あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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まずは拙作を見て下さる皆様に惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも133097、お気に入り件数も792件、しおりも357件、感想数も443件(2022/9/23 6:18現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして自分の作品に目をかけて下さる皆様には頭が上がりません。ありがたい限りです。

そして聖戦士トッドさん、Aitoyukiさん、羽織の夢さん、拙作を評価及び再評価していただきありがとうございます。こうして評価をいただけるとまた執筆する気力が湧いてきます。感謝いたします。

今回の話も少し長め(約12000字程度)のため、それに注意してお読みください。では本編をどうぞ。


五十六話 駆け抜けろ、灼熱の果てへ

「すごいね……」

 

「流石火山の中なだけはあるよね……」

 

 【グリューエン大火山】の内部は、【オルクス大迷宮】や【ライセン大迷宮】以上に、とんでもない場所だった。

 

 難易度の話ではなく、内部の構造が、だ。

 

 まず、マグマが宙を流れている。文字通り、マグマが宙に浮いてそのまま川のような流れを作っているのだ。空中をうねりながら真っ赤に赤熱化したマグマが流れていく様は、まるで巨大な龍が飛び交っているようだ。

 

「地面どころか空中にまでマグマが流れてるなんてね……これはキツいなぁ」

 

「全く、これでは灼熱の川だ……恐ろしいところだな」

 

 また、当然、通路や広間のいたるところにマグマが流れており、迷宮に挑む者は地面のマグマと、頭上のマグマの両方()()注意する必要がある。しかしここは大迷宮。それだけでは済まなかった。

 

「よっ」

 

「うわ、また壁から出た」

 

「全く、油断も隙も無い……技能のおかげでわかるのが幸いか」

 

 壁のいたるところから唐突にマグマが噴き出してくるのである。本当に突然な上に、事前の兆候もないので察知が難しい。まさに天然のブービートラップだった。

 

 恵里達は〝熱源感知〟を持っていたおかげで回避は今のところ余裕なのだが、もしこの技能が無ければ、警戒のため慎重に進まざるを得ず攻略スピードが相当落ちているところだっただろう。

 

「しっかしサウナも真っ青な場所のはずなのに全然大丈夫だな。いい塩梅に涼しいわ」

 

「うん。ちゃんと作った甲斐があったよ」

 

 また、本来ならすさまじいまでの熱気でこの場に留まることすら苦痛となるはずなのだが、そこはハジメの作ったアーティファクトがしっかり機能していた。ネックレスから放出されるすさまじい冷気とそれを適度に風で周囲に散らせることで熱気を打ち消し、逆に快適な空間を作っている。おかげで暑さ、否、熱さによる思考力の低下を回避できたのは紛れもなく僥倖だろう。

 

「あ、ハジメ。あの石なんだろうな?」

 

「うーん、宝石の類か何かかなぁ……ちょっと調べてみるね」

 

 そうして天井付近を流れるマグマから滴り落ちてくる雫や、噴き出すマグマをかわしつつ進んでいると、とある広間であちこち人為的に削られている場所を発見した。ツルハシか何かで砕きでもしたのかボロボロと削れており、その壁の一部から薄い桃色の小さな鉱石が覗いている。

 

「えーと、静因石……ふんふん。魔力の活性化を鎮める作用があるみたいだ」

 

「ほう、これがか。城に勤めていた時に聞いたことはあるんだが、なんでも魔法の研究に従事している人間が使う奴みたいだな。具体的な効果までは知らなかったが、なるほど」

 

 “鉱物鑑定”で色々と調べれば中々に有用な情報を仕入れることも出来た。こうして人の手が入っていることとメルドから又聞きした情報を考慮すれば、たとえ小さな欠片も何らかの形で役に立つかもしれないと誰もが考える。

 

 とはいえここがアンカジ公国国有の鉱脈であることも考慮し、ここの鉱物を取っていったことが広まったら関係が悪くなってしまうだろうと恵里達は結論付けると、手を付けることなくそのまま奥へと進んで行った。

 

「やっぱり変だね」

 

「やっぱり変だよね」

 

「うん。ずっとマグマが流れっ放しなんて……」

 

「どうしたんだよ三人とも。さっきからずっとうんうん唸りっぱなしで。何かあったのか?」

 

 そうしてそこかしこのマグマに気を付けながら階層を二つ降りて行った一行であったが、大迷宮に足を踏み入れてからずっと思案顔のハジメ、恵里、鈴は余計に顔のしわを深めていた。そこで気にかかった浩介が周囲を警戒しつつも三人に尋ねてみると、三人は顔を上げて皆を見渡した。

 

“あ、うん。さっきからずっと気になってたことがあって”

 

“まだ推測の域を出なかったからボク達だけで“念話”で話し合ってたんだ”

 

“それでずっと唸っちゃってて。ごめんね皆”

 

“いや、それはいい。一体何だ? お前達三人で話し合ってた内容は”

 

 恵里が念のために耳栓を入れたままであったため、自分達だけで内緒話をしていたのを“念話”で詫びるも、浩介も礼一も『この三人のことだから何か重要なことに違いない』と考えてあまり気にはせず、メルドもそれを咎めることなくただどういうことかと尋ねた。

 

“うん。ここのマグマを見てて気づいたんだけどさ、どうしてマグマが今まで訪れた階層全てにあるのかなって思ったんだ”

 

“今まで、っていってもまだ三つの階層ぐれぇだけどな。うーん、そういう風に造ってるからじゃねーの?”

 

“いや礼一、身もフタもないこと言うなって……”

 

 そこで恵里が尋ね返すのだが、礼一の元も子もない解答に思わず全員がズッコケかける。今自分達がいる床の上にはマグマが流れている箇所があったため、いきなり大火傷を負う訳にはいかないとどうにか全員踏みとどまった。とはいえ割と危険な目に遭わされたため恵里はじっとりとした眼差しを礼一に向け、浩介からもツッコミを受けた礼一は必死に恵里に頭を何度も下げていた。

 

「すんません! マジすんませんした!!」

 

“ったく、期待通りの答えをしてくれちゃってさぁ……まぁいいや、続けるよ。こうして上からここまでボク達は降りてきたけれどさ、今のところどの階層でも宙に浮かぶマグマの流れが上に向かってることは無かったよね? それはわかる?”

 

 とりあえずジト目を礼一に向け続けながらも恵里は先程まで三人で話をしていたことを再度語り出し、そこである疑問をメルドらにぶつける。すると三人ともそういえばといった顔つきになり、すぐに視線で恵里に続きを促した。

 

“ここは火山なんだし普通なら外か何かに向かうでしょ。なのにここは違うみたいだし”

 

“そもそもマグマが空中に浮いて流れてるぐらいだったから……別に噴火もしてなかったみたいですし、横穴から出てることも無かったはずです”

 

 恵里の言葉を補足する鈴にも浩介達の意識が向かう。実際ブリッツと一緒に空を飛んだ際、誰もがグリューエン大火山の入り口を上空から探していたのだ。結局は見つからずに山頂に降り立った後で見つけたのだが、山から溶岩が噴出してる形跡も無かった。つまりマグマはこの火山の中にとどまったままであることの証拠に他ならない。

 

“もしどこか他の階層で漏れ出てるんだったらいずれ詰まるでしょうし、そんなことは無いと思ったんです。だから僕達は話し合ってある仮説を立てました――ここのマグマは循環してるんじゃないか、って”

 

 そうハジメが語ったことで礼一らは目を大きく見開き、そしてその先に出したであろう結論も脳裏に浮かぶ。

 

“ってぇと、つまり……ここのマグマにでも乗って川下りしようぜ、ってコトか?”

 

“ご名答、近藤君。ここらの壁を適当に切り出して舟にでもするか、それか“空力”で一気に駆け抜けてこうか、って考えてたところなんだ。これならあまり時間をかけずに奥まで行けるかもしれないしね”

 

 三人の中で先駆けてその考えを口にすれば、恵里は右の人差し指を立てて口角を上げながらそう答える。ドンピシャであった。その答えになるほどと礼一と浩介は思っていると、今度はメルドが『なるほど。このまま攻略を続けるよりはこの方が魔人族を追い抜く可能性も高いな……』と言いながらも口を挟んできた。

 

“とりあえずお前達の言い分はわかった。だが、正気か? 今とは比べ物にならん程の熱気にも襲われるだろうし、それと舟を使う場合でもマグマに耐えられなかったらどうにもならんだろう? それはどう対処するつもりだ?”

 

“まぁそれに関してもちょっと考えがあるから。ねぇハジメくん、鈴?”

 

 メルドがそれに納得を示しつつも、至極ご尤もな疑問を口角を上げながら問いかける。それに恵里は少し勿体ぶるように二人に話を振り、二人もそんな恵里の様子に軽く苦笑いを浮かべつつもメルドの問いかけに答えた。

 

“はい。光輝君達の班と龍太郎君達の班も後でここに来ることも考えてちゃんとした造りのものを用意しておこうかと思いました”

 

“二重構造の舟を造れば大丈夫じゃないか、って二人と話し合ってました。底の方に“金剛”を付与して、私達が乗る方に念のために“聖絶”を付与しておけばそう簡単には壊れないと思います。後は多く人が乗っても沈まないように風属性の魔法で浮かせる機構を左右と後ろに載せておけば多分イケるんじゃないか、って”

 

“熱気の方は人数分作った冷房の一つを改造すれば多分大丈夫、ってハジメくんからもゴーサインをもらってるよ。ここの攻略を終えればボク以外はいらないだろうしね”

 

 既にどう対応するかの絵図も描いていたハジメ達を見てメルドも嬉しそうに目を細め、浩介と礼一も流石ハジメ達だとしきりに感心していた。

 

“なるほど、わかった。ではやれるな?”

 

“はい。出来れば魔法のエキスパートのアレーティアさんがいてくれれば助かりましたけど、最悪僕達だけでも使い捨てのものは作れます”

 

“たとえ使い捨ててもそのノウハウは活きるからね……やらせてくれませんか、メルドさん”

 

“無論だ――よし、お前達! 一旦攻略を止めて舟の製造に移るぞ!”

 

 真剣な面持ちで自分を見て来た恵里達三人を見てメルドは力強くうなずいて返す。すぐに命令を下せば全員が『おー!』と声を上げ、すぐに脇道の岩を全員で穴をあけて簡易の製造拠点をこしらえていく。

 

 そうしてオルクス大迷宮から採取した金属やここの岩を使い、ああでもないこうでもないと楽しそうに頭を悩ませながら六人は舟の製造に勤しむのであった。

 

 

 

 

 

「――跳ね返せアブソド! アハトド、右翼の魔物を率いて遊撃しろ! 残りは迎撃だ!」

 

 【グリューエン大火山】四十七層。この階層の半ばまで既に到達していた魔人族の男、フリード・バグアーは的確に配下の魔物に指示を出しながら襲い来る火山内部の魔物の群れを迎え撃っていく。

 

 彼こそが人族と魔人族の長きに渡る戦争のこう着状態に終止符を打った『魔人族の勇者』と言うべき存在であり、そのからくりである神代魔法を習得した唯一の存在であった。

 

「……よし、他にはいないな? お前達、俺の号令があるまで休め!」

 

 その彼は現在、魔人族の王たる存在からの期待を受け、新たな神代魔法を手に入れるべくここ【グリューエン大火山】の攻略に赴いていたのである。なお彼と共にやって来た白竜と灰竜は外で侵入者を迎撃するよう命令を下していた。

 

(……クッ。この暑さに加えて私の疲労も、魔物達の消耗もいよいよ無視できなくなったな。だがここに長居するなど愚の骨頂。休みはほどほどにして攻略を急がねば)

 

 この大迷宮に連れて来た魔物の数は灰竜と白竜を除けば十一頭。白竜達の背に乗せて運べるサイズの中の選りすぐりであった……だが、現在は神代魔法によって使役した魔物も含めて八頭しか残っておらず、いずれも疲労の色が濃い。このままでは倒れてしまうと判断すると、残りのストックが心許なくなってはいたものの、フリードは魔力回復薬を煽りつつ水魔法を詠唱する。

 

 そうして用意した桶型の容器に水を注いで自分が連れて来た魔物達に差し出してやれば、彼らは行儀よく並んで少しずつ水を飲み出した。そうして自分も脱水症状を軽減するために自分用のコップに魔法で水を注いで一気に飲み干していく。

 

(薬の残りはあと二瓶か……階を下る毎に強まっていく熱気を考えればやはり一層毎に一瓶は欲しい。だがこのままでは……せめてライフツィーゲがあと二頭、いや一頭でも残ってくれていれば)

 

 自身が従える魔物の中に強力な冷気を放てる魔物もいるが、その生き残った二頭の山羊型のものは特に疲弊している。無理もない。この魔物は元々シュネー雪原に生息する寒冷地に適した魔物だ。それを真逆の環境に連れて来たのだからこうなってしまうのも無理はないとフリードは諦めながら次善の策を考えようとする。

 

(この大迷宮の魔物を使役して使い潰してはいるが、いかんせん消耗が激し過ぎる。変成魔法の消費がもっと少なければ少しは余裕もできただろうが……クソッ)

 

 無論、既に手にした神代魔法である変成魔法によってこの大迷宮の魔物を手懐けることで戦力の補充もしていた。だがそれも魔力の消費が決して少なくないことから二十層から三十層までの間だけであった。自身や魔物の体温を冷やす方に魔力を多く費やすようになったからだ。

 

 段々と強くなっていく熱気にどこから落ちてくるか、或いは立ち上ってくるかわからないマグマによって進みは遅く、前述したマグマによって連れて来た魔物も六頭が命を落としている。そのため行軍速度は当然遅くなり、時間がかかる分持ち込んでいた食料や水の消費も増える。多めに見積もったはずなのだがそれでも足りなかったことにフリードは自身の思慮の足りなさを嘆いた。

 

 また手にした変成魔法を以て支配下に置いた魔物も下層の強力な魔物によく殺されるようになり、魔力の消費も激しいことから使うことは控えるようになった。ある種の手詰まりである。

 

(ウラノス……ウラノスさえ連れていけたのならもっと早く事は済んだのだがな。ウラノスのブレスで穴をあけることが出来なかったのが本当に惜しい)

 

 配下の魔物の調子を遠目で確認しつつもフリードは思う。この大迷宮を訪れた際は山肌を相棒の白竜のブレスで破壊して侵入しようかと一度試したことを。しかし実際にやった時、地面に軽く穴をあけることは出来たものの、いきなり発生した障壁によって極光を防がれ、その間に地面もあっという間に塞がってしまったことも。

 

 そのため当初の予定の通り、白竜と灰竜の背に乗せていた魔物を連れてここ【グリューエン大火山】の攻略に向かったのである。だが結果はこの通り。持ってきた食料も段々と心もとなくなり、水に至っては既に底をついている。お世辞にも良い状況とは言えなかった。

 

(だが、だが引き下がる訳にはいかん……ここまで来ておいておめおめと引き下がれん。私は魔王様――アルヴ様の期待に応えねばならんのだ! そのためには、絶対に……!!)

 

 だがそれを理由に引き下がろうとフリードは考えていなかった。大分深く潜ったことを考えれば帰りの労力も尋常ではないし、何より自分が()()()()神から寄せられる期待のためにも投げ出すことなど()()フリードには考え付かなかったのである。

 

(ここの大迷宮がどんな神代魔法を取得出来るかはわからん。だが、氷雪洞窟で手にしたこの変成魔法を考えれば強力なのは間違いないはず。なんとしても、なんとしても手に入れなければ……)

 

 すべては神の期待に応え、人間族を滅ぼすために。

 

 ……かつての誓いを忘れ、ただ狂信に従うフリードを諫める者は誰もいなかった。

 

(……うん? なんだこの音は?)

 

 そろそろ休憩を切り上げて奥へと向かおうと思った矢先、ふとフリードや配下の魔物の耳に妙な音が届く。何かをかき分けて進むような、風を叩きつけて進むかのような音だ。

 

(音の出どころは灼熱の川――! あの灼熱を纏った蛇の類か!!)

 

 そしてその元凶にフリードは思い至る。このマグマの中から顔だけ出し、マグマを纏った舌をムチのように振るうカメレオン型の魔物や頭上の重力を無視したマグマの川を泳ぐ赤熱化した蛇といった魔物がいたのだ。ならばこのマグマをかき分けて進んでくる魔物がいてもおかしくはない。

 

「総員構えろ! あの川から来るぞ!」

 

 (ゆだ)って少し頭の動きが鈍っていながらもフリードはすぐに配下の魔物に指示を出す。ここまで大迷宮を降りて来たがこういった類は未だ遭遇したことが無い。それを踏まえればどれだけ警戒してもし足りないぐらいだろう。そう判断したフリード自身もすぐに水属性の魔法の詠唱に移り、マグマの流れに乗ってやってくるであろう敵に備える。

 

(どういった魔物であろうと仕留め……いや、この灼熱の川を自在に動ける魔物なら弱らせたところで変成魔法で従えたほうがいいな。よし、まずはアブソドで敵の魔法をふせ――)

 

「……へ?」

 

 そしてマグマを伝ってこちらへと来た何かを見て彼らは啞然とする……なにせ人が乗った小舟と思しき何かが勢いよくこちらへと向かってきていたのだから。

 

“いやー、楽で仕方ないね。時々マグマから出て来た魔物が襲おうと頑張ってるぐらいだし”

 

“マジそれな! しっかし思ったよりこの川下り面白ぇ! 大介に良樹、信治の奴も連れて来たかったなぁー!!”

 

 なんか無言で楽し気に、しかも汗もロクにかいていない様子の赤もしくは茶髪に赤目の人間族? の六人が小舟と共に爆進していた。訳がわからなかった。

 

“僕としてはこんな危険な船旅、あんまりやりたくないけどね。礼一く――あっ”

 

 しかも目が合った。

 

 小舟に乗っていた内三人の男女がすごい気まずそうにこちらを見ていた。その目から罪悪感や同情、困惑が見え、何か言葉をかけようとしていたものの、すぐにマグマの川の向こうへと過ぎ去っていく。

 

「お、追えー!! 今すぐ追うんだ!!」

 

 遅れること数秒。遥か彼方に行ってしまった小舟を追いかけるべくフリードは号令をかける。思いっきり呆気にとられていた魔人族の男とその配下の魔物達は慌ただしい様子で闖入者を追っかけていくのであった……。

 

 

 

 

 

“……すごい、かわいそうだったね”

 

“なんていうかこう、楽してることに罪悪感が……”

 

“倒さなきゃいけないってわかっててもな……こう、同情したくなるっていうか”

 

“別にいいだろうお前ら。どうせ奴は魔人族だ。苦しむぐらいでちょうどいい”

 

 一方、小舟に乗ってマグマの川を進んでいく恵里達であったが、途中で見かけた汗だくの魔人族を見て鈴、ハジメ、浩介の三人は何ともいえない様相を浮かべており、ナチュラルにメルドが心無い一言を言ったせいで余計に顔が曇った。

 

 魔人族とずっと戦争をしてるのだから当然の反応なのはわかっているのだが、『こんなメルドさん見たくなかった……』と恵里以外の四人が多かれ少なかれ心の中で思ってしまう。誰だって頼れる兄貴分が畜生染みたことを言うのは見たくないのだ。恵里もメルドの言葉にそうだねと思う程度で特に傷つくことなく、むしろ先ほど見た人影に見覚えがあったようなと思い返していたぐらいである。

 

“またトンネルだね。結構下ったし、そろそろ一番奥までたどり着くんじゃないかな?”

 

“……そうだね。恵里は強い娘だもんね”

 

“えっ?……は、ハジメくん? ぼ、ボク、何か悪いことでもした?”

 

“大体全部だよ、恵里ぃ……”

 

「嘘っ、全部!? え、えっと、えっと……」

 

 そうして見覚えのある男性に思いをはせていたのもつかの間、すぐに外の様子の方に意識がいった恵里を見て軽くショックを受けるハジメ。自分や家族、それに友人以外にはとてつもなくドライなのは重々わかってはいたが、それはそれとして好きな人の冷たい部分を見るのは辛いのである。今でもずっと多くの人に愛する人が好かれて欲しいと思っていたからなおさらだ。

 

 そしてそんなハジメを見て思いっきりうろたえ、鈴の言葉で一層パニックを起こす恵里。どこで命を落とすかもわからない大迷宮を進んでいるにしてはあまりに弛緩した空気が漂っていた。

 

 そんな似つかわしくない空気が漂う中でもマグマの空中ロードに乗った小舟は進む。広々とした洞窟の中央を蛇のようにくねりながら道は続いていたが、しばらく順調に高度を下げていたマグマの空中ロードがカーブを曲がった先でいきなり途切れていた。いや、正確には滝といっても過言ではないくらい急激に下っていたのだ。

 

“またか……全員振り落とされるなよ!”

 

 メルドの言葉に全員が我に返り、すぐに小舟に付けてあった取っ手を掴む。こんなことが起きたのも一度や二度ではない。こういったアクシデントに直面してどうにか切り抜ける度に舟を改造して一行は進んできたのだ。

 

 ……なお最初のトラブルはマグマの空中ロードに乗ったとき、普通に舟が川底を抜けそうになったことだったが。そのため舟の左右と後ろに取り付けていた浮かせる機構も増設しているのはここだけの話である。

 

“来るよ!”

 

 ジェットコースターが最初の落下ポイントに登るまでのあのジワジワとした緊張感が漂う中、遂に恵里達の小舟が落下を開始した。

 

“右の二番の出力を絞って! 後ろの方も調節を!”

 

“今やってる! 中村、谷口! 少し体の向き変えてくれ! 船が前に傾き過ぎだ!”

 

 ごうごうと耳元で風の吹き荒れる音を聞きながら一行はそれぞれがやれることをやっていく。途轍もない速度で激流と化したマグマを小舟に取り付けられた機構が噴かせる風の威力をそれぞれ調節し、時には姿勢を変えることで舟の向きを制御しながら下っていく。

 

 誰もが必死に舵取りをしつつもマグマの方は粘性など存在しないとばかりに速度は刻一刻と増していく。

 

「こういう時ほど来ると思うけど――やっぱり!」

 

 加速していく舟の落下速度を体感しつつ、嫌な予感がしたハジメは取っ手から手を離すと、すぐに靴裏にスパイクを錬成し体を固定しながら油断なく周囲を警戒する。案の定、翼からマグマを撒き散らすコウモリの群れが彼らの前に立ちはだかった。

 

 このマグマコウモリは、一体一体の脅威度はそれほど高くない。かなりの速度で飛べることとマグマ混じりの炎弾を飛ばすくらいしか出来ない。オルクス大迷宮を超えた彼等にとっては、雑魚同然の敵である。

 

 だが、マグマコウモリの厄介なところは群れで襲って来るところだ。一匹見つけたら三十匹はいると思え、という黒いGのような魔物で、岩壁の隙間などからわらわらと現れるのである。

 

“ハジメ、鈴、迎撃を頼む!”

 

“わかりました! 僕らが全部叩き落します!! 鈴、僕は前を!”

 

“うん! ここは鈴達に任せて下さい!! ハジメくん、後ろと左は任せて! “聖壁・桜花”……からの“聖壁・光散華”!”

 

“メルドさん、ボク達は――”

 

“いつでも戦える準備はしておけ。今はこの舟の姿勢制御に努めろ!”

 

 メルドからの頼みにハジメはホルスターから引き抜いたドンナーから発した銃声で応え、鈴も“聖絶・桜花”を発動して眼前に広がる魔物の群れへと光の破片を飛ばしていく。二人を見て自分達も、と思った恵里らはすぐにメルドの方に視線を向けるが、彼の言葉を受けていつでも戦闘に移れるようにしながら舟の方に意識を向けるのであった。

 

 その彼らの目の前に広がるそれはもう、一つの生き物といっても過言ではない。おびただしい数のマグマコウモリは、まるで鳥類の一糸乱れぬ集団行動のように一塊となって波打つように動き回る。その姿は傍から見れば一匹の龍のようだ。翼がマグマを纏い赤く赤熱化しているので、さながら炎龍といったところだろう。

 

「ドンナーじゃやっぱり駄目か……」

 

「鈴の“聖壁”だとちょっと威力不足かな。“聖絶”で試してみるね」

 

 その炎龍に対しハジメと鈴は攻撃を仕掛けてみるも、ハジメは幾筋か穴をあけただけで鈴も数を幾らか減らした程度。手数不足、火力不足で大した被害にはならなかったようである。

 

 そんなマグマコウモリ達であったが、一塊となって恵里達に迫ってきた群れは途中で二手に分かれ、前方と後方から挟撃を仕掛けてきた。いくら一体一体が弱くとも、一つの巨大な生き物を形取れる程の数では普通は物量で押し切られるだろう。

 

「だったら、数には数で!」

 

 だが、ここにいるのはチート集団。単純な物量で押し切れるほど甘い相手でない。ハジメは宝物庫からメツェライを取り出してすぐに腰だめに構えると、そのトリガーを躊躇なく引いた。

 

 ドゥルルと独特の射撃音を響かせながら、恐るべき威力と連射を遺憾無く発揮した殺意の嵐は、その弾丸の一発一発を以て遥か後方まで有無を言わせず貫き通す。洞窟の壁を破砕するまでの道程で射線上にいたマグマコウモリは、一切の抵抗も許されず粉砕され地へと落ちていった。

 

 さらに、ハジメは面制圧と純粋な趣味から作成したロケット&ミサイルランチャーであるオルカンも取り出す。メツェライを持つ手とは反対の手で肩に担ぎ、容赦なくその暴威を解放した。火花の尾を引いて飛び出したロケット弾は、メツェライの弾幕により中央に固められた群れのど真ん中に突き刺さり、轟音と共に凄絶な衝撃を撒き散らした。

 

 結果は明白。木っ端微塵に砕かれたマグマコウモリの群れは、その体の破片を以て一時のスコールとなった。

 

「この程度、いっぱい増えた浩介君よりも怖くないしね!! “聖絶・桜花”――からの“聖絶・光散華”!」

 

 鈴も最強の障壁の欠片を桜吹雪の如く散らせば、三桁単位で敵を八つ裂きにしていき、追加で発動した魔法によりその輝く破片を爆破していく。結果、龍の如く蠢くコウモリの群れの半分がぽっかりと穴が空いたようになってしまう。

 

 無論これだけで鈴は終わらない。爆破で消費した分をすぐに補充し、光の破片を自在に操っては敵を切り裂き、爆破して灰に帰していく。イメージ補強のために支給された杖を片手でチョイチョイと振って敵を殲滅していく様はまるで筆を動かしているかのよう。尤も、出来上がるのは魔物の死体でしかないが。

 

 こうしてマグマコウモリ達は二人の猛攻になす術なく倒されていく。攻撃を加えようにも距離が離れすぎているし、迎撃しようとしても弾丸が速すぎたり自在に動く光の破片を捉えきれないからだ。これといった苦労もなく、ハジメと鈴は見事に魔物の群れを捌ききってしまった。

 

“お疲れ様。ハジメくん、鈴”

 

“さっすが先生だわ。マジで余裕じゃねーか”

 

“ハジメも鈴もお疲れ。んじゃ、舟の制御に戻ってくれ”

 

“うん、わかったよ”

 

“うん。すぐやるね”

 

“よくやったぞ、お前達。よし、じゃあさっきと同じ分担で舟の制御に移れ!”

 

 そうして恵里ら舟の制御に努めていた面々から労われたハジメと鈴は礼を述べつつすぐに元の作業に戻る。そうして流れに任せていると、今まで下り続けていたマグマが突然上方へと向かい始めた。

 

 勢いよく数十メートルを登るとその先に光が見えた。洞窟の出口だ。だが、問題なのは、今度こそ本当にマグマが途切れていることである。

 

“全員掴まれ! 放り出されるな!!”

 

 メルドの号令に再び恵里達は小舟にしがみつく。小舟は激流を下ってきた勢いそのままに、猛烈な勢いで洞窟の外へと放り出された。

 

 襲い来る浮遊感にハジメ、浩介、礼一、メルドは股間をフワッとさせながらも、恵里達と同様に素早く周囲の状況を把握しようと視線を巡らす。一行が飛び出した空間はあまりにも広大な空間だった。

 

 自然そのままに歪な形をしているため正確な広さは把握しきれないが、少なくとも直径三キロメートル以上はある。地面はほとんどマグマで満たされており、所々に岩石が飛び出していて僅かな足場を提供している。周囲の壁も大きくせり出している場所もあれば、逆に削れているところもある。空中には、やはり無数のマグマの川が交差していて、そのほとんどは下方のマグマの海へと消えていっている。

 

 ぐつぐつと煮え立つ灼熱の海とフレアのごとく噴き上がる火柱。地獄の釜というものがあるのなら、きっとこんな光景に違いない。恵里達はごく自然にそんな感想を抱いた。

 

 だが、なにより目に付いたのは、マグマの海の中央にある小さな島だ。海面から十メートル程の高さにせり出ている岩石の島。それだけなら、ほかの足場より大きいというだけなのだが、その上をマグマのドームが覆っているのである。まるで小型の太陽のような球体のマグマが、島の中央に存在している威容は全員の視線を奪うには十分だった。

 

“後ろは一旦カットしたよ!”

 

“右二つを全力で吹かせ、ハジメ!”

 

“今やってます!”

 

“全員待って! 今鈴が“光絶”でレールを作るから全部カットして!!”

 

「“光絶”――くっ! 左右一斉に点火!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

“皆の反応は……はいはいオーケー。必要になったらすぐ“念話”飛ばして!”

 

 飛び出した勢いでひっくり返った小舟であったが、すぐさま後ろの動力を恵里がカットし、左に傾いていた舟を戻そうとメルドが檄を飛ばすものの、鈴の提案に全員が乗り、“光絶”で作った光のレールの上でバランスをとりながら小舟はマグマの海へと向かっていく。

 

 そうしてしぶきを上げながらマグマの海に着水した一同であったが、明らかに今までと雰囲気の異なる場所に警戒を最大にしていく。こんな場所で警戒を密にすることは何も悪くないからだ。

 

“んー……あの中央の島が住処かな?”

 

 警戒を強めつつ、恵里はチラリとマグマドームのある中央の島に視線をやりながらつぶやけば、今のところ特に異常はないと判断した五人もそちらに一度視線を向けた。

 

“階層の深さ的にもそうだと思うけど、きっとここは……”

 

“……試練はとっくにショートカットした、ってことになんねぇ?”

 

“諦めろ礼一。まだ、って考えた方がまだ精神衛生的にマシだ”

 

 恵里のつぶやきにハジメは答えるものの、その表情は硬い。礼一も『だったら楽だよなぁ』とばかりに希望的観測を言って浩介に言い返され、だよなぁと力なく吐いた。

 

「――お、追いついたぞ!!……ゼェ、ゼェ…………」

 

 そして声のする方を見やれば汗だくでところどころボロボロの魔人族と配下と思しき四頭の魔物が見えた。

 

 彼らのいる場所は大きな足場であり、その先に階段があることからきっと壁の奥へと続いている様子の階段を頑張って降りて来たのだろう。正規のルートから必死に追いついてきた彼らを思わずハジメ、鈴、浩介の三人は称賛したくなった。

 

「うわ、もう追いついた」

 

「早ぇーな。もうかよ」

 

「よし殺すぞ。ハジメ、オルカンを出せ。一つ残らず丸焼きにしてやる」

 

 ……なお恵里と礼一は露骨に嫌そうな顔をし、メルドは相変わらず殺意満々であったが。特にメルドの言に三人は泣きたくなった。戦争コワイ、戦争なんてしちゃいけない、と痛感する。

 

“――! 皆、散って!!”

 

 が、そんな気分に浸っていたのもつかの間。宙を流れるマグマから、マグマそのものが弾丸のごとく飛び出してくる。無論、恵里達は即座に反応し、小舟を足場にして全員が散っていく。

 

「ぬわー!?」

 

「こっからが本番、ってことか!」

 

“やっぱり楽は出来ないね!――ハジメくん、舟は!?”

 

“もう回収した! 中央の島で落ち合おう、皆!!”

 

 マグマの海や頭上のマグマの川からマシンガンのごとく撃ち放たれる炎塊を避けつつ、各々が中央の島へと向かっていく――かくして【グリューエン大火山】、最後の試練が幕を開けたのであった。




どうしてまだフリードがここの攻略をしているのかですって?
だって原作よりもかなり早くグリューエン大火山に来てますからね。オルクス大迷宮を出るのが原作より十日早いですし、他のイベントもガン無視してますから。明確になってるものを計算しますと……。

・ハウリアブートキャンプ(十日)
・ブルックの街での宿泊(一日)
・ライセン大迷宮探索(二日)
・そして攻略(一週間)
・アーティファクト製作やら何やらでブルック滞在(一週間)
・フューレンへと馬車で移動(六日)
・ウルの街へ移動&宿泊(一日)
・清水の率いる魔物の軍を迎撃するためのあれこれ(一日)

10 + 1 + 2 + 7 + 7 + 6 + 1 + 1 = 35

とまぁこんな具合になります……ひと月もあれば余程適正が恵まれてない限りは扱えるようになりますよね? 原作での描写を見る限りワープや空間ごと破壊する魔法なんかを使ってましたし、むしろ適性がある部類に見えます。

これだけ早くにグリューエン大火山に行ったのなら出会ってもおかしくはないんじゃないでしょうか? まぁ実際どうだったのかは書籍版も買ってないですしわからないのですが(苦笑)
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