ヒータに生まれ変わった少女―生命を燃やす物語   作:ヴィルティ

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私の暮らす世界

(怪我は大丈夫か? 足、疲れてないか?)

 

ヒータとなった私。

要するに、私はファルマ君が知ってるヒータではない。

他人の人生を乗っ取ってしまった私のことに一切気づかず、ファルマ君は私のことを気遣ってくれている。

記憶喪失だと誤認しているが、実際はヒータの姿を借りた別人なのだ。

 

それを知らず、ファルマ君は家に戻るまでの帰り道、私のことをずっと気遣ってくれている。

なんか騙しているみたいでいい気分ではない。

それに、この姿になってしまったということはおそらく前世の私は死んでしまったのだろう。

お父さんやお母さん、優は私の死を悲しんでくれているのだろうか?

 

(ヒータ、なんか表情優れないぞ? やっぱり崖から落ちた際どこか怪我を)

「ううん、大丈夫。心配かけてごめんな」

 

やっぱり顔に出ていたみたいだ。

うん……前世の『花崎 穂村』は死んでしまって、今は『憑依装着―ヒータ』になってしまったんだ。

乗っ取ってしまった『憑依装着―ヒータ』さんの分まで、立派に生きなければならない。

それが死んでしまって体を乗っ取ってしまった私に課せられた責務だ。

 

(まあ、記憶はゆっくりと戻していけばいい。それに、記憶が戻らなくたっておいらだけはずっとヒータの味方だからな)

 

嬉しいことを言ってくれる。

ファルマ君の頭と背中を撫でてあげると、彼がじっと私を見つめる。

前世のヒータはこんな事をしなかったのだろうか?

 

(ヒータ、やっぱり優しいな。おいらを撫でる手つきは全く変わってないな)

 

良かった。

どうやらこの体に染みついた動きみたいなものは変わっていないらしい。

それならファルマ君との生活もなんとかやっていけそうだ。

 

それから少し歩いていくうち、森の中に入る。

道はちゃんと整備されていたが、現代みたいなコンクリートの道路ではなく、人や獣がちゃんと歩ける程度に道が剥き出しになっているといった感じだ。

 

(もうちょっとだから頑張れ、ヒータ)

「うん」

 

ファルマ君が慣れた感じでとことこと道を歩く。

しかし森から少し離れた場所に崖があるなんて、なかなかクレイジーな場所にヒータは住んでいたんだね。

現代日本、しかもここ数年病院生活をしていた私にはなかなか新鮮な光景だった。

 

「ふぅ」

(疲れちゃったのか? まあしょうがないよな、崖から落ちた挙句、デュエルをこなしてしかも山道を歩いているんだからな)

 

無意識にこぼれたため息も聞き逃さない。

ファルマ君は本当にヒータのことを思いやってるんだな。

狐の顔から表情を読み取るなんてことは前世ですら経験はないが、それでもこの顔は心配してくれている顔つきだというのはなんとなく分かる。

 

(あと少しだから辛抱してくれよな。家に着いたら休んで食事もとってしっかり眠ろうぜ。そうすりゃ疲れもとれるし、いずれは記憶も戻るというものだ)

「うん、分かった」

 

どうやらあとちょっとらしい。

にしても前世でこんな山道を歩くなんて経験がない。

どうやらヒータは結構体力があったのだろう。

疲れこそしているが、足が棒になって歩けなくなるほどではなかった。

 

 

それからまたしばらく歩くと、少し開けた場所に出た。

その中央にぽつんと家が一軒建っていた。

私の実家よりも少し小さいぐらいだろうか。

 

(到着したぜ、ヒータ)

「ここが私の家?」

(そうだぜ。ここでおいらとヒータは暮らしているんだ)

 

家の前まで歩いたところで、ファルマ君はじっと私を見つめる。

 

(そういや鍵……ヒータ、上着のポケットを探してくれないか)

 

上着のポケット。

とりあえず思い当たる場所をいくつかまさぐる。

そのうちの1つの中に銀で出来た鍵が出てきた。

 

(良かった、崖から落ちる+デュエルをする+山道を歩くの3連コンボで鍵をなくしてしまう可能性もあったからな)

 

あ、危ない。

せっかく山道を歩いてきたのに、また戻って鍵を探す羽目にならなくて済んだ。

 

(まあ無事に鍵が見つかったなら良かった)

 

さすがに記憶がなくても鍵を使うことぐらいできる。

鍵を扉に差し込みガチャリと音がして扉が開く。

 

(ただいまだぜー)

 

ファルマ君はとことこと家の中を歩いていく。

木造ながらちゃんと住む環境は整っているみたいだ。

ファルマ君が歩いていった場所はおそらく居住空間だろう。

小さな机と椅子がおいてあり、部屋の少し隅っこには今ファルマ君が横になっているベッドらしき物体があった。

 

(ふー、今日はなんて日だ)

 

ファルマ君はすでにくつろいでいる。

まあ狐があれだけの険しい道のりを歩いて疲れないわけないよね。

私も椅子に座りゆったりとくつろぐ。

そういや電気は……上にちゃんと電灯と紐がある。

どうやら原始的な生活をしているわけではなさそうだ。

 

「よいしょっと」

 

ようやく足を休めることが出来る。

にしても……改めて体が落ち着くと色々と考えてしまう。

どうしてヒータになってしまったのか。

これからどうすればいいのか。

この世界は一体どういう世界なのか。

 

(ヒータ、ここに来るまで何か思い出したことはあったか?)

 

ファルマ君は少しだけ何かを期待してる顔つきをしている。

だけどその期待を裏切ることになってしまう。

 

「……ごめん」

(そっか。ま、紋章軍の連中に追われて崖から落ちてなんとか無事に逃げ切れたんだ。命があるだけいいと思わねーと)

 

そういや紋章軍と呼んでいたあの男はいったい何者だったのだろうか。

この世界でヒータが敵対している組織みたいなものなのだろうか。

 

「ファルマ君、良ければ私にいろいろとこの世界のこと、教えてくれないかな?」

(もちろんいいぜ……と言いたいところだけで、おいら腹が減っちゃったよ)

 

そういえば。

すでに日も落ち始めて夕暮れになり始めている。

お腹も空いている感じだ。

 

(じゃ、台所行こうぜ)

 

ファルマ君はベッドから飛び降り、私をじっと見る。

こんなところまでファルマ君の手を借りなければいけないとは。

ヒータの肉体に私が憑依してるみたいな感じなんだから、少しぐらいヒータとしての記憶が残っていてもいいのにと思う。

 

(ここが台所だ)

 

台所にはちゃんと蛇口や流し、小さいながらコンロもある。

冷蔵庫もちゃんと置いてあり、中を開く。

中にはラップで包まれているお肉などが保存されていた。

 

(この肉、おいらの大好物なんだ)

 

お肉を包んでいるラップを外し、適当に皿を取り出して乗っける。

 

「あ、もしかして焼いた方が良かった?」

(あ、そっちの方がいいな。というか調理とかそういう記憶だけは残ってるんだな)

 

それは前世の経験と言いますか。

一応中学生の頃はお母さんのお手伝いをして料理はやった経験がある。

高校になる前に癌が発覚して、そこから病院生活が始まったんだ。

 

いや、今はすでにヒータになってしまっているんだ。

切り替えていかないと。

 

とりあえずフライパンは見つけたからコンロに火をつけてっと。

火の力を操れるようになったとはいえ、こういったところは文明の利器を使った方が楽なのは変わらない。

フライパンに肉を載せ焼いていく。

思えば病院では味気のない病院食ばっかりだったから、焼いた肉を食べるのは本当に久しぶりなのか。

お米も欲しくなるけど、ま、それは贅沢というものだ。

 

(いい匂いがしてきたぜ)

 

ファルマ君の言う通り、肉の焼ける匂いが台所に充満する。

お腹が空いていたのもあって匂いがさらに空腹感を助長させる。

早く焼けて食べたいものだ。

 

そういやこれ何の肉なんだろう?

 

「ファルマ君、これ何の肉?」

(ん? アウスが差し入れてくれた『トッポロ牛』の肉だぜ)

 

トッポロ牛?

そんな牛は聞いたことがない。

けど、この肉の匂いは確かに牛肉の匂いだ。

なら別に食べられないものというわけではないのだろう。

 

焦げる前にお皿に移し替え、居間に運んでいく。

 

「いただきます」

(いただくぜ)

 

聞いたことがない牛の肉だが、いざ実食。

うん、美味しい。

前世での数年間、病院食ばっかりで肉が久しぶりというのもあってか、牛肉の柔らかさと脂汁が体に染みわたっていく。

 

(うめぇうめぇ)

 

ファルマ君も焼けた肉をがつがつと食べている。

その豪快な食べっぷりは見ていて気持ちがいい。

せっかくのお肉なんだ、もっともっと味わいたい。

 

「おいしい」

(うん、やっぱ肉は最高だな)

 

ファルマ君に同意だ。

肉のジューシーさは体に満足感を与えてくれる。

しかし、楽しい時間というものはすぐに終わるというものだ。

お腹も空いていたのもあってパクパクと食べてしまい、皿に乗っていたそれなりの量の焼いた肉はあっという間になくなってしまった。

だがさすがは肉のボリューム、お腹は十分に満たされた。

毎日こんなものばっかり食べてたら太るかもしれないが、まあ明日から考えるとしよう。

 

(お腹いっぱいだぜ)

 

ファルマ君はベッドでごろりと横になる。

そういやちゃんと寝る場所というのはあるのだろうか。

椅子から降り、ファルマ君の分の皿も回収して台所に持っていく。

スポンジで皿を洗い、乾かせそうな場所に皿を置いておき居間に戻る。

 

……そういやこの世界にはTVというものはないらしい。

この世界の情報を知るための媒体が何かないだろうか。

 

「ファルマ君」

(ん、どした?)

「新聞とかそういうのないかな?」

(ひ、ヒータが文字の付いた物を積極的に読みたがるだと!? 『魔法はフィーリングだ』なんて言って、魔導書すら読むのをさぼりたがるヒータが!?)

 

そこまで驚くことか。

というかさりげなく魔導書とか言ってたけどやはりこの世界だとそんな物があるんだな。

魔導書とやらも興味からすっごく読んでみたい。

だけどもヒータのこの性質上、本とかそういった物はないんだろな。

思えば今も机に椅子、それから時計のみとシンプルなものしか居間に置いてないし。

 

(記憶喪失ってすごいんだな……)

 

なんか変な所で驚愕しているねファルマ君。

まあこの際書物から情報を集めるのは諦めよう。

 

「ならファルマ君からこの世界の成り立ちとか色々と聞きたいんだけど」

(う、うん分かった。おいらが知ってる限りで教えるぜ)

 

ファルマ君はどこから話したものかとベッドの上で首をひねる。

 

(まあおいらとヒータが住んでいるこの小屋は『アキネ国』の『イースタウン』から少し外れた森の中にあるんだ)

 

アキネ国の、イースタウンね。

町から少し離れた場所に森があって、そこから少し歩くと崖があるってどんな地形だ。

 

(おいらとヒータ、それから他にも『霊使い』が使い魔たちと過ごすことで『憑依装着』という形態に進化し、みんな別々の場所で暮らしているんだ。さっきアウスって言ったけど、ヒータの知り合いなんだぜ)

 

そういや他にも『地霊使いアウス』『水霊使いエリア』『風霊使いウィン』『光霊使いライナ』『闇霊使いダルク』とかがいたっけ。

本来『火霊使いヒータ』なんだけども、ファルマ君がいるから『憑依装着―ヒータ』という姿に進化できているのだろう。

他の皆もファルマ君の口ぶりからして皆『憑依装着』に進化しているのだろう。

 

「さっき私に襲い掛かってきた『紋章軍』ってのは一体?」

(ああ、ここ数年間『アキネ国』はこの『アールグレイド大陸』の大きな国『エルモンド帝国』に戦争を仕掛けられてるんだ。アキネ国は魔法が発展してる国だからな、その力を欲しがってるんだろうな。『紋章軍』はその中でも『No』なんて呼ばれてるカードを使い、魔法使いたちに対抗できる手段を持っている連中なんだ」

 

なるほど。

私たちはアールグレイド大陸のアキネ国で過ごしている。

そこは魔法の力で発展した国。

だが、エルモンド帝国はその魔法の力を我が物にしようとしている。

エルモンド帝国が魔法に対抗するための力が『紋章軍』ということか。

 

(おそらくヒータが狙われたのは炎の力を使い、炎に縁がある魔物たちも使役することが出来る可能性を秘めた魔法使いだからな。他の『憑依装着』の皆も狙われてる可能性があるぜ)

「あれ、それならなんでみんなで一緒に過ごしてないの?」

 

狙われてるのなら、防衛力をまとめておいた方がいいはずだ。

なのにこんなひっそりとした場所にばらけて過ごしているなんて効率が悪すぎる。

 

(もし全員が同じ場所にいて、襲撃を受けて全員囚われて力を利用されるなんてことになったら大問題だろう? なら、1人が捕まってもすぐに他のみんなが助けに行けるように、という風にアウスが考えて、こうやって別々に暮らしているんだ)

 

なるほど。

皆まとめて捕まって助けの手段がなくなるよりは、もし1人が捕まっても他のみんなが助けに行けるようにバラバラで過ごしている、か。

それもそれで不安かもしれないが、助けが来るって分かってるだけ気分はまだ少しはマシだろう。

 

(とりあえず今の情勢はこんな感じかな。で、今日おいらとヒータがイースタウンに行った帰りにたまたまイースタウンに探りを入れていた『紋章軍』の下っ端の1人に出会って追い回されて……ヒータが崖から落ちたときはもうダメかと思ったぜ)

 

ファルマ君がベッドから降りて座っている私の膝の上に乗る。

 

(記憶を失っても全然いい。ヒータがいなくなったらおいらは生きていけないよ)

 

懇願するような声色に反応し、彼の頭を撫でてあげる。

気持ちよさそうに目を閉じ、ぎゅっと抱き着いてくる。

きっといきなり胸を揉んできたのも、ファルマ君なりのスキンシップの形だったのだろう。

 

「ありがと。でもいきなり胸を揉むことはなかったんじゃない?」

(でも、ヒータの体で柔らかいところってそこぐらいしかないし。一回お腹を揉んでぷにぷにしてるなんて言ったら胸を揉んだ時以上に怒られたし)

 

そりゃ女の子にとって禁じられた言葉を言えば怒られるに決まっている。

どうやらファルマ君は女の子に対するデリカシーがないみたいだ。

 

「うーん、ならほっぺとかどうかな」

(なら失礼)

 

ファルマ君の手でほっぺをむにむにされる。

肉球がそれなりに固いけど、まあ別に気持ち悪いわけではない。

 

(確かにむにむにしてるなぁ。でもヒータのいろいろな所触りたいし、ごめんな)

 

まあ、エロくてキモイオッサンに触られるわけじゃないし、少しぐらいは割り切ろうかな。

それに狐も見慣れてくるとなかなかいいものだし。

 

(まあとりあえずおいらは少し疲れたから寝る……けど、ヒータ、寝室の場所分かる?)

 

黙り込んでしまうと、ファルマ君が膝から飛び降り、電気を消すように告げてからてこてこと居間から飛び出していく。

本当、彼には迷惑ばかりかけてるな。

 

 

居間から少し離れた場所にある部屋に入るとベッドがあった。

 

(ここがヒータの寝室。たまにおいらを抱いて寝る時があったけど)

「なら、今日はファルマ君と一緒に寝ようかな」

(そっか。食事も終わって、一杯歩いて疲れたし、何よりヒータは崖から落ちたんだ。体の内側が傷ついてるかもしれないし、かなり早いけどもう寝ようぜ)

 

確かにお腹もいっぱいになって眠気もやってきた。

それに今日色々なことが起こりすぎたせいで精神的にも少し疲れた。

ベッドに入るとファルマ君もベッドに飛び乗り、布団の中に潜り込んできた。

毛並みがほくほくとしており、暖かい。

 

「おやすみなさい」

(おう、おやすみ)

 

本当にいろいろなことがあったなぁ。

でも、今は疲れた。

眼を閉じるとほとんどすぐに意識が離れていった。

 

 

こうして、ヒータに生まれ変わった少女、花崎 穂村の新たな生活がスタートしたのであった。

 

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