音が鳴らないようにそっと扉を開ける。
キィー……ギッ!!
建付けが悪いィ!
しかしこの音に誰かが気がついて近づいてくる様子はない。
助かった。
そのまま覗き込むと、少し開けた場所で鎧を着た3人組が1メートル少しありそうな巨大なカエルと戦っていた。
えぇ……?
さすがゲームのような世界だ、地球とは生態系がかけ離れていると見える。
それはともかく。
戦っているその向こうには、薄暗い洞窟が大きく口を開けていた。
あのカエルはきっとあそこから出てきたのだろう。
現に今も出てきてるし。
のそのそと這い出てきたカエルが、人間を見つけた途端機敏に飛び掛かる。
ヒェ……
あのサイズのカエルにのしかかられたら流石にひとたまりも……。
あっ、普通に盾で殴り飛ばされた。
案外あのカエルは弱いのかもしれない。
……まあそんなことはどうでもいい。
気になるのは、何故洞窟をこんな厳重に警備しているのかだ。
巨大カエルが出てくるからというのも理由の一つにはありそうだが、今さっき盾で殴り飛ばされたカエルが、そのままの勢いで壁にぶつかってからピクリとも動かなくなっている。
よっわ。
つまり、あのカエル達はなんら脅威ではないというわけだ。
そんなもののためだけにこんな砦じみたものを作ったというには余りにも根拠が薄いだろう。
ということは、だ。
あの洞窟には何かもっと大きな秘密があるのではなかろうか。
……気になる。
第六感が囁いている。
「あそこなんか面白そうじゃね?」と……。
そうと決まれば潜入だ!
手ごろな場所に置いてあった空の木箱をひっつかみ、被る。
このまましゃがむことによって体が一切見えなくなり、ただの木箱に同化することが出来る。
これぞ伝統的な潜入スタイル。
元ネタ……じゃなかった、先駆者はダンボールを被りスニーキングミッションに赴いたというが、木箱もそう大差ないだろう。
さあ、
すみませーん店員さーん! この木箱重いんですけどー!
ふんぐぎぎぎぎ……。
……ふひい……。
ずりずりと木箱の端を引きずりながらなんとか洞窟手前までたどり着いたものの、限界が訪れた。
重い木箱を背負いながら変な体制で50メートルほど進んだためか、体中が痛い。
こりゃあ明日は筋肉痛だな。
さて、ここまで来たは良いが、カエル対人間の戦いが終わってしまった。
木箱の隙間からてんやわんややってる隙を見てここまで来れたものの、流石に平常時には動く木箱を見逃さないだろう。
どうしたものか……。
……おや?
鎧姿三人衆がカエルの肉を集めながら撤収し始めた。
……今だッ!
今は三人ともカエルの残骸くらいしか目に入っていないッ!
このタイミングだッ!!
木箱を脱ぎ捨て、洞窟に向かって走りだし……。
「「あっ」」
タイミング悪く三人のうちの一人と目が合った。
なるほど、驚いたときに出る「あっ」は言語が違っても共通なんだなあ……。
……現実逃避してる場合じゃなかったわ。
こんな格言を知ってる?
『三十六計逃げるに如かず』ってなぁ!!
☆ Side change 主人公 → とある兵士 ☆
「おっと……っとぉ!」
唐突に飛び掛かってきたカエル野郎を思い切り殴り飛ばす。
「大丈夫かマルコ!」
「おうよ! ばっちりだぜ!」
心配性の同僚に軽口を返しながら目の前のカエルを引き裂く。
にしても最近カエルだのタラテクトだのの数が多い。
そういやこの時期はクイーンタラテクトの産卵があったか?
ああ、それで逃げてきやがんのか。
ったく、迷惑な話だよなぁ。
「勘弁してくれよ……せやっ!」
カエルを切り払い洞窟に目をやる。
どうやらこれ以上出てくる気配はなさそうだ。
「今日はこれで店じまいみたいだな。マルコ、ホセ、肉持って引き上げるぞ」
「あいよ」
「了解」
ったく、何が悲しくてこんな砂まみれの肉を拾い集めなきゃいけねえんだか。
カエルの肉は割とあっさり目な味で、地味に人気がある。
味は鶏肉に似てるらしい。
まあ俺は食う気にならんが。
なんであんな見た目のやつの肉を食う気になるのか俺には到底理解できん。
それでも売ればちょっとは小遣いになるってんで集めさせられてるわけだが……。
……?
あんなところに箱なんぞ置いてたか?
ん?
あの箱なんか動いて……。
「「あっ」」
目が合った。
10歳ちょいくらいの、綺麗な身なりの子供だった。
なかなか珍しい、白い瞳の子供。
俺と同時に声を上げたそいつは、気まずそうな顔をした。
にしてもなんでこんなところに?
オリバーかホセの子供か?
あいつら独身だって言ってやがったのにいつの間にか抜け駆けしやがってぶっ殺殺殺……。
……ありゃ、あのがきんちょエルロー大迷宮に入っていきやがった。
……まあいいか。
危険感じたらすぐ帰ってくるだろ。
そしたらこっそりとどっちがパパなのかでも聞いてみっかな。