あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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ではまずは拙作をみて下さる皆様に盛大な感謝を。
おかげさまでUAも138070、しおりも364件、お気に入り件数も804件、感想数も465件(2022/10/18 23:55現在)となりました。本当にありがとうございます。いやーお気に入り件数がここ最近ちょくちょく増えてくれて嬉しいです。ありがとうございます。

それとAitoyukiさん、拙作を再評価していただき本当に感謝いたします。こうして何度も何度も評価してくれると本当に嬉しくて仕方ないです。ありがたやありがたや。

では永山達の話の後編となります。ではヒーローショーの続きをどうぞ。


幕間三十二 子供達は『英雄』へ至る道を進む(後編)

「お帰りなさいませ、重吾様」

 

 そうして沈んだ気持ちのまま部屋に戻った永山を出迎えてくれたのは彼専属のメイドであるシーナであった。夕日に照らされるブロンドの髪と白磁のような肌を見て、いつものように一瞬だけ見とれた永山だが、すぐに気分はまた沈んでしまう。すると何かに気付いた彼女の方から声をかけて来た。

 

「不躾を承知でお尋ねします。重吾様、何かあったのですか?」

 

 いつもなら笑みを絶やさない彼女であったが、今回は心配そうにこちらをただ見つめている。それだけで永山はいつの間にか涙を両の目から流してしまう。もう、限界であったのだ。

 

「重吾様? 一体どうされ――きゃっ」

 

「シーナ……シーナ……」

 

 そして彼女のそばへと寄り、そのまま抱きしめた。細い体の感触が、伝わってくる体温が、香油と石鹼の匂いが、ボロボロになってしまった永山の心を癒す。嫌な顔をすることなく寡黙な自分共にいてくれた少女の前で嗚咽を漏らす。

 

「助けてくれ……俺は、俺は……」

 

「――はい、重吾様。いつもみたいに話して下さりませんか」

 

 いつものように、しかし慈愛のこめられた言葉をかけてくれたことで永山は一層嗚咽を漏らし、強くメイドの少女の体を抱きしめる。『神の使徒』でなく一人の少年として、誰よりも『大切』に思う人の前で彼は号泣するのであった。

 

「……そう、ですか」

 

「……あぁ。遂に、この日が来てしまったんだ」

 

 どれだけ長く抱きしめていたか。暮れていた夕日がもう沈みそうになった辺りで少し落ち着いた永山は、シーナに促されて自室に設えられていた椅子に座り、これから自分達が盗賊討伐に駆り出されることを明かした。そしてそれがひどく憂うつであることも、己の手を血で染めることが怖いことも伝える。

 

「……怖い。怖いんだ、シーナ。人を殺すことを、戦争に参加すると決意した時から覚悟していた……そのはず、なんだ。なのに、でも……震えが、震えが止まらない」

 

 思い出せば今も震えが止まらなくなる。顔を青ざめさせ、救いを求めるように永山はメイドの少女に視線を向ける。すると彼の許しを得てベッドに座っていた少女はスッと立ち上がり――彼の唇にキスをした。

 

「――大丈夫ですよ、重吾様」

 

 瞳を閉じながら唇を重ねた少女は彼の目をしっかりと見つめながらそう答える。そして今度は彼女の方から永山を抱きしめ、そして赤子をあやすように頭をなでながら言葉を紡いだ。

 

「お辛かったんですね。苦しかったんですよね。でも、安心して下さい。私は重吾様の()()ですよ」

 

 そう優しく声をかけてくれたメイドの少女に再び永山は涙を流しそうに、嗚咽を漏らしそうになった。自分の専属メイドとなってくれた時からずっと、ずっと寄り添ってくれた少女がこんな自分を受け止めてくれた。それだけで何もかもが許されたような気がした。

 

「私は知ってますから。重吾様が私達のために戦ってくださることを。どんなに辛くても、苦しくても、逃げることなく立ち向かってくださるのを。こうして悩み続けていたことも」

 

 ふくよかな胸に頭を抱き寄せられ、その柔らかさといい匂いを感じて永山は一瞬何もかもを忘れた。

 

「いいんですよ、いっぱい泣いたって。私は()()()()()から。重吾様がどんな方であろうと、私は貴方のそばを離れたりしません」

 

「シーナ……シーナ……うぅ、うぅぅ……」

 

 怯えも、恐れも、何もかもを許容する言葉にまたしても永山は涙した。今度はむせび泣くように声を押し殺しながら彼女に抱き着く。それを少女は愛おし気に見つめ、ただ彼の頭と背をなでるだけ。

 

「ねぇ、重吾様。もしよろしければおまじないを受けてみませんか?」

 

「おまじ、ない……?」

 

 そうしてしばらく永山の頭と背中をなでていた少女であったが、不意に彼に言葉をかけた。そんな彼女の方を見ようと顔を上げた永山に再度少女は口づけをする。さっきのようにほんの一瞬でなく、数秒。ぬくもりを伝えるようなキスを。

 

「どうですか? 少しは楽になりましたか?」

 

「……あ、あぁ」

 

 少し意地悪気に笑う少女を見て思わず永山はそっぽを向いてしまう。からかわれたようで、気恥ずかしくて。けれども同時に彼は気づいた。少しだけ、気持ちが楽になったのを。

 

「重吾様。このおまじない、実は続きがあるんですよ」

 

「つづ、き……?」

 

 そう述べた少女は彼から体を離すと、そのままメイド服に手をかけていく。プツリ、プツリとボタンを外していく様を見て永山は生唾を吞み、そしてかぶりを振って下劣な感情を抱いた自分を恥じた。

 

「最高のおまじない、受けてみませんか? ()()()()の私達しか出来ない、素敵なことですよ」

 

 そう言いながら軽く服をはだけさせた少女は目の前の少年の手を引いてベッドへと連れていく。

 

「な、なぁシーナ……そ、それって……」

 

「重吾様はどうしたいですか。簡単な方と素敵な方、選んで……いただけませんか?」

 

 そしてベッドに腰かけ、うるんだ瞳で見上げてくる少女に永山はもう我慢が出来なかった。そのまま彼女をベッドに押し倒し、ほんのりと顔を上気させながら問いかける。

 

「いい、のか? 望んで、いるんだよな……?」

 

「仰ったはずですよ? 私と重吾様は相思相愛です、と……あまり、女に恥をかかせないでくださいませ」

 

 そうしてほんのりと頬を染めて軽く顔を背けるシーナを見て永山も覚悟を決める。両の手を恋人つなぎしながらキスをしようと顔を近づけても、少女は妖艶に微笑むまま。頭をクラクラさせながらしたキスは得も言われぬ興奮を彼にもたらした。

 

「そう、か……や、やるぞ……」

 

「はい。重吾様――子を宿してもおかしくないぐらい、お情けを私めに」

 

「――その言葉、後悔するなよ」

 

 期待に満ちた眼差しを向けられ、永山はもう我を忘れた。ただ無我夢中で、彼女に溺れて――そして朝を迎える。

 

「……じゃあ行ってくる」

 

「はい。行ってらっしゃいませ」

 

 言葉少なに永山はシーナに声をかけるとそのまま部屋を後にしていく。今日いきなり盗賊の討伐に向かうという訳ではないことはお互いわかっていたため、普段通りのやり取りで十分であった。

 

(もう……もう俺は迷わない)

 

 その目からは人を殺すことへの恐怖は無く、『地球に皆で戻る』という願いが、そして『愛する人のいるこの世界を守る』という使命感が宿っていた。昨夜存分に睦み合った後、彼女からお願いされたのだ。『どうかこの世界を、私達の未来を守って下さい』と。そこで永山は戦う意味を見つけた。愛する人を『守る』ためにもこの力を振るうのだ、と。

 

 もう指先がかすかに震えることも皆無で足取りも迷いなど見られない。力を振るう理由を見つけた少年は来る日に向けて備える気概まで既に宿しながら食堂へと歩いていく。

 

「ふふ、ふふふ」

 

 そして永山を見送ったメイドの少女はしばし部屋の扉を見つめると、二人で共に夜を過ごしたベッドの上に腰かけた。そしてお腹を愛おし気になでてぽつりとつぶやく。

 

(行ってらっしゃいませ。()()()()勇者様)

 

 しかしその顔は愛する人と結ばれたことを喜ぶ見た目相応の少女のようなものではなく、どこか粘つくような、蜘蛛のような『捕食者』を連想させるような笑みを浮かべている。

 

(あの顔ならもう迷く事無く盗賊も、いえ反逆者達も倒してくれるはずです。うふふ、体を捧げた甲斐がありました)

 

 ――彼女の本名はシーナ・チェルチス。このハイリヒ王国に仕える貴族の一つ、チェルチス家の令嬢である。彼女を含む神の使徒直属の使用人は単に彼らのお世話を目的にあてがわれたという訳ではない。その真の目的は『このトータスのために自らの命を捧げてまで戦える戦士として()()()()()()こと』であった。

 

 神の使徒がここトータスに現れる前に既に神託が広まっていたことから、直属の使用人は彼女含めてもう選出されていた。そのためこの命を受けたのは彼らが召喚された後であった。当初は『使徒様が自分達のために戦ってくれるはず』と無条件に考えていたものの、イシュタル教皇から『神の使徒様は少々迷われてるご様子です。どうかお力添えを』と言われたことからその考えを全員が改めていた。

 

 そして神の使徒として遣わされた少年少女達をその気にさせるべく彼らは動いた。裏切り者の例の三名を担当した者を除いた使用人達は自分が担当することになった子供に甲斐甲斐しく世話をし、朗らかに、そして寄り添うように接し続けた――自分達に依存してくれるように。自分達の頼みなら何でも聞いてくれるように。

 

 その役目はあの裏切り者どもと親しい仲であった天之河らが失踪したことで一層重くなった。リリアーナ王女の執り成しで()()を免れた担当の使用人から恨みがましい目を向けられたことはあってもシーナ達は与えられた役割をこなす。何としても『真の』神の使徒の戦う意志を残し、ハイリヒ王国への帰属意識を強くするために。

 

(後は私が子を成すこと……王女様が重吾様の子を成していただければこの子を渡さなくて済みますが)

 

 ――そんな彼等が神の使徒直属の使用人となって得られるのは単なる肩書だけではない。神の使徒の()を家に取り入れることが許されているのである。そのため使用人として選ばれた人間は厳正なる審査をパスしたか、その家が教会の『信心深い』信者以外いなかった。

 

「……うふふ」

 

 そして実家が相応に()()()()()ことで選ばれたシーナは妖しくも愛おし気に自分のお腹を再度なでた。昨晩はとても()()()()()。ならきっと子を成してもおかしくないだろうと彼女は想像する。自分は『愛しい人』の血を、心を繋ぎ留めることが出来たのだと思いながら。

 

「早く帰ってきてくださいね、()()様。この子も待ってますよ」

 

 元々は家のためだけに永山に奉仕していた彼女であったが、ウブで女にあまり免疫のない少年をいいように転がせたことで彼に愛着がわいたのだ。神の使徒という『存在』の彼に。

 

(この子が生まれれば我が家の地位は不動のものになります。そうすればこの子が将来、大臣の地位に座ることも難しくない――感謝します、重吾様。私の()()になっていただいて)

 

 彼女は夢見る。いつか生まれてくるであろうこの子が家を更なる高みへと導いてくれることを。母である自分にとてつもない恩恵をもたらしてくれることを。そして父である永山も自分達に幾度も幸せをもたらしてくれるであろうことを――シーナ・チェルチスは夢見て微笑んだ。

 

 

 

 

 

「ぐわぁあぁ!!」

 

「ぎゃぁああぁ!!」

 

「お、お頭! た、助け――」

 

 こんなはずじゃなかった。こうなるなんて思ってなかった。デライオン盗賊団の頭領であるダンは神の使徒に次々と自分の仲間が蹴散らされていく様を見て、ただただ茫然とするしかなかった。

 

 彼らは元々魔人族との戦争で犠牲になった人間であった。人間族への見せしめとして焼かれた村の一つの出身で、出稼ぎに出ていたことで難を逃れただけの()()な人間であった。

 

 小さく貧しいながらも誰もが畑仕事に精を出すその村は戻って来た時にはすべてが灰となっていた。残ったのは燃えカスとなった家の柱や炭化した誰かわからない無数の遺体。そして斥候と思しきハイリヒ王国の軍の人間に幾つか尋ねられ、そして彼らはそのまま解放される。何の慰めにもならない言葉をかけられて。

 

『ここ以外にも魔人族の被害を受けた場所はある。私達はそこへ向かう』

 

『せめて領主がすぐに兵を差し向けていればな……運が、なかったな』

 

 そう言っただけの奴らに生き残った人間は深い失望と怒りを抱く。それだけ? たったそれだけの言葉で村の皆の無念は晴れるのか?……その日から彼らの人生は面白いように転がり落ちていった。

 

 マトモな食い物も無く、生きる気力もロクにないままの彼らは、ただひもじい思いをしのぐために雑草や木の皮に根っこなどを口にしていた。だがそれらを口にしても飢えは収まらず、ただでさえ擦り減った心がやすりがけされていくかのように摩耗していく。

 

 そんな時、ふと彼らの前を魔物から逃げ回っている丸腰の隊商の馬車が通り過ぎた。その瞬間、彼らは思った――あそこなら食料があるかもしれない、と。いびつな笑みを浮かべながら。

 

 故郷を失って絶望に暮れ、いつ生き残った出稼ぎの仲間を手にかけてもおかしくなんてない状況だった。その時彼らはこれを『エヒト様のお恵みだ』と称し、逃げ回っていた隊商の人間が護衛もろくな見張りつけずに泥のように寝ているところを襲い、何もかもを奪い尽くした。

 

 その日から彼らは生きるために相手を選んで奪い続けた。荷物も、命も。全ては()()生き残った村の仲間のために。自分を頼って合流してくれた仲間のために。何もかもを正当化してほしいままにしていた彼らの欲望に満ちた日は唐突に鮮血の結末を迎える。

 

「クッ!!……暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん――」

 

 そうして一人だけ残ったダンは生き延びるために炎属性の中級魔法“螺炎”の詠唱に移る。村が無事だった頃から人並以上に炎属性の魔法が使え、また出稼ぎで街へと向かう際によく頼られていた彼の最も得意な魔法を。こうして何度も人も馬も焼き、灰にし続けたことで使えるようになった切り札を。

 

「――! やらせん!!」

 

「灰となりて大地へ帰――ぐほっ」

 

 その瞬間、神の使徒のリーダーである永山の拳が的確にダンの腹を打ち抜き、内臓が潰された激痛で詠唱どころか意識を保つことすらままならなくなった。そしてダンは理解する。ここが自分の終わりなのだ、と。

 

(俺は……俺は、まだ、何も――)

 

 最初に人を襲った日からギラつき続けていた欲望がまだ満たされてない。食い物も金も女もまだ足りないとばかりに伸ばした腕を掴まれ、そのまま背中から地面に叩きつけられたことでみすぼらしい男の一生は遂に幕を閉じる。なんとも、呆気ない終わりであった。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 そして盗賊の根城となっていた洞窟に、蜘蛛の巣状の亀裂を()()作った永山は荒い息を吐いていた。

 

 こうして仕留めた男以外にも多く人を殺した。吐き気がこみ上げてくる。やってはいけないことをしてしまったことへの恐怖だって感じている。けれどもそれ以上のものを――『守った』という実感が彼の中にあった。

 

(やった……やったんだ。シーナを……皆を、守れた)

 

 共に戦っている仲間を、自分達のために戦ってくれている騎士団の皆を、そして何より愛する人のいる世界を守れた。その実感が確かに永山の中に芽生えていた。そしてそれは誓いにも変わる。

 

(俺は戦う……! 戦争で勝って、皆で地球に帰るために……トータスにいる人間を……シーナのいる世界を、未来を守るために!!)

 

 かくして神の使徒の『初陣』は終わった。

 

 賊の討伐に参加した使徒はいずれも()()()()()を挙げ、その武威を如何なく示したのである。

 

 

 

 

 

「……私達、倒したんだね」

 

 帰りの馬車に揺られながら辻がそうつぶやくと、同乗していた神殿騎士が彼女の座る場所の近くにいた野村と相川、そして吉野を含めて称賛し始めた。

 

「流石使徒様です!! 我等が一人二人を相手にしている間に五人、六人と倒して進んでおられたのですから!!」

 

「使徒様のおかげで誰も大きな怪我もせずに済みました! 感謝いたします、使徒様!!」

 

 崇拝の念を向けられながら何度となく持ち上げられることに野村と女子二人は愛想笑いを浮かべるだけ。一方、相川だけは()()()で神殿騎士達に声をかけた。

 

「任せてくれよフェリクスさん、ガイウスさん!! 俺達ならどんな奴が相手でも絶対勝ってみせるよ!!」

 

 相川がここまで機嫌がいいのも、この戦いに出る前に専属のメイドと()()()()からだ。メイドのシレーネと一夜を共にし、『昇様、どうかこの世界の皆を守って下さい。昇様なら出来ますから!!』と激励され、こうして戦果を挙げられたことが原因だったからだ。

 

 その結果、使()()()()()()()()ことで迷わなくなり、自分達が地球に戻るためだけでなく、トータスのためにも戦うことを決意したからである。

 

「……辻、吉野」

 

「「……野村君」」

 

 一方、野村と辻、そして吉野とはこの状況にひどく怯え、互いに手を繋いでいる。その理由は討伐に行くことをクゼリーの口から伝えられたあの日まで遡る。

 

 あの時は討伐に参加する意志を示さなければどうなるかわからなかったことから、部屋に戻っても野村はただただ怯えるばかりだった。そのことが気にかかったメイドのカルミアから尋ねられるも、そのことを口に出すことすら怖くて、失望されるかもしれないと思って野村は決して口を開くことは無かった。

 

 そして就寝の時間になってカルミアが部屋を出て一人きりになり、結局心細くてシーツを握りしめていると部屋をノックする音が響く。そこでドアを開ければ吉野も付き添う形で辻が野村の部屋を訪れ、お互い人を殺すことが怖くて仕方なかったこともあってか一緒にいるだけで不安が和らいだように感じ、その日から三人で寝るようになったのである。吉野が辻に、辻が野村に抱き着く形でだ。

 

 こうして三人は強いストレスや不安になる毎に手を繋いだり、体を寄せ合うようになったのである。

 

(……どうしたんだよ、重吾。相川も仁村も玉井も! どうして、どうして戦いに前向きになっちまったんだよ……)

 

(怖い……怖いよ。どうして、どうして永山君達は簡単に人を殺せるの?)

 

(おかしいよ……なんで、なんであんなこと出来ちゃうの? 怖くないの?)

 

 そして今も三人は体を寄せ合い、ただただ恐怖に耐える。戦ってた時は高揚感と倒すことへの義務感、そしてこの任務をこなさなかった場合どうなるかわからないことへの恐怖でどうにか押し切れた。けれどもこうして戦いを終えて冷静になってしまってはもう誤魔化せない。身を寄せ合っている相手以外の誰もが恐ろしくて仕方なかったのだ。

 

 あれだけ人を殺すことを怖がってたはずなのに、自分達と同じだったはずなのに、と言いたいけれど、答えを知ってしまったら自分達もあちら側に行ってしまいそうで。ただただ怖くて仕方がない。現代日本で培われた感性がゴリゴリとすり潰されているようにさえ三人は錯覚していた。

 

(もう、もう……どうすればいいんだよ)

 

(助けて……誰か、助けてよ……)

 

(もうやだ……もうやだよ……お家、帰りたいよ……)

 

 おかしいのは向こう? それとも自分達の方? 解いてはならない疑問に押しつぶされそうになりながら、三人は自分達を心配している様子の相川や神殿騎士の声にも反応することなくただ抱き合うばかりであった。

 

 

 

 

 

「――此度の任、誠に感謝いたします。神の使徒よ」

 

 そして無事王城へと戻り、謁見の間へと通された永山達は今回の討伐の顛末をエリヒド王、そして傍らにいるイシュタルへと報告する。するとやはりここでも自分達を称賛する言葉を耳にし、()()()()以外は各々得意げな顔を浮かべる。やっぱり自分達のやったことは『間違ってなかった』のだ、と改めて確信していた。

 

「感謝します、王様……それも王国、そして教会の皆様が助力してくれたおかげです」

 

 公の場での礼も大分様になった永山がそう返せば『おごることなきその姿勢、流石は永山様だ』だの『いつまでも謙虚であらせられるな。まぁその奥ゆかしさが皆様の魅力ですが』などと大臣や司教が口々に言い合っている。自分達への好意的な態度をとってくれている彼らの様子に少し口角が上がるも、ここは公の場だからと永山が表情を引き締めたその時、事件が起きた。

 

「――覚悟してもらおうか。神の使徒、そして王に連なる者達よ」

 

 勢いよく謁見の間の扉が開かれたと思いきや、どこか聞き覚えのある声が永山達の耳に届いたのだ。一体誰が、と素早く振り向いた永山らは思わず目を見開く。何故ならそこには――。

 

「な、何物だ貴様ら!! 名を名乗れ!!」

 

()()()がひとり、八重樫鷲三」

 

「同じく霧乃――この場にいる全員、お覚悟を」

 

 オルクス大迷宮でアクシデントがあったあの日、自分達や神殿騎士を襲ったあの老人と妙齢の女がそこにいたからだ。二人は()()()()()()()()()を構えており、こちらの様子をうかがっている。ならば先んじて動くべきかと考えたその時、侵入者の二人はいきなり距離を詰めて来た。

 

「――ぐっ!?」

 

「危ねぇっ――うわぁ!!」

 

「今のを防ぐか――ふっ」

 

「流石は神の使徒ですね――はっ」

 

 不意打ちに近い一撃をどうにか捌くことに成功したものの、それぞれ籠手と盾で防御した永山と仁村は軽く吹き飛ばされる。だが間髪入れずに野村達が魔法を撃ちこんできたことで追撃だけは免れることが出来た。

 

「無事か重吾、仁村!!」

 

「どうにかな……この二人、強いぞ」

 

「あぁ。本気で戦わないと絶対負ける――やられてたまるかよ!」

 

 戦いは振り出しに戻り、再度闖入者とにらみ合いを続ける。向こうの視線はこちらでなくその先――エリヒド王へと向けられているのに気づくとすぐさま辻と吉野が動く。

 

「――“聖壁”!! この先は、絶対に通さないから!!」

 

「“纏光”!! いい加減にしてよっ!!」

 

 血走った目でにらみつける辻と吉野にほぅと軽く舌を巻いた様子の二人。その二人が半歩前に動き、ここで仕掛けてくると思ったその時、ようやく戦える味方が現れた。

 

「遅くなって申し訳ありません!――狼藉者どもめ、覚悟しろ!!」

 

 外で控えていたクゼリーが部下だけでなく神殿騎士も引き連れてこちらに来てくれたのである。おかげで挟み撃ちする形となり、俄然有利となるが永山達は目の前の二人の実力を知っているため決して油断はしなかった。

 

「……少々分が悪いな。霧乃」

 

「はい、お義父さん。ここは退きましょう……一刻も早く雫達と合流して、この襲撃が失敗したことを伝えなければ」

 

 そう言い合うと同時に弾かれたように二人は横に互いに逆方向に走っていく。咄嗟の行動についていけなかった永山達を他所に二人は窓を突き破って外へと出て行った。無論すぐに全員が逃げた二人の行方を追おうと壊れた窓の外から二人の姿を探そうとするも見つからず。とうに姿をくらませてしまっていた。

 

「……くっ!」

 

 悔しさのあまり永山は壁に手を叩きつける。強くなったつもりだった。ベヒモスのいる階まで到達はしてなかったものの、あの時よりははるかに強くなっていたはずだった。なのにあの二人を取り逃してしまう。それに何より、二人が漏らしたある情報のせいで苛立ちが収まらなくなっていた。

 

「やっぱりアイツら……敵だ。やっぱり天之河の奴らは敵だったんだよ!!」

 

「ホント訳わかんねぇ!! あのジジイもオバさんもなんなんだよ!!」

 

「今度会ったら絶対に倒そうぜ、リーダー!! 天之河の奴らしぶとく生きてたみたいだし、俺らと王様をブッ殺そうとしてたしな!!」

 

 そう。あの口ぶりが本当ならば天之河達は生きていたことになる。少なくとも八重樫は生きていることがあの言葉から確認できた。故に仁村、玉井、相川は叫ぶ。あの老人どもを、そしてこんな事を企てた天之河達を絶対に殺さんと敵意をたぎらせて。

 

「もう……もう、何なんだよ!! アイツらは……アイツらは!! そんなに俺達が憎いってのかよ!!」

 

「そっか、そうなんだ……あんな奴らなんてもうクラスメイトでもなんでもない!! 敵だよ!! 倒さなきゃならない敵なんだ!!」

 

 野村と辻が半ば狂ったように吼え猛る。段々と皆がおかしくなっていくことに、自分達がこんな境遇に陥ってしまったことに八つ当たりしていた。これもそれも全部天之河の奴らのせいだと逃げ道を作り、軋んでいた心の拠り所を作ってしまった。

 

「……そっか。わかったよ。ねぇ野村君、綾子。それと永山君達も。倒そう、()()()()を。きっと……ううん、絶対私達が邪魔になったからこんなことをしたんだろうし」

 

 それは吉野も同様であった。表面上は落ち着いてこそいたものの、心の内は野村と辻と大差ないほどいっぱいいっぱいだった。だから()を作って責任転嫁することで心を守ろうとしていた。

 

「……あぁ。倒す……天之河……いや、()()()()を絶対に、倒す。このトータスのために!!」

 

 そして永山も決意と不退転の意志を見せる。ここで因縁を断ち切るために。愛する人の住むこの世界を守るために。裏切り者である天之河達を討つことを誓った。

 

「……頼みましたぞ、神の使徒よ」

 

 イシュタルもまたそんな彼らを見て感激の涙を流していた。あぁやはり、彼等こそが真にエヒト様に選ばれた存在なのだ、と永山らを改めて崇拝し、賜った神の慈悲に感激しながら。

 

「ま、待ってください重吾さん! 皆さんも!! こんな、これは絶対におかし――」

 

「リリアーナ様、落ち着いてください!!」

 

 ――これがあまりに出来過ぎた茶番であると、仕組まれた事でしかないということにその多くは気づかない。舞台の外にしかいられなかった王女は叫ぶもその声は誰にも届きはしなかった。

 

 その後、すぐさま会議が開かれ、迅速に話が進められていった。議題は無論反逆者の討伐である。すぐに部隊が編成されることになり、その中核に永山ら神の使徒が据えられる。永山らもそれに反対するどころかむしろ自分達が倒すと言わんばかりの勢いで賛成したため、議場にいた全員の気が昂ったことは言うまでもない。

 

 そして議会で取り決められた反逆者討伐隊に神殿だけでなく冒険者ギルドにも参加を要請し、また両組織に反逆者の捜索を行うよう通達する――それは奇しくも光輝達がウルの街近郊に着いた日に起きた出来事であった。




さぁー読者のみなさーん! みんなで神の使徒さまを応援しようー!! わるい反逆者をやっつけてもらおーう!! せーの!

ゆうしゃさまがんばえー!! ながやまさまがんばえー!! かみのしとさまがんばえー!!


……いやぁ、ヒーローショーって素敵ですよねぇ。だってこんなに胸が熱くなるんですもの(ニチャァ)
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