ヒータに生まれ変わった少女―生命を燃やす物語 作:ヴィルティ
「…………」
エリアとヒータのデュエルが始まったころ。
「……あの娘……『異物』か」
左半分が白色、右半分が黒色で塗られた仮面を被った何者かはヒータの顔を見ながら呟く。
「『異物』には……『異物』を……我こそが、正しい歴史を司る」
何者かは手に握りしめた硬貨のような物を空中に放り投げる。
『神属』
『黒牙』
硬貨が空中で混ざりあい、そこから異形の化け物が登場する。
上半身が槍を持つ獣人、そしてその下半身は黒き竜の姿となっていた。
「神の従属……反逆を持つ牙を得て、神に歯向かうことが出来る力を得た……さぁ、神はこの生命体を見放すか、それとも……」
何者かは苦し気な雄たけびを上げ歩いていく異形な化け物を見つめ、笑い声を漏らしていた。
「私のターン」
デュエルはエリアの先攻で開始された。
「私は手札から『アトランティスの戦士』を捨てて効果を発動します。デッキからフィールド魔法『伝説の都アトランティス』を手札に加えます。これはルール上『海』として扱うけど、アトランティスの戦士はルールを超えるのです」
「???」
えーと、どういうことだろうか。
確かにあのカードは『伝説の都アトランティス』だ。
だけどもルール上で『海』として扱われているということは、あのカードを含めて『海』は3枚しか入れられない。
つまり『伝説の都アトランティス』なんてカードは存在していないはず。
でも、あの戦士は『伝説の都アトランティス』というカードを手札に加えて……
(ヒータ、考えても答えは出ないぞ。あれはそーゆーカードなんだ)
ファルマ君がちゃんと説明してくれた。
まあ、要はするにルールを超越したカードってことだね、そういうことにしておこう。
「そして『伝説の都アトランティス』を発動。このカードは水属性のモンスターの攻撃力を200アップさせ、そして手札の水属性モンスターのLVを1つ下げることが出来る。この効果で手札の『ギガ・ガガギゴ』をリリースなしで召喚!」
緑色の体が映える色合いの鎧を包んだ半魚人だ。
でも、どこか苦しそうに見えるのはなんでだろう?
「アトランティス、もとい『海』の効果で攻撃力2650のモンスターだ……それがリリースなしで召喚されるなんて」
「ふふん、どーかしら? さぁ、かかってきなさいヒータ。私はカードを1枚伏せてターンエンドですわ」
エリア LP8000
モンスター:ギガ・ガガギゴ
魔法・罠:セットカード1枚
フィールド:海(伝説の都アトランティス)
手札:2枚
さて、いきなり攻撃力2650のモンスターがリリースなしで召喚されたけども。
「私のターン、ドロー」
私にだって、高い攻撃力のモンスターをいきなり呼び出す手段がある!
「私は魔法カード『炎王の急襲』を発動! 相手の場にモンスターが存在して私の場にモンスターが存在していなければ、デッキから炎属性の鳥獣、獣、獣戦士族モンスター1体を特殊召喚できます」
「え、炎王!?」
エリアはなんか驚いた顔をしている。
本来のヒータはきっと『炎王』なんて使ってないから、これが初めての戦いになるのだろう。
「さぁ、今回も頼むよ! 『炎王神獣ガルドニクス』をデッキから特殊召喚!」
炎を身に纏い、翼をはばたかせ神獣が空を舞う。
「すごい……水を司る私が圧倒されそうな炎の力……あなた、いつの間にそんな力を」
「えーと、つい数日前。記憶を失って、その代わりにこのカードたちが来てたんだ」
「記憶を失って……?」
あ、言っちゃった。
そしてエリアは驚きと戸惑いが入り混じった顔で私とガルドニクスを交互に見てる。
「なるほど、記憶を失ったというのならさっきまでのあなたの態度にも納得がいくわね」
あれ、さっきまでまったく話を聞こうともしてなかったのに。
それなのにデュエルの最中に話を始めた瞬間、ちゃんと会話のキャッチボールが成立するようになった。
デュエルって、ちゃんと会話を成り立たせる効果もあるんだ。
「そしてその『炎王』が記憶と魔法を使う才能を失った今のヒータが得た力、というわけね。面白い」
エリアちゃんは特にひるむこともなく、むしろやる気満々といった顔になった。
「その素晴らしい炎の魔物を操れるようになった今のあなたを倒し、そこからヒータの記憶を取り戻して私に対する対抗心も取り戻させれば、私の最高にして最大のライバルになるというわけね」
えーと、どうしよう。
会話が成り立つようにはなったけど、イマイチ何を言ってるのか理解しづらい。
(ヒータ、大丈夫だ。エリアは元々ああいう子だ)
ファルマ君も少し呆れた顔でエリアを見てる。
きっと自分の中で結論を出して我が道を行く子なんだろうなぁ。
「なら、まずはデュエルでぶつかりあって、記憶を取り戻させてあげる。炎と水がぶつかりあえば激しい水蒸気爆発が起こるように、お互い戦えば記憶も戻るぐらいの強い刺激を受けるはず」
……もし今の彼女に、私はヒータではなくて別の世界で死んだ人間の意識がヒータという子に宿ったんですよって言ったら、どんな反応をするんだろう?
きっと強いショックを受けて、今の私を激しく拒絶するだろう。
そして下手すると、今の私の意識を排除すればヒータは戻ってくると言って、憎悪すら向けかねない。
それは傍にいるファルマ君も、もしかしたら同様かもしれない。
参ったなぁ。
私の本来の生い立ちをおいそれと話せなくなっちゃった。
「……とりあえず、私のターンを進めていいかな?」
「うん、いいよ。今のヒータの力をぶつけてきなさい」
今はこのデュエルを乗り切ることを考えよう。
勝っても負けてもおそらくエリアは力を出し切ったと言って満足してくれるはず。
「私は『炎王獣バロン』を召喚!」
般若のような面をかぶった獣戦士がガルドニクスの隣に並び立つ。
「バトル! 『炎王神獣ガルドニクス』で『ギガ・ガガギゴ』に攻撃!」
ガルドニクスが羽ばたく。
翼に纏っていた炎が羽ばたくと同時にガガギゴに降り注ぐ。
「がああああああ」
ギガ・ガガギゴは炎に包み込まれ、苦しそうな雄たけびを上げて消滅していく。
「いいわ、もっと来なさい」
エリア LP8000→7950
自慢のモンスターがやられたのに臆するどころか闘志を燃やしてる。
ヒータのことをライバルとして見てるし、そして戦うことで記憶を取り戻そうとしてるからそのような態度をしているのだろう。
そんな子の目の前に立っている今の私は、決してヒータではない。
「バロン!」
心の中で渦巻いている考えを消すようにバロンに攻撃命令を下す。
バロンは私の命令に従い、爪でエリアの胴体を切り裂く。
「やるわね」
エリア LP7950→6150
エリアは特に動じた様子もなく平然と立っている。
(そうか……相変わらずあいつはエリアの盾になってるのか)
あいつ?
そういや『憑依装着―エリア』に付き従ってる使い魔の姿が最初から見えていない。
(そうなら容赦はいらねー。思う存分おいらたちの全力をぶつけてやろうぜ)
そしてファルマ君も何かを納得したかのようにやる気満々になる。
「メイン2、私はカードを2枚伏せてターンエンド。エンドフェイズに急襲の効果で特殊召喚したモンスターは破壊される」
ヒータ LP8000
モンスター:炎王獣バロン
魔法・罠:セットカード2枚
手札:2枚
「まあさすがにデメリットがないわけないわよね。私のターン、ドロー」
エリアがカードを引き、スタンバイフェイズになった瞬間墓地が燃え上がる。
「な、何!?」
「ガルドニクスが破壊されたスタンバイフェイズに墓地のガルドニクスの効果を発動するわ。墓地からこのカードを特殊召喚して、ガルドニクス以外のモンスターを全て破壊するわ」
バロンがガルドニクスの前で膝をつき、炎に飲み込まれる形で神獣の君臨を見届ける。
同志の意思を継ぎ、神獣が再び私の場に舞い戻ってきた。
「なるほど……デメリットは自身の特殊召喚効果で踏み倒すというわけね。ヒータ、あなたが手に入れた力はもしかしたら、死すらも超える力かも」
「そんなわけねーよ」
平然と言い放つものだから思わずツッコミも雑になってしまった。
っていうか、この口調って……?
「私は魔法カード『古のルール』を発動するわ。手札の通常モンスター1体を特殊召喚するわ。暴走せし力、だけど水の力を司る私があなたを導き、共に戦う。『ゴギガ・ガガギゴ』を特殊召喚」
体の色が赤く変色し、誰から見ても明らかに暴走してる姿。
だが、エリアの姿を確認すると拳を鳴らし、私の方を睨みつけてきた。
「アトランティスの効果も受けて攻撃力3150。さぁ、私の全力の攻撃を受け止めてもらうわよ」
エリアの周りに薄い、水色のオーラが見える。
そのオーラがゴギガ・ガガギゴにも宿っていく。
体が赤色だが、薄い水色のオーラと対比になり、お互いがそれぞれの色の良さを引き出してるように見える。
「行ってきなさい!」
ゴギガ・ガガギゴがその巨体に似つかわしくない速さで走ってきて、ガルドニクスに向かって拳を振り上げた。
(来るぞ!)
「うん」
伏せてあるカードではガガギゴの攻撃を防げない。
なら、これから来る衝撃に耐えようとした瞬間。
『グギャアア』
突如獣と人が織り交ざったような叫び声が聞こえ、ソレが私の目の前にやってきた。
下半身は黒き竜で上半身は……『神獣王バルバロス』!?
でも、私の知ってる『神獣王バルバロス』はあんな姿じゃないし、『神獣機王バルバロスUr』は機械と合体してる姿で、決して竜の体と合体してない。
「な、なんですのあのモンスターは!?」
エリアも驚いた顔で途中乱入してきた化け物を見つめる。
そして化け物はゴギガ・ガガギゴの拳を手にした槍で受け止め、竜の胴体で蹴り飛ばした。
(エリア!)
エリアの体から『ガガギゴ』と呼ばれる魔物が飛び出してきた。
ギガ・ガガギゴ、ゴギガ・ガガギゴと違い目に光が宿っており、正気に見える。
「私の体から飛び出してこなくてもよかったのに」
(いや、あれはデュエル中に特殊召喚されたモンスターじゃない。だから俺が直に止めなきゃいけない)
エリアの前にガガギゴが立ちはだかり、エリアを守ろうとしてる。
そのガガギゴの姿を見てエリアが感激した顔をしている。
いやまあ、さっきもエリアの中に潜んで彼女をデュエル中の衝撃から守ってたからその時点で十分いいモンスターだよ。
『グル』
そしてバルバロスと黒き竜が合体……いや、不自然な形で切断され、切断され合体してる部分はまるで糸で雑に縫い合わされたようだ。
生命を司る神がいたら、こんな命を冒涜したような姿を見て何と思うのだろうか。
(ヒータ!)
そして化け物は私に向けて槍を降り下ろす。
「わ、わわわ!」
あ、危ない。
ファルマ君が間一髪でわたしを乗せて走らなかったら、あの槍に串刺しにされて殺されていた。
『キサマあああああ』
ん?
今、間違いなく言語を喋ったような。
理性すらないモンスターだと思っていたけども。
「ヒータ、どうやら狙いはあなたのようですよ」
「え、私!?」
どうして私があんな化け物に狙われなけれならないのだろうか。
そもそもこの世界でヒータの肉体に憑依して数日しかたっていないのに。
「ファルマ君、紋章軍ってあんな化け物すらも操れるの?」
(いいや、見たことない。だけども確かにおいらたちが知らないだけで『No.』以外にもあんな化け物を作り出していてもおかしくはない)
どちらにしろ、狙われてるのなら倒さなきゃ。
そしてあの化け物は槍を私めがけて突きさしてくる。
さっきのような不意打ちと違うのならちゃんと回避することが出来る。
「おっと」
『ニゲルナああああ』
いや、逃げなきゃ串刺しにされるからね。
でも、反撃しなきゃ。
「燃えろ……『バーン』」
炎の初級呪文を唱え、あの化け物に向かって炎を放つ。
だが槍の一振りであっさりと炎が搔き消された。
(エリア……あの化け物)
「ええ、気づいてるわ。どうやら望んだ形ではない合体じゃない。力こそ一丁前だけど、動きが異様に鈍いのはそのせいね」
ガガギゴが拳を構え、一気に化け物に向かっていく。
化け物が降り下ろす槍の攻撃を回避し、バルバロスの胴体部分に拳を入れる。
化け物が一瞬ひるむが、竜の部分の尻尾がガガギゴに向かって伸びてきた。
(甘い)
だが動きがノロいせいであっさりとガガギゴに回避された。
「せっかくだし、ヒータ。私の素晴らしき魔術を見ておきなさい」
エリアが眼を閉じて集中を始めた。
『デユラああああ』
化け物もこれから起こるであろう何かを察知したのか、エリアに向かって攻撃を向ける。
(エリアのジャマはさせんぞ)
だがガガギゴがエリアの前に立ちふさがり、そのまま化け物の胴体を掴んで地面に向かって投げ飛ばした。
(相変わらずガガギゴはすげぇや)
私だけじゃなくファルマ君もガガギゴの動きに感心していた。
「あなたに教えてあげましょう、正しい槍の使い方を!」
エリアが眼をかっと見開くと、彼女の周囲に水が集まり、数本の巨大な槍となる。
「貫け、水の槍! 『スパイラル・ランサー・シュート』!」
エリアが叫ぶと同時に巨大な槍が化け物の胴体と両足、そしてバルバロスと黒き竜……『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を無理やり繋ぎ合わせていた糸を断ち切った。
化け物は苦しそうに、だが解放された喜びも含んだような叫び声を上げ、体が闇に包み込まれていく。
「……ん?」
その一瞬、化け物の体から2枚の硬貨のような物が浮かび上がったように見えた。
だがそれはほんの一瞬で消えたため、確証は持てなかった。
「どう、見た? これこそがクロキ様たちにも認められた水の力よ」
そしてエリアが私に自慢するように話しかけてくる。
「うん、凄かった」
お世辞でも何でもなく本心からそう言える程の魔法だった。
さっきまで火の球が出せた程度で喜んでいた私が滑稽に見えるほどだった。
だけど、もし魔法の鍛錬をちゃんとやればあれぐらいの魔法が私にも使えるようになるのだろう。
「そ、そう簡単に褒められるとやっぱり慣れないなぁ。いつものヒータだったら『はん、あたしの方がすげーぞ』って対抗意識を燃やしてきますから……ある意味、このままの方が……いやいや、そんなんじゃライバルとして張り合いがない」
なんか葛藤してるけど、まあ何を言っても聞かないからいいや。
「とにかく『炎王』の力と魔法の力、両方とも鍛えて記憶も取り戻しなさい。そうでなければ張り合いがない。ガガギゴ、帰るよ」
(おう。ファルマもヒータをちゃんと守るんだぞ)
ガガギゴが手を降り、エリアと共に歩いて去っていった。
(エリアはああ言ってたけど、焦らずヒータのペースでやっていけばいいんだからな。おいらはずっとヒータの味方だからな)
「うん、ありがとう」
ファルマ君の背中を撫でながらお礼の言葉を呟くと、ファルマ君は気持ちよさそうな顔で笑顔を浮かべていた。
仮面を被った何者かは、硬貨を2枚握りしめ、ため息をつく。
「神はやはり才無き、力なき者には味方しない、ということか……まあ、それが分かっただけでも良き報酬だ」
何者かが笛らしき何かを吹いた。
それと同時に何者かの周りに光と闇の柱が現れ、それらが何者かと重なった瞬間、柱も何者かもその場から消えていった。
(あの人……一体何者? ウィザルド様に報告しないと)
その様子をこっそりと見届けていたハクロウが踵を返し、胸を揺らしながらその場から走り去っていった。