あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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今回も拙作に目を通して下さりありがとうございます。

今回の話はエイプリルフールにちなんで「ありえたかもしれない可能性」のお話です。なもんで本編との繋がりは『ほとんど』ありません。ですのでご注意ください。ちょっとしたお話として楽しんでいただければと思っております。

それではちょっとした小話、六十四話のもしもの話をどうぞ。


誰かが書いた小話
四月馬鹿なお話その1(六十四話If)


「コホン……えーと、じゃあ他に誰かいないか? ちょっとしたことでもいいんだ。何でもいいから言ってほしい」

 

 神の使徒と思しき死体から拝借したガントレット、これの収納空間を復活させたハジメ達を胴上げしていたのをメルドに止められた後、光輝は恥ずかしさをごまかすようにせき払いをしながら話を振った。

 

「あ、じゃあちょっと確かめたいことがあるんだけど」

 

「俺もだ」

 

 そうして話を振ったところ、恵里と幸利が手を挙げてきた。さっきから感じていた気恥ずかしさをごまかすためにも、光輝は二人の方を向いて何を確かめたいのかを尋ねることに。

 

「じゃあ恵里と幸利。それぞれ意見を言ってほしい」

 

「ボクのは簡単だよ。単にどこまで“界穿”が届くかどうかってだけ」

 

「こっちもちょっとした疑問だ。“界穿”はどうやって別の空間と繋いでるのかが知りたいってだけだな」

 

 奇しくも二人の話題に挙がったのは“界穿”のことである。既にどういった魔法であるかはグリューエン大火山を攻略した面々は知っていたものの、まだその時はそこまで気にかかっていなかった。フリードのことや魔人族の事情に鷲三、霧乃の襲撃やハイリヒ王国を急襲したことなどで考える時間が無かったからである。

 

 しかしこうして余裕が出来、先程の説明会で披露した際に二人は気になったのだ。恵里は移動できる範囲を、幸利はその原理について知りたいと思ったのである。そこで鈴がうなずくと、すぐに意を決した様子で魔法を発動しようとする。

 

「じゃあやってみるね。“界穿”」

 

 ――本来なら地球に繋がることなく話は終わる。が、何の偶然か悪戯か。開いた穴からボトリと少量の液体と共に()()が落ちてきた。

 

「――えっ」

 

「うっ、うぅ……」

 

 落ちた方を見やればある一点を除いてとても見覚えのある人物がそこにいた。だがそれは同時にそこにいてはならない人物でもあった。

 

「は、ハジメ……くん?」

 

「は、ハジメなのか……?」

 

「だ、れ……?」

 

 ――そこにいたのは南雲ハジメ。しかし左腕の肘から先を失い、その周りが乾いた血で汚れてしまっている。更に言えば魔物の肉を食べる前のその姿であった。

 

 訳の分からない事態に下手人となってしまった鈴はもちろん、ハジメも恵里も光輝もメルドにフリードさえも目が点となってしまっている。

 

「……増えた」

 

「増えちゃった……」

 

「おいどうすんだこれ……」

 

「いや知らねぇって。どうすんだよ」

 

「ここは、どこ……?」

 

 この場にいた誰もがパニックになり、どうするべきかと迷い、うろたえにうろたえる始末。疑問を投げかけてきたもう一人のハジメと思しき人物に対し、とりあえず光輝がおそるおそる歩み寄り、横たわったままの彼をそっと抱き起こす。

 

「えぇと、信じられないとは思うけれど、ここはハイリヒ王国の王宮の中なんだ。その、どちら様かな?」

 

「っ!……な、南雲ハジメ、です」

 

「んなっ!?」

 

 やや震えながらも想定してた通りの答えを彼が返ってきたものだからやはり恵里達はパニックを起こす――目の前にいるのは違う世界、()()()()の南雲ハジメであると確信したからだ。

 

「お、おい鈴! もう一度“界穿”使え!! 早く送り返せ!!」

 

 意図せぬ形で並行世界の人間と出会ったことに驚いたのものあったが、もし並行世界の彼がいなくなったらどうなるかを想定して恵里達オタク組はぞっとした。彼がいなければおそらくエヒトには勝てない。それだけでなくもしエヒトが並行世界に感づいたら一体どうなるか。少なくとも愉快なことにはならないであろうと全員が確信したからである。

 

「う、うん! “界穿”――ってまたぁ!?」

 

 半ばヒステリー気味に指示を出した幸利に従い、鈴はすぐに“界穿”を発動するものの、またしてもそこから誰かが落ちてきた。天丼である。

 

「い、ったぁ~……あ、あれ? ど、どうして私王宮にいるの? え? な、南雲君?」

 

「白崎、さん……?」

 

 ……今度姿を現したのは白崎香織であった。増えた。厄介なことになった。恵里達地球組の人間は声にならない叫びを上げ、現地人であるメルド達は宇宙の真理を目撃した猫のような有様となっている。とんでもないことが起きてしまった――。

 

 

 

あまりありふれてない役者で世界逆行 第64.2話「あっちゃいけない事態で全員混乱」

 

 

 

「えーと、その、大丈夫かな南雲君」

 

「い、いえ、その……だ、大丈夫、です」

 

 宝物庫から取り出したソファーに向こうの南雲と白崎を座らせ、“鎮魂”をかけた後にリリアーナとヘリーナに頼んでお茶を出してもらった。そうして一杯飲んで一息ついてもらったところで光輝は南雲に話しかけるが、彼はどこか怯えた様子で周囲をせわしなく見ていた。

 

「あの、どちら様ですか? その、私の知ってる人に皆さんよく似てるんですけど」

 

「そのことについても説明した方がいいな。二人とも、多分信じられないかもしれないけれど聞いて欲しい」

 

 そんな南雲に代わり白崎が問いかけると、光輝達も“念話”で話し合った内容を説明していく。自分達は違う世界の人間であり、またこちらの不手際によって二人を招いてしまったということを。そして自分達の素性に関しても簡単にではあったが話した。

 

「あ、天之河君……? そ、それにそっちの人は僕で、魔人族の人も味方なの?」

 

「信じられない……恵里ちゃんもそうだったけど、あなたも本当に光輝君なの? 私の知ってる光輝君は南雲君が私の腕を掴んでるだけでも色々言ってくると思うんだけど」

 

「白崎さんやめてくれ」

 

 ……なお、名前を名乗ったら二人に大いに驚かれた。その上白崎は容赦なく追撃を仕掛けてきたせいで光輝のメンタルが死に、そのことに雫が思いっきりキレた。

 

「ちょっと白崎さん! 確かに信じられないのはわかるけれど、私の光輝はそんなこと言わないわ!!」

 

「えっ」

 

 そして光輝の手を掴みながら力説する雫を見て白崎は絶句する。自分の知っている雫はこんなことを絶対しないと断言できたからだ。

 

 自分の親友である雫はほかならぬ光輝の行動のせいで一言で言い表せない関係になっているし、こういう風に接することはあり得ない。少なくともこんな風に()()()()()()()()()ような反応などとるはずがないからこそ驚愕する他なかったのである。

 

「あ、あの、白崎さん。た、多分世界が違うからきっと……」

 

「嘘……せ、世界が違うだけでこんな……こんなことが……」

 

 滅茶苦茶ショックを受けてしまい呆然とする白崎に南雲は体を震わせながらもそっと寄り添っている。『自分を尊敬していると言ってくれた人の体温を少しでも感じ取って落ち着きたい』という下心も無くは無かったが、少しでも彼女の震えが軽くなるよう願ってやったのも事実であった。それを知ってか知らずか、白崎も彼の手に自分の手を重ねながら信じられないものを見てしまったとばかりにつぶやいた。

 

「……まぁ、そっちの俺は俺と違うってのはわかったよ。」

 

 まださっきの白崎のリアクションから完全に立ち直ってはいなかったものの、これとそれとは関係ないとやせ我慢をしながら光輝は二人にそう返す。未だ訝しげに見てくる二人の視線に傷つくも、もう仕方ないと明後日の方向を見てどうにかしようとした。

 

「大丈夫」

 

「雫……」

 

「あっちの光輝がどんな人なのかなんて関係ないわ。貴方が私の王子様だってことに変わりはないから」

 

「ありがとう、雫」

 

 体にカビが生えてしまいそうな陰鬱な空気を光輝が放っていると、そっと雫が彼を抱きしめてきた。そして光輝の頭を自分の胸元に手で寄せながら彼の耳元で思いをささやいてくれた。それだけで何もかもが救われた気がして光輝は最愛の彼女に礼を伝える。途端ほわわ~んとあまぁ~い空気が漂った。

 

「し、雫ちゃんが……な、何が起きたの……?」

 

 なお白崎はとてつもなく動揺したが。自分の知っている光輝と雫はこんな空気を絶対に放つことは無いということを知っていたからだ。光輝の行動にいつも頭を悩ませている自分の親友が、別の世界ではこんな仲睦まじくしているなんて白崎は簡単に受け入れられなかった。

 

「雫ちゃんはね、小学二年生の頃に光輝君にイジメから助けてもらったからだよ。しかもその時唇同士でキスしてるの!! だから光輝君のことがずーっと好きなんだよ、そっちの私!!」

 

「………………………………えっ?」

 

 そこで香織が当事者を差し置いて自信満々かつテンション高めに白崎に理由を説明したら向こうが完全に固まってしまう。

 

 白崎がそうなった理由は自分の知る雫と目の前の彼女との違いだ。雫がイジメを受けた原因は光輝と親しい女の子からのやっかみであり、それを光輝に伝えて助けてもらおうとしてもマトモに取り合ってくれなかったと過去に彼女から聞いている。故に意味がわからないのだ。どうして真逆の事態が起きているのかが理解できないのだ。

 

「えっ、その、えっ?……えっと、そっちの光輝君は、雫ちゃんを助けた、の?」

 

「いや、俺が原因で雫のイジメが起きてしまったんだ……だからあの時のキスは償いだよ。今はその……違う、けど」

 

「そうね。でもあの時は光輝は親しい間柄の子としか一緒にいなかったし、それにあの時のキスのおかげで私は幸せになれたもの。ただの償いなんかじゃないわ」

 

「いやそもそもこうなった経緯言わねぇとわかんねぇだろ。んじゃ説明させてもらうぞ」

 

 南雲共々余計に混乱を深める白崎に幸利が説明を始める。前世? の記憶を持った恵里が逆行してきたこと、自分の未来を変えるために色々と行動したことで変化が起きたこと、そしてここにいる地球出身の皆が全員友人であるということも明かした。

 

「……僕が、檜山君と? それと、中村さんと?」

 

「あー、そっか。そっちの俺、南雲のこと嫌ってんだな……悪い」

 

「まぁ向こうの俺らは別に許さなくっていいけどよ、まぁ、その、仲良くできねぇ?」

 

「こっちの先生と大差ないんだろ? だったら別に俺達が嫌う理由はないしな」

 

「腕なくなって不自由してんだし、まぁ何かあったら頼れよ。俺達そこまで薄情じゃねーからさ」

 

「い、違和感がすごい……え、遠慮しておきます」

 

 困惑するばかりの南雲を見て、向こうの自分が迷惑をかけていることを詫びる大介達。だがそのせいで南雲は余計に顔を引きつらせ、残っている右手を出して拒否してきた。

 

「やっぱかぁ……」

 

「まぁ仕方ねぇよなぁ……なぁ谷口、もっかい“界穿”使ってくれねぇ? 違う世界の俺引きずりだしてブン殴る」

 

「や、ややこしくなると思いますからやめましょう斎藤さん……大丈夫。大介も、近藤さん達も良い人だってことを私も皆さんもわかってますから」

 

「……悪い、アレーティア」

 

 南雲の返事に四人とも思いっきりうなだれてため息を吐き、良樹はなんとかして南雲の世界にいた自分を殴ろうと鈴に頼み込みまでした。もちろん鈴からすごい目で見つめ返され、ちょっとオロオロしたアレーティアにも止められる。その後アレーティアはうつむく大介を励まそうと声をかけ、彼もまた彼女の優しさに甘えるのであった。

 

「まぁね。あの時はイヤイヤだったけどさ、今となっては最高の選択をしたって思うよ。こんなに愛しい人が出来たんだもん」

 

「ねぇ、向こうの私。どうして南雲君が恵里ちゃんと鈴ちゃんと一緒になってるのに何も言わないの?」

 

 その一方、恵里がハジメと手を絡ませながら自分の過去の行動を肯定すると、突然白崎がこんなことを言い出した。彼女の中にある南雲へのあこがれを超えたある無自覚の思いが引き起こしたものだ。自分と南雲以外の人間が恋人の間柄であることに何故か苛立ってしまったからである。

 

「「は?」」

 

「あー、白崎さん。その、言いたいのはわからなくもないけれど、これも恵里が動いたことでこうなったんで……」

 

「じゃあ、じゃあ恵里ちゃんのせいでそっちの世界の私と南雲君はただ親しいだけなんだね……恵里ちゃんと鈴ちゃんばかりズルいよ」

 

 その言い分に思わず恵里と鈴は青筋を立て、他の面々も苦笑したり首を傾げたりしたが、そのことにカチンときた香織だけは白崎に言い返した。

 

「ズルくなんてないよ。だって私の好きな人は龍太郎くんだもん」

 

「……はぇ? え? ふぇ? えっ?」

 

 途端、白崎がバグった。予想外の人物に好意を抱いていると聞かされて頭は一瞬でフリーズしてしまい、出てくる言葉は何一つ形を保つことが出来ず、ただただ間抜けな顔をさらすばかり。

 

 自分の認識する彼は光輝に付き従ってあまり話を聞かない相手であったはずなのに、どうしてそんな彼を()()でいるのかと向こうの自分のことが信じられなくなってしまう。

 

「さっき雫ちゃんがいじめを受けてたってのは言ったよね。その後雫ちゃんは自殺しようとして学校の外に出て行ったの。それを光輝君が追いかけていったんだけど、その後押しをしたのも、光輝君を追いかけようとしたいじめっ子の子達を体を張って食い止めたのも龍太郎くんなんだよ」

 

「え? えっ??」

 

「暴力も使わないで必死になって三人の女の子を止めて、私とずっと一緒にいてくれた……まぁ、その、ひどいこともしちゃったけど、それでも私のことを好きでいてくれた。そんな素敵な人なんだよ」

 

「ここにっぽんだよ。にほんごではなして」

 

 そして香織はその疑問に答えようと熱弁したことで白崎の頭から煙が立ち上った。何一つ理解できない。何がどうしてそうなったと頭が理解を拒み、支離滅裂な言葉を無意識に吐いたことに白崎自身も気づけなかった。

 

「あー、案の定ヤバくなってるね」

 

「し、白崎さん! 白崎さんしっかり!!」

 

「おい珍獣ー、お前のせいで白崎ヤベーことになってんじゃねーか」

 

「なんで向こうの私は苗字で呼んでくれるのに私だけヒドいあだ名のままなの中野君!? 近藤君も斎藤君も檜山君もうなずかないでよ!!」

 

 オーバーヒートを起こす白崎を見て恵里が適当につぶやき、半目で見ながら信治は香織をからかった。当然香織は怒り、信治のコメントに礼一達もうんうんとうなずいたせいでうがー! とうなり声を上げる。

 

「えーと、なんで……? どうして檜山君達はそっちの白崎さんのことを、その……からかってるんですか?」

 

「好きな相手を無自覚に二回フッた奴だからだよ」

 

「私の恩人を振り回したこと、時効になってないわよ香織」

 

「恵里ちゃんも雫ちゃんもひどいよ! あの時はまだ龍太郎くんに恋してたってわからなかったんだもん!!」

 

 香織がアレコレ言われる様を見た南雲は、白崎の学校の評判や地球にいた頃自分にしてたことをふと思い出した。

 

(た、確かに学校にいた頃の白崎さん、どうして僕に構うのかも話さずに色々やってたけど……で、でもギャップがすごい……)

 

 自分の知る限りでは学園のマドンナという扱いであったはずなのに、ここでは変な、というか残念な生き物を見るような目つきで多くが見ている。記憶と目の前の光景ですさまじいギャップを感じはしたものの、理由を話さずにあいさつをしてきたり世話を焼いていたことを思えば何となく納得は出来た……それはそれとして目の前の二人を見て本当に同一人物なのか疑いたくはなったが。

 

「あーもう恵里も雫も大介達もやめてくれ……いくら事実を並べてるだけだからってな、流石に香織のことをそこまであげつらったら俺だって怒るぞ。それ全部ひっくるめて俺はコイツが好きなんだよ」

 

「龍太郎くん……」

 

 そうして友人や幼馴染に香織があーだこーだと言われ、遂に我慢しきれなくなった龍太郎が動いた。彼女の肩を抱き寄せてそのまま胸元まで持っていき、アレコレ言っていた面々全員に軽く苛立ちを露わにしながら香織への愛を述べた。そのことに香織はうっとりとした表情を浮かべ、熱いまなざしを向ける。

 

「……きゅぅ」

 

「し、白崎さん!?」

 

 そしてそれが白崎へのトドメとなった。言葉だけでなく態度でも示されたらもう逃げ場がなかったからだ。キャパシティーを超え続ける情報の嵐に遂に屈し、そのまま気を失ってしまう。

 

「……向こうの香織は大丈夫でしょうか」

 

「こればかりは本人にうかがわないと無理かと」

 

「……とりあえず、そっちの白崎を介抱しましょ。あと起こしたらずっと“鎮魂”かけ続けた方がいいかもしれないわね」

 

 不安そうに白崎を見つめるリリアーナにヘリーナも上手いこと返すことも出来ず、優花も頭を押さえながらただそう述べた。心配そうに白崎を見つめる南雲に申し訳ないと思いながらも、一行は倒れた彼女を宝物庫から取り出したベッドに横たわらせる。

 

「まぁ目を覚ましたら白崎さんに色々と伝えるとして……そっちの僕、色々と聞きたいんだけどいいかな?」

 

「う、うん……」

 

 並行世界の自分との対面。字面にすればオタクが興奮するようなシチュエーションではあったが、実際なってみるとお互い変に気を遣うような状況と化してしまった。そのことをも心の中で嘆きつつも、南雲は少し疲れた様子のハジメに自分の置かれた状況について説明するのであった……。

 

 

 

 

 

「……そっか。辛いのに話してくれてありがとう」

 

「う、ううん。そっちの皆さんが何か魔法をかけ続けてくれたおかげで、僕も落ち着いて話せたから……」

 

 おそらく受けた恐怖のせいかところどころぼかしが入ってはいたものの、南雲から経緯を聞いたハジメは彼に向って頭を下げた。いくら恵里や光輝らが“鎮魂”を使って心を落ち着けさせてくれてたとはいえ、思い出すのだって嫌なのは彼とてわかっていた。それ故だ。

 

「……向こうの世界の俺を殴りたい。どうしてそんなことをやったんだよ……!」

 

「恵里と出会わなかったのがここまで影響がデカいなんてな……」

 

 南雲が語ってくれたのはオルクス大迷宮で転移のトラップを檜山達が起動し、ベヒモスと遭遇してからの話だ。光輝はわがままで全員を危険にさらした向こうの自分を恥じて怒り、龍太郎もまた向こうの自分が光輝の金魚の糞のままであったことやそれ故に彼を止められなかったことに愕然としてしまう。

 

「……そうなっちまうのも、その後俺がどうなるかも想像がつきそうだ。恵里と光輝達が出会えたのって奇跡だったんだな」

 

「向こうの私も南雲に助けられなかったら死んでたのね……本人じゃなくて悪いけど、その、ありがと。向こうの私を助けてくれて」

 

 優花や幸利もただ錯乱していた自分達の様子を聞かされて何ともいえない顔をしている。向こうと自分達の様子の違いを聞いて、あの時死にかけたことを良かったと言うつもりはないとはいえど恵里の存在がとても大きいということを痛感していた。

 

「ヤベっ、涙止まんねぇ……」

 

「こんな、こんなのってないよ……」

 

「南雲さん……」

 

 そして大介達四人と香織、そしてアレーティアは彼の境遇に涙を流し、他の面々も多くが沈痛な表情を浮かべている。違う世界と言えど慕っている相手が腕まで失い、恐怖と苦痛に塗れた時間を過ごす羽目に遭ったことは堪えがたいものであった。アレーティアも愛する父のしてくれたこととはいえ、永い間手足も動かせずにただ死なないだけの日々を送っていたことを思い出してしまい、はらはらと涙を流して大介にすがりついていた。

 

「……見事だ。才もなく、頼れる友もいない。そんな中でやってのけたことを否定するほど私も無粋ではない」

 

 そんな中、フリードは南雲の行いを称賛する。自分と相対した時のように化け物染みた力を持っていたのではなく、むしろ普通の人間とそん色ない少年が当時の勇者でも倒せなかった相手を決死の覚悟で足止めした。その後も橋から落下し、腕を失いながらも必死になって生き延びた。“縛魂”の効果があるにしてもこれほど果敢であった彼に敬意を払わずにはいられなかったのである。

 

「ぼ、僕は、ぼくは……」

 

 この場にいる全員が自分の境遇に涙し、その行いを称えてくれる。そのせいで南雲はため込んでいた感情が爆発しそうになった。怖かった。辛かった。苦しかった。死にたかった。家に帰りたかった。それらの思い全てがあふれそうになっていた。

 

「南雲君」

 

 そんな時、途中で起きて彼の話を聞いていた白崎が彼を後ろからギュッと抱きしめる。彼女もまた鼻声で彼の背中に顔をうずめながらその名を呼んだ。

 

「しらさき、さん……」

 

「泣いちゃおう。きっと、きっとここにいる皆がうけ、受け止めてくれるから。そうだよね?」

 

 首だけ振り返って彼女の名前を南雲は呼ぶ。そんな彼を見ながら白崎も涙と鼻水にまみれた顔で問いかける。その言葉に誰もが首を縦に振った。

 

「う……うぅぅ……うわぁぁあぁぁぁああああぁ!!!!」

 

「よかった……よがっだよぉ"! なぐもぐんいぎでだぁー!!」

 

 恥も外聞もなく二人の少年と少女が体を抱きしめ合って泣き合う。それを見てつられて泣いた者はおれど、邪魔をしようとは誰もしなかった。

 

 

 

 

 

「……じゃあ話を整理しよう」

 

 そうして二人が存分に泣いて落ち着いた頃、念のため恵里が“鎮魂”を発動した上で南雲と白崎と改めて話をする――二人がここに来る前に何があったかを問いただすために。

 

「僕はその、ベヒモスとの戦いの後、奈落の底に落ちて、魔物と出くわして……」

 

「私は南雲君が落ちた後、どうにかしようと必死になって。それで、雫ちゃんに羽交い締めにされて」

 

「……マジかぁ」

 

「何がだよ、幸利」

 

 二人の経緯を聞き、思わずつぶやいた幸利以外にも恵里、ハジメ、鈴、光輝そしてリリアーナの五人も苦虫を嚙み潰したような顔をする。一体どういうことかと大介が尋ねると、幸利はそんな表情をした理由について語っていく。

 

「……大介、それに皆も。気づかなかったか? 二人の違いによ」

 

「ユキ、遠回しに言わないでちょうだい。アンタの悪い癖よ」

 

「……そうでもしないと驚くよ、優花」

 

 全員に問いかける幸利を見て、いつものようにまだるっこしいことに軽くイラッときた優花が結論を早く話すよう急かすが、そこで恵里が真剣な様子で優花を見つめる。これはそうそう簡単に明かしていいものではない、と述べながら。

 

「僕と白崎さんの違い……? まさか――」

 

「えっと、場所の違いかな? 清水君」

 

「それもそうだ。違いねぇさ。じゃあ聞くぞ」

 

 南雲は何か感づいた様子であったが、白崎はまだ他の多くの面々と同様に気づいた様子は無い。そこで彼はこの場にいた全員に問いかけた。南雲と白崎の二人はベヒモスと戦ってどれぐらい時間が経過してた? と。

 

「そりゃお前、戦って――は?」

 

「ま、待ってくれ! ど、どういうことだ!?」

 

「……清水君、もしかして」

 

「そのもしかだ。あくまで可能性の一つだけどな」

 

 その瞬間、全員が二人の噓偽りない言動の()()に気付く――南雲はベヒモスと戦っていくばくか、白崎はベヒモスとの戦いが終わった直後のそれであったということに。

 

「二人ともこことは違う並行世界の存在なのは間違いないと思う」

 

「……そうであってほしい可能性として、()()並行世界で違う時間軸から二人はやってきたこと」

 

 ハジメが改めて二人が並行世界の人間であることを示し、光輝が願望に基づいた憶測を出す。

 

「もう一つ、は……」

 

「……僕達二人が、()()並行世界の、違う時間軸からやってきた可能性……」

 

 鈴がどうにか口を開いて最悪の可能性を述べようとした時、その答えを導き出していた南雲が言葉にする。

 

「……そうだね。二人は世界の迷子になった。ボク達のせいでそうなった可能性がある」

 

 ――それぞれ違う世界から迷い込んでしまった人間。そのことに誰もが愕然とするしかなかった。

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