、対面の席に座る様に促す。
そして少年が席に座ると、店員が注文を聞きに来る。
女性はエスプレッソとサンドウィッチを頼み、少年はカフェ・クレム(カフェ・オレの事)を注文した。
注文が来る間、少年は女性に、ミアレシティの観光名所を教えて欲しい、と話し、女性は次々とその場所を教えていく。
注文した品が届くと二人は一度会話を止め、暫しの間其れを堪能した。
其れが終わると、今度は女性が少年に対して、今後の意気込みの質問していた。
時間が過ぎ、仕事に戻らなければならない、という女性が最後に、好きな人はいるのか、と少年に聞く。
其の質問に少年は顔を赤くしながら、気になる人はいる、と俯きながら答える。
其の回答に微笑ましい様子を見せた女性は、少年の分の代金も支払って去って行った。
少年がそのまま席に座って呆然とし、気になる少女の事を考えていると、此のカフェにカロスだけで無く世界でも有名な女性が入って来た。
其の女性はカロスが世界に誇る女優であり、トレーナーとしてもトップクラスに位置している。
そんな女性が少年に、相席をしてもよいかと尋ねる。
有名人を前にして驚いている少年が了承すると、女性は席に座り、ガラルのターフタウン産の茶葉を使ったテ・ナチュー(紅茶の事)を注文する。
店員が静かに淹れるを準備していると、女性は緊張している少年に語り掛ける。
「貴方は、お父さんとよく似ているわね。」と。
其の言葉に驚いた少年は、何故自分を知っているのか、と彼女に問い掛ける。
すると女性は、彼の父親が旅していた時に知り合い、今現在も手紙の遣り取りをしているからだ、と答えた。
それに、貴方が過去の少年の父親にそっくりだから、とも。
自分の父親が目の前の女性と遣り取りをしていた事に対し、其の事を初めて知って驚愕の表情を浮かべる少年に、女性は上品且つ微笑ましげに笑った。
その後暫く女性と会話し、少年が店を出る為に席を立とうとした時、女性が少年を呼び止める。
そして女性は、貴方になら任せられる、と言って、一つのモンスターボールを取り出す。
女性が其のモンスターボールのボタンを押すと、中からは色違いのラルトスが出て来た。
其のラルトスは周囲をチラチラと観察した後に少年を見つめ、彼の方へと歩み寄る。
其の様子を見た女性は、貴方の事が気になるみたい、と言って、少年にラルトスと目を合わせる様に促す。
其の言葉に促され、少年がラルトスと目を合わせると、ラルトスは少年をジッと見つめた後に彼のズボンをギュッと掴んできた。
少年が女性に目を向けると、女性は静かにモンスターボールを手渡す。
ボールを受け取った少年がラルトスに呼び掛けると、ラルトスは嬉しそうな鳴き声で返事をした。
少年の旅に、新たな仲間が加わった瞬間だった。
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〜終の洞窟〜 地下神殿 禁足の間
此の世界には、ポケモンに関する数多くの神話や伝説が存在している。
有名な話では、カントー地方の『三羽鳥』、ジョウト地方の『不死鳥』と『海神』と『三獣』、ホウエン地方の『大地と海の化身』や『隕石と龍皇』、シンオウ地方の『創世神と三神』や『人造巨神』や『精神の神々』、イッシュ地方の『真実と理想の双竜』や『人喰いの氷竜』、『三剣士』、アローラ地方の『太陽神』と『月神』と『異界の神々』、ガラル地方の『闇黒夜と剣と盾の英雄』と『雪原の王』等がある。
そして勿論此のカロス地方にも、とある伝説が存在する。
遥か昔に『怪物』の手によって滅んだ此のカロスは、とある『聖獣』の力によって、再び緑溢れる自然の楽園になったのだという。
しかしその後、とある『魔鳥』の襲来によって、此のカロスは滅びの危機を迎えた。
そこで人々とポケモンは、滅びの運命を避ける為に『聖獣』の力を借り、『魔鳥』を封印する事にした。
結果として、多くの人々とポケモンの犠牲によって、『魔鳥』を深い眠りに就かせる事に成功した。
だが、其の封印の為に力を使い果たした『聖獣』も、深い眠りに就く事になった。
人々とポケモンは、『聖獣』に救われた事に対する深い感謝を示す為、とある神殿を創り上げて埋葬し、『魔鳥』の亡骸も同時に封印する事にした。
そして、其の神殿の番人として『蛇龍』を配置し、神殿を聖なる地として禁足地にした。
其れから数百年後には、人々は神殿の事を忘れ去り、神殿には番人である『蛇龍』だけが遺された。
其の『蛇龍』も何時しか番人としての役目を忘れ、神殿に近づいた者を無差別に襲う様になった。
しかし、とある少女の物理的な説得によって役目を思い出し、今後はカロスの平和を維持する役目を負う事に決め、此の地を去って行った。
『蛇龍』が去った其の神殿は現在、三十年前に廃坑となった「終の洞窟」と呼ばれる場所に位置している。
そんな場所にある神殿の最奥部に、とある集団がある物を探していた。
そして団員の一人が、目標物である古代の遺物を発見した。其の遺物とは、伝説に語られるポケモンの片割れが、深い眠りに就いた姿だった。
発見した集団の長である男性が、目標物を速やかに運び出す様に指示を出し、他の団員には撤収作業をする様に命令する。
命令を受けた彼等は直様行動に移り、数分後には跡形も無く消えていった。
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〜ミアレシティ〜 ミアレタワー ムゲン団本部
ムゲン団本部のあるミアレタワーの最上階で、少女は普段は見せない笑顔を浮かべていた。
少女の特命を受けた捜索班から、目標物を回収した、という連絡を受けたからだ。
少女の計画は、今の所順調に進んでいる。
しかし、予想外の事が起きているのも又事実だ。
『愚者』の裏切りやリーグからの妨害、裏のムゲン団以外の偽ムゲン団の活動等々、少女の計画の邪魔は予想以上に多い。
だが、其れが何だと言うのだろうか。
これしきの事を乗り越えられずに、
そう…其れが例え、地獄に墜ちる事になったとしても、だ。
少女はもう、引き返せない所迄来てしまったのだ。
そんな少女は、狂った様に突然大声で嗤い始める。
しかし其の声とは裏腹に、少女の眼は何処か哀しい瞳をしていた…。
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