われら感染者が、鉱石病を患っても歩んでいけることの証明   作:缶頭

7 / 13
第6話 フレンズウッド教会 西側出入り口 19:07

 ドーベルマンとジェシカが警察と共同して立てた作戦はこうだ。突入用に用意されたが使われなかった爆薬が大量に残っている。特殊な指向性爆薬で威力そのものは小さく、建物の外壁に人間が突入するのに必要なだけの大きさの穴を綺麗に開けられる。これを三カ所同時に起爆して犯人たちの注意をそらす。実際に使う穴は一カ所だけで、行動予備隊A1が突入して人質を解放する。同時に正面エントランスでは志願した機動隊員が大騒ぎを起こして犯人を誘引。西側入り口からはマトイマルとメテオが切り込む。屋上からはQSSUの残存部隊が攻め入る。

 隠れて外と連絡を取っている人質が記憶力を頼りにカウントしたところによれば、犯人グループの人数は20人に満たない程度でしかないらしい。ホール内の警備が3人、2階の制御室でなにやら作業している者も数人いるらしく――これは犯人の襲撃時に制御室で仕事をしていたスタッフが人質としてホールへ送られ、その人物から聞いたため分かったそうだ――突入部隊に対応できる者はさらに少ない。QSSU隊員の報告には、最初の突入時に二手に分かれて押し入ったところ一方では8,9人がかりで、もう一方はたった3人だけで反撃してきたと書いてある。徹底的に相手を分散させればつけいる隙はある。

 もちろん「そんなごく少数で警察の対テロ部隊を撃退するなんて相手はどれだけ強いんだ」という言い方も出来る。だが腕比べが目標じゃない。燃料棒を奪還し人質を救出する。それが目的であって、立てこもり犯と正面切って戦う必要はない。よしんば戦うはめになっても、とにかく足止めして時間を稼げばそれで十分だ。そのためにも相手にこちらの手の内を知られてはまずい。

 QSSU隊員を屋上へ運ぶため付近の建設業者から高所作業車を借りてきたそうだが、こんなものが教会のそばに乗り付けられては何をするかがバレバレだ。まずは犯人が飛ばしたであろうドローンを撃ち落とし、相手の目を潰す必要がある。30分ほど前に教会の半径300メートルが臨時の飛行禁止区域に指定された。これでもう、法律的には撃ち落とそうが爆破しようが好き放題出来る。民間人が飛行させている機体を木っ端みじんにしたところで損害賠償を請求されもしない。

 エントランスを照らしていた照明車はさきほどから夜の空を照らしていた。時折ドローンの姿が明るく照らし出され、さながら蛍光灯に集う虫のように見えた。

 

「テレビやネットの配信に映っていたドローンを調べましたが、その中に軍用の偵察ドローンが混じっていました。犯人グループが飛ばしたものと見てほぼ間違いありません」

 

 無線を通してオペレーターたちにジェシカの声が響く。

 

「カメラだけでなくESMアンテナをぶら下げているものもあるはずです。とにかく、犯人がどこにどれだけ飛ばしているかが分からない以上、教会周辺のドローン全部を排除してください」

「ちょ、ちょっと待って。いーえすえむって……?」

 

 西側入り口の近くで待機している、矢筒を背負い弓を握って完全武装したメテオが困惑した声で割って入る。機械音痴のメテオだけが知らないのではなく、正直に告白すると隣に立っているマトイマルも何なのかさっぱり分からない。

 

「要するに逆探のことです」

「ぎゃくたん?」

 

 これは思った以上にやっかいだ。ジェシカは頭を巡らせて分かりやすい説明を考える。

 

「えっと、無線やレーダーの電波を傍受して、その電波がどの方角から飛んできたのか、どんな種類の電波なのかを解析して相手の動きをつかむ行為です。1台だけでも電波の強さでおおよその距離は分かりますが、逆探の装置が2台以上あれば三角測量によって正確な電波の発信位置が分かります。ここまではいいですか」

「ええ」

「ドローンに取り付けられた逆探装置は、電波だけでなくアーツを使う際に出るオリジニウムのエネルギーを傍受も出来るんです」

「つまり、どこでどんなアーツを使ったかがバレちゃうってこと?」

 

 その通りです、とジェシカは力強く答える。機械音痴ではあっても頭の回転はとても早い。

 

「なるほど、それなら狙撃オペレーターの出番ってわけね。クルース、聞こえてる?」

 

 話を飲み込んだメテオが弓に矢をつがえながら教会の反対側で待機しているであろうクルースを呼び出した。

 

「聞いてますよ~」

「どっちが多くドローンを落とせるか競争よ」

 

 へ? と気の抜けた返事をするまもなくメテオは矢を放つ。繁華街の真ん中にあるせいで教会へは周囲から電灯やビルの明かりが降り注いでおり、さらに照明車の光もあるとはいえもう夜の7時だ。にもかかわらず、暗い中放たれた矢は正確にドローンを射貫き地面へとたたき落とした。

 

「今1機落としたわ。頑張らないとまたドーベルマン教官に怒られるわよ」

 

 クロスボウがリカーブボウに速射で勝てるわけないでしょ、と愚痴りたいのを懸命にこらえつつクルースも夜空をにらむ。ブーンというドローンのローター音はすれども姿は見えない。

 

「2機目~♪」

 

 無線の向こうから軽やかな口調で戦果を報告するメテオ。細目をさらに細くしつつ、クルースは慌てて獲物を探し始めた。

 

 

「ドローンが撃ち落とされた?」

「ああ。2度目の突入があるのかもしれない」

 

 制御室の隣に設けられた給湯室から勝手にインスタントコーヒーを拝借しつつ、アリエルはインディゴに聞き返した。

 

「QSSUはもう半身不随だと思うけど」

「援軍か、はたまた傭兵でも雇ったのか。誰が突っ込んでくるのかは知らないが、今度は慎重なようで屋外のドローン全てを片っ端から撃ち落としている。ESMに反応なはかったから、夜目の利くいい射手がいるらしい」

 

 机の上に腰を下ろし、ふー、ふーと息を吹いて冷ましてからコーヒーに口を付ける。喉を潤してからまたインディゴに聞いた。

 

「残りのドローンは?」

「屋上で回収した。だがバッテリーが切れかけているから充電し終わるまでは飛ばせない。予備もないしな」

 

 まぁ何度攻めてきても追い返すだけだけどね、と言ってアリエルは紙コップを机の上に置く。やれるだけのことはやっている。こちらが守る側である以上、慌てふためいても始まらない。制御室には仲間がパソコンのキーを叩いて作業する音とエアコンの作動音だけが響いていた。そこに時折、教会の外から拡声器でこちらへ交渉や投降を呼びかける声が聞こえてくる。端から無視を決め込んでいるこちらに懲りもせず懸命に人の道を説く相手の顔が見てみたいものだ。代わる代わる話す説得者は口ぶりからして警察の者らしい。牧師や信者が命の危険を冒してでも犯人との面会を要求するようなことがあれば多少は彼らを見直しもするのだが、今のところその様子はなかった。

 暇が出来たインディゴは事務椅子に座り込むと、机の上に置かれた本立てをチラリと眺める。「ビジネスメールのお作法」とか「これで分かる表計算ソフト基礎」なんて実用書が並べられた本立ての端に一冊気になる本があった。文庫本サイズのその本を手に取りパラパラとページをめくる。「何読んでるの?」と聞くアリエルの方へ表紙を向けると、そこには「ポケット版口語訳聖典<1>」と書いてあった。

 

「いつだったか、感染者の部屋に踏み込んだ時にこの本が置いてあったのを覚えていてさ。『聖典を根拠にして感染者が抑圧されてるのに、それをわざわざ読むのか?』と思ってちょっと中を開いたらビビったよ。『偽善者は人に見せようと通りに立って祈る』、『神の名を騙る偽預言者に気をつけろ』、『口先で神を敬う者は心の中では神から遠い』なんて部分に片端から蛍光ペンで線が引かれていた。20個や30個じゃない」

 

「偽善者に偽預言者ねぇ……」とだけアリエルは返事をする。ネウストラシムイ派のことを恨みながらそれでも信仰を保とうとしていた。そのために聖典から教会を批判するための言葉を見つける必要があった。そんなところだろう。宗教によって社会から叩き出されたのにその苦しみを癒やすために宗教に救いを求める。一見すれば矛盾しているように思える。だが一体誰がそんな感染者を批判することが出来るというのか。

 

「それで、そんな本を読んでお祈りでもしたくなった?」

「お祈りなら鉱石病になった時に頭がおかしくなるくらいしたよ。まるで効果がなかったがね」

 

 この都市に住んでいる他の多くの住人と同じく、インディゴもまたネウストラシムイ派の信者――自分は無宗教だ、無神論者だと断言するに足る根拠がないという消極的な意味においてだが――だった。身一つで放り出された荒野で生きていく中では、神にでもすがりたくなるトラブルは決して一度や二度ではなかった。しかし祈ろうとするたび、自分たちがこんな苦難を味わっているのはまさにその宗教のせいではないのかとの疑問が脳裏をかすめて止まない。

 苦しい時に頼れるはずのよすが自身によって攻撃されている。その意味で自分たちと蛍光ペンで本を塗りつぶした感染者とは全く同じだ。パタンと本を閉じたインディゴは質問し返す。

 

「アリエルはどうなんだ? 俺よりかは信心深かったはずだが」

「そうね。祈ってみたり怪しいグッズを買ったり、あれこれ試してみた。プラセボ以上には感じられなかったけど。それよりも、自分の信仰が揺らいだことの方が大きいかな」

 

 インディゴはアリエルの方をじっと見て続きを促す。アリエルは目をそらして、壁の方を向いた。

 

「『鉱石病を癒やす意思があるのに出来ないのなら、神は全能でない。出来るのにその意思がないのなら、神には悪意がある。意思があるし出来るのなら、なぜこの世界に鉱石病があるのか。意思もなければ出来もしないなら、なぜそいつを神と呼ぶのか』。スラムで感染者が発行してる新聞、あれ参考資料としてスクラップしてたでしょ? そこのコラムに書いてあったの。大昔の哲学者のパロディらしいけど、身につまされて落ち込んだわ。肝心要の時に助けてくれないんじゃ、ね」

 

 鉱石病はまだまだ分からないことが多い。分からないのはつらい。分からないのは不安だ。自分だって感染するかもしれない。そこで神様仏様、はては占いにお伺いを立てて白黒付けようとする。ハッキリさせて自分は大丈夫だと安心したい。その気持ちは大なり小なり誰もが持ち合わせている。しかし、そうして出てきた答えが「神様を信じていれば大丈夫」「鉱石病になる奴は信仰が足りない」なんて雑な結論なのだから付き合いきれない。

 とはいえ、当たり前と言えば当たり前なのではないか。

 つまりこうだ。我が社は世間の役に立っていませんと語る企業家とか、チームに貢献する気はないと言ってのけるスポーツ選手、自身の作品は全く人の感情を動かさないと放言する芸術家など普通は存在しない。同じように、宗教も「われわれは鉱石病に対して無力です」「ウチは現世利益はやってないんで」とは口が裂けても言えなかった。神を信じればご利益ありますよと主張する必要に迫られた。その「反作用」として感染者を敵視することになった……。

 そんなことをつらつら語るアリエルはまだ言い足りないらしく口をもごもごさせていたが、話を続ける代わりに紙コップを口へ押しつけた。コーヒーをぐいと飲み干して、腰掛けていた机の上に置く。

 その瞬間、破裂音と共に教会全体が小さく揺れた。空になっていた紙コップが空中へ放り出され、床にぶつかって跳ねる。「お前たちは作業を続けろ」とサーバー相手に格闘を続けていた部下たちが驚いて立ち上がるのを制止しつつ、インディゴは通信機を手に取り1階にいる部下を呼び出す。2度目の人質救出作戦が始まったと見て間違いないようだ。正面エントランスでも騒ぎが起きているらしい。

 

「1班は爆発音のあった箇所を調べろ。2班は正面エントランスへ。西口からも来るだろう、俺が見てくる。アリエルは――」

「大将が出て行ったら誰が指示してくれるの。私たちは攻め込む側じゃなくて守る側。分かってるよね」

 

 さっきまでの無聊とした態度から一変した真面目な顔でアリエルはインディゴを遮った。食い下がろうとする彼に「あなたの仕事はここを守ることでしょ」と続け、机に置いていた籠手をカチャカチャと音を立てながら左手に取り付ける。バタンとドアの音を立てて制御室から飛び出していくアリエル。

 その姿を目で追いながら、なぜかインディゴは置いて行かれたかのような気分を感じていた。

 

 

 胸に取り付けたネームプレートの角度を変えて様子を聞く。これでどうだろう。

 

「もう少し上へ、あっ止めてください! やはり間違いないですね」

 

 社員証、ドッグタグ、ボディカメラ、そして周辺の源石による汚染の度合いを計測する個人携行測定器が一体となったネームプレートを通じてロドスにいるジェシカへ映像を送りながら、マトイマルは妙に嬉しそうにつぶやいた。

 

「妙に静かだと思ったらやっぱりいやがったか」

 

 非常灯だけを残し電気の消された西側入り口。その奥に何かが鎮座しているのがうっすらと見える。人ではない。ボディカメラになんで赤外線カメラまで仕込まれているのかは知らないが、おかげでジェシカに識別を頼める。

 

「クロキッド社製の暴徒鎮圧用6輪重自走プラットフォームM459、通称『饅頭』です。今資料を送信しました」

「どれどれ……って、コイツのどこが饅頭だってんだぁ? どう見てもひよこの化け物じゃねぇか!」

「ひっ、すみません……」

 

 手元の端末に送られてきた参考画像を見たマトイマルは脳天気な突っ込みを入れる。ジェシカに文句言ってどうするのよ、と入り口近くに立って中の様子を伺うメテオがたしなめた。

 確かに丸くてつるんとした外見といい、サンドイエローに塗られた車体といい、Castle-3のようなモノアイが付いていることを除けば巨大なひよこに見えなくもない。サイズ的にもLancet-2の遠い親戚だと言われればちょっとは信じそうになる。それが傷ついた人間を治療するためではなく、暴れる人間を打ちのめすためのぶっそうなロボットでないのなら、だが。

 それはそれとして。つい今し方爆破音が響き、正面エントランスからも突入が始まっている。こちらも歩調を合わせて前進したいが、いきなり躓いてしまった。

 

「暗くてよく見えませんが、催涙グレネードや放水銃ではなく可変出力式ワイヤレステーザーを装備しているタイプのようです」

「テーザーって、メイちゃんが持ってるあのビリビリ銃のこと?」

「はい。それの紐なしタイプです。命中した衝撃で針が飛び出し、内部の源石バッテリーの電力で対象を麻痺させます」

 

 ジェシカの説明するとおり、頭頂部には銃身が生えた砲塔が付いているように見えた。西側入り口は本館にたどり着くまでに狭い通路を一直線に40メートルほど行く必要がある。ろくな遮蔽物がない中でばかすか撃たれれば避けようがない。

 

「遠隔操作が可能で、通信が途絶した場合は自律行動に移り――え、これって?」

 

 どうした、とマトイマルが呼びかけたが応答がない。再び呼びかけると、返事の代わりに「燃料棒です!」との叫び声が返ってきた。

 

「燃料棒が車体前面にくくりつけてあります!」

「んだとぉ!?」

 

 確かに燃料棒です、とジェシカは繰り返す。マトイマルは目をこらして暗闇をにらみ付けるがさっぱりらちがあかない。メテオも同じようにしばし目をこらしていたが、諦めて後ろを振り返り合図する。西側入り口を向いて待機していた照明車がサーチライトのように細く絞り込んだ光を通路へ向けて照射した。戦闘になったときに目くらましにでも使えると思って配置してもらったのだが、状況が状況だ。敵の姿をしっかり確認するために使うのもやむを得ない。

 通路の奥の奥まで明るく照らされた光の中に饅頭の姿が浮かび上がり、その姿を二人の前にさらけ出す。スポットライトを浴びた俳優、と形容するにはどうにもムードが足りない。車体前方、下側に針金で縛り付けられた燃料棒がたしかにあった。よく考えたものだ。アーツで饅頭ごと吹き飛ばせば燃料棒も損傷するし、燃料棒を傷つけないよう白兵戦を挑めばテーザーが雨あられと飛んでくる。燃料棒が本物だろうと、それらしく作った偽物だろうと、攻め込む側に一方的な制約を加えられる。

 照らされたことに反応したのか、饅頭のモノアイが点灯して動き出す。省電力モードなりスリープモードなりが解除されたのだろう。

 入り口へと飛び込み矢をつがえるメテオ。次の瞬間、矢を放つのを諦めて横っ飛びし入り口の柱の陰に身を隠す。瞬きする間さえなくテーザー弾が撃ち込まれ、先ほどまでメテオが立っていた空間を過ぎ去っていった。

 

「早撃ちじゃ勝てそうにないわね。あのビリビリ弾、装弾数は何発?」

「仕様によって異なりますが、250発から300発は積めるようです」

 

 聞きたくなくなるような情報がもうひとつ。今し方メテオが身をもって体験したように、通路の奥に陣取っていても入り口まで弾を送り込めるだけの射程距離が相手にはある。

 

「弾切れは期待できそうにねぇってのか。どうする、我輩が囮になるか?」

 

 何も考えずに飛び込むのはダメよ、と言ってメテオは入り口の近くに並べておいた道具を漁る。警察が使えそうな道具をなんでも持ってきてくれたのでまとめて置いていたのだ。その中に発煙筒があった。効き目をジェシカに聞いてみるが、返事は芳しくない。

 

「饅頭には熱線映像装置が搭載されています。煙幕の中や草むらの中にいる人間も識別できる高性能な暗視装置です」

 

 メテオは小さくため息をつく。もしエクシアのような腕利きのオペレーターなら、笑顔のまま銃を撃ちまくってあっさり饅頭を倒していただろう。その能力に嫉妬もすれば尊敬もする。

 マトイマルも似たような考えが脳裏に浮かんだ。スカジやブレイズのようなとんでもなく強い奴らなら、飛び交うテーザー弾の隙間をくぐり抜けて相手に近づき一刀両断しているに違いない。残念ながらわれわれはそのどちらでもない。

 しかし。それはわれわれにこの任務が達成不可能であること意味しない。

 我輩たちには我輩たちなりの戦い方がある。こいつは使えそうだ、と言ってマトイマルが道具の中からライオットシールドを持ち上げた。長方形をしたポリカーボネート製の巨大な盾で、ビーグルがいつも持っている盾より大きい。さすがにアスベストスの大盾よりは小さいが、それでも人が二人すっぽり隠れられそうなサイズだ。

 

「我輩がこれでテーザーを防ぐから後ろに隠れて矢を撃ってくれ。燃料棒に当てるんじゃないぜ」

「……それしかないようね」

 

 マトイマルはテーザー弾を撃ち込まれるリスクを背負ってメテオを助け、メテオは燃料棒に矢を突き立てる危険を背負って饅頭を穿つ。双方が互いを信頼しなければ成り立たない作戦だ。薙刀を背負い、両手でしっかり盾を握って入り口に再び入る。体を盾からはみ出させないようそろりそろりと進んだ。その後ろをメテオが身をかがめつつ続く。通路の奥でじっとしていた饅頭の砲塔が瞬時に狙いを付け、テーザー弾を発射する。バン、と軽い衝撃と共に盾にテーザー弾が突き刺さった。着弾した衝撃で思わず身をかがめてしまったが、飛び出た針が盾に小さな穴を開けこそすれ、電気は流れない。

 ポリカーボネートは絶縁性が高く電気を通さないし、持ち手はありがたいことにゴムの滑り止めが付いている。しばらくは何とかなりそうだ。親指より少し太いくらいの弾が2発、3発と撃ち込まれるが十分耐えている。その隙にメテオが矢を放った。だが、燃料棒に当てないよう気を配りすぎたのか饅頭のはるか頭上を通り過ぎる。

 マトイマルは「外れたぞ!」と言おうとして止めた。そんなことは矢を射った本人が一番よく分かっている。今の自分の仕事は彼女を守る、ただそれだけだ。再び盾に衝撃。パキン! と大きな音を立てて盾に大きなひびが入った。あまりに穴だらけにされて強度が落ちたのだろう。メテオの二の矢は饅頭の砲塔すれすれをかすめ、パシッと小さい音を立てて通路の奥へ消え去る。

 このままではまずい。

 が、まずいと思ったのは相手も同じようで、しびれを切らしたのか饅頭は突然前進を始めた。テーザーを乱射しながらこちらに近づいてくる。テーザー弾が二人の頭上に位置していた蛍光灯に命中し、粉々になったガラスの雨を降らせる。電極か何かに当たったらしく火花があがり、焦げた臭いが鼻を突いた。髪の毛にガラスが降ろうと火花が降ろうとマトイマルは動かない。メテオなら必ずやってくれる。

 どんどん距離を詰める饅頭。このまま体当たりでもして盾をはじき飛ばすつもりなのだろう。Lancet-2でさえ成人男性の倍は重い。暴徒にバットでぶん殴られても耐える頑丈さを誇る饅頭はそれよりなお重いに相違ない。ロボットにマウントポジションを取られるのはごめんだ。

 背後のメテオがまた一本矢をつがえる音がした。ふーっと息を吐く音や弦を引き絞る音さえ聞こえる。テーザーがまた一発盾に撃ち込まれるのとほぼ同時に矢が放たれた。一瞬で饅頭まで飛翔した矢は砲塔正面に突き刺さり、閃光と爆音とを放った。もちろんただの矢が爆発する道理はない。

 装甲砕き。

 アーツを込めたこの特殊な矢を使って、メテオは分厚い装甲で身を守る獲物を無数に狩ってきた。彼女の切り札かつ十八番が見事に饅頭を喰ったのだ。饅頭は銃身を向けこちらをにらみ付ける――もちろん目は付いていない。そういう気迫を感じたというだけだ――ものの、内部が見えるほど損傷した砲塔からガリガリといびつな音を立てるだけで一向に撃ってこない。給弾装置が故障したらしい。やけになったのか一段と速度を上げて体当たりを試みようとする。

 

「次はあなたの番よ!」

「まかせろ!」

 

 言うやいなやマトイマルは盾を投げ捨て、饅頭に駆け寄りながら薙刀を構える。どういう訳か弾丸の装填に成功した饅頭が慌ててテーザーを撃つ。が、それはわずかの所で彼女からそれた。車両が無人だろうと、どれだけ高性能な電子装備を積もうと、その向こうでトリガーを引くのは人間だ。人間の焦りとうろたえこそがこのミスを産んだ。

 マトイマルはすれ違いざまに全力で薙刀を振り抜く。一太刀。わずか一太刀で、FRPと軽金属で出来ているはずの車体がバターのようにざっくりと切断された。動力部を切られたの饅頭はそのまま惰性で走り続けてメテオのすぐそばで停止する。振り返って真っ二つになった饅頭を視界に入れるマトイマルだが、すぐに通路の方に目を向ける。足音が近づいて来る。複数人だ。まだまだ敵は多い。額の汗を拭い、呼吸を整える。油断する暇などありはしなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。