キャロルちゃんをママと呼ぶ話が書きたかっただけ   作:小指のファウストローブ

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閑話と言って差し支えないが、載せきれなかった設定を盛り込んだり描写するにはアリサちゃんの視点が一番だと思った。

なんで私の書く小学生ってこんな悟ってんの?
それは悟らなきゃ生きてけないからだよ!


アリサちゃんの入院生活

 目が覚めたら瓦礫に埋まっていた。小学生の小さな体躯が幸いして全身を押しつぶされる事は無かったけれど、この瓦礫を動かす事は出来そうもない。例え動かせそうでも変に瓦礫を動かした結果、改めて押しつぶされる事になるかもしれないのでじっとしている方が良いだろう。

 

 ただ問題は今現在感覚がない部位。

 

 どうにか回せる首で右腕を薄目で見る。

 

 完全に潰れている。血もじわりと染み出しているところからしてきっと酷いのだろう。不思議と痛みは無く、視覚の情報からだけ痛々しさが身体を凍えさせる。痛みはきっと脳内麻薬でマヒしているんだろう。

 

 記憶を整理する。

 私はツヴァイウィングのライブに来ていた。グッズも買って準備は万全であとは待つのみだった。始まったライブで観客と一体となって、翼さんたちとも一つになれた気がして心地よくて楽しかった。

 

 そこから、

 

 そう、突然ノイズが現れたんだ。

 

 逃げ惑う観客に押しのけられて、このままだとノイズの前に観客達に殺されると思って壁際まで逃げおうせて、そして歌を聴いた。ツヴァイウィングの歌声でそれぞれが違う歌を、私が知らない歌がこんな惨状の中でもハッキリ聞こえてきた。

 

 そしてそれに気を取られているうちに頭上から降り注ぐ瓦礫に気づくのが遅れて今に至る。

 

 最後だけ間抜けだな。まさかあの場で危機感を失うなんて。

 

 でも今も聞こえるその歌は不思議と安心感が芽生える。今も私が喚かないのはきっとこの歌のお陰なんだろう。

 

 けれど何だろう、徐々に奏さんの歌が弱まっている様な感覚がする。

 

 フッと歌が片方消え去って、悲しくも美しく切なくも力強い歌が場を支配した。静かな歌のはずなのに自分の全身全霊を賭して歌っている様な、命を削り次に託す様な歌。心が締め付けられる。何でかは分からないけれど、歌ってはいけない歌だと朧気な輪郭で伝わってくる。

 

 歌い切られるその前に止めなくてはと焦燥した。そう強く念じた事が功を奏したのかは不明だけれどその歌は停止した。代わりに重苦しい重低音が蹂躙する。

 

 私の周りの瓦礫が私を避けて豆腐かのように細切れとなり、視界が一気に拓ける。すると目の前には紙を引き裂いたような高音と地面を揺るがす低音をしきりに放つ黒い球体が浮いていた。

 

 その球体はその下に整列するノイズを一匹一匹確かめるように押し潰している。確かな確証はないけれどそう感じた。さながらモグラ叩きだ。ただし叩かれたモグラは炭化してボロボロになるけれども。

 

 目に見えたノイズが全て炭化した辺りで球体は萎むように小さくなり、やがて消えた。

 

 唖然としていたらプツンと意識が落ちた。

 この時私は一声もしなかった。それほどあっという間で激烈な出来事。

 

 

◇◆◇

 

 

 目が覚めたら病院のベッドの上だった。身体を起こそうとしたけれど上手くバランスをとれなくて何度もベッドに沈んだ。それもそのはずだ、私の身体を支える腕が一本足りていなかったから。

 

 私は右腕を失ったのだった。肩付近で丸くなった腕、指先まであったはずの腕。私は以前との身体のギャップが実感できずに、何度も左手で右腕付近を掴もうとしていた。無論何も掴むことは無い。

 

 自然と荒くなった息を必死で収めようと試みるもどうにも上手くいってはくれない。何も上手くいかない。

 

 何度もそうしている内に病衣が破けてしまった。その辺でハッとなってナースコールを押した。直ぐに看護婦がやって来て、担当医を呼んできた。

 

「此処が何処か分かりますか?」

 

「病院です」

 

「自分の名前は言えますか?」

 

「藤咲有咲です」

 

「どうやら意識の混濁もパニックも無いようですね。良かった」

 

 いくつかの簡単な質問と、ここに来た経緯をお医者様から教えて貰った。私は交通事故で怪我を負って、救急車で運ばれてきたらしい(・・・)。全く覚えは無いけれどそう説明された。

 

「車両に挟まれた形で救助に難航したと伺っています。いやはやそんな状況下で生き残っただけでも十分に幸運でしたね」

 

「あの、腕は?」

 

 逡巡するように口を閉じたあと、唇を舐めてからお医者様は話す。

 

「半ばちぎれかけていた状態、尚且つ損傷が激しい状態だったため繋ぎ直す事は困難でしょう。あの場でどうやったのかは分かりませんが、断面の処置が的確でしたね」

 

 詳しい事まで理解は及んでいないけれど、私の腕は元に戻らない事は理解出来た。

 

「挫滅症候群の症状は確認できませんが経過を見ましょう。何かあれば直ぐにナースコールをしてください」

 

「はい」

 

 お医者様は看護婦に何かを言い含めたあとゆっくりと病室から出ていった。看護婦もそれに倣うように退室する。

 

 一人になって深く溜息を吐き出したあと、間も無く再び病室が開かれた。無地で紺色のスーツに身を包み、短く切り揃えられた黒髪、鋭い眼光を放つ瞳。私のお父様その人。

 

 何時もは仕事で家で会うことも多くないはずなのに、今日に限って時間が出来てしまうだなんて。

 

「起きたのか」

 

「はい、ご心配をおかけして申し訳ありません」

 

「お前は件の事件とは別件で扱う。学校の方にもそれで通す」

 

 なるほどそれでお医者様は交通事故なんて言っていたと。

 

「承りました。お父様の仰る通りに致します」

 

 どのような意図があれ、お父様が判断した事に対して叛意はない。きっとそれが一番いい選択なのだろうと思う。お父様が失敗した姿は見たことが無いから。

 

「有咲、お前はどこへ行こうと藤咲家の娘だ。腕の事は瑣末と思え、お前はただ藤咲の娘として在ればいい」

 

「理解しています」

 

「そうか」

 

 そう一言零すと立ち上がり腕時計を確認した後、時間だと手早く発つ準備を始める。本当に短い時間を縫ってきてくれたんだと不思議と安心した。

 

「また来る」

 

「は、はい!」

 

 珍しい事は続く物だと思った。また会う約束とはいつぶりになるのだろう。思わず声に戸惑いが混じってしまった。そして翻るお父様からいつもは嗅ぐことはない煙草の匂いがした。.

 

 

◇◆◇

 

 

 片腕での生活にはまだまだ慣れそうもない。体勢を起こすのも、食事を摂るのも、歩行でさえ両腕があって成立していたと言うこと。やって出来ないことは無いとは思うのだけれど、中々上手くはいかない。

 

 ただ寝ているだけで寝返りがうちにくいという我慢ポイントもある。根本的に片腕の状態に慣れない限りはストレスのない生活は望めないでしょう。

 

「先は遠いわ」

 

 果たしてコレを瑣末と言い捨てられる時は来るのか。こればかりはお父様に難題を投げられたと思う。

 

 それにしても今日も宝条さんは来なかった。あの騒がしさが服を着て歩いているあの子がここに突撃してくるのも時間の問題だと思っていたのに、完全に予想が外れてしまった。

 

 きっと心配してる、と思う。私はそういった機敏に疎いけれど宝条さんなら心配故に視界に捉えた瞬間飛びついて来そう。

 

「その前に止めないと、此処は病院で私は病人なのですし」

 

 けれどそう、例えばただ騒がず抱き締める程度なら注意する必要はきっとないはず。余りにも力強いのは困るけれど。

 

 いつか来る友人との再開が楽しみになって来た。

 

 ノックが数回。

 

 誰だろうと思いながらも返事を返す。

 

「どうぞ」

 

 入ってきた人物は知っている顔だった。

 宝条さんではない、お父様でも、お医者様でも、看護婦の方でもなかった。けれど私は入室者の顔を知っていた。

 

 それに彼の背格好はそうそう忘れるものでもない。赤いシャツに胸ポケットに仕舞われたネクタイ、筋骨隆々の体躯。

 

 お屋敷で会った時のままの存在感をもってそこに立っていた。




ヨシ(現場猫)
詰め込めるだけ描写できたと思う。これで憂いなく本編に入れるかも!

いつもの人物説明はないゾ!
理由は色々読み手に想像して欲しいからダ!
だからこそ仄かに描写を暈しているんですね。

感想乞食と呼ばれようと私は感想が欲しい。
もっと読者と対話させろオラァン!!
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