ヒータに生まれ変わった少女―生命を燃やす物語 作:ヴィルティ
この世界には神なんて者は存在していないと思う。
いや、存在していても私は頼りたくはない。
人に崇められるだけ崇められておいて、苦難ばかり与える。
そのくせ助けるときには貢物だのなんだの要求しておいて、助けるのはたった一度だけ。
そんな存在に頼るのはまっぴらごめんだ。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
眼を開くと、そこには少し小さな男の子が立っていた。
ここは病院の一室。
「うん、今日は元気」
「本当、穂村お姉ちゃん」
「うん、いっぱい遊んであげられるよ」
私の名前は花崎 穂村。
そしてこの子は私の弟の花崎 優。
私は17歳にして肺癌を発症し、入院生活を余儀なくされている。
若いから体調が悪くてもただ単に風邪を引いたのではないかという判断で早期発見が遅れてしまった。
それが運の尽きだったと今さら思う。
病院で抗がん剤や治療を受けているが、完治の見込みは遠いらしい。
だけど私は諦めるつもりはない。
神なんかに頼らず、私自身の生命力で生き続けてやる。
「じゃ、デュエルしよう?」
「うん、いいよ」
弟が持ってきたカードを受け取り、病院の机の上に広げる。
弟も広げて戦う準備は万全だ。
広げたのは『遊戯王オフィシャルカードゲーム』と呼ばれているカードゲームだ。
色々なモンスターや魔法・罠カードなどを駆使して戦うゲームだ。
頭を使って、体を使わずとも遊べるこのカードゲームは弟が大はまりしていた。
ただ、一緒に遊ぶ友達がいないらしく、私が簡単にルールを覚えてデッキを組んで遊んであげている。
「えい、直接攻撃」
私がモンスターで攻撃宣言を行う。
弟が伏せていたカードには私の攻撃を止めるカードはなかった。
直接攻撃が決まり、私の勝ちが決まる。
「あーあ、負けちゃった」
弟は悔しそうな顔はしているけども、どこか満足そうだった。
姉とこうやって遊べて楽しんでいるのだろう。
でも。
「私と遊ぶのはいいんだけども、学校で友達はちゃんといるの? 私とじゃなくて、友達とカードゲームをすればいいじゃない」
「……お姉ちゃんと遊んでる方が楽しいもん」
「その気持ちはすごく嬉しいけどね、友達を連れてきて楽しそうにしてるのを見る方がお姉ちゃんは嬉しいかな」
嘘偽りない本心だ。
諦めるつもりはさらさらないが、癌が治らず先にこの世からおさらばすることになったら。
私以外に遊ぶ相手がいない弟はどうなるのだろう。
イジメにあい、やさぐれてしまうか。
私がいなくなって強いショックを受けて暗い性格になってしまうか。
「お姉ちゃん。このカード、置いておくね」
弟は意を決して数枚のカードを机の上に置く。
「このカード、何?」
「このカードは『炎王』といってね、何度破壊されても効果を発動してしぶとく戦う一族なんだ。お姉ちゃんが病気に負けないように」
お守りを持ってきてくれたのか。
なんて優しい弟なのだろうか。
「うん、絶対に負けないよ」
弟を元気づけつつ机の上に置かれたカードを見る。
『炎王神獣ガルドニクス』、か。
炎の中を優雅に飛ぶその姿は確かに格好いい。
『神』なんて名前がつけられてるのは少し気に食わないけども。
でも、弟が私のために持ってきてくれたカードだ。
このカードたちは私の宝物にしよう。
そして癌が治ったら、友達にこのカードを見せて美談として語り継ぐんだ。
「ありがとう、優」
「えへへ。じゃ、僕そろそろ帰るね。お母さんたちも心配してるだろうし」
「うん、また今度ね」
笑顔で病室から去っていくのを見送る。
あの笑顔を曇らせないためにも、闘病生活、頑張らなくっちゃ。
そして、私が優のあの笑顔を見たのは、これが最後となった。
肺がんの転移は異常に早い。
早期発見できなければ他の場所に転移したりする厄介な代物だ。
結局早期発見が遅れたことが仇となってしまい、胃などに転移してしまった。
薬を使って痛みを抑えていたのだが、それすらももはや利かなくなってしまった。
苦しんでる姿を見られたくない。
面会謝絶となり、誰も部屋に入ってこなくなった。
「苦しい」
私以外誰もいない病室でぽつりと呟く。
1日でも多く生きて、弟やお父さん、お母さんを安心させないと。
眼を見開き、机の上に置かれた『炎王神獣ガルドニクス』を見る。
私が元気になるようにという願いを込めて贈られたカードだけど、結局病気は良くなるどころか悪化してしまった。
やっぱり、神なんていなかったなぁ。
まだ、まだだ。
諦めたら命が終わる。
痛みに耐え、体を動かす。
弟に対して言い残したいことがある。
それだけでも書き留めないと。
治ったら笑い話の種になるなぁ。
そんな事を考えられるあたりまだどうにかなるのかもと心が明るくなる。
手を動かし、文章を書き残す。
それを机の引き出しの中に入れ、ベッドに思いっきり倒れこむ。
「これでよし」
今はとりあえず痛みに耐えるため、寝よう。
寝て起きれば少しは痛みもマシになるかも。
眼を閉じて眠りに着く。
安心と油断は紙一重である。
彼女にとって不幸だったのは、誰かに思いを託すという行為を行ったこと。
これで心のどこかに『もう思い残すことはない』と欠片でも思ってしまったことだった。
その思い通りになってしまい、彼女は目を覚ますことはなくこの世での生涯を終えた。
ここはどこだろう。
暗くて、何も見えない。
ん?
あの炎の鳥は、確か。
「『炎王神獣ガルドニクス』?」
弟から託されたカードに描かれていたカードだ。
足に何かがついてる……って、あれは。
「私が弟に託した手紙!?」
手紙だけじゃなくて、弟から貰ったカードも括り付けている。
冗談じゃない。
この神獣は私から全てを奪っていくつもりなのか。
「待ちなさい!」
不思議なことにこの暗闇の中では体の痛みは一切感じない。
全力で走るのはいつ以来だろうと思いつつガルドニクスの後を追う。
「待てやコノヤロー!」
ここまでの暴言を吐くのもいつ以来だろうか。
だが、私の暴言なんか気にも留めずガルドニクスは暗闇の中を飛び去っていく。
その後を必死に追いつ続けていると、突如私の視界がガルドニクスと辺り一面の炎に包まれた。
「きゃあああああああああっ!」
炎に飲み込まれ、思わず目を閉じた。
「はっ!」
眼を見開いたとき、視界に暗い夜空が入る。
私は確か病院で寝ていたはず。
(おーい、大丈夫かヒータ!?)
ヒータ?
私にはちゃんと花咲 穂村という名前があるのだが。
っていうかそもそもこの声は誰の?
病室には医者と看護婦以外誰も入らないようにお願いしたはずなんだけど。
(良かった、眼が覚めたみたいだな)
目の前にいたのは、少し目つきが悪い狐。
「しゃべる狐!?」
今まで生きてきた中でそんな狐は一切見たことがない。
しかもこの狐、炎で少し燃えているし。
(いや今さら何言ってんだよ、ヒータ。おいらが喋るのなんていつものことじゃないか)
狐は少し呆れたように笑う。
まさか動物に呆れられる日が来るとは。
(とりあえず、目が覚めたのならさっさと逃げようぜ。奴らが来る)
奴ら?
色々な事が起こりすぎて私は頭が整理できていないんだけど。
「ねぇ、鏡とか持ってない?」
(鏡? ヒータもついに女らしさを身に着ける気になったんだね。おいら嬉しいよ)
なんかすさまじく失礼なことを言われた気がするんだけど。
癌で苦しんでた時も苦しんでないように見せるために身だしなみは気を付けてたんだけどな。
(こんなこともあろうかと、えい)
狐がはっぱを取り出すと、それがポンと音を立てて鏡になった。
えーと、今君は何をしたのかな?
驚きの連続だが、今は鏡を見ないと。
「なにこれ!?」
鏡に映りこんでいた私の顔は、私の顔じゃなかった。
弟と遊んでいた時、持ってきたデッキの中にこの顔の持ち主がいた。
確か名前を『憑依装着―ヒータ』と言ったはずだ。
(なにこれって、別に怪我は1つもしてないぞ? 確かに奴らに追い詰められて崖の上から落ちたときはおいらもびっくりしたけども)
崖の上から落ちた?
ある意味癌で死ぬよりも痛い死に方をする奴じゃないそれ。
そして辺りを見回すと、大きな岩壁が存在していた。
その上から落ちたのなら、確かに大怪我をしててもおかしくはなさそうだが怪我一つない。
(もしかしてヒータ、崖から落ちて錯乱してるんじゃないか? そうだったらマズいな。おいらの名前、分かるか?)
「……ごめんな、分からない」
素直に答えると、狐はショックを受けた顔をする。
この狐、妙にリアクションが人間味あふれているなぁ。
(おいらは『稲荷火』のファルマだよ。いつもだったらファルマってちゃんと名前で呼んでくれるのに)
「ごめんな」
(うーん……あ、そうだ。こうすれば)
ファルマ君!?
(えい、揉み揉み)
ちょ、何を前足で私の胸を揉んでるんだ!
肉球も少し固いし……って
「何するんだこの馬鹿狐!」
ファルマ君を引き剥がし、地面に向かって放り投げる。
(このリアクション……いつものヒータだ!)
いやいつものヒータとか以前にいきなり胸を揉まれたら女性だったら誰でもこんなリアクションをすると思うが。
(よかった、安心したところで逃げようぜ)
そういや、さっきから言っていたけど逃げるっていったい何からだ?
(ほら、杖)
地面に落ちていた魔法の杖らしい物をファルマ君が口に咥えて持ってきてくれた。
人生で初めて杖を持ったかもしれない。
なんか杖を持つと体がじんと暖かくなってきた。
闘病生活をしていた私は今までこんな感覚を味わったことがない。
(よし、行くぞ)
「どこへ行こうというのかな?」
背後から声が聞こえ、振り返る。
紫色の帽子を被り、サングラスをつけた何者かが私の後ろに立っていた。
(しまった、追いつかれた!)
「まったく、逃げようとしないでくれよ。お前たちを捕らえて我々の主が自然元素を支配し、この世界に平穏をもたらすだけだというのに」
(ふざけんな、無理やり追いつめた挙句戦争を起こしておいて何が平穏だ!)
あのー、私を置いて話を進めないでいただきます?
そしてこいつはいったい何者?
「我ら『紋章軍』の犠牲となることは光栄なことなのだぞ?」
(ふざけるな、逃げるぞヒータ!)
うん、その通りだ。
さっき言った通りなら、目の前にいるのは戦争を起こそうとしてる物騒な奴だ。
そんな奴相手に戦う必要はない。
「おっと、今度は逃がさないぜ」
なんだこれ?
地面に紫色の紋章が出てきた。
いや、気にせず逃げ……うわっ!?
「ここからは逃げられないぜ。逃げたければ俺とデュエルして勝利するんだな」
デュエル?
(上等だ。ヒータ、準備はOKか?)
デッキ?
この世界だと戦う手段はカードゲームなのか。
弟と何度も戦ってるし、デュエルのやり方は分かる。
なら、戦おう。
「うわっ!?」
戦おうと決意した瞬間、杖が炎を模した円盤みたいな形になった。
しかもすでにデッキが円盤にセットされている。
「よーし、貴様を仕留めて俺様が『紋章軍』の幹部になってやる」
冗談じゃない。
仕留められるということは、負けたら死ぬ可能性もあるのだろう。
右も左も何もわからない状態で仕留められてたまるか。
何よりせっかく手に入れた健康的な体で死にたくはない。
「「デュエル」」
「先攻は俺様からだな。俺様は『ギミック・パペット―シザー・アーム』を召喚」
うわ、頭部がハサミになってて凄い不気味!?
それ以前にモンスターが実体化してるよ!
「シザー・アームが召喚に成功したとき、デッキから『ギミック・パペット』モンスター1体を墓地へ送る。『ギミック・パペット―ネクロ・ドール』を墓地へ送る。俺様はカードを1枚伏せてターンエンド」
紋章軍下っ端 LP8000
モン:ギミック・パペット―シザー・アーム
魔・罠:伏せカード1枚
手:3枚
さて、私のターンだな。
引いた5枚のカードは、幸い見たことがあるやつばっかりだ。
「私のターン、ドロー。私は『憑依装着―ヒータ』を召喚」
ここにカードを置けばいいのかな?
よし、置いた場所は正しかったらしい。
目の前に私と同じ姿をした少女が現れる。
そのそばにはファルマ君も立っている。
(よーし、攻撃力1850ならあの不気味な野郎を倒せるぜ!)
その通りだなファルマ君。
ここは臆せず攻撃しよう。
「ヒータでシザー・アームに攻撃!」
ヒータが杖から炎を出すとファルマ君がそれを身に纏い、体当たりしていく。
シザー・アームの胴体に見事に体当たりをかまし、シザー・アームの体がバラバラになった。
「ちっ、やるじゃねぇかこの野郎」
紋章軍下っ端 LP8000→7350
よし、相手のモンスターを無事に倒せた。
だけどもまだ油断は禁物だ。
「メイン2、私はカードを2枚伏せてターンエンドだ」
ヒータ LP8000
モン:憑依装着―ヒータ
魔・罠:伏せカード2枚
手:3枚
「たかが少しのダメージでイキってんじゃねぇぞ、小娘。俺様のターン、ドロー。俺様は『ギミック・パペット―ギア・チェンジャー』を召喚。そして俺様の墓地の『ギミック・パペット―ネクロ・ドール』の効果だ。墓地のシザー・アームを除外してネクロ・ドールを墓地から蘇生させる」
棺桶の中から女の子の人形がゆっくりと起き上がる。
正直に言えば怖い。
「ギア・チェンジャーの効果でLVをネクロ・ドールと同じにする」
頭の歯車を回しギア・チェンジャーのLVが8になる。
「俺様はLV8のギア・チェンジャーとネクロ・ドールでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚。現れよ『No.40ギミック・パペット―ヘブンズ・ストリングス』」
なんか大きな剣を携えた男の天使のよな人形が飛び出てきた。
何度思ったかわからないが、不気味だなあれ。
「バトルフェイズ。ヘブンズ・ストリングスでヒータに攻撃!」
ヒータが炎を出してヘブンズ・ストリングスの動きを止めようとした。
だが、相手は感情無き人形。
炎に焼かれるのも構わず突っ込んでいき、ヒータの胴体を切り裂いた。
「うっ」
自分と同じ姿をした者が消えていくのを見るのは精神的につらい。
ヒータ LP8000→6850
「はっは、どうだ。俺様はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
紋章軍下っ端 LP7350
モン:No.40ギミック・パペット―ヘブンズ・ストリングス
魔・罠:伏せカード2枚
手:2枚
「私のターン、ドロー」
(ヒータ、大丈夫か?)
確かに攻撃力3000のモンスターは厄介だ。
だけども、デュエルとは攻撃力だけで決まるわけではない。
「私は魔法カード『炎王の急襲』を発動。相手の場にモンスターが存在し私の場にモンスターが存在していればデッキから炎属性の獣族・鳥獣族・獣戦士族モンスター1体を特殊召喚できるわ」
(ヒータ、いつの間にそんなカードを?)
あ、このカードはヒータが持っていたわけじゃないんだ。
弟がくれた『炎王』のカードは何度も見返した。
そのおかげでヒータになってもデッキに入っていたのだろうか。
(ここで一番強いのは)
『炎王神獣ガルドニクス』。
破壊された次のターンのスタンバイフェイズに蘇生し、場のモンスターを全て破壊する強力なモンスターだ。
……神に頼るのは初めてのことだ。
「デッキから『炎王神獣ガルドニクス』を特殊召喚するわ」
炎を纏い空を飛翔する巨大な神獣が現れヘブンズ・ストリングスを見下ろす。
「カード1枚でこんな大型モンスターを出すとは……だが、攻撃力が2700、ヘブンズ・ストリングスには届かないな」
「言っておきなさい。私はこのままターンエンドよ。急襲のデメリットでエンドフェイズにガルドニクスは破壊されるわ」
ガルドニクスの体が炎に包まれていき、その場から炎ごと消え去っていった。
ヒータ LP6850
モン:なし
魔・罠:伏せカード2枚
手:3枚
「がはは、自滅するとはな。たいしたことないな。俺様のターン、ドロー」
「スタンバイフェイズに墓地のガルドニクスの効果発動。墓地から蘇生し、このカード以外のモンスターを焼き払うわ」
私の円盤から炎が吹きあがり、ガルドニクスが飛び出していく。
そして全身から全てを焼き払う炎を放ち、ヘブンズ・ストリングスを操って糸を焼き切る。
動かなくなった人形は炎に包まれぼろ屑となりバラバラになっていった。
「そんな効果があったのかよ」
(すげぇぞヒータ!)
ファルマ君が褒めてくれる。
弟が託してくれたカードは神と名がついていても役に立つじゃないか。
「俺様はモンスターをセットしてターンエンド」
紋章軍下っ端 LP7350
モン:伏せモンスター1体
魔・罠:伏せカード2枚
手・2枚
「私のターン、ドロー」
場にはガルドニクスが存在している。
攻撃力2700と素晴らしい数値と、破壊されても蘇生しモンスター全てを破壊する効果。
今、このデュエルの流れは私にあると言っていいだろう。
「私は『炎王獣バロン』を召喚するわ」
手に爪型の武器を装備した般若のような獣が降り立つ。
見た目は少し怖いけど、まあ強いから役には立つ。
「私はバロンで伏せモンスターに攻撃するわ」
バロンが爪で引っ掻いたのは『ギミック・パペット―死の木馬』。
守備力2000の人形で出来た馬を切り裂こうとしたが、逆に固すぎて爪が折られてしまう。
「チェッ」
ヒータ LP6850→6650
「ならガルドニクスで倒すわよ」
「そいつは破壊しなければいいんだな? なら罠カード『強制脱出装置』を発動するぜ」
「あ」
ガルドニクスが巨大なポッドに乗せられ、私の手札へと向かって飛んでいく。
カードに戻り、私の手札となる。
ヒータ 手:3→4枚
(ああ、せっかくのガルドニクスが)
最上級モンスターはアドバンス召喚するためにモンスター2体のリリースが必要だ。
バロン1体でそれが賄えるわけがない。
「しょうがないわね。メイン2、私はこのままターンエンドよ」
ヒータ LP6650
モン:炎王獣バロン
魔・罠:伏せカード2枚
手:4枚
「せっかくの切り札だったが残念だったな。俺様のターン、ドロー。俺様は魔法カード『ジャンク・パペット』を発動だ! 墓地から甦れヘブンズ・ストリングス!」
墓地から巨大な糸が空に向かって伸びていき、十分な高さまで釣り上がったとき墓地からヘブンズ・ストリングスが飛び出してきた。
「そして『ギミック・パペット―死の木馬』を攻撃表示に変更。バトルフェイズだ」
ヘブンズ・ストリングスが容赦なくバロンの体を切り裂く。
斬られた時に発生した衝撃が私の体を襲い、膝をつく。
「何この反動」
「がはは、LPが減るにつれて精神力が減っていく。0になった瞬間気を失うのさ。敵を目の前にして気を失うことがどういうことか、分かるだろう?」
そういうことか。
気を失ってしまえば、どうなってしまうか嫌でもわかってしまう。
ヒータ LP6650→5450
「死の木馬でダイレクトアタック」
「永続罠カード『リビングデッドの呼び声』を発動するわ。墓地から甦れ『憑依装着―ヒータ』」
ヒータが飛び出していき、死の木馬の体当たりを杖で阻止する。
炎の反撃は急いで交代することで回避し、追撃は免れたが仕留めることも出来なかった。
「ふん。俺様はこのままターンエンド」
紋章軍下っ端 LP7350
モン:No.40ギミック・パペット―ヘブンズ・ストリングス ギミック・パペット―死の木馬
魔・罠:伏せカード2枚
手:2枚
「私のターン、ドロー」
おっ、このカードは。
「私は『怒炎壊獣ドゴラン』を特殊召喚するわ」
ヘブンズ・ストリングスが地面へと引きずり込まれていき、代わりに火を体に纏った巨大な恐竜があの男の場に現れる。
「な、こいつはなんだ!」
「相手のモンスター1体をリリースすることで相手の場に特殊召喚されるモンスターよ。そして私の場に魔法使い族モンスターが存在していることで手札から『稲荷火』を特殊召喚するわ」
(よっしゃ、おいらの出番だな)
頑張れファルマ君。
「さらに魔法カード『死者蘇生』を発動するわ。墓地から甦りなさい『炎王獣バロン』。そして魔法使い族モンスターの『憑依装着―ヒータ』とLV4以下の炎属性モンスター1体『稲荷火』をリリースしてデッキから『憑依覚醒―大稲荷火』を特殊召喚するわ」
大きな炎を纏い、ファルマ君自体もかなり大きな姿になる。
あ、魂が(稲荷火)から(大稲荷火)に移ったんだね。
(グオオオオオ)
どうやら体も入れ替わったことで暴れたい気満々らしい。
その気持ちに応えてあげる。
「私は大稲荷火の効果を発動する。自身の効果で特殊召喚に成功したとき、相手の場のモンスター1体を選んでその攻撃力分のダメージを与える」
ファルマ君がドゴランの体を突き抜けていき、ドゴランが宿していた炎すらも体に宿す。
そして男の顔面に強烈なキックをかました。
「ぐっはあぁ!」
紋章軍下っ端 LP7350→4350
「そして『燃え盛るヒータ』を召喚するわ」
大人になった今の私自身の姿かもしれないけど……なんていうか、『稲荷火』君の悪い顔を受け継いだみたいな顔をしてるわね。
でも、ま、いいや。
「私はヒータの効果を発動するわ。場に存在している『炎王獣バロン』をリリースして手札の炎属性モンスター『炎王神獣ガルドニクス』を特殊召喚するわ」
バロンがヒータの魔術を受け、炎に体が包まれた。
そして炎の中からガルドニクスが飛び出していく。
「私は『憑依覚醒―大稲荷火』と『炎王神獣ガルドニクス』の2体をリンク召喚の素材にするわ」
「リンク召喚だと!?」
「召喚条件は炎属性モンスター2体。出でよ『ドリトル・キメラ』」
不細工な顔をした猫の魔物だが、この状況だと絶対に必要なモンスターだ。
(なぁ、ヒータ。どうしておいらじゃなくてその猫なんだ?)
そしてファルマ君は随分と不服そうだった。
ごめんね、ファルマ君。
今はこのカードが絶対に必要なの。
「そしてセットしておいた速攻魔法『炎王炎環』を発動するわ。『燃え盛るヒータ』を破壊して再び甦れ『炎王神獣ガルドニクス』」
ヒータの体が炎に包まれていきガルドニクスが炎の中から飛び立っていく。
うん、不死鳥みたいな神獣だけどもここまで酷使してごめんね。
でも、頼まれなければ力を貸さないのが神という生き物なのだから、今回ぐらい頑張ってもらっても罰は当たらないだろう。
「墓地へ送られた大稲荷火の効果でデッキから『火霊術―紅』を手札に加えるわ。そしてバトルフェイズ。『ドリトル・キメラ』の効果で攻撃力が500アップし、攻撃力が3200になった『炎王神獣ガルドニクス』で『ギミック・パペット―死の木馬』に攻撃!」
ガルドニクスが羽ばたき炎を起こし、死の木馬を焼き払った。
「ぐあああっ!」
紋章軍下っ端 LP4350→2350
よし、これで決まった。
(ああ、そういうことか)
どうやらファルマ君も理解したようだ。
「私はカードを1枚伏せてターンエンド」
ヒータ LP6350
モン:炎王神獣ガルドニクス
Eモン:ドリトル・キメラ
魔・罠:伏せカード1枚
手:0枚
「よくもやってくれたな、俺のターン、ドロー!」
「残念だけどあんたにもうターンはない。罠カード『火霊術―紅』を発動! 私の場の炎属性モンスター、ガルドニクスをリリースしてその攻撃力分のダメージをあんたに与える!」
ガルドニクスの体が炎に包まれていき、その体で紋章軍下っ端に絡みついた。
「うぎゃああああああああああああ!」
紋章軍下っ端 LP2350→0
「はぁ……どうやら無事に倒せたようね」
ガルドニクスが消えたとき、あの男は消えていた。
もしかして、殺したのだろうか。
(ああ。だが、奴には逃げられたようだがな)
「え、そうなの」
(うん……悔しいけど、なんとか追っ手は振り払えたな。にしてもヒータ、いつの間に『炎王』なんて手に入れてたんだ?)
「……私にもよくわからない」
(おいおい、どうやら崖から落ちておいらが助けに行く間に本当に何があったんだよ? それにまだ記憶が朦朧としてるみたいだし)
「うん、ごめんね」
謝ると、ファルマ君が自身気に胸を張る。
(謝るなよ。ヒータをサポートするためにおいらがいるんだ。よーし、とりあえずまずは家に帰ろう。家でゆっくりと休んで記憶を戻していこうぜ)
どうやら、ヒータにもちゃんと家はあるらしい。
場所は分からないので、ファルマ君に案内してもらう。
(にしても、どうしてヒータになったんだろう。優がくれたカードがちゃんとデッキにあるし、この世界は私が生きてきた世界とは違うみたいだし……本当、何もかもわからない)
幸いなのは、この体は癌で苦しんでいた体じゃなく、元気に動けること。
どうにか元気な体を手に入れることが出来たんだから、この世界でヒータになってしまったとはいえ、今度こそ精一杯生き抜こう。
ファルマ君に連れられ、デュエルの余韻冷めやらぬこの場を後にした。