キャロルちゃんをママと呼ぶ話が書きたかっただけ 作:小指のファウストローブ
プロット無しの見切り発車だゾ!
ある日、1人の赤ん坊を拾った。
路地にポツンと置かれた籠に毛布にくるまった状態で放置されていて、数日分のオムツと粉ミルク、ガラガラ鳴るおもちゃを添えられていた。
籠には紙が貼り付けられており内容も淡泊なものだった。
「女の子です。拾ってください……」
「地味な文章ですね。一見拾われようと拾われなかろうとどちらでもいいといった感じですが」
傍らで紙を覗き込んでいたレイアが言葉を零す。俺も概ね同じ印象。反吐が出るな。
「手紙でどれだけ取り繕うと捨てた時点でそいつの人間性などドブ以下だがな」
親としての責任を負えないと言うのなら子供なんて最初から作らなければいい。まぁこの赤ん坊に限っては少し事情が異なるだろうがな。
「可視化出来るほど派手に濃密な魔力」
「持て余して当然だな」
まるで小さな太陽だぞ。これは明らかに異常値だ、こんな赤ん坊がこの濃度の魔力を放っているなど普通は思わない。俺も目を疑った。
「マスター赤ちゃんのミルクの用意が出来ました」
「寄越せ」
ミルクは人肌。ファラから受け取った哺乳瓶は熱かった。
「馬鹿か! 火傷したらどうする?」
「ガリィたちぃ護衛とか戦闘に特化してる人形であって、子守りはインプットされてないんですよねぇ」
「ガリィがさっさと持って行こうって言ってたんだゾ」
「バラすな!」
流石に、それは引くぞガリィ。いやそもそもオレはそこまで性根が腐っているのか。そうか無害な赤ん坊相手にも……
「酷いですね本当に知らなかったんですってば」
「どうだか……」
哺乳瓶の熱を逃がしながらガリィを睨めつける。人形のお前に口笛は吹けないぞおいこっち向け。
「ミルクの温度は40℃が凡そ適温だ。飲ませた後は背を軽く叩いてゲップをさせろ」
「マスター」
「なんだレイア?」
「育てるんですか?」
「……この魔力量だ。計画の役に立つやもしれない」
何より拾った後ですぐ捨てるなどそれこそクズ共と同じになる。何よりオレはそれが許せない。
気まぐれに拾ったのだ。気まぐれで育ててもいいだろう。自立できるようになってからは知ったことじゃないがな。
髪を掴まれたガリィの叫び声を聞きながらこれからの方針を固めていく。取り敢えず予防接種か?
◇◆◇
チフォージュ・シャトー建設を行いながらの育児は困難を極めた。まず腹を空かせて泣く。そしておしめ替えで泣く。更に寂しくて泣く。最後に中々寝付かない。寝ても離れるとセンサーでも付いてるのか直ぐに起きて泣く。
厄介なのはこの赤ん坊、名をアリアと名付けたが。オレ以外が抱えても泣き止まない。寂しくないようにとファラやレイアを付けても泣く。遠く離れた場所までハッキリ聞こえてくる。
作業の効率が下がるのを覚悟してエルフナインに相手をさせてみても結果は同じ、と言うか寧ろ悪化した。危なっかしくて見てられん。
「ププッ、お似合いですよマスター」
「アリアもニッコニコだゾ!」
結果ベビーキャリアで四六時中背負う事になった。近くにベビーベッドも設置した。しんどい、変わってくれ……
「あららマスターったらマジで疲れてるご様子」
「ああ、おかげで頭痛がする」
分担が出来ないのが辛い。オレと寸分狂いない似姿のエルフナインでダメならもう打つ手はない。パパはどうやって男手ひとつでオレを育てたんだ。
「大丈夫ですって言葉を理解出来る所まで育てて、あとは脳に直接知識をインストールすれば」
「拒絶反応の程度がハッキリしない以上出来れば避けたい」
「最低限の知識だけであれば大丈夫では?」
だとしても言葉を覚えさせる必要がある、か。まだ歯も生え揃わない赤子じゃ無理だろうな。あと2ヶ月か3ヶ月で離乳食、そこからまた6ヶ月くらいからやっとこ言葉を話し出すとかなんとか。
「成長を加速させる事は……」
「派手にダメでしょう」
「休まれた方が良さそうですね」
遅々として進まないシャトーの建設。
先が長いアリアの成長。
最近のアラームが泣き声というのも心臓に良くない。出来ればこのギャン泣き期がなるべく速く過ぎる事を祈るばかりだ。
「今日は寝かしつけてオレも寝る……」
こちらの気も知らないでアリアは笑顔だった。今夜も寝かしつけるのは時間を要するだろうな。柔らかい頬に優しく触れながら独り言ちた。
◇◆◇
まず歯が生えはじめた。何となく口を覗けばその度ににょきにょきと乳歯が生え揃っていく。それに合わせて離乳食に切り替えていったが、食べ方に問題ありだ。
よだれかけが一食であそこまでぐちゃぐちゃになるものかと、ここまで来ると感心する。口の端はもはや閉じてないのだろうな、全て素通りだ。
そろそろ頃合いだろうと思い発音の練習を試みた。キャロルと自分の名前を連呼するのは妙な気分ではあったが、やっと意味のある言葉を発しようとする姿を見れば気にならない。だがオートスコアラーたちが変な言葉を教えないかだけ不安だ。
特にガリィとミカ。
いや訂正、レイアも派手を連呼してた。ファラだけまともだ。
最近ベビーベッドの柵を支えに起き上がって居たのは知っていた。ベッドから転落しないかヒヤヒヤしたのは過去の話。乗り越えるにはまだまだ筋力が足りないと気付いてからは遠目に観察するに留めている。
「いやだからといって昨日と今日で立って歩行するか!?」
「実は私とコソ練を少々」
「オレに黙ってる必要あるか? と言うかいつの間に……」
ファラに手を引かれる状態でトコトコと歩くアリア。足元がおぼつかないながら一生懸命に歩いていた。おやこちらを向いたな。
「ママー」
「は?」
ママ?
誰が、何処に?
「ママー」
待て、オレの方へ向かいながらという事は……
「オレかッ!?」
と言うかオレは『ママ』なんて単語は教えてない。
「キャロルだキャロル! オレはお前のママじゃない!」
「きゃ、おう?」
「キャ・ロ・ル!」
「きゃ・ろ・る!」
なんだ言えるじゃないか!
「ママ!」
「違う!」
完全にオレの顔を見てママと言ってる。なんだったら指を差してる。下手人はわざわざオレの顔で覚えさせてる。エルフナインは横で童話の読み聞かせをするだけで発音練習合戦には参戦してない。となると──
「ガリィか!?」
「そういうのを一括りにしてガリィちゃんのせいにするのはよしてください。泣いちゃいますよ?」
「口が笑ってるぞ馬鹿者が!」
そもそもお前は泣けないだろうが。扉の向こうで耳をそばだててた時点で問答無用で有罪だ。
「どうせ水のスクリーンでオレの姿でも投射してたんだろう……無駄に手の込んだことを」
「ありゃ全部バレてますね。でもでもマスターの精神構造をベースに組まれたガリィがやった事なんですから。実はマスターもママって呼ばれたいとか思ってたんじゃないですか?」
よちよち歩きで向かってくるアリアを抱き上げる。頬が触りたいのか手を伸ばしてきたので顔を寄せてやった。当たるアリアの柔らかい手は熱い。
「思うわけないだろ。オレは母親になんてなれない」
無邪気に笑うアリアが眩しい。何処まで突き詰めても他人同士、一時一緒に居たからといってその関係性に変化はない。オレの中の父親がパパだけである様にアリアにとっても母親は産みの親だけだろう。
「今日だけで歩くのと話すの、一気にやってしまったから疲れただろう。もう寝てしまおうな」
最初に拾った時よりだいぶ重くなった。もう背負いっぱなしで作業も苦しい。さて一体あとどれだけ重くなるのやら。
急造で作ってから度々改修した子供部屋に着く頃には腕の中で眠っていた。警戒もなく身を寄せられることが何度もあったがその度に過ぎるこの感情の意味は未だにハッキリしない。これもまた『世界を識る』に含まれるのか。
「万象を識ることこそが錬金術師としての本懐。お前を拾ってから発見が多い事は認めなければな……」
これからは徐々に手がかからなくなっていくんだろう。言葉を介して、歩いて、自分の意思で行動するようになるのか。嬉しいような寂しいような、不思議な気分だな。
続き誰か書いて(切実)
だってシンフォギアキャラの理解吾浅い……書いて、誰でもいい
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