キャロルちゃんをママと呼ぶ話が書きたかっただけ   作:小指のファウストローブ

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何気ない日常って尊いよね!


キャロルちゃん実行へのカウントダウン

 永き時を賭したチフォージュ・シャトーの建設は完了した。

 目的地に移動するまでの浮遊ユニット、侵入者を撃退する防衛機構、莫大なエネルギーを捻出するリアクターと燃料源たる魔力水晶。

 

 あとは世界を解剖(破壊)する呪われた旋律で編曲した歌の完成と、レイラインの開放、そしてシャトーを制御する聖遺物の確保。それだけで計画の大部分は終了する。それらが手に入ればもう止まることはない。手遅れだ。オレの意志では止めようもない。

 

 世界は解剖(破壊)され、記録され、万象黙示録は紡がれ、帰結するだろう。

 

 その時が我が憎悪の根源、『奇跡』の命日だ。

 

 頬が吊り上がっていくのが分かる。吐き出す息さえ凍えてもいないのに震えきっている。

 

「もう直ぐだよパパ。もう直ぐオレはパパの命題に答えを出す」

 

 世界を識る。

 世界を消費し、世界を識る。

 世界を解剖(破壊)し、奇跡を殺す。

 

 パパを殺した世界を、奇跡を、正しさを全て、漏れなく遍く全てを賭してオレは立証するんだ。

 

「答えを出した時、パパはオレを褒める事はないだろうな……」

 

 あぁどうだろう。死人は言葉を介さないものな、褒めてくれるかどうかなんてオレの中の記憶との折り合い次第で変わる。

 

 だからだろう。

 

「こんな記憶、さっさと焼却しておけば良かった」

 

 パパは望まない。喜ぶはずもない。あの人は誰かを救う好意を尊いと思える純朴な男だった。きっと奪い壊す事でしか世界を識る手段を選べなくったオレを嫌悪するだろう。

 

 だがもう止まれない、歩み続けていないとオレは消える。オレにはもうそれ以外に生きる意味を見い出せない。一方通行の袋小路、そして終着点。

 

「だから、全てを破壊するしか──」

 

 

 ──その時、あの娘は笑っているだろうか?

 

 

「っ!」

 

 何を過ぎらせた?

 この恩讐の果てに身を投じると決めたはずだ。パパと同じ業火で身を焦がしながらも進むと誓ったはずだ。少なくともそれがオレの願いだったはずだ。

 

 だのに、一体何を逆上せ上がったことを!

 

 アリアの成熟が早かったのは嬉しい誤算だった筈、拾った雛鳥を成鳥として野に放つだけだろうに、と。何を惜しんでいる。

 

 もとより家族ではなく一時的な同行者、良くて拾った子猫が家に居着いたくらいのもの。何を躊躇う。最初から決めていた事、あの娘が成長しきった時には何処に行こうと関知しない。

 

 たとえ敵になろうともそれがアリア自身が決めた選択だと受け入れる。そういうスタンスだったろう。

 

 巣立ったあとにどうなろうと知った事ではない。以前そう零した。無論着いてくるなら黙って利用する、それだけだ。

 

 

 ──きっとあの娘は泣きながら、それでも上手く笑って見せる。

 

 

 ……だからなんだ。

 寧ろ都合がいいだろ。

 

 

 ──お前との別れはきっと……

 

 

 止めろ。

 

 

 ──どんな知識よりもオレの奥底に刻まれる。

 

 

 違う。

 

 

  ──許されないだろうが、願うだけなら、想うだけならば。

 

 

 目を逸らさねば。

 

 

  ──せめてずっと、心だけは一緒に。

 

 

「オレの心に入ってくるな!」

 

 呼吸を忘れていたのか息はたえだえになっていた。身体を包み込むように両腕で抱き込み、その場に萎むように腰が落ちる。吊り上がっていたはずの頬もずり落ち、汗が伝う。今では全身が先程とは違う意味で凍えたように震える。

 

「ハッ、無様だな」

 

 誰に言われたでもない、オレがオレに向けた言葉。父親の命題を意に沿わぬ形でそれでも叶えようと歩みながら、その結果途中で臆した。オレ自分への嘲笑だ。

 

 そしてそれでも進まねばと生き足掻く、馬鹿な自分への憐憫。

 

 複雑怪奇。

 随分と賑やかな内面を獲得したものだ。いやもとより持っていたのか、オートスコアラーは間違いなくオレの深層心理に根付いた思考ルーチンだった、というわけだ。

 

「予定通り、予定通りだ。シンフォギア装者が一定の練度に達した時が計画の幕開け」

 

 どのような結果に終わろうと答えは出すよパパ。

 

 許せとはもう言わない。

 

 

◇◆◇

 

 

 ドアがパーンと甲高い音と一緒に開かれる。

 

「たっだいまー! アリア帰還!」

 

「壊れることは無いがそう扉を乱雑に開けるな。動作は小さく無駄を省け」

 

「実は音だけ合成音声なのだった。実際は普通に開けてるよ」

 

「無駄だらけだな!?」

 

 家とはいえ気軽に無駄な術をぽんぽんと。

 

「反響の操作が肝かも」

 

 そう声帯を震わせずに話し出す阿呆にデコピンを一発放つ。お前は腹話術師にでもなるつもりか。

 

「アタタ、でも今日はママなんだね。最近忙しそうだったからまたファラかレイアだと思ってた」

 

 仮拠点として建てられた家に待機する当番が回ってきていた。大概の場合シャトーを理由に行けては居なかったが。

 

「ノルマが達成されてな、しばらくはフリーだ」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

「やったー」

 

 そう言って荷物を放り投げ、いやきっちり定位置に着弾して身軽になったアリアはソファに座るオレ目掛けて飛んできた。首に手が回された際に頬を擽る、やや白に寄った銀糸の髪が距離の近さを実感させる。

 

「お前の髪はやたら左右に跳ねるからな。油断が出来ない」

 

「ムムッ、でもママたちが梳かしてくれるし大丈夫だよ」

 

「いや自分の髪くらい自分で梳かせ。なんで時々億劫になる?」

 

 そう言って櫛で梳かしてやるから余計にしなくなるんだろうな。分かってはいるんだ。ただ一言くらい小言を言っておかないといざと言う時に本当にやらなそうで不安でな。

 

 梳いたあとの髪を優しく撫であげる。こうしていると本当に猫のようだ。目が細く閉じられるから余計に。

 

「今日のママは寂しん坊かな? アリアがギュッとしたげる!」

 

「さてな」

 

 声に出しながらギューッと苦し過ぎない程度に抱きしめられて、オレは素直に安らぎを得た。そして改めて認識を強要される。

 

「はぁ」

 

「あーママったら酷い。アリアの抱擁にため息なんて!」

 

 ポカポカと擬音を合成しながらさして痛くもない拳が飛んでくる。便利だなそれ。脅しに使えそうだ。

 

「悪かった、お詫びに冷蔵庫にカスタードプディングがある」

 

「わーい」

 

「ゲンキンなヤツだ」

 

 ふくれっ面が笑顔に早変わり、切り替えの速さと行動力はピカイチだな。冷蔵庫に行く前にプリントを提出して行く辺り抜かりないというか。

 

 月の初めに出される大まかな予定表、先月いっぱいの活動をまとめた写真多めのプリント。いわゆる保護者便り。結構マメに書かれていて、クラス毎のプリントだから担任が刷ってるんだろうが、大変だなとしか言えん。

 

「目立つからか写真によく写ってるな、お前は」

 

「ついカメラがこっちに向いちゃうらしいよ」

 

「……そのカメラマンは大丈夫か?」

 

「大丈夫って?」

 

「いや、やっぱりいい」

 

 おやつにパクつくアリアを横目にプリントに目を通していく。目を凝らさなくてもアリアの姿が写っている。もう自分から写りに行かないと成立しない頻度だ。後でカメラマンを調べる必要がある。

 

 今月中には遠足が控えているらしいことや、地域ボランティアの参加など書かれてはいるものの、行事自体はさして多くはない月のようだ。

 

「遠足ね」

 

「動物園らしいよ」

 

「その場合昼食は弁当になるのか?」

 

「おやつは500円以内!」

 

 レジャーシート、水筒、弁当。他なにかいるか?

 

「キッシュ入れてね」

 

「卵料理ならなんでも食うだろうが」

 

「それはそうかも!」

 

 まぁアリアの好きな物を入れて置けば無難だろう。バランスはこっちの工夫次第だ。キッシュなら野菜も入れやすいし色味も明るい。

 

「あ、そうだママに相談があったんだよ!」

 

「なんだ藪から棒に」

 

 最後のひと口を嚥下したあと、アリアは畏まったように背を正してこちらを向いた。

 

「アリサちゃんがね、良かったらライブに行かないかって」

 

「人の波に攫われそうだな」

 

 脳裏にあれよあれよと人垣に埋没するアリアの姿が見える。怪我はしなくとも迷子にはなるだろう。そもそも曲の1つでも知っているのか?

 

「聞いた事くらいはあるもん。ツヴァイウィングって言うんだけど」

 

 ツヴァイウィング。

 特異災害対策機動部2課所属のシンフォギア装者2名で組まれた音楽ユニット。アメノハバキリとガングニールのシンフォギアだったはずだ。

 

 今シンフォギア装者と接点を持つ可能性は排除したいが、問題はそれよりも厄介な代物だ。2課は完全聖遺物を2つ保持している。それも休眠状態の。

 

 完全聖遺物を目覚めさせるには大量のフォニックゲインが必要になる。しかしながら2課所属のシンフォギア装者は片方時限式、もう片方の装者一人で完全聖遺物の覚醒するとなると時間がかかり過ぎる上に身体を壊しかねない。

 

 だが大衆を巻き込んでのライブならそんなフォニックゲインも効率的に回収できるだろう。

 

「ライブには行くな。きな臭い」

 

「えぇ!? アリサちゃん悲しむかも!」

 

「ダメなものはダメだ」

 

「うぅ……分かった」

 

 目に見えて落ち込む姿が見るに耐えなかった為、オレはそっとまた跳ねだした髪を押さえるように撫でる。

 

「悪いな」




人の温もりを覚えると弱くなるよね。
忘れかけていた温もりは尚更手放し難いと感じてしまうものだよね。

キャロルちゃん:
ある日を境に記憶の焼却を全く行わなくなった為に色々ハッキリしてる。感情はぐちゃぐちゃ、でも奇跡は大嫌いな何処にでもいる普通の錬金術師。天国のイザークパパが血反吐を吐きながら罠だ戻れと言っている気がして来た。『奇跡? 取り消せよ、その言葉!』

アリアちゃん:
卵料理系が好き、甘いものも好き。卵焼きは甘くする派。ライブとか初めてでウキウキウォッチングだったけどママからストップが入ってチベットスナギツネ。最近髪に変なクセがついた。

アリサちゃん:
偶然、本当に偶然ツヴァイウィングのチケットが2枚生えた。アリアちゃんにお断りの電話を入れられたあとで泣いた。行けない理由が教えられないと言われた時に嫌われたんじゃないかと本気で焦った。


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