ヒータに生まれ変わった少女―生命を燃やす物語 作:ヴィルティ
「ご苦労、レイバー」
「まったく、失敗した奴を連れてくるなんて面倒な真似、今度はごめんですからね」
レイバーとヒストリアがそんな話をしている中、ラヴァスはむすっとした表情でレイバーを睨みつける。
確かにデュエルにも負けたし、ウィンネクトールとサブタムが負けたのも事実だ。
だが、それで女の子である自身のお尻を叩くなんて、という怒りの方が抑えきれなかった。
「まあ勝負である以上、負けることもある。問題なのは、何の成果も得られない負けをしたことだ」
確かにその通りだ、とラヴァスはうつむく。
敵の実力を引き出す事も出来なかった。
憑依装着と、高名な魔法使いの力の方が大きいと言えばそれまでだが。
「んじゃ、俺はこれで失礼しますね」
レイバーは手をひらひらと振りながらヒストリアの研究室から出ていった。
自室に戻ったレイバーは手で硬貨をくるくると回す。
「さてと……ジャック・ラグナロクはなかなかの出来だったし、次の実験体のテストをするとしよう」
硬貨2枚をポケットから取り出しぐぐっと両手で握りしめる。
「リスペクト……ねぇ。俺たちは勝利のみをリスペクトする。そのためなら元の連中をディスペクトすることも厭わない。さぁ、行ってこい」
レイバーがくくくと笑いながら、創り出した魔物が闇に飲み込まれ消えていくのを見届けていた。
「うーん」
ヒータは背伸びをしながらファルマと共に家の前に立っていた。
数日前は無理やり合体させたような変な見た目の魔物と戦った。
あの時はエリアがいたからどうにかなったが、もし自分ひとりで戦うときになったら勝てる確証はない。
だからこそデュエルだけじゃなく、魔力も鍛える必要があるのだと自覚した。
(今日はいい天気だな)
「うん、魔法のいい練習が出来そうだね」
そう言いながら杖を構える。
「炎よ……『バーン』」
地面に向かって炎を放った瞬間。
「業火よ……『フェルバーン』」
突如響き渡る男性の声と共に、木と木の間から激しい勢いで炎の波が襲い掛かる。
「わ、わわわ!」
(危ない!)
ファルマがヒータを慌てて背に乗せ駆けだす。
ヒータが放った魔法が一瞬で謎の魔法に飲み込まれ、業火となりその場で消えた。
「な、何なの一体」
ヒータが困惑しながら辺りを見回すと、森の中から白い髪の毛の女の子と黒髪の男性が現れる。
「ウィザルド様の魔法、相変わらずですね」
白髪の少女がウィザルドを褒めるが当の本人は首を横に振る。
「いやいや、もうちょっと火力をコントロールできたはずだ。まだ俺も修業が足りないな」
そんなことを話しながらウィザルドと少女がヒータのもとにやってくる。
「いきなりの無礼、すまなかったな」
(ウィザルド様、今のは一体どういうつもりですか!?)
ヒータを背に乗せたままファルマがウィザルドに向かって怒鳴りつける。
当のウィザルドは少し申し訳なさそうにしながら頭を下げる。
「いやいや、魔法の訓練をしていたみたいだから、俺もちょっと炎の魔法を放って手本を見せようとしたんだが」
(何も俺たちに向かって不意打ち気味に放つ必要はないでしょうが)
「すまんすまん。つい心が抑えきれずな」
ヒータの方はぽかんとしながらそのやり取りを見ていた。
少女の方は黙り込んで1人と1匹の会話を見守っていた。
「そういや記憶がなくなっているとクロキから聞いたな……なら、ここは初めまして、だな。俺はウィザルド」
「あ、私はヒータって言います」
自己紹介をされたのでヒータも反射的に名を名乗る。
そしてこの人が何度か話で聞いたウィザルド様、と思い顔を何度も見直す。
「こら、ウィザルド様の顔をそんなにまじまじと見つめるな」
「構わないよ。それよりも君もちゃんと自己紹介を」
ウィザルドが窘めると、白髪の少女が少々不服そうにしながらも頭を下げる。
「初めまして。ウィザルド様の一番弟子、ハクロウと申します。以後お見知りおきを」
それだけを言い残すと再びヒータをじっと見つめる。
「あ、よろしくね」
「……どこを見てるんですか?」
ハクロウに少しだけ不機嫌そうに言われ、ヒータが慌てて顔を上げる。
「ハクロウさんって何歳ですか?」
「14歳だが、それがどうかしたのですか?」
(14歳で、あの大きさ)
今のヒータの姿、ましてや転生する前の穂村の時でも、あの年齢であの胸の大きさはおかしいと思う。
推定Fカップはあるよね、あの胸。
ヒータがそんな不埒なことを考えていると、ウィザルドが咳払いをする。
慌ててヒータがファルマの背中から降り、びしっと背中を伸ばす。
一応お偉いさんらしいから使い魔に乗りながら会話をするという失礼なことをするわけにはいかなかった。
「まあそう固くならなくていい」
「は、はい。ところで、こんな所まで何の用事でしょうか?」
記憶を失った自分のもとにやってくるのだ。
だとしたらただ世間話をしに来た、というような軽さではないはずだ。
「うむ。クロキから話を聞いたが、他の憑依装着と違い記憶を失い、さらには『炎王』と呼ばれるモンスターカテゴリ、という名の力を身につけたそうじゃないか」
「はい」
となると、デュエルの腕試しをしにきたのだろうか。
だがウィザルド様は一切デュエルディスクを構えようともしない。
「あの……デュエルの申し込みをしにきたのではないのですか?」
「いや……まあ……デュエルの準備をしたまえ」
デュエルの準備?
となると魔力でデュエルディスクを出現させてっと。
「ふっ」
だが、ウィザルドが手をかざした瞬間。
一瞬でヒータのデュエルディスクがパキンと嫌な音を立てて砕け散り、空中で消滅する。
「なっ……!?」
「デュエルディスクなどという小道具に頼らねばデュエルの準備も出来ない。まだ魔力が未熟な相手と俺はデュエルしてはいけないとクロキに言いつけられてる」
ウィザルドは大きなため息をつきながら呟いた。
いきなりデュエルディスクを壊された上にそのような態度。
確かに魔力で作り上げたものだからまたすぐにデュエルディスクは作り直せるが。
「なら、ウィザルド……様はどうなんですか」
一瞬呼び捨てにしようとしたところでハクロウに強い目線で睨まれたため、慌てて様を付けた。
「ふむ、なら見せるとしようか」
ウィザルドが右手を前に差し伸べる。
右手に闇の球体が現れ、その中からデッキが現れる。
そしてそのデッキをテーブルに置くかのように空中に置く。
「わぁ」
(マジかよ)
ファルマ君も驚きながらその様子に見る。
デッキはまるでそこにテーブルがあるかのように宙に置かれていた。
「では、ちゃんとデュエルが出来るかどうかを見せてみようか」
そしてデュエルを開始するかのように5枚を引き、それぞれのカードを並べていく。
「降臨せよ」
そして見たことがないドラゴンが書かれたカードがモンスターゾーンに置かれると、デュエルディスクを介していないのにカードに書かれたドラゴンが実体化した。
「さすがはウィザルド様」
その様子を見ていたハクロウが満足そうに笑うとウィザルドがデッキを片づける。
「まあこんなものだ」
「すごーい」
先ほどデュエルディスクを砕かれた恨みよりも、凄い物を見せてもらった興奮でヒータは胸が躍っていた。
「別次元に存在しているという初代決闘王と呼ばれる者は今でこそデュエルディスクを使っているが、最初の決闘の時『闇のゲーム』と呼ばれるデュエルを行い、闇の力でモンスターを実際に具現化させたそうだ。そして倒した相手に『罰ゲーム』を行い『死の体験』をさせたという伝説がある」
どこか遠い目をしながらウィザルドが呟く。
「無論、君も魔力の修業を高めればいつかはデュエルディスクなどなくてもモンスターや魔法・罠カードを実体化させてデュエルが出来るようになる。その時になったら、思う存分君とデュエルがしたいものだ」
「はい、その時はよろしくお願いします」
ヒータがぺこりと頭を下げるとウィザルドが笑いながらヒータを見る。
そして、その横でハクロウがむすっと不機嫌そうな顔をしていた。
(いやいや、デュエルを挑む気でないのなら一体どんな用事でおいらとヒータの元に訪れたのですか?)
そしてファルマがウィザルドに質問する。
「おっと、そうだったそうだった」
ウィザルドはそう言いながらがヒータの方を見る。
「ここ最近、紋章軍の襲撃や変な合体された魔物と戦ったりと色々と大変なことになっているらしいじゃないか」
確かにその通りだ。
だが、少しだけ気になるところがある。
「あれ、紋章軍に襲撃を受けて記憶を失ったということはクロキ様に教えたから、クロキ様を通じて知ったというのなら分かります。ですが、変な合体をされた魔物と戦ったことを教えた覚えはないのですが」
ヒータが尋ねるとウィザルドはしまったという顔をする。
それを見ていたハクロウがはぁとため息をつく。
「実は、ウィザルド様は先ほど述べたように記憶を失った代わりに『炎王』の力を得たあなたのことを気に掛けていたのよ。で、あらかじめ私に命じて、決してあなたに気づかれないように、ということを条件として、あなたの様子を見に行くよう命じられたのよ」
「そうだったの!?」
実際、あの時エリアと変な魔物以外の気配を感じなかった。
その時あの場にいたというのなら、気配を隠すのが完璧だったということだ。
ヒータが驚きを隠せないでいるとウィザルドがハクロウに変わって話を続ける。
「で、変な魔物と戦ったと聞いた。もしかしたら君の力を狙って紋章軍以外の変な連中が動き始めてるのかもしれない。そう思ってね」
ウィザルドはそこまで言うとヒータの顔を見る。
「さっきから随分失礼な態度を取って言うのもあれだが、君を俺の弟子として迎え入れ、敵の様子を伺う、ということをしたいのだが」
「私をウィザルド様の弟子に!?」
唐突にそんな話になるとは思わず、思わずヒータが面食らう。
ファルマも同様だったらしく、驚きの顔を浮かべている。
「君の記憶を取り戻す手伝いもするし、魔法の訓練も見てあげるし、先ほどと同じようにデュエルディスクに頼らない次元のデュエルが出来るように鍛えてもあげよう。無論、強制はしないが」
ウィザルドは真剣な顔で言うが、隣に立つハクロウはやはり不服そうにしていた。
(ヒータ、どうするんだ?)
「え、えっと……」
急に弟子に誘われてもさすがに驚きの方が強くて、今すぐ答えを出せと言われても困る。
「ええい、まだるっこしいわね。ウィザルド様がわざわざ弟子に迎え入れようとしてるのに、その態度は一体何なの!」
「ハクロウ」
ウィザルドが一瞬ハクロウを睨みつける。
実際睨まれたわけではないヒータもファルマも『恐怖』を覚え、びくっと体を震わせた。
当然睨まれた本人であるハクロウは一瞬で黙り込んだ。
「……だったら、まずはウィザルド様の一番弟子である私があなたの力を確認させてもらうわ」
だが、顔を上げるなりそう言いヒータを見る。
「ふむ」
「さぁデュエルディスクを構えなさい」
ハクロウも左手に闇の靄を溢れさせ、デュエルディスクを出現させそれを装着する。
(どうやらあの子もまだウィザルド様とデュエルは出来てないんだろうな。で、きっと私が弟子になったら修行の時間が減ると思ってるんだろうなぁ)
ヒータがそんな風に解釈はするが、きっと何を言ってもハクロウはそれを聞きはしないだろう。
ヒータは意を決っし、先ほど破壊されたデュエルディスクを改めて魔力で出現させ、装着する。
「どうやらやる気になったみたいね。さぁ、ウィザルド様」
「……どうやら止まる気はないみたいだな。ヒータ君、悪いけど彼女のデュエルに付き合ってもらえないか?」
「はい、分かりました」
実際高名な魔法使いであるウィザルドの一番弟子であるハクロウがどのようなデュエルをするのか興味もあった。
「「デュエル」」
「先攻は私のターンね。私は手札の『未界域のビッグフット』の効果を発動。あなたは私の手札をランダムに1枚選んでそれを捨てる。それがビッグフット以外ならビッグフットを特殊召喚した後デッキから1枚ドローをする」
え、何その特殊召喚方法。
ヒータが戸惑いつつも一番右の手札を選ぶ。
「捨てられたのは『未界域捕縛作戦』。よってビッグフットを特殊召喚して1枚ドロー」
ハクロウの前に巨大なゴリラのような魔物が現れる。
そういや前世の時、弟が退屈しのぎにと持ってきた本に『UMA大発見!?』というタイトルの本があって、未確認生物の1体にビッグフットというものがいたなということを思い出す。
「あんな簡単な特殊召喚方法で攻撃力3000のモンスターを特殊召喚するなんて」
「さぁ『炎王』がどのような力かは分からないけど、私は持てる力であなたを迎え撃つ。かかってきなさい」
ハクロウの好戦的な顔を見てヒータも思わず笑う。
どうやら、興奮するようなデュエルが出来そうだ。
「クロキ」
「マーコか、どうした」
クロキの住んでる屋敷にマーコが訪れ、お互い向かい合う。
「ウィザルドはどこにいるの? クロキと一緒につい最近現れた変な魔物について話をしたかったんだけど」
「変な魔物? ウィザルドに関しては今日も出かけていないぞ」
「まったく……あの男はいつも自由気ままなんだから」
「まあ魔法使いたる者自由な心の持ち主の方が魔力が安定するからな。咎めるわけにもいかないさ。それに何か問題があったのならあいつが自ら首を突っ込むさ」
クロキがどこか面白そうに言うがマーコははぁとため息をつく。
「大変です、クロキ様!」
突如メイド服を着た女性が慌てた様子で部屋へと駆け込んできた。
クロキもマーコもその女性を見て何事かと尋ねる。
「一体何があったんだ?」
「突如珍妙な見た目をした魔物が現れ、イースタウンを襲っているんです!」
報告をしているそのころ。
『ギガガガガガ』
上半身が『ダーク・ダイブ・ボンバー』。
そして下半身が『サイバー・エンド・ドラゴン』。
それが無理にネジで結合された魔物『爆永結合ダーク・ダイブ・エンド・ドラゴン』がイースタウンの上空で爆撃を行う。
『マホウツカイ……オレタチのリスペクトにハンスル……ワレラノリスペクトにハンスルノナラ、バク☆サツ、シテヤル』
不格好な機械竜の魔物は、間違ったリスペクトを垂れ流しながら魔法使いの民たちを襲っていた。