機動戦士ガンダムDRAGOON 『LAST STARDUST』 作:COTOKITI JP
《UC.0095 10/22》
艦長室。
そこにいるのはアリーナともう1人、顎から縮れた髭を下げた初老の男の2人きり。
「それで、その話は本当なのか? 『アレクシス』整備班長」
彼の名は『アレクシス・ファルカ』。
この海賊団の整備班長を勤めていた。
彼は自らの経歴を語る事が無く、彼がどのような人物なのか知る者はいない。
「間違いねぇ、あの装甲材は……」
ザハール達が盗んだ物は彼らが想像するよりも遥かに重要な代物だった。
「『サイコフレーム』だ……」
「成程、ではあのMS用ジェネレータは?」
それについて聞くとアレクシスは顎髭を弄りながら唸り声を上げた。
「それは詳しくは分からん。 だがあの形状からして『ガンダム・タイプ』のジェネレータである事は確かだ。 それとあんな型は資料でも見た事がねえから恐らく連邦軍の最新型だ」
「流石、
アリーナは机の引き出しからネームプレートを取り出した。
アレクシスの物だ。
「あたりめえよ。 こちとらガンダムは弄り慣れてんだ」
ネームプレートには、『アナハイム・エレクトロニクス開発部』と書かれていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「我々の勝利と!今回の功労者のザハールに!!」
「乾杯!!!」
食堂では団員達がジョッキを手に今回の作戦の成功を祝っていた。
ザハールにしてみれば、開戦当初から色々と余裕の無かったデラーズ・フリートでは祝い事などした事も無かったのでこの光景はとても新鮮だった。
それに自分の名を使って乾杯されることも初めてだ。
初陣でハイパーバズーカでサラミス2隻を沈め、ジェガン2機をシュツルムファウストで撃墜した事を考えれば、必然とも言えるが。
「あの時のお前ぁ凄かったぜ!!」
「ギュンギュン飛び回ってたジェガンにまるで次の機動が分かってたみてぇにシュツルムファウストをぶちかましやがったんだからよ!!」
「もしかしてアレか? 俗に言うニュータイプって奴!」
多くの団員にもみくちゃにされながらジョッキに口を付けるザハール。
「ニュータイプなんかじゃねえよ。 実戦経験を積めばある程度動きは予測できるもんだ。 特に正規の訓練を受けた連邦兵はな」
「だとしてもだぜ!」
それから暫くどうでもいい話が続いた。
飲み始めてから数十分、話題は例の戦利品の話になった。
「あのジェネレータ、最新型なんだろ? どうするんだアレ」
「ウチで使うのか?」
「いや、あれだけの代物、欲しい奴がいないわけないだろ」
「俺の予想だけど、ジオンに売り付けるんじゃねえか?」
「確かに、連邦軍の最新型となればジオンは喉から手が出る程欲しい筈だ」
「戦利品の用途についてはもう決まっている」
食堂が一瞬にして静まり返った。
出入り口を見ればそこにはアリーナがいた。
「カシラぁ、それで戦利品の用途ってのは」
「先程、『パラオ』と秘密回線で交渉を行って来た。 こちらの言い値で買ってくれるそうだ」
そう告げると、食堂にいた男達は「おぉ……!」と喜びの声を上げた。
取引先はネオ・ジオン残党の拠点であるパラオ。
ジェネレータとサイコフレームの両方を言い値で買うと言ってきたのだ。
そんな感じで交渉はあっさりと成立し、明日から海賊団は取引場所として指定された『ハーレーン宙域』に向けて出発するとの事だ。
元より、軍需物資を戦利品として手に入れる事の多かったこの海賊団は昔からジオン軍残党と取引を行って来ていた。
交渉があっさりと成立したのもそういう昔からの関係があったからだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
《UC.0095 10/29》
「面舵50度!両舷強速前進! ヨーソロー!」
「両舷強速前進! ヨーソロー!」
今日も海賊船は宇宙を飛んでいる。
出発からかれこれ7日経っているが、漸くハーレーン宙域は目前まで迫って来ていた。
なにしろ海賊団が使用しているこの輸送艦は元々民間の貨客船を改造した軍艦だ。
正式名は『ヨーツンヘイム級 ミドガルド』。
ただの貨客船に大型コンテナだのMSとMP専用のカタパルトだの熱核ジェットエンジンだの自衛用の低出力メガ粒子砲と対空砲だの装甲に、武器弾薬とその他の物資。
これ含めた諸々を後付けでポンポン取り付けていったら気付いた頃にはもう元あった民間船の面影は無くなっていた。
しかもそのせいで艦の重量も増え、ただでさえ旧式でエンジン出力も足りてないと言うのに余計に速度性能が落ちてしまった。
とはいえ、彼ら海賊団はそのミドガルドの高い輸送能力に今まで助けられて来た。
この輸送艦で運んだ物は数知れず。
時に武器弾薬、時に食料、そして時には違法薬物。
正にこの艦があってこそ海賊団は経済的にも成り立っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「もうすぐハーレーンか」
兵員室のベッドで寝ていたザハールは現在位置を端末で確認しながら呟いた。
因みにツェザリとアーサーは同室だ。
実はこの2人、元連邦軍MSパイロットであり、しかも精鋭部隊である特殊MS小隊の隊員だった。
ここに来た経緯としては、内部腐敗を起こしていた連邦軍を見限り、傭兵として宇宙を彷徨っていた所を海賊団に勧誘されたらしい。
彼ら曰く、「腐った連邦軍やジオンなんかよりも、まだ海賊の方が裏表が無くて良い」だそうだ。
「しっかし『袖付き』かぁ……生で見るのは何気に初めてだな」
「お得意さんとはいえ、ここ数年はめっきり音沙汰無しだったもんなぁ」
「まぁ、お得意さんに死なれちゃ困るからな。 生きてて良かっ───」
唐突に艦内に鳴り響く警報。
それを聞いた途端彼らは弾かれたように動き出し、即座にノーマルスーツに着替える。
ここは宙域の中でもまだジオンの勢力下にあった場所だったが、敵が来たとすれば恐らく荷物を取り返しに来た連邦軍だろう。
ノーマルスーツを身に付けた彼らはヘルメット片手に何事かとブリッジへ向かった。
「来たか、現在この艦より4時の方角から艦艇が2隻接近中。 しかもかなり速い速度だ」
「サラミスじゃないのか?」
「あぁ、カメラの画像解析を行った所、アレは『クラップ級軽巡洋艦』だ」
それを聞いた団員達は大いに驚いた。
今まで連邦軍はこちらをあしらうかのようにサラミス級の警備艇しか対抗戦力として寄越して来なかった。
だが今回彼らを追跡しているのはただの警備艇ではない。
正真正銘の軍艦、軽巡洋艦だ。
「嘘だろ……!」
「新型兵器盗んだから連邦軍を怒らせちまったんだ!」
「クラップ級は確か1隻につき6機のMSを搭載出来たはずだ!」
「それが2隻だと!?」
ざわめき出す団員。
こちらはMSが3機しかない上に相手は軽巡洋艦2隻に随伴のMSが12機もいるのだからたまったものではない。
幾らエースのMS隊でもそれ程の戦力差で生き残れるとは思えなかった。
今回は、いつもは冷静なアリーナも焦りの表情を見せていた。
「落ち着け!! まず、取引は中止だ。 急いでこの宙域を離脱し、連邦軍艦隊を撒く!」
「アテはあるんすかカシラ!?」
「ここから僅か離れた場所に暗礁宙域がある」
ブリッジの地図にはサイド6付近に確かに暗礁宙域が広がっていた。
「この暗礁宙域を通過し、艦隊の追跡を振り切る!」
暗礁宙域は艦1隻通れるか通れないかぐらいのデブリの密度だ。
このまま暗礁宙域に突っ込めば、連邦艦隊はデブリへの衝突を恐れて不用意に追跡が出来なくなる。
これがアリーナの考えだった。
幸いミドガルドとクラップ級の距離はまだかなり離れている。
方向転換し、暗礁宙域に突っ込む時間ぐらいはあるだろう。
「面舵30度! 最大戦速! ヨーソロー!」
「最大戦速、ヨーソロー!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
余談だが、海賊団の強奪によって装甲材のサイコフレームとジェネレータを失った損害は大きく、RX-0ユニコーンガンダムの完成は大幅に遅れる事となる。
そしてやってくる筈だった彼、『バナージ・リンクス』の覚醒の日も当分先となるのだった。
この時、宇宙世紀の歴史はたった1つの海賊団によって僅かか、大きくかは分からないが確かに歪められたのだ。
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