あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

108 / 208
まずは拙作に目を通してくださる皆様への感謝を。
おかげさまでUAも142889、感想数も489件あり、しおりも372件、お気に入り件数も802件(2022/11/16 20:59現在)となっております。こうしてひいきにして下さり、本当にありがとうございます。

そしてAitoyukiさん、今回もまた拙作を再評価していただき、毎度毎度どうもありがとうございます。おかげさまで物語を書き進める力をいただきました。本当にありがとうございます。

今回の話は少し長め(約11000字)となりますのでご注意ください。では本編をどうぞ。


五十九話 決戦、邂逅、そして

「見事なものだな……」

 

 王国の周囲を取り囲む外壁の外に多くの戦士が並んでいる。その陣容は一言でいえば『壮観』に尽きた。

 

 王都及び近場のホルアドからかき集めたランク“黒”以上の腕利きの冒険者達がひしめき合い、互いに火花を散らしている。目的はもちろん反逆者を討伐することで得る名声と富だ。前々から大々的に募集をかけてはいたものの、三日ほど前から一層熱が入ったのである。

 

 理由はギルドを通して支払われる国の報奨金が更に吊り上がったからである。そのため元々参加を希望していたランク“金”の“閃刃”のアベルや“銀”の“剛断”のハックマンだけでなく名だたる“黒”の面々もここに集っていた。

 

「これだけ多くの人がアイツらを倒すために来たんだな」

 

「あぁ……いくらオルクス大迷宮を突破したとはいえ、これほどの数相手に敵うはずはない……」

 

 この戦いのために新たに設えた防具を身にまといながら野村と永山が話し合う。彼らの身に着けている装備はオルクス大迷宮四十二階層で採れる貴重な鉱石であるジェールトヴァ鉱石をふんだんに使っており、彼らが断念した六十一階層辺りであっても容易に砕けることはない。

 

 そしてそれは永山達と共に戦っている神殿騎士達の中の精鋭十人及び騎士団長のクゼリーにも与えられており、兵士達も今回の戦いに合わせて武具を新調している。

 

「こんなに多くの人がいるんだもの。絶対に負けないよ」

 

「うん。あの人達を倒して、戦争にも勝とう。それが帰る唯一の方法なんだから」

 

 野村の横にいた辻と吉野も軽く武者震いを起こしながらも戦う意志を露わにする。二人もお飾りとはいえ部隊を率いて“反逆者”と戦うことになっており、どちらも治癒と支援と役割は違うものの後方から前線部隊を支える役割を与えられている。

 

「勝とうぜ、リーダー」

 

「たった十人そこらで何が出来るってんだよ」

 

「負ける訳がない……俺達だってオルクス大迷宮で鍛え続けてきたんだからな!」

 

 仁村が、玉井が、相川が気炎を吐いて永山を見つめる。この戦いのために集まった腕の立つ冒険者七十余名に加え、総勢三千の兵士達が戦いの時を今か今かと待っている。もしもう一週間ほど時間があったのならば王国傘下の諸侯も集まり、トータル二万にまで膨れ上がっただろう。だが今回はこれで十分だ。なにせたった十七人が相手なのだから。

 

 先の二人の反逆者の襲撃により、王都を守る三枚の魔法障壁を発生させるアーティファクトである大結界が破損したものの、それでも彼らの中で勝ちは揺るがない。外壁に迫るよりも前に魔法の一斉砲撃によってチリ一つ残さず消し飛ばせると確信しているからだ。

 

「神の使徒様、支度が整いました。こちらに」

 

 そうして話し合いをしていたところにクゼリーが現れ、永山は彼女の後をついていく。開戦前に“勇者”から檄を飛ばしてもらい、戦意高揚を図るためだ。無論それを永山もわかっているため、事前に覚えた内容を頭で反復しながら歩いていく。

 

(……勝つぞ。ここで勝って、この世界の皆に勇気を与えるんだ。それが出来るのは俺達だけだ……)

 

 永山が見ているのは今回得られる圧倒的な勝利ではない。それによって得られるこの世界に住まう人々の喜ぶ顔、そして愛する人の笑顔である。それを得るために“勇者”となった少年は登壇し、熱弁する。

 

「――ここに反逆者が来るとイシュタル教皇は仰った……ならば俺達はそれを迎え撃つ! 全ては、この世界の未来のために!!」

 

『おぉおおぉぉおぉ!!』

 

「勝つぞ!! 勝って、俺達は魔人族にも屈しないことを示す!!」

 

『うぉおぉぉおおおぉぉおおぉ!!』

 

 上がる鬨の声。止まらぬ熱狂。今ここに、彼らの戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

“やれやれ、多勢に無勢もいいとこじゃんか。弱い者いじめなんてひっどーい”

 

“まぁ、あそこまで数をそろえられると正直引くかな……とはいえやることは変わらないでしょ、恵里?”

 

“そんなに鈴達が邪魔なんだね……まあでも、ここまでやってくれるならあんまり罪悪感は感じない気がする”

 

 耳栓を着用し、“念話”によってハジメや鈴と話をしながら恵里は魔力を更に流し込んでバイクを加速させていく。

 

 王国へと繋がる街道を疾走する三つの車両。雫の運転するバスに龍太郎がハンドルを握るキャンピングカー、そして恵里が駆るバイクだ。その遥か上空をフリードとウラノスが駆け抜けている。

 

 まずバスの方には幸利を除く光輝達の班と愛子に彼女の仲間の騎士達四人、礼一、信治、良樹、メルド、そして鷲三と霧乃がバスに乗車している。キャンピングカーに乗っているのは信治と良樹の代わりに幸利と浩介を加えた龍太郎達の班だ。そして恵里に抱きつく形でハジメがバイクにまたがり、取り付けられたサイドカーに鈴が乗っている。

 

 もちろんただ車両を別にしたという訳ではなく、彼らはある目的を持って三方向へと別々に動いていたからだ。

 

“中々の数だな。数日そこらでかき集めたにしては相当な数だぞ”

 

“たったそれだけですよ、フリードさん。この子達は『自分達ならやれる』と言ってるんです。なら私達が信じるしかないでしょう”

 

 今彼らの目の前に広がるのは相当な数の王国の兵士達や冒険者、そして永山ら神の使徒といった“軍隊”の布陣だ。魔法の有効射程に入った途端、初級中級或いは上級問わず様々な魔法によって迎撃されるだろう。だがその程度で光輝達は怯えてなどおらず、それがわかっていたからこそ愛子はフリードに向けて念話石を使って返す。こうして車やバイクを使って展開された部隊へと向かっていくのもちゃんとした理由があるからだ。

 

 それは恵里達がハイリヒ王国前の平原へと向かう少し前、どうやって王国を落とすかについて話し合ってたことに由来する。

 

 まず愛子が()()()()で相手の足を可能な限り止め、術師の信治や良樹に奈々、勇者の光輝が魔法や強力な技能を使って突破口を開き、そのまま一気になだれ込もうという作戦を提案した。

 

『いや、その……その足止め方法はすごいんだけどさ、流石に殺すのは反対だよ。死ぬのはアイツの木偶人形相手にしてほしいし』

 

『あの……さっきの方法はともかくとして、ちょっと人を殺すのは……』

 

 だが後のエヒト及び無数の神の使徒との戦いを想定していた恵里達は、最初に提示した方法は全員ドン引きしたり悲鳴を上げたりしつつもそれに首を縦に振るなどして賛成はする。だが結局作戦そのものには反対したのだ。可能な限り無力化して温存しておこうと恵里が代表して訴えたのである。

 

『ですがどうするんですか? 私以外にもこれが出来るんだったら……いえ、南雲君。あなたならやれますよね?』

 

 無論それに愛子も反論する。ただ、自分が提示した方法をハジメはやれそうであったため、それならまた別の作戦を立てられるのではないかと考え直し、すぐに確認を取る。ハジメもそれにうなずきはしたがあることが引っ掛かっており、少し思案しながらの形であった。

 

『うーん……確かに畑山先生の――』

 

『もう先生ではありませんよ、南雲君』

 

『あ、はい……畑山さんの持ってる“土壌管理”と“範囲耕作”、それと僕の“錬成”がちょっと気になって……』

 

 それは愛子の技能と自分の“錬成”、そして生成魔法のことであった。

 

 ハジメの使う“錬成”は金属だけでなく地面にも作用できる。前は『錬成なんだから多分鋼の錬〇術師みたいに地面に棘ぐらい生やせるよね』と特に理由もなく考えていただけであり、かなりグレードダウンするとはいえ当時はそれがやれたものだからそこまで深く考えてなかったのだ……どうして鍛冶師ご用達の技能が()()()()()()のかを。

 

『どうしたのハジメくん? 今度は何が気になったの?』

 

『いや、うん……どうして僕の錬成が地面にも効くのかな、って思って』

 

『ハジメ、お前が研究者気質なのはわかるが、今はそれどころじゃ――』

 

『待ってメルドさん……それってルーツの話、だよね?』

 

 鈴の問いかけにハジメはコクリとうなずいた。ルーツというのは以前地球にいた頃にやっていたトータス会議で話題に挙がった恵里の降霊術のルーツのことである。オルクス大迷宮を下っていく際、恵里らが暇つぶしの話題としてトータス会議のことも話しており、当然このことも光輝達の耳に入っている。

 

 聞いた当初は少し興味深そうに聞いていたのがチラホラいた程度であったが、こうして生成魔法という神代魔法を手にしたことで全員の関心は強まった。生成魔法が水にも付与できると知ってからはなおさらだ。

 

『……なぁハジメ。それってもしかすると、生成魔法はまだ何か出来るってことか?』

 

 仲間を代表して光輝がその疑問をぶつけてくる。ハジメがこんなことを言い出すのだから絶対何かある、とこれまでの経験から理解しており、そして彼自身も何か引っ掛かったのだ。もしかして何か見落としていないか、と。そしてハジメはそれに答えてくれた。

 

『うん。きっとそう。だって――』

 

 土だって無機物を含んでるでしょ?

 

 その言葉にトータス出身のメルド、フリードと魔物達はピンときてなかったが、神代魔法を取得してなかった愛子も何かに気付き、他の面々もハジメが言いたかったことを理解して大きく目を見開いた。

 

『皆、ハイリヒ王国に仕掛ける前にちょっと実験をしたいんだ。いい?』

 

 その言葉に恵里らは首が取れるぐらいうなずき、それがいかに重要かとわかった愛子も察したメルドとフリードもそれを承諾。数時間の実験と()()を経て、ようやくハイリヒ王国近郊の平原へと向かっていったのである。

 

“作戦の確認をしよう。俺達は右翼、龍太郎達は左翼を担当。ハジメ達は後ろに控えている奴らを担当だ。いいよな?”

 

“おう。左は任せとけ。絶対にやってやるさ”

 

“うん。この中でやれるのは僕だけだからね。”

 

 “念話”を飛ばしてきた光輝に龍太郎とハジメが各グループを代表して答える。今回作戦の肝になるのは作戦を提案してきた愛子と生成魔法を上手く扱える幸利、ハジメの三名のみ。他は魔法による防御と各種車両の運転、そして()()とその後の対処が主な役割だ。

 

“ああ。先生……じゃなかった。畑山さん、幸利、準備はいいか?”

 

“了解です、天之河君。しっかり仕事をしてみせます”

 

“問題ねぇ。やってやるさ!”

 

“うん! この一手で、全部終わらせよう!!”

 

 恵里が言葉をかけるや否や、遥か彼方より無数の魔力の光が迫ってくる。炎や水、土塊や風などの各属性の様々な攻撃だ。一発一発の威力はともかく、数えることすらおっくうになる程の量が津波のように襲ってきてはひとたまりもないだろう。

 

“全員、聖絶を展開!!”

 

 ただしそれは『普通』であればの話だ。光輝の号令と共に各車両の前方に幾重もの光の壁が展開され、無数の攻撃を弾き、受け流し、時には砕かれながらも迷うことなく進んでいく。

 

「ハッ、鈴や皆の“聖絶”を破りたいんならこの百倍ぐらい持ってきてほしいもんだね!!」

 

“百倍なんて随分甘く見るね恵里も――千倍、ううん、何億倍でも負けてなんてあげない!! 絶対守り抜いてみせるから!!”

 

 恵里と鈴は互いに気炎を上げながらそれぞれの役割をこなしていく。更に速度を上げ、左右に分かれたバスとキャンピングカーの間を縫って戦場へと突っ込む。

 

「くっ――怯むな!! 全力で叩けば必ず倒せる!! 絶対に奴らを通すな!!」

 

「緩み崩れよ汝が足場よ」

 

 一方、キャンピングカーとバスは指定されたポイントである両翼の最前線で止まり、結界を展開し続けて津波のように押し寄せる攻撃をひたすら防御していた。光輝と香織の展開する十重二十重の障壁は幾度攻撃を受けようと、たとえ砕かれようとも車をわずかに傷つけることすら許しはしない。小型の要塞となって愛子の技能と幸利の()()が発動する時を、こちらに敵が殺到する時をただ待っていた。

 

「ぬかるみ歪み、ものみな招け、汝は形なき手なり」

 

 恵里がバイクを飛ばしている中、ハジメもまた目を閉じながら本来必要のない言葉を口にし続ける。これはイメージだ。これから発動する()()を補完するための大切な作業。キャンピングカーに乗っている幸利も同様のことをやっており、持てる厨二心を発揮し、かつこの戦いで犠牲を出すことなく終止符を打つ。そのための必要な作業を続けていた。

 

“今だ!! 先生! 幸利っ!!”

 

「はいっ!! これで――」

 

「終わりだ!――“崩陸”!!」

 

 光輝の号令と共に愛子は、幸利はその力を十全に振るう――車の近くが一瞬にしてぬかるみ、まるで沼に足を踏み入れたかのように多くを引きずり込んでいった。

 

「うわぁああぁあああぁ!!」

 

「か、体が、体がぁああぁあぁあ!!」

 

「だ、誰か、誰か助けてくれー!!」

 

 愛子は“土壌管理”と“範囲耕作”と二つの技能を同時に行使し、この平原を流砂に変えた。それは幸利も同様で、生成魔法――その真髄たる『無機物の操作』を用いたのだ。

 

 幾度もの実験を経てハジメ達は“錬成”や“土壌管理”などの技能のルーツが生成魔法にあることを知り、その真価をも知った。そして生成魔法が使える全員で協力し、指定した箇所または発動した人間の周辺の土壌を流砂に変える新たな魔法“崩陸”を開発したのである。

 

「だ、駄目だ! か、体が……」

 

 その威力たるや凄まじく、食らった相手は誰も彼もが胸から下までが埋没しているという状況だ。もちろんこの魔法は範囲を選べるため車の真下と後ろは無事であり、体が沈んだ相手もそこに行こうとしてもがいている状況だ。

 

「こんな小細工如きで!!」

 

「我らを止められるとは浅はかとしか言えんなぁ!!」

 

 だがこんな状況でも冷静な人間は少なくなかった。すぐに“来翔”を詠唱することによって体を浮かせ、直接車に攻撃を仕掛けようとする兵士や神殿騎士がいたのである。

 

「まだ、だっ!!」

 

「こんな、ところでぇっ!!」

 

 そしてそれは永山達も同じ。魔法の得意不得意など関係なく、とにかく発動して抜け出そうとする。ただこのままで終われないとばかりに流砂の中を飛び出し、光輝達のいる車へと一撃を見舞おうとしていた。

 

“よし、全員出撃!”

 

 だがその程度、ここに来た誰もが予測していた。光輝が号令を下すと同時に流砂を更なる範囲に展開している二人と結界担当、運転を任されてた二人に空を駆け抜けることが出来ないデビッドら四人を除く面々が車の外へと出ていく。

 

「そこっ!」

 

「一旦おねんねしてなっ!!」

 

『あばばばばっ!?』

 

 目的は彼らの鎮圧である。優花は事前にハジメから作ってもらったチェーンをばらまいて兵士達に接触させ、他に“纏雷”が使える面々は直接触るなどして電流を流し、そのまま気絶させていく。無論、“空力”を使える面々はそれを駆使しながら戦場を駆け抜けているため、誰も足などとられてはいない。

 

「……単なる決めつけで大介達を追い詰めた罪、贖ってもらう」

 

「ぐぇーっ!?」

 

(……マジでアレーティア怒らすのやめよ。ホント怖ぇ)

 

 アレーティアの場合は大介におんぶしてもらいながら“風球”を顔面に叩き込んでKOさせている。かつて自分達を殺そうとしてた頃の冷たい殺気をたぎらせながら相手を容赦なく昏倒させるアレーティアに軽く引きながらも、大介も足で踏んづけて“纏雷”を発動したり、アレーティアと同様に“風球”をぶつけて倒していた。

 

「さて、罪滅ぼしのためにもわし達も動かねばな!!」

 

「ぐえっ!」

 

「この程度で贖えるとは思いませんが、それでも!」

 

「ゲホッ!!」

 

 鷲三と霧乃もまた翼を展開し、空を飛びながら彼らの意識を刈り取っていく。エヒトに改造された忌々しい体といえど使わない理由などない。わずかでも子供達のために、と今もあふれそうになる罪悪感を抑えながら二人は風となっていく。

 

「この、程度でぇー!!」

 

「死にやがれぇー!! 反逆者がぁー!!」

 

 だが相手もやられてばかりではなかった。永山と玉井は昏倒させるための一撃をどうにか避け、近くにいた礼一と信治目掛けて振りかぶる。目の前の相手が強いとはわかっていても、全力の一撃ならば届くと信じて肉薄する。

 

「悪ぃ、遅いわ」

 

「イナバの方がよっぽどキレがあるな」

 

「ぐわぁああぁあぁぁあぁあぁ!!」

 

「ぎゃぁああぁあぁああ!?」

 

 だが、それらの一撃も無情にもかわされ、そのままポンと手を置かれて電気を流されてアッサリ沈む。薄れゆく意識の中、仁村の声を二人は聞いた気がしたが、何を叫んだかもわからぬままにまどろむのであった。

 

「土術師部隊、近いところからでいいから地面を隆起させるんだ! それだけで全員が出られるはずだ!!」

 

 その一方、土術師の野村は“来翔”を発動するのではなく、この方法の弱点に気付いて全員が助かる方法を口にする。この封じ込め方の一番の弱点は『単に足場がもろいだけ』ということであるため、新たに足場を作ってしまえば簡単に解決できるのだ。当然恵里達もそこにも気づいており、それも踏まえて光輝の号令と共に鎮圧しに向かっているのである。

 

“ハッ、今更遅いね!――ハジメくん!!”

 

「了解!――“崩陸”!!」

 

 既に術師達の部隊が展開された場所までたどり着いた恵里はハジメに合図を送り、それにハジメも口角を上げながら応じる。途端、向こうの足場も一挙にもろくなり、そのまま多くが悲鳴を上げながら地面へと吸い込まれていく。

 

「なぁぐぅもぉー---!!!」

 

 だが一人だけ、野村だけは違った。それを予測していたために地面に自分達の足場を隆起させ、今度は飛び石のように地面を固めつつ、それを渡りながらこちらへとやってきたのである。

 

「うわ、面倒くさい。とっとと倒れてよ」

 

「お前達さえ、お前達さえいなければぁーー-!!! “隆槍”、“隆槍”、“隆槍”、“隆槍”っ!!」

 

 野村は叫ぶと共に“隆槍”を幾つも発動し続け、バイクごと串刺しにしようとしてくる。だがそれを意に介することなく恵里はスラロームを決め、全ての攻撃をかすることなく避けて進んでいく。

 

“下から来る攻撃をよけるのも面倒だね。よし、二人とも! 一旦バイクをしまうよ!!”

 

“オッケー、ハジメくん!!”

 

“わかったよ! それじゃ一緒に行こう!”

 

 とはいえ恵里の負担になることをハジメも嫌がったため、バイクをしまう旨を二人に伝えた。恵里も鈴もそれを承諾すると同時に三人一緒にバイクから飛び出していく。

 

「クソッ!! 車にバイク、空まで飛べるなんて卑怯だろうが!!」

 

「ハッ、苦労して手に入れた力を使って何が悪いのさ!!」

 

「悪いけど野村君。君もここで眠っててもらうよ」

 

 怨嗟にまみれた野村の絶叫を流しつつ、ハジメは鎮圧用にドンナーに装填しておいたゴム弾を野村の額に叩き込む。銃まで発明してたことに更なる驚きを見せ、怒りと嫉妬を顔に出しながらハジメをにらむ。

 

「本当に、お前――ガハッ!」

 

「鈴達の頑張りを卑怯の一言で済ませる人なんか、容赦なんてしないから!」

 

 そして昏倒したのをロクに確認することもなく三人はそのまま戦場を駆け抜けていき、他の術師の人間も無力化していく。

 

「“崩陸”!!」

 

「“風球”!」

 

「“光絶・光散華”!!」

 

 ハジメの手によって流砂に引き込まれた人間相手に、アレーティアや大介と同様に“風球”を幾重にも展開しては恵里は撃ち込んでいく。鈴の方も威力を最大限抑えた光の破片の爆破で気絶させる。息の合った連携を見せながら恵里達は後衛を一挙に潰していった。

 

「なんでよ……なんであなた達がぁー-------------!!!」

 

「お前らばっかり……どうしてお前らだけがぁぁああぁあぁあああぁあぁ!!!」

 

「どうして、どうして……私達の邪魔しかしないのよぉー-------!!!」

 

 吉野の、相川の、辻の叫びが戦場にこだまする。だが三人はそれに反論も謝罪もすることなくただ無力化に努めるだけ。一時間にも満たない内に勝敗は決する。恵里達は誰の命も損なうことなく、この虚しい戦いに勝利する。そんな時である。

 

「うん? なんだあれ」

 

 気絶した兵士や冒険者、神殿騎士を引きずり出して全員で拘束して一か所に固めようとしてたその時、平原に法衣を纏った禿頭の男が現れたのだ。龍太郎が間抜けな言葉を吐いてから数秒、男は無言でその場で踵を返してハイリヒ王国の方へと向かっていく……のだが、すぐに振り返ってこちらを見て来た。

 

“何あれ? 立体映像みたいだけど”

 

“本当になんだろう……鈴達の方をじっと見てるし”

 

“透けてることを考えるとやっぱり映像の類じゃないかな? それにずっと僕達を見てるし……まさか”

 

 うめき声を上げる永山をふん縛って平原の中央へと引きずっていく最中の恵里が“念話”でハジメと鈴に問いかけ、鈴は単に首をかしげるだけに終わったが、ハジメは何かに気付いたようであった。

 

「まさか、神代魔法……大迷宮か何かの仕掛けじゃないか? こっちに仕掛けてくる様子もないみたいだし」

 

 そう光輝がつぶやけば、まだ耳栓をつけている恵里と上空で待機しているフリードを除いた全員が彼の方に視線を向ける。あの男は未だこちらの方をじっと見ているし、その先に進む様子もない。その予測が当たってるか外れているかはともかくとして、決して無意味なことではないと感じられたからだ。

 

「そうね……前にこの平原で訓練をしてた時にこんな人は出てこなかったし……」

 

「どうする、お前達。別に無視してここの兵士達の処理をしても俺は文句を言わんぞ」

 

 雫のつぶやきに多くがうなずきながら思案し、メルドはどう動いても構わないと伝えてそのまま縛った神殿騎士を他の捕虜のいる場所へと置いていく。そこでふとアレーティアが大介と手を繋ぎながら挙手した。

 

「……行くべきだと思います。雫さんがそう述べたのならきっと何かあるはずです。でもここの処理もありますし、手分けした上で行った方が……」

 

「……ってアレーティアが言ってるけどよ、どうする? 俺はあのハゲが気になるし、アレーティアがいいって言うなら行ってみたいんだけどよ……いいか?」

 

「……わかった。よし、じゃあここに残る班とついていく班を分けよう」

 

 大介もそれに乗っかり、アレーティアとアイコンタクトをしてから行くことを表明するとすぐに光輝が話し合いの席を設けた。そこでここで作業するよりも早く王様に会った方がいいんじゃないかとメルドに気を利かせ、またある程度戦える面々がいた方がいいと結論付け、大介、アレーティア、メルド、優花、奈々、妙子の六人で向かうことに。

 

「気を付けてねー」

 

「おう気ぃつけるわー」

 

 念のために攻略の証をメルド達に預け、割と気の抜けるやり取りをしてから六人は体の透けた男の近くまで寄っていく。すると男の方も無言で前を向いてハイリヒ王国の方へと向かい、メルド達は黙ってそれに着いていく――そうして彼らの姿が見えなくなると共に()()()()()()異変が起きた。

 

“来たぞ!! 想定通りだ!!”

 

 上空で待ち構えてもらっていたフリードが“念話”を使いつつ、高度を落としながら自分の同胞がここハイリヒ王国へと攻め込んでくる様を伝えてくれた。姿をハッキリを確認出来る程の高さで、しかも戦いが終わって気が抜けた今現れた。このタイミングでエヒトが介入してくるのではないかという可能性が例の作戦会議で挙がった通り、奴らは進軍してきたのである。

 

“フリードさん、敵の数は幾つですか!!”

 

“灰色の竜が八に大鷲の魔物が十!! どれも部隊の入った籠をぶら下げている!”

 

 やはりこの時を見越してエヒトが命を下したのだろう。かつて自分が変成魔法で強化した灰竜はまだ温存しているようだが、かつての自国の南端に生息するギガースイーグルという機動力と膂力に長けた大型の鷲の魔物が大量投入されていることにフリードは気付く。闇魔法が使える魔人族も相応の数がいたため、彼らを動員してここまで戦力をかき集めたのだろう。

 

 そして大きな籠の中や灰竜の上などで魔法の詠唱に移っているのか、パッと見で二百。数だけ見ればともかくとして、遥か上空から一方的に攻撃出来る事を考えれば相当の脅威となり得るとフリードは否が応でも理解してしまう。

 

“なら俺達もすぐに――”

 

“いや、ここは私が引導を渡す”

 

 ならばと光輝もすぐそちらに向かおうと伝えようとした時、フリードはその助けを不要と切り捨てた。

 

“どうしてですフリードさん! 俺達だって戦えます!!”

 

“マトモに戦場に出たことも無い子供が吼えるな!!……身内の不始末は自分でつける。お前達には手を出させん”

 

 そう漏らすと共にフリードは“念話”を切り、届かない距離であり彼らのいる高度までへとウラノスを飛翔させる。

 

「裏切り者のフリード・バグアーを討ち滅ぼせぇー!!」

 

「――――揺れる揺れる世界の理 巨人の鉄槌 竜王の咆哮」

 

 ……かつてフリードは、魔人族が何物にも脅かされない未来を夢見て立ち上がった。長く続く人間族との戦争に終止符を打つべく神代魔法を求め、こうして二つの魔法を手にした。

 

「各員、魔法発動用意――放てぇー-!!!」

 

「万軍の足踏 いずれも世界を満たさない」

 

 だが、彼の夢は他でもない崇めていた魔人族の神によって穢された。今自分の目の前にいるのはかつての自分の同僚や仲間であった者達の姿。説得することもなく、ただ容赦なく自分達を殺しにかかるということはそういうことなのだろう。フリードの目から一筋の光が伝った。

 

「鳴動を喚び 悲鳴を齎すは ただ神の溜息! それは神の嘆き!」

 

「グルゥアアアァアァ!!」

 

 攻撃は全てウラノスに任せている。ギガースイーグルの攻撃は羽ばたきか鋭いかぎ爪を持つ足による一撃のみ。灰竜のブレスにさえ気を付ければどうとでもなるし、それをウラノスが出来ないはずが無い。だからフリードは相棒の作ってくれた時間を無駄にしないためにただ詠唱に集中する。

 

「汝 絶望と共に砕かれよ!――“震天”!」

 

 そして万感の思いを込めながら空間魔法を放つ。周囲一帯の空間が軋み、腹の底にまで低音が響く。炎の礫や氷の刃が幾つもこちらに向かってくるのをフリードは確認すると共にそれが二度と届かないとただ思う――刹那、空間が砕けたかのような爆音と共にあらゆる物が爆ぜていく。魔法も、魔物も、人も、何もかもが一気に欠片すら残さず消え去った。周辺の雲すら消し飛ばして何もない空を見ながら彼はつぶやく。

 

「……さらばだ。ケネス、ライオット、メイシー、ネイル。いつかお前達の恨みを一身に受けよう――あれは!」

 

 同胞を失った悲しみとこうするしかなかったことへの苦しみに耐えようと奥歯を噛みしめるフリードであったが、あるものを見つけると同時にすぐに恵里達へと“念話”を飛ばす。

 

“神の使徒だ! 奴が街や城の方へと向かったぞ!!”

 

“わかってます! 皆、すぐに作戦会議だ!!”

 

“あぁもう……まだ終わりじゃなかったっての!?”

 

 恵里達もフリードと同様に神の使徒が神山や王国の方へと向かうのを見ており、本命はこっちだったのかと全員が悔しさを噛みしめていた。

 

“班分けはどうする! 早く追いかけねぇと不味いことになるぞ!!”

 

“ならボク達が向かうよ!! これから市街地に突っ込むことを考えると直接戦闘よりも搦め手が使えるほうがきっとマシだろうし!!”

 

“僕も恵里と一緒に行く! 鈴、お願い!”

 

“うん! 鈴も二人と一緒に行くよ!! 他の皆は――”

 

“俺は残る! 雫と鷲三さん、霧乃さんといればここの皆の拘束はどうにかなるはずだ!”

 

“俺はハジメ達と一緒に行く! 礼一、信治、良樹達はどうする!?”

 

“俺達も行くつもりだ! とりまフリードが城の方にも行った、って言ってるしそっちに直接向かう!!”

 

“俺も行くぜ! 浩介はハジメ達の方についてってくれ!!”

 

“先生のフォロー頼むぞ浩介!”

 

“あぁ!!”

 

 話し合う時間すら惜しく、とにかく行きたい人間の早い者勝ちという感じとなったが、それで構わないと誰もが判断し、すぐさままとまって行動に移る。

 

“とりあえずキャンピングカーを借りるからね!!”

 

“持ってけ!! 後は頼んだぞ!!”

 

 時間の余裕が無いためぶっきらぼうな言い方になってしまったが、すぐに恵里達はキャンピングカーへと乗り込み、全員が入るのを確認すると同時に運転席に座った恵里は魔力を車に流し込んでいく。

 

「皆、しっかり掴まっててよ。一気に飛ばすからね!!」

 

 そして出せる最大の速度で恵里はハイリヒ王国へと続く門へと突き進む。手遅れになる前に間に合うように、とただ願いながら。




皆様、食前酒はお楽しみいただけましたか? 次が『本番』となります……ちょっと『調整』した分、肩透かしにならんよう気を付けますね(言い訳)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。