キャロルちゃんをママと呼ぶ話が書きたかっただけ 作:小指のファウストローブ
アリアちゃんは切り替えが速い子。
ㅤ帰宅後。
ㅤ玄関の扉を締め切ったと同時に私は膝から崩れ落ちた。思った以上にあの琥珀の娘の拒絶は重かったらしい。真っ直ぐの気持ちを伝えたそれを真っ向から打ち返されたのだからさもありなん。
ㅤ家の奥から慌てたように出てくるファラに慰めてもらうまで立てなかった。アリア、初めての敗北。
ㅤ思えばあの子は私が他のクラスメイトに囲まれている時も窓際の席で本を眺めていた気がする。恐らく彼女は根本的に私に興味がないのかもしれないのかも。
ㅤいやでもあの対応はあんまりだと思う。理由もなく、二の句も告げずパッと切り捨てるだなんて。
ㅤ予想外の切り返しに思わず口を噤んでしまった己が恨めしい。
ㅤしかしここで泣き寝入りしてしまう程私は大人しくない。寧ろ絶対に友達にしてくれよう。一度ダメだからなんだというんだ、あちら側が折れるまでアタックをやめないゾ。
ㅤ"琥珀の同級生"『
ㅤ取り敢えずママにいち早く相談してみた。
「敵対しないなら放っておく」
ㅤ戦いって形容したのは私だけどそのアドバイスは可笑しいことは分かる。私はその子と友達になりたいんだよママ。仮にだけど敵対したらどうするつもりなのママ!?
ㅤ何故か眉間に力が入ってしまったママから退散。とぼとぼ自室に帰る中途、ガリィが何処から話を聞きつけたのか助言をしに来てくれた。
「もう友達として接してやればいいんですよ。そいつが認めなくても周りが友人関係を立証してくれます。先生側にもアピール出来たらどんなに相手が否定した所でもう手遅れです」
ㅤ既成事実を作り、外堀を埋めて確実に友人にする。というかならざるを得ない状態にする。確かに完璧な計画かもしれない。友達という定義の甘さから十分に実現可能。
ㅤ冴えたガリィに感謝の抱擁をして明日の準備に取り掛かる。せっかくの同じ通学路、生かさないテはない。
ㅤ覚悟しろ未来の友達!
ㅤパンケーキにカリカリベーコン欠かしちゃいけないグレービーソースとマッシュポテト。ボリューミーに盛って盛って、1日の活力源は朝の内にガッツリ補給しておきます。
「……アリア、過剰なエネルギー摂取は」
「ムム、違うもん。全然過剰じゃないよ! 今日は勝負の日だからガス欠にならない様に用心してるだけ!」
ㅤやれやれと溜め息を零すママにムッとすると、次はママはふっと笑って自分の口端を指さす。同じ場所に触れてみるとソースが付着していた。急いで拭った後マグカップで口周りを隠す。カフェオレ美味しい。
「がっつくからだ」
「ぐぅのねも出ないかも」
ㅤマナーも最低限教えて貰っていたけど、自分で思った以上に浮かれているのかもしれない。恥ずかしい。
ㅤ完食。
ㅤハンガーに掛かった制服に袖を通しランドセルを背負い込む。姿見で身嗜みをを確認したら準備は終わり。
「行ってきます」
ㅤぶっきらぼうに返されるママの返答に満足したらファラと手を繋いでテレポートジェムで固定された座標に跳ぶ。無論新築の拠点である。丁度チャイムが鳴る。タイミング完璧に未来の友達であるアリサちゃんが来たらしい。
ㅤ2回目の外出の挨拶をファラに投げ掛け玄関の鍵と扉を開けるとインターフォンがある辺りにターゲットの姿を見つけた。
ㅤ私に敗北を刻んだ彼女は昨日の事実が無いかのようなすまし顔だ。そうしていられるのも今のうちだと心の奥で先んじてほくそ笑む。
ㅤ作戦開始だ。
「おはようアリサちゃん」
ㅤ作戦①、いきなりの名前呼び。
ㅤ不意をつきペースを引き込む。
「……おはよう宝条さん」
ㅤ怪訝な表情をしながらも返してきた。悪くない。
「じゃあ行こうか!」
ㅤ作戦②、手を握る。
ㅤ名前で精神的距離、手で物理的距離を縮める。
ㅤ手を握った瞬間振り払われそうになるも予測で初動から抑え込む。顔は困惑で彩られそこはかとなく顔を赤くさせている。
「何を──」
「何って?」
「なんで私は手を繋がれているの?」
「えぇ、だってもうアリアたちお友達でしょ?」
ㅤ作戦③、もう友達。
ㅤ努めて笑顔で嫌味なく言うと完璧。
「ならこのまま登校しても何にもおかしくないよね」
「なにを言ってるの!?」
「いやもうお姫様抱っこで登校する?」
「本気でなにを言っているの!?」
ㅤ悲鳴を無視して歩を進める。思考が纏まっていないだろうアリサちゃんは抵抗も許されず一緒に歩くことになる。休む間を与えぬように今日の授業や宿題の話題を振っていく。返答は無いので一方的なコミュニケーションになる。
ㅤやんややんや!
ㅤ通学路、正門、校舎、教室へと手を繋いだ状態で悠々闊歩していく。もう半ば勝利と言っても過言じゃない。バッチリきっちり大衆に姿を目撃されているのだから。
ㅤアリサちゃんを席まで送り届け、私も自分の席に戻る。前の席のセッちゃんに何事かと心配されたが友達になったと答えておく。余計に心配された。私じゃなくてアリサちゃんが。
ㅤやっぱり時々セッちゃんは失敬だ。
ㅤ先生が来るまで思考を取り戻そうとしているアリサちゃんに追撃を仕掛ける。アリサちゃんの長い黒髪を弄びながら。
ㅤママとガリィによく髪を結ってもらっていたけど案外楽しいかも。今度ミカの髪で遊ぼ。
ㅤ三つ編みにしたり、お団子にしたり、シニヨンにしたり驚愕の精密動作と速さの織り成す情報の濁流。予鈴のチャイムが鳴ろうとする時、私は何事も無かったようにアリサちゃんの髪を下ろして櫛で梳かす。静電気の防止も忘れない。
「藤咲さんになにか恨みでもあるの?」
「親愛かな」
「それはそれで怖いよアリアちゃん」
ㅤ大概セッちゃんも私に対して遠慮がない。
「私もアリアちゃんの髪、触ってもいいかな?」
「どぞ!」
ㅤ次の授業の合間に挟まる小休憩中、セッちゃんに身を任せながらアリサちゃんの様子を伺う。うんうん頻りに手を見たり、髪に触れたりしてる。
ㅤ未だ彼女は混乱の最中。兵は拙速を尊ぶ、次のフェーズ移行もこのままのペースで押し切る。
「セッちゃん、次は体育だよね?」
「だね」
ㅤ手早く体育着に着替えてセッちゃんと共にアリサちゃんの所に行く。丁度髪をヘアゴムで束ねていて、こちらに気付くと後退りした。逃げ場はないんだよね、行くとこ同じだから。
「じゃあ行こうか!」
「は?」
ㅤアリサちゃんを挟む形でいざ校庭に急ぐ。
「ごめんね藤咲さん」
「そう言うなら宝条さんを止めて」
「ごめんね藤咲さん」
「なんで2度も謝るの!?」
ㅤもう2人も仲良くなってるみたい。
ㅤ準備体操は2人1組。私はアリサちゃんを逃がさないように引っ張り出してペアを作る。背中合わせの担ぎ合いで変な声出てたけど大丈夫?
「勢いをつけすぎなのよ! 一瞬地面見えたから!」
「たはー」
ㅤ夢中になるとつい加減を忘れちゃうのは私の悪い癖ですねぇ。でもママの癖でもあるから解消する気はないんだよね。たぶんママと私に血縁無いだろうし。せめて内面くらいは、ね。
ㅤ50m走で8秒台をマーク。強化無しでこれなら十分にスーパー小学生アリアちゃん爆誕って感じかも。
ㅤペアで走ったアリサちゃんも中々に早かったけど、日々ミカと遊んでる私の敵じゃないね。フィジカルには自信があるアリアちゃんなのです。
ㅤと、得意気に話していたらアリサちゃんに睨まれた。もう一回? よしきた!
ㅤ更にタイムを縮めてゴール。
ㅤもう一回は無理だよアリサちゃん、走っていいのは二回だけ。今度は違う事で競おう!
ㅤ負けず嫌いな気質を大いに刺激されたらしいアリサちゃんが勝負をしかけて来た。テストやらゲームやらスポーツで色々やってみたものの。
「運が絡む事でしか勝てないだなんて……」
「ブイブイ!」
「情け容赦がないよね」
「セッちゃんもやる?」
「心折れちゃうから嫌だよ」
ㅤテストで同点(満点)で引き分け続けて、ゲームは順当に勝っていったものの運要素が大きいゲームで取り返され、スポーツで尽く勝利した。やったよミカ!
「認めない!」
「ふぇ?」
「絶対に認めないから!」
ㅤそう言って走り去ってしまった。でも下校班一緒だからまたすぐ会うんだけど。
ㅤいやまず何を認めないって?
「友達じゃないって意味かな?」
「なるほど親友って事か」
「そういうとこだよアリアちゃん」
ㅤ集合場所で再開したアリサちゃんは真っ赤っかだった。怒ってるのか恥ずかしがってるのかはわかんない。
「今日で私たち親友だね! あれどうしたのアリサちゃん、頭痛いの?」
ㅤ帰ったらママに親友ができた話をしよう。あとガリィに改めてお礼を言わなきゃ。
ㅤ
もうほぼ攻略は終わり。
次はもう場面を飛ばしたりイベント挟んだりしながら原作までお餅をつきます。
アリアちゃん:
フィジカルを武器にゴリ押しコミュニケーションを敢行した流星の如く現れるスーパー小学生錬金術師。尚元凶はどこぞの人形。背中押すと猪武者。
セッちゃん:
被害者その1。初対面でアリアちゃんの神秘性に気後れしたものの内面の傍若無人っぷりを知った途端そんなことは無かったと仲良くなった。無茶をやる時にストッパーになろうとしてるが大概意味は無い。
アリサちゃん:
被害者その2。つれない態度であしらった転校生が次の日に異常な積極性を発揮してきて最早恐怖した可哀想な琥珀の子。初期の翼くらい刺々しい設定だったけど一瞬でヤスリがけされた。友達拒否した理由は騒がしい人が好きじゃなかったから。なお今は──