ヒータに生まれ変わった少女―生命を燃やす物語 作:ヴィルティ
白が左半分。
黒が右半分。
綺麗なグラデーションで彩られた仮面をかぶった何者かは床に散らばる無数のカードを見る。
「作られた歴史……正しき歴史」
そう言いながら左に持っていた笛の形をした巻物を広げる。
「この世界……『憑依装着―ヒータ』に、本来この世界に存在しない人間の魂が紛れ込んだ。このままではこの世界は正しき歴史を歩めない。他の歴史をぶつけ、歴史の修正を」
何者かは巻物を読み進め、ふむふむと頷く。
「ふむ……このような歴史が生まれたのか。なれば……」
床に散らばっているカードから数枚のカードを手に取る。
その瞬間、紫色のロン毛の女性がカードを奪い取る。
「お前か、ラヴァス」
何者かの無機質な声を聞き、ラヴァスと呼ばれた女性はくすくすと笑う。
「あら、いいじゃないヒストリア。愛のような感情が絡んでるのなら、私の専門分野よ。ここは私に任せて」
「……いいだろう。なら、君に任せよう」
ヒストリアはゆっくりと立ち上がり、ラヴァスに背を向ける。
「ただし、まずはヒータの周りの娘たちからだ。間違った歴史に揺さぶりをかけ、心と肉体を分離しやすくするのだ」
「了解」
ラヴァスがヒストリアから奪い取った数枚のカードを手にし、ヒストリアが持っていた巻物とは違う色の巻物を広げる。
「ふふ……愛のような感情が絡むと、時には破壊衝動が生まれる」
本来の遊戯王の歴史。
破滅の光を浴びたカードの精霊が『愛』によって暴走し、世界を滅ぼしかけた。
最終的には愛を向けていた者と合体し、事なきを得た。
つまり、愛によって生まれる力は世界を滅ぼしかねないし、また世界を救うこともある表裏一体の力なのだ。
「よし」
ラヴァスが巻物の中に数枚のカードを入れる。
カードが巻物に吸い込まれていき、少し経ち色の違う硬貨となりて出てきた。
「さてと、行くとしますか。せっかくだし、これと縁が近い少女の元へと行こうかしら」
ラヴァスが胸の谷間から取り出した笛を吹くと、光の柱が彼女を包み込み、やがて光と共にその場から姿を消した。
「えーと、確かこの辺のはず」
アウスは崖を上っていた。
この崖はちゃんと歩けるように整備はされているが、それはあくまで中腹まで。
この崖の頂上に立つ少女が自身を守るために敢えて道を途切れさせたのだ。
「まったく、大変なんだからね」
アウスが息を少し荒げさせながら山を登る。
(頑張れ、アウス)
ふよふよとアウスの周りを飛んでるデモを少しだけ恨めしい眼でアウスが睨みつける。
デモは少しだけびくっと体を震わせたが、すぐにへらへらと笑う。
「……まったく」
怒る気も失せ、アウスは山を登っていく。
大地の力を駆使し、登れるポイントを探す。
それを何度も繰り返し崖の頂上に到着する。
「ここまで着て留守なんて勘弁してほしいんだけどね」
アウスがそう言いながら小屋の方を見ると、小屋の傍で正座していた緑色の髪の毛をした少女がいた。
その姿を確認し、アウスが安堵した笑みを浮かべる。
「ウィン」
アウスが声をかけると、ウィンがゆっくりと立ち上がり、アウスの方を見る。
「アウス。どうしたの~?」
ウィンがにっこりと笑みを向け、アウスの方を見る。
「ちょっと確認したいことがあってさ」
「なぁに~?」
相変わらず間延びしたのんびりとした喋り方をしてるなとアウスは思う。
まあ、その呑気さが何事も起こってないという証だと分かりアウスはさらに安堵を深める。
「この崖山に紋章軍がやってきたりは?」
「してないよ~? そもそもこんな崖の頂上に女の子が使い魔と一緒に住んでるなんて誰も思わないよ~」
ウィンがそんなことを呟くと、アウスの肩をぽんぽんと叩く。
「ほら、ここから色々な村を見下ろせるんだよ~」
ウィンが下を指さすと、アウスがつい先ほどまで滞在していた村とそれ以外の村がいくつか崖の上から見えた。
「私はここで精神統一の修行をしながら下の様子を伺ってるんだけど、特に騒ぎが起こった様子もなかったよ~」
「そっか。それならいいんだけど」
ウィンはのんびりしてるけど、それは同時に精神が落ち着いてるということだ。
魔法を使うためには、精神の落ち着きも必要だ。
精神が荒ぶることで威力が高くもなるが、すぐに魔力も切れる。
だが、精神が落ち着き安定しているということは魔力の出力量もコントロール出来るということだ。
ウィンはその点では他の憑依装着の子たちよりもずば抜けていた。
「それにこの崖の上から見上げる青空を見ることで心を落ち着けられるんだよ」
確かにウィンの言う通り、今日も快晴だ。
その青空を見ていられるのなら心も澄みやかになるだろう。
それを毎日続けているのなら、まるで綺麗な湖のようにウィンの精神は澄んだ物になってるんだろう。
(筋肉だの欲に溺れてる私とはまるで正反対だな)
アウスがそんなことを思いウィンと共に崖下付近を見てる中、後ろからこっそりと忍び寄る人物がいた。
その人物の存在にウィンとアウスは気づくことはなく。
その人物はウィンに気づかれないようにウィンのスカートの裾を掴み、もう片方の手はアウスの健康的なお尻に伸ばされ。
「2人とも、隙あり!」
その人物は叫びながらウィンのスカートを豪快にめくり、アウスのお尻を撫でまわす。
「きゃああああああああ!」
「ひゃあああ!」
ウィンは慌ててスカートを後ろ手で抑え、アウスもまたお尻を触る手を慌てて払いのける。
「ふっふー、ウィンもアウスも一瞬で心が乱れたよ。まだまだ修業が足りないんじゃない?」
「マーコ様!?」
「も、もう何するの~!?」
アウスもウィンも顔を赤くしながらニコニコと笑みを向ける巫女服姿の女性を睨みつける。
「何って、スカートめくりだけど。ウィン、緑と白色の縞々パンツなんて可愛いパンツ履いてるんだね」
ウィンに尋ねられた疑問にマーコが素直に答え、下着の色をばらされたウィンがさらに顔を赤くしていく。
「それだけじゃなくて私のお尻も触りましたよね!」
「アウス、相変わらず筋肉に萌えてるからか引き締まったお尻してたね。触り心地も良かったよ」
「何を言ってるんですか!」
ウィンもアウスも顔を赤くしマーコを睨みつける。
「まったくもう、ここにアウスとマーコ様しかいなかったからまだいいけど、他に誰か、しかも男の人がいたらさらに恥ずかしい思いしてたんですよ~!?」
「あら、惚れられた男の人にはこれ以上の事をされてしまうのよ?」
マーコがあっけらかんと言い、ウィンとアウスがこれ以上の事を想像し、さらに顔を赤くしていく。
「あはは、顔まっかっか、トマトみたい」
「誰のせいだと思ってるんですか!」
アウスが声を荒げ、マーコが数歩あとずさり肩をすくめる。
「ごめんごめん。でも元気そうで何よりだよ。昨日の夜、クロキから呼ばれて皆が紋章軍に狙われてるって聞いてさ。いてもたってもいられずこうやって私も独断で様子を見に来たってわけさ」
「ただ単に様子を見に来たというのは言い訳で、セクハラしに来たんじゃないですよね?」
アウスがまだ顔を赤くしながら尋ねるが、マーコは真顔になる。
「そんなわけないじゃない。まあ安心のあまりちょっと驚かせようとは思ったけど」
「もうちょっとほかに手段を選んでくださいよ~」
ウィンに窘められ、マーコが頭を下げる。
「ごめんごめん。でも、クロキはあの街を守るために屋敷を離れられないし、ウィザルドの屋敷も訪れたんだけど相も変わらず留守でもぬけの空だったし。自由に動けるのは私だけなのよ」
「そうなんですか。やっぱりウィザルド……様は信用なりませんね」
「それは同感ね。でも、実力は確かだし街や仲間たちを守る気持ちは一緒だと信じてるわ」
マーコがアウスの不機嫌な言い回しを若干窘める口調で言う。
「まあ元気そうで何よりだったわ。じゃ、元気で……!」
マーコだけでなく、ウィンもとある方向を見る。
「嫌な風の流れ~」
「さすがね、ウィン。何か来る」
ウィンとマーコがそう呟きアウスも身構えた瞬間、光の柱がその場に降ってきた。
そしてその光の柱の中から紫髪の女性……ラヴァスが現れた。
「あらあら『憑依装着』の子が2人だけかと思ったら、力を感じる魔法使いもいるわ」
「あなた、嫌な気配がするわ」
マーコが先ほどまでの調子とは打って変わり、真剣な顔でラヴァスを睨みつける。
「そうかな? まあ、私としては実験に来ただけだから」
ラヴァスが右手と左手に握りしめたそれぞれの硬貨をさらに強く握りしめる。
「実験?」
「そう、実験。せっかくだしあなたにも受けてもらうよ」
ラヴァスが右手と左手を開き、手にしていた物を空高く放り投げる。
空中で闇の靄が2つ現れ、それぞれの靄の中から2つの異形の者が降りてきた。
「出でよ『風精縫合ウィンネクトール』『嫉堕縫合サブタム』」
それぞれ降りてきた異形の物を見て、その場にいた3人、特にウィンは嫌そうな顔をした。
「あれ、もしかして私~?」
ウィンネクトールは左半分が『憑依装着―ウィン』、そして右半分が『ガスタの賢者 ウィンダール』となった異形の者。
その体を縫い合わせるは緑色の糸。
ウィンの顔は縫い合わされているというのににっこりと笑い、対するウィンダールは号泣したような顔だった。
そしてそのウィンの足はウィンダールの胴体とは合わないのか、別の男の足を縫合されていた。
「気持ち悪ーい」
「あらあら、別世界のあなたの可能性なのに。小さいころから慕っていた男の子とやっと結ばれ、その男の子と一緒に歩いていこうと足まで模したのに、いまだ娘離れ出来てないあなたの父親は無理やりあなたを傍に繋ぎ止めようとして……これもまた『愛』が生み出した、とある歴史の形よ」
ウィンネクトールはウィンの姿を見てもその異形の表情を崩さない。
そしてサブタムは褐色の男の顔でアウスを見る。
『女、女、うほおおおおお』
「うわ、何あれ気持ち悪い。確かに腕の筋肉は中々だけど」
上半身が『サブテラーの戦士』の肉体なだけあり腕の筋肉は確かに立派だった。
もし実際のサブテラーの戦士だったらアウスは惹かれていたかもしれない。
だが、その下半身は『堕天使イシュタム』の者であり、その背中には黒い天使の翼が生えていた。
そしてその体を繋ぎ止めるように紫と茶色の糸で上半身と下半身、そして翼が無理やり縫合されていた。
「どうやら異性に飢えてるみたいね……何の影響かしら。それに、筋肉が好きという、あなたと同族の匂いを感じたらしいわよ」
「うわ、勘弁願いたいなぁ」
だが、ウィンネクトールもサブタムもそれぞれウィンとアウスを睨みつけ、ウィンネクトールは杖を構え、サブタムは手にした剣をアウスに向ける。
「やる気満々みたいね。さぁ、お相手してもらうよ」
ラヴァスがパチンと指を鳴らすとウィンネクトールがそれぞれの眼を閉じ、杖から竜巻を起こす。
「巻き起これ竜巻、『テンペストルネード』」
だがマーコがそう叫んだ瞬間ウィンネクトール以上の竜巻を起こしそれぞれの竜巻がぶつかり合う。
竜巻は相反し、空中で溶けるように消えていった。
「あらら……もしかして、この子たちよりもあなた、強い?」
「魔力もね。だけど、ウィンは風の力、アウスは大地の力ならいずれ私すらも超える才能の持ち主。その才能をあんたなんかの実験とやらで潰させるわけにはいかない」
マーコがさらに呪文を起こそうとしたが、マーコが装着していたデュエルディスクが強制的に起動する。
「なっ!?」
「私、あなたにも興味が湧きましたよ。でも、生憎実験体はもうあの2つで打ち止め。だからデュエルであなたの力を確かめさせてほしい、ね」
ラヴァスもまたデュエルディスクを構えると、強制的にデュエルがスタートする。
「さぁ、ウィンネクトール、サブタム。それぞれ2人の子を相手しなさい」
「くぅ、そうはさせない」
マーコが慌ててウィンとアウスの前に立とうとしたが。
「大丈夫だよ、マーコ様~」
「私たちだって、修業を欠かしていないんです。あんな生命を冒瀆したような魔物、私たちの魔法で倒します!」
(そうそう。それにアウスには俺がいるしな)
デモもアウスの傍で浮き停まり、サブタムを睨みつける。
「……分かったわ。ただし、負けそうになったら逃げなさい。いいわね」
「分かった~」
「はい!」
ウィンはウィンネクトールに、そしてアウスはサブタムと交戦を開始した。
「じゃ、始めますか」
「ふふ、いいですよぉ」
「「デュエル」」
先攻はマーコからだった。
「私のターン、ドロー。私は魔法カード『強欲で貪欲な壺』を発動。デッキトップから10枚を除外して2枚ドロー」
マーコのデッキの上から10枚が闇に飲み込まれ、消えていく。
「へぇ、いきなりデッキトップから10枚も除外するなんて」
「でも、2枚もドロー出来るというのは素晴らしいわよ? 私はモンスターをセットして、カードを1枚セットしてターンエンド」
マーコ LP8000
モンスター:セットモンスター1体
魔法・罠:セットカード1枚
手札:4枚
「せっかくドローしたのにいいカードは引けなかったみたいですねー。では私のターン、ドロー。私はフィールド魔法『神縛りの塚』を発動します」
「へぇ」
「そしてEXデッキから『サイバー・エンド・ドラゴン』を除外して手札から『Sin サイバー・エンド・ドラゴン』を特殊召喚しますー」
ラヴァスの手札から白と黒の仮面を被った3頭首の機械竜が出現し、その竜が地面から生えてきた糸に縛られる。
「手札消費0で攻撃力4000のモンスター!?」
マーコが驚愕していると、ラヴァスがくすくすと笑う。
「正しい歴史を信仰してる我らには歴史も味方してくれるんですよー。バトルフェイズ。私は『Sin サイバー・エンド・ドラゴン』で裏守備モンスターを攻撃」
機械竜の3頭首から炎の球が吐かれ、裏守備モンスターに襲い掛かる。
「裏守備モンスターは守備力1000の『妖精伝姫―シラユキ』ね。さすがに破壊されるわ」
白雪姫の格好をした獣娘は炎が尻尾に着き、急いで墓地へと走って行きそのまま消えていく。
「でも、守備のモンスターを戦闘破壊したところで貫通を持たなければダメージは入らないわ」
「残念ですが『神縛りの塚』の効果で、LV10のモンスターが相手モンスターを戦闘破壊したら、相手に1000ダメージを与えます」
サイバー・エンド・ドラゴンをしばりつけていた糸がマーコに伸びていく。
そしてマーコの足を一瞬だけ強く握りしめ、ダメージを与える。
「ああああっ」
マーコ LP8000→7000
「ふふ、正しき歴史を縛り付ける糸の締め付けはいかがです?」
「生憎、これぐらいじゃ未来を守ろうという気持ちは揺るがないわ」
「そうですかね、さっきいい声出してましたけど? ま、いいですよ。私はカードを2枚伏せてターンエンド」
ラヴァス LP8000
モンスター:Sin サイバー・エンド・ドラゴン
魔法・罠:セットカード2枚
フィールド:神縛りの塚
手札:2枚
「私のターン、ドロー。私はEXデッキを5枚裏側で除外して『百万喰らいのグラットン』を特殊召喚」
巨大な獣の口が足と眼を得たような姿をした化け物がマーコの場に降り立つ。
「わざわざ特別なカードを5枚も除外した割には、攻撃力が裏側で除外された枚数×100、つまり15枚の1500しかないじゃないですかー。サイバー・エンドの歴史をお借りして特殊召喚したSin サイバー・エンドに2500も届いてないですよ?」
ラヴァスがグラットンを馬鹿にするが、マーコはいたって真顔だった。
「これでいいのよ。さらに『霊滅術師 カイクウ』を召喚するわ」
坊主頭に刻印が掘られた僧侶が現れ、数珠を握りしめる。
「さぁ、バトルよ。グラットンで攻撃!」
グラットンが大口を開け、Sin サイバー・エンド・ドラゴンを吸い込もうとする。
「正気ですか? 攻撃力1500しかないグラットンじゃ」
「生憎、攻撃力を上げることが効果のすべてじゃないのよ。このカードが戦闘を行うダメージステップ開始時、1ターンに1度戦闘を行う相手モンスターを裏側で除外するのよ」
グラットンの吸引力が上がっていき、やがてSin サイバー・エンド・ドラゴンを括りつけた糸が地面からはずれ、機械竜がグラットンによって吸引され姿を消した。
「むー、こうもあっさりと倒すなんて」
特殊召喚制限モンスターだから墓地から特殊召喚される心配はないが、墓地からデッキに戻すカードを発動されて再利用されては厄介。
そう読み、マーコは容赦なく再利用を封じる裏側で除外するという手を使った。
「続けてカイクウでダイレクトアタック」
カイクウが呪文を唱えると紫色の光球が数珠から発射され、ラヴァスを襲う。
「あうう」
ラヴァス LP8000→6200
カイクウには戦闘ダメージを与えたとき相手モンスターを墓地から2体まで除外する効果もある。
この効果で再利用を徹底的に封じていく。
それがマーコの戦術だ。
「しょうがないですね」
「メイン2、私はこれでターンエンド」
マーコ LP7000
モンスター:百万喰らいのグラットン 霊滅術師 カイクウ
魔法・罠:セットカード1枚
手札:3枚
ちなみに前回の縫合魔物の名は『神逆縫合 バルバリベリオン』ですね。