土を掘る音が近づくにつれて、話し声が聞こえるようになって来た。
声がくぐもっていて話の内容は聞き取れないが、恐らく男性2人組であろうことは分かった。
……ところで、どうしてこの2人はここを掘っているのだろう。
埋め立て地の真上に『↓おたから↓』みたいな看板でも立っているのだろうか。
……いやないわ、流石にありえないでしょ。
そんな事を考えていると、ガッと硬質な音が聞こえ、暫くしてから土を掘る音が止んだ。
ガッは十中八九スコップが棺の蓋に当たった音だろう。
やっと土葬の危機から逃れる事が出来る喜びに浸っていると、ゆっくりと棺の蓋がずらされた。
僅かな隙間から暖かい光が差し込んでくる。
少しして完全に蓋が退けられ、ランプでこちらを照らすワクワク顔のおじさん2人と目が合った。
気弱そうな顔つきの男といかつい髭面のおっさんだ。
なんでそんなワクワク顔なのかは分からないが、もしかしたら宝探し気分だったのかもしれない。
まあ人命救助と言いつつも穴を掘るということに快感を覚えていた可能性もある し、あまり深く考えないようにしよう。
そうだ、まずはお礼をしよう。
「……えっと、ありがも……ありがとうのざ……ございます……」
くそほど噛んだ。
見ろ、とんでもない噛み方過ぎて2人が固まってしまった。
ちくしょう、どうやら記憶を失う前の自分はコミュ障気味だったらしい。
まあいいや、とりあえずずっと同じ体勢でいたせいで体を動かしにくいし、ついでに起こしてもらおう。
「あの……とりあえず……起き上がるの手伝ってくれませんか……?」
そうやって掴んでもらうために差し出した手は、その役目を果たすこと無く宙を彷徨う事になった。
2人が言葉にならない悲鳴をあげながら転がるように逃げ出したせいだ。
ええ……?
なんだあの見てはならないものを見たような逃げ方は。
流石に失礼だと思うんだが?
憤慨しつつ、行き場の無かった手で固まりきった体を無理やり起こす。
「……おやぁ?」
その時、ランプの光に照らされた自らの手が、まるでとっくに死んでいるかのように青白いことに気がついたのだった。
☆ Side change 主人公 → ??? ☆
暗い部屋の中、唯一の光源である画面から激しい戦闘音が漏れる。
スキンヘッドの男性が巨大なモンスターの攻撃を躱しながら攻撃を繰り返し、ボスモンスターの体力ゲージが一瞬で削り取られる。
クエストクリアの文字が画面に大きく表示され、画面の前の人物がコントローラーを置き小さく息を吐く。
少ししてコントローラーを握り直すと画面が切り替わり、何人かの赤子や卵そして地中の棺の映像が映し出された。
「さぁ、準備完了です。私のクラスメイト達と小さなイレギュラーは、どのように私を楽しませてくれるのでしょう」
その人物は表情を一切変えないまま、小さく笑い声を漏らした。