おかげさまでUAも139334、しおりも368件、お気に入り件数も808件、感想数も473件(2022/10/25 16:21現在)となりました。読者の皆さん、本当にありがとうございます。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価していただき誠にありがとうございます。いつもいつもこうして面白いよと評価して下さるおかげで執筆に向けて突っ走ることが出来ます。本当に感謝です。
……さて。タイトルの通り、今回も鬱・胸糞展開が盛り込まれてます。それと『本気』を出しました。要はそういうことです。では皆様、心を強く持って本編をどうぞ。
――皆様、覚悟のほどを。
「では、遂に……」
「ええ。時は来ました」
愛子に朝食を食べさせ、彼女のお守りをデビッドら他の神殿騎士に任せて朝の礼拝のために教会へと訪れたローリエであったが、そこで不意に真なる神の使徒であるエーアストと出くわす。
まさかと思って跪きながらも尋ねてみれば、エーアストが『この街の近郊に反逆者が現れ、この街にも忍び込みました』と告げた。それを聞いてローリエは歓喜する。長かった。ようやく
「今は二手――郊外に三人、この街に四人いるとエヒト様は仰せです。では信徒よ、上手くやりなさい。私達は見ています」
続くエーアストの言葉にローリエは顔がにやけるのを抑えきれずにいた。神の使徒様の御前でこのような顔をすることなど不敬の極みではあったが、彼女にとってこんな嬉しい事態などない。あの人相書きに描かれていた奴らの顔が怒りと嘆きに歪み、そして最後は永山様達に討ち滅されて苦悶に満ちた表情でその首を晒すのだ、と。そんな薔薇色の未来が浮かんで我慢出来なかったのである。
「――ははっ!! 仰せのままに!」
返事を聞くと同時にエーアストはこの場を後にしていくも、ローリエはその場から一歩も動かない。喜悦に満ちた表情のまま、しばしそこでじっとしていたのであった。
“そっちの状況はどうだ、皆?”
“正直とっとと帰りてぇぐらいだ。米なんて買ってる場合じゃねぇな”
ウルの街近郊でキャンピングカーと一緒に待機している光輝から送られてきた“念話”に幸利は心底うんざりした様子でそう返した。それを聞いた光輝もそうかと苦々しく漏らすばかり。
今回ウルの街に侵入したのは幸利、優花、奈々そして雫の分身の一人と計四人である。本来なら雫の分身をつけずに三人で観光がてら米を買うつもりだったのだが、それもこれも一行が遠目からウルの街を見ようとしたのが原因であった。
“遠見”の技能を用いて自然と調和したウルの街がどんなものかを拝もうとした時、彼らは街の人間が妙にあわただしい様子なのを見かけてしまったからだ。また少ししてから何か話し込んでいる様子の人間も増え、尋常ではない様子が見て取れた。そのため目的を米の購入から『この雰囲気の原因は何か』を調べることに切り替わったのである。
“えぇ、ユキの言う通りね。すぐにでも戻りたいぐらい――『私達』のこと、探ってるみたいだしね”
念のため四人で穴を掘って侵入し、他の班と同様に昼頃まで穴の中で待機してから地上の方へと彼らは出た。しかも“気配遮断”で完全に見つからないよう対策もした上でだ。そうして情報収集に当たった彼らであったが、すぐにやる気が失せてしまう。どこもかしこも“反逆者”の話題で持ち切りだったからだ。
教会の人間も、ギルドか何かの組織の制服を着ている人間もこちらを血眼になって探しており、是が非でも自分達を見つけようと必死になっている。そしてそれを見た街の人達も不安な様子でいっぱいになっていた。それを見て自分達を悪人扱いしてくれていることへの苛立ちと、ここの人達をあまり不安にさせないためにもすぐにでも立ち去ろうという思いを優花達は抱えている。
“でも優花っち、愛ちゃん先生がこの街にいるかもしれないんだよ? 出来れば無事か確認したいけど”
しかしそうもいかない理由もあった。この街の宿に愛子が泊まっているという話もちょくちょく耳にしたからだ。
オルクス大迷宮で永山や神殿騎士を暗殺しようとしたという話や、その自分達がここに来ていることが何故かバレていることなどが大半ではあったが、時折ここに来ている“豊穣の女神”様はご無事なのかといった話題が出てくるのだ。それらの話の断片を繋ぎ合わせると愛子のことだとしか思えない人物しか浮かばず、そうなるとやはり早めに接触しておきたいと思うのも無理は無かった。
“そうね。奈々が言った通り、私も愛ちゃん先生と会いたいわ。お爺ちゃんとお母さんともしばらく会ってないし、うわさを聞いた限りだとあんまり良くない状況みたいだし、いっそここで合流した方がいいと思うの”
そして雫が伝えた言葉に誰もがうなずいた。オルクス大迷宮で別れてからかなり時間が経っているし安否を確かめたいというのもわかる。それに何より愛子まわりのうわさがあまりに不穏だったのもそれに拍車をかけていた。
どうもここで仕事をしている時の愛子は何かに追い詰められている様子らしく、女性の神殿騎士の一人に手を引かれて歩いているのだとか。どう考えても尋常ではないし、そんな状況で雫の家族である二人が何もしてないとは考え難い。もしかすると愛子本人が相当追い詰められてるか、或いは警護している二人含めて何かあったのでは、という悪い予想も皆の頭の中に浮かんでしまっていた。
“……そうだな。うん。わかった。俺も先生と鷲三さん、霧乃さんに会いたい。連れていけなくても話ぐらいは、先生の重荷を少しぐらいどかしてあげたい。頼めるか、皆”
“任せなさい。じゃあ私達はこれから愛ちゃんがどこにいるか探るわ。夜になったらすぐに連れてくるから待ってて”
“ありがとう優花。じゃあ皆、これから探っていきましょう”
そして意見が纏まった一同は待機組との“念話”を切り上げ、そのまま愛子がどこにいるかを気配を殺しながら探ることにした。
その際幸利が『二人一組に別れた方が早いだろ。んじゃ優花、行こうぜ』と“念話”で優花を指名したことで優花がまんざらでもなさそうな様子で少しもじもじしたり、少ししょげた様子の奈々が幸利にどうして優花を選んだかを尋ねて『いや、優花だったら近接戦闘もやれるだろ? それだけだぞ。その……雫を選んだ訳じゃないし、その、悪い』と返したことで優花が不機嫌になって奈々も安心したような悲しいような顔をしたり、雫が軽く頭を抱えたりと色々あったが、すぐに別れて情報収集する運びとなり、二つの組に分かれた四人は何度となく聞き耳を立てて探るのであった。
……そんな彼らを見下ろす二対の視線に気づかずに。
“ここか。畑山先生がいる場所は”
“そうね。水妖精の宿、ここで合ってるわ”
日が沈む前に情報を集め終わった一同はウルの街にある一番の高級宿“水妖精の宿”から少し離れた通りの脇でそこの入り口の様子をうかがっていた。どうもここに愛子が宿泊しているらしく、ここの従業員が愛子のことを心配しているというのを彼らは何度となく耳にしている。
“愛ちゃん先生、ご飯ずっと部屋で食べてるって言ってたけど……”
“嫌な予感ばかりするわね……お爺ちゃん、お母さん”
それを聞いてますます不安になる四人であったが、ふと見覚えのある影が視界を横切った。愛子である。
“なにあれ……そんな、愛ちゃん……”
全員の目に映ったのはまさに生ける屍とも言うべき様子の愛子、彼女を囚人のように取り囲んでいる男の神殿騎士達、そして愛子の手を上機嫌で引く女の神殿騎士の姿であった。あんな状態の愛子を機嫌良く手を引く女にどこか寒気を覚え、また瞳の濁っている愛子がただただ連れていかれることに強い悲しみと憤りを感じずにはいられなかった。
“助けましょう。絶対に”
“だな。ありゃどう考えても普通じゃねぇ……気配が二人分少ねぇのが気になって仕方ねぇけど、とっとと先生を連れてくべきだ”
雫が強く手を握りしめた様子でそう伝えれば、幸利も皆が抱えてる懸念を述べつつも彼女に同調する。ハジメと恵里、鈴の三角関係のことでちょくちょくお説教に来るちょっとうっとうしいながらも愛らしいあの先生をあのままにはしておけない。四人はうなずき合い、まず雫が愛子の後を追っていく。そして幸利達はもう一人の雫の分身がこちらに来ると同時に路地裏から宿の裏側へと向かっていく。
“そっちはどう? シズ”
“三階を移動して……ううん、今部屋に辿り着いたわ。一番奥の部屋よ”
“んじゃこっちにいる雫と一緒に今行く。待っててくれ”
目的は愛子のいる部屋の確認、そして窓と扉の二方向からの侵入。“気配遮断”でバレないからこそ採れる手だ。すぐに幸利達も“空力”を使って指定された部屋の窓へと向かい、中をのぞいて確認する。
“今到着したわ。これから私達が鍵を開けるから、終わったら三つ数えて突入よ”
“オーケー、雫っち”
“タイミングは任せるぞ、雫”
“なるべく早く終わらせてね、シズ。愛ちゃんをあんなままになんてしておけないわ”
“わかってるわ。待ってて”
そして確認を終えると両方の雫は懐から錠前破りの道具を取り出し、素早くカチャカチャと鍵をいじっていく。手馴れた様子で素早く鍵を外していく様はやはり忍者らしいというべきか。そんなズレたことが幸利達の頭に一瞬よぎるも、すぐに神経を目の前の窓に集中させる。そして――。
「いくわ。カウント。三、二、いーち――」
扉と窓を素早く開け、五人は即座に部屋へと侵入していく。
「!? 何奴――ぐっ!?」
「悪いな、寝てろ」
まずは神殿騎士の無力化。入ると同時に散って一人が一人ずつ相手をしていく。
「なっ!? 堂々と――ぐぇっ!」
「悪いわね。大人しくしててちょうだい」
腹に一撃叩き込むと同時に既に相手を鎮圧した雫が当て身をかまし、意識を刈り取っていく。この間わずか数秒であった。
「……え?」
「迎えに来たわ、愛ちゃん」
そして何か起きたことを察してこちらを向いてきた愛子に向けて幸利達はそれぞれ笑顔で返す。もう大丈夫、と。自分達がいる、と。
「え? あ……そのべ、さん? もしかして、やえがしさんにみやざきさん、しみずくんも……?」
「ええ、そうよ。ちょっと事情があって見た目が変わっちゃったけど、それは帰り道で――」
そうして彼女の疑問に答えて手を取ろうとした瞬間、愛子の目から涙がこぼれる。きっと自分達が現れて安心したのであろうと彼らは考えていたが、その口から漏れ出てきたのは想像しなかった言葉であった。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「え? あ、愛ちゃん? ど、どうしたのよ一体……」
「わたしのせいで、わたしのせいで……やえがしさんごめんなさいながやまくんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
次々と出てくるのは謝罪の言葉だけ。しかもあまりに断片的過ぎて一体何があったかもよくわからない。まさかこの場にいない鷲三と霧乃に何かあったのでは、と全員が勘ぐったその時、窓の外からとてつもない勢いで迫る何かを幸利達は感じ取った。
「――全員避けろぉ!!」
幸利の放った言葉と共に高速でこちらに迫ってくる何かに当たるのを避けるべく五人全員が回避行動に移る。優花は愛子の手を引いて無理矢理、他の四人もこの場にいた神殿騎士を念のため抱えて大きく飛びのいた。紺と淡い藤色の
「全く。雫、幸利君、優花さん、奈々さん。何をしてくれたんだ」
「えぇ、そうです。私達は畑山先生を、そしてそこにいた神殿騎士全員を殺そうとしていたんです。邪魔をしては駄目ですよ?」
――自分達が探していた二人の姿であった。
「「……なん、で。どうして、お爺ちゃん、お母さん?」」
信じられない言葉が漏れたことに雫の分身もつぶやいてしまう。どうして守る相手に攻撃を仕掛けるの? なんで愛ちゃん先生に殺気を振りまくの? 訳が分からなさ過ぎてただただ茫然とするばかりであった。
「あぁ。ハジメ君達からの頼みでな」
「――危ねぇっ!!」
そう言うや否や即座に
「や、やめて……やめてください!! しゅうぞうさん、きりのさん!!」
「もちろんすぐに終わらせますよ――今ここで始末を終えれば」
「――このっ!」
そして霧乃も弾かれたように優花と手をつないでいた愛子の方へと向かってくる。即座に優花はナイフを投擲するものの、持っていた一対のショートソードによって切り捨てられ、残った刀身も藤色の光と共に
「やめ、て……駄目っ! だめぇ!! お爺ちゃん! お母さん!!」
「ならば雫、今すぐ神殿騎士と畑山先生を引き渡せ」
「そうね。
「い、嫌っ!! 絶対に嫌っ!!」
雫も二人を止めるべくそれぞれ一人ずつ鷲三と霧乃の相手をしているが、動揺しているのと触れた先から
「お願い、正気に戻って!!」
「私は正気だ――全く、なんと出来の悪い子だ」
「ッ!!」
「そうですね。こんなに聞き訳が悪いなんて――あなたなんて産まなければ良かった」
「あっ」
家族からの拒絶の言葉。心底忌々し気な表情と共に放たれた事で雫の心は砕けてしまった。もう逃げることも武器を持つことすらも出来ない程に。実の家族の命を奪わんと迷いなく刃は伸びる。
「――“凍獄”!!!」
だがそれも雫の首根っこを掴んで氷属性の魔法を発動した奈々によって止まる。何が起きたか、どうすればいいのかなんて奈々にはわからなかった。けれどもこのままじゃ分身とはいえ雫が死ぬ。それだけは嫌だと迷わずこの魔法を発動したのである。
かなりの魔力が持っていかれて、腕輪型の魔晶石から魔力を補充しなければ立つことすら辛い。けれども二人を止めるために手段なんて選んでいられないと判断した奈々は友人の家族を
「あ、あぁ……わ、たし……わたし……」
「――気にしてんじゃねぇ奈々!! お前がやらなきゃいくら分身でも雫が死んでた! 間違っていねぇ!!」
誰もが呆然としてしまう中、即座に幸利が自身も震えながら彼女の手を取り、正面から言葉をかける。間違ってない。仕方が無かったんだと必死になって説得する。だが、それもつかの間であった。
「――氷が!」
「ふむ……流石に焦ったな」
「そうですねお義父さん――さて、聞き分けの無い子供は全員始末しましょうか」
いきなり氷が内側から溶けていったかのように薄くなっていき、それが完全に消え去った時に鷲三と霧乃は姿を現す――自身の魔力と同じ色をした翼を生やしながら。
「間違いねぇ……恵里の時と同じだ! 二人とも改造されちまってる!!」
「そうだ。この身はエヒト様の手によって生まれ変わった。エヒト様の命を果たすためにな」
「そうです。ですからあなた達に勝ち目なんてありません。死になさい」
幸利達の頭に浮かんだのはかつて恵里が語ってくれた過去――自身が魔人族に寝返り、光輝を手に入れるために自分の体を使徒のそれに改造したことであった。つまり目の前の二人も何らかの理由でエヒトに改造させられたということであり、どうして愛子のそばにいなかったかの理由も理解してしまった。
「逃げるぞ……全員逃げろ!! このままじゃ絶対に勝てねぇ!! コイツらも連れてだ!!」
このままでは絶対に勝てない、マトモに戦えやしないと判断した幸利の言葉に優花と奈々が反応し、三人で“縛岩”を発動して神殿騎士を縛り上げ、優花も愛子の手を取ってその場から逃げようとする。
「雫っち!!」
「ごめん、なさい。わたし……」
「もう、むり……」
「いい子だ――そのまま死ね」
「ありがとう雫――死になさい」
だが心が折れた雫はその場に立ち尽くし――そのまま首を刎ねられて姿をかき消す。もやのように消えていく親友の姿を見て慟哭しながら三人はウルの街の郊外へと向かっていく。
「――ハッ! こ、ここは!? そ、空に浮かんでいる!?」
「クソッ! こんな時に目を覚ましてんじゃねぇよクソが!!」
鷲三と霧乃が時折ウルの街に攻撃を仕掛けようとしているのを魔法や銃撃で妨害し、分解の能力を纏った羽の弾丸を何とかかわしつつ、“空力”を使いながら空を駆けていた幸利達。だが運悪く女の神殿騎士が目を覚まし、自身にかけられた戒めを解こうともがき始めた。
「なっ!? あ、あの二人は使徒様だとでも――私です! エヒト様に忠誠を誓うローリエです!! どうか、どうかこの戒めを――」
「動くんじゃねぇ!!――ぐあぁあぁああ!!」
翼を生やしていた鷲三と霧乃を見て困惑しつつも、鎖を解こうと必死にもがいたせいで彼女を拘束する鎖を掴んでいた幸利の体も揺れる。結果、彼の体を紺と淡い藤の羽根が何度となく掠めていく。
「よくやった。名も知らぬ信者よ」
「役割を果たしたことを褒めて差し上げます」
「――!! あ、ありがたきしあわ――」
その神殿騎士が喜悦に顔を歪めたその瞬間、彼女の体ごと無数の羽根が貫いていく。腕も、胸も、頭すらも。射線上にいる幸利少年をただ殺すために。
「――ぅぇ?」
「しまっ――!」
そして持っていた岩の鎖も羽根によって消し飛ばされ、落ちていく。
裏切りの走狗は教会の屋根に取り付けられた十字架の先端に穴まみれの体を叩きつけられ……その衝撃でバラバラになって屋根を汚したのであった。
“何が、何が起きたんだよ皆!!”
そして逃げる最中、今度は錯乱した様子の光輝が“念話”を飛ばしてきた。突然青ざめてうわごとをつぶやく雫を介抱し、何が起きたのかを聞いていた彼も真実を知って雫と同様に気が狂うしかなかった。
“答えてる暇なんてねぇ!! とにかくそっちに向かってる! 今すぐ車の準備してくれ!!”
“私達だってもう訳わかんないわよ!! こんなの、悪い夢以外の何だっての!!”
女の神殿騎士を拘束していた鎖を手放したことで十全に戦えるようになった幸利が満身創痍になりながらも殿を務め、彼と優花だけがその叫びに答える。
「ごめん、なさい……わたしの、せいで……」
“どうして……どうしてなんだ!! 俺が、また間違えたせいなのか!!”
「もうやだ……もうやだよこんなの!!」
愛子、光輝、奈々の嘆きが響く。その言葉に二人は返す言葉を持たない。先生が悪い訳じゃない。皆が間違えた。自分達だって絶望したい。けれどもそうしてしまっては愛子を、そして今運んでいる神殿騎士を助けた意味が無い。愛子は言うまでもないし、この神殿騎士を放置してしまっては鷲三と霧乃が手を汚す。そしてその殺害の実行犯として自分達が罪を擦り付けられる。だからこそこうして逃げている。懸命に絶望に抗っている。
「……悪い。恨みたきゃ俺を恨め!!」
そう述べると同時に幸利は腰のポーチからあるものを取り出し、着火して投げつける。閃光手榴弾であった。それは二人が分解能力を持った羽根を飛ばすよりも先におびただしい光を放ち、全員の視界を塗りつぶす。そしてその瞬間を狙い、ファントムに電気を流し、光の魔力を纏わせた弾丸を電磁加速して二人に放つ。
「! これしきで――」
「小細工でどうにかなると――」
だがそれでも二人を仕留めることは出来なかった。いくら歴戦の戦士であろうとも一瞬の隙は出来たが、それまで。けたたましい発砲音に気付き、それに反応してショートソードを振り抜いた。“纏光”でカバーしてても分解能力には抗えなかった。
「だろうな」
けれどもそれは想定の範囲内。本命は“縮地”も駆使しての接近。超至近距離からの電磁加速された一発は鷲三の胸を穿ち、ガンスピンと共に吐き出された三発もの弾丸は霧乃の右もも、腹、心臓を的確に撃ち抜いた。
「ぐ、ぁ……」
「私、たちが……」
「後でちゃんと墓参りぐらいして……え?」
そして
「――まさか!!」
その瞬間、幸利は本命が自分達じゃないことに気付き、すぐに全員に“念話”を飛ばす。
“優花、奈々!! 早く光輝達のところへ行くぞ!!”
“ど、どういうことよ!?”
“わけわかんないよ幸利ぃ!!”
“俺らは多分ついでだ! 俺達に罪をなすり付けられればいい、って程度でしかなかったんだ!! もしかすると他の奴らが危ないかもしれない!!”
その言葉に優花と奈々だけでなく光輝達も驚愕する。確かにそれなら自分達が相手をしていたのが分身であることも一応の説明がつく。本当に自分達を『世界の敵』とするつもりだったのなら『本人』を連れて来れば良かった。にもかかわらずそうしなかったというのなら別の理由がある。つまり――。
“まさか……恵里が!?”
彼らの脳裏に浮かんだのは恵里の存在。一応神の使徒対策はしてあるつもりだが、それも『耳栓』を知っている鷲三と霧乃がそれに気づく可能性も十分高い。おそらく恵里を操り、人質にして何かをやろうとしているのではないかと全員が予想する。
“可能性は高ぇ! 急ぐぞ皆! 一刻も早く合流するんだ!!”
ようやくキャンピングカーを停めてある場所へとたどり着いた幸利らはすぐに乗り込み、心がやられてしまった雫を抱きしめる光輝の代わりに妙子が魔力を流し込んでいく。
「――飛ばすよぉ~!! しっかりつかまっててぇ~!!!」
そしてフルスロットルで車を走らせていく。合流地点のハルツィナ樹海近郊まで、一秒でも早く。
「ユキ!! しっかり! しっかりしなさいよ!!」
「悪い……そこの回復薬、とってくれ……」
「ダメだよ!! 神水使わなきゃ死んじゃうよ!!」
「ダメに、決まってんだろ……全部で残り八本しかねーんだぞ……」
「そんなことの心配しないでよ!! アンタが死んだら、死んだら……っ!!」
一方、キャンピングカーに乗り込んだところで全身血まみれになって倒れた幸利は今、備え付けのベッドを血で汚しながら横たわっている。優花も奈々も当然かなりの傷まみれだが、それも車に入った時にポーチから取り出した“聖典”の付与された回復薬を煽ったことでどうにか傷は塞がっている。
しかし幸利の方は女の神殿騎士が暴れたことや殿を務めていたこともあってか体のそこかしこが抉れてしまっている。その上出血も激しいため、二人が言うように神水を服用しなければそのまま死んでもおかしくない状況であった。
「こう、き……こうき……」
「俺が……俺がずっとそばにいる。だから、だから……取り戻そう。二人を。雫の家族を」
「うん……うん」
運転席と居住スペースを繋ぐ通路で座り込み、抱きしめ合いながら光輝は雫に言葉をかけていた。もう訳が分からなくて仕方がない。けれど分身とはいえ家族に自分を殺された雫の心を癒さなければ、と必死に何度も何度も。雫も心が砕けてしまいそうだったが、光輝に依存することでどうにか砕け散ってしまいそうな心を繋ぎ留めていた。
「……わたし、は。わたしは……」
そしてもう一つの備え付けのベッドに腰かけながら愛子はただつぶやく。自分のせいで彼らがひどく傷ついてしまった。結局自分は何一つ出来なかった。その無力感がただ彼女の心を支配する。未だ気絶したままのデビッド達を見下ろしながら、ただ絶望に暮れるだけであった。
「キュウ、キュウ……」
光輝達の旅に同道していたイナバも愛子の手や顔を舐めたり、膝の上で丸まったりなどして元気づけようとしているが反応はない。
かくしてウルの街へと向かっていた子供達は仲間の下へと急ぎ戻っていく。その先に待つものが何か。それを今の彼らは知らない。
皆様ご存じの通り、作者はとってもサービス精神が旺盛です。だから娘・孫との再会を心待ちにしている鷲三さんと霧乃さんもこうしてまた雫と出会えました。もちろん愛ちゃんとの再会も果たせましたよ! ほっこりシーンがいっぱいです!!
あとそれと師弟対決も燃えますよね! テンプレではありますが、言うなれば王道展開ですからね! ならない道理なんてありませんよ!!
なーのーで……全部一緒くたにやらせてもらいました(ゲス顔)
今回は特に素晴らしいお話だと思いません?(オリジナル笑顔)
あ、それとちょっとした裏話。ちなみに愛ちゃんが自らの手でローリエを殺す展開も浮かんではいました。こう、土属性の初級魔法“礫球”を何度も叩き込むとか他にも一つ。
それと前回と今回の話でやたらと脳内で仮面ライダーギーツ主題歌「Trust・Last」がやたらと流れてました。多分第二章で一番しっくりくるのは……機動戦士ガンダムOOの「Ash Like Snow」とか「DAYBREAK'S BELL」辺りかも? 後は仮面ライダー鎧武の「JUST LIVE MORE」とか。
2022/10/27 合流地点を「ハルツィナ樹海近郊」に修正しました。雰囲気崩すとアレなんでこちらに記載します。
2022/11/7 イナバの描写も追加しました。