つまり作者が『本気』を出した話になります……それが読者の皆様に届くどうかはともかくとして、覚悟は出来てますか?
ついでに言えば読まなくても別に問題ない箇所です。それでも見たくてこれを覗いたんですよね?
それではどうぞ(亀裂のような笑み)
「聞きなさい。我らが信徒達よ」
――それは天の彼方より現れた。銀の髪をたなびかせ、銀の翼をはためかせて。
「ウルの街を荒らした反逆者のみが敵ではありません。真の敵はあなた方の想像しえない場所に巣食っていたのです」
それはオルクス大迷宮のために設けられた街に。
「エヒト様は仰せになられました。真なる“反逆者”は我が声を聞きながらも魔人族に屈し、奴らに与しようとしていた教皇一派、そしてそれに付き従っていた王族どもであると」
街道沿いにある小さな街に。
「そしていずれ異界から現れるであろう魔人族の手先を“神の使徒”と呼ぶことも画策し、彼らをもてなして力を蓄えさせていたのです」
農業が盛んな湖畔の街に。
「皆様がお怒りになられるのは理解できます。ですからどうか、その正しき怒りを燃やし続けて下さい。そして皆様を騙した者達を討つために立ち上がるのです。真なる信仰を取り戻すために」
大陸一の商業都市に。
「
そして砂漠の中にある国と三百年前に傭兵が興した国にも、トータス各地へと降り立っていた。
「そんな馬鹿な……」
「お、俺たちはそんな奴らのために汗水垂らして税を納めてたってのか……!」
嘆く者がいた。自分達のやったこと、信じていたものを裏切られたことへの悲しみが彼らを満たしていた。
「し、信じないぞ! く、国は俺達のために兵を派遣して魔人族から守ってくれたんだ!」
「そうだそうだ! エヒト様が降りてきたと思ってビックリしたけど、テキトーなこと言わないでくれ!」
疑う者もいた。国や教会がやってくれたことが助けてくれたから、自分達が信じていたことが正しかったと思い込みたかったからと理由は様々だったが声を上げる者もいた。
「許さない……ふざけんなよクソッ!!」
「私達がどれだけ苦労して税を納めたと思って……この裏切者!!」
怒る者もいた。自分達が生きた遥か昔より続く因縁に屈したことに、生活が苦しくなってもこれが自分達のためになると願っていたことを無碍にされたと彼らは憤怒の炎を燃やしていた。
「ホント、なのか……」
「噓でしょ……じゃあ、じゃあ誰を信じろっていうのよ……」
だが多くは戸惑っていた。本当にそうなのか確かめる手段もなく、けれども天より現れた人ならざる存在に告げられたことから疑うことも出来なかったがために迷った者が最も多かったのである。
「エヒト様を、エヒト様の使徒たる私を信じなさい」
故に神の使いは聴衆の目を見る。
「立ち上がるべきなのです。これも全てはエヒト様のため」
迷う者、疑う者へと
「あなた方を慈しむ尊ぶべき存在の願いを、信を裏切ってはなりません」
自らの主たる絶対的な存在の望むままに。深く、深く『意志』を宿していく。
「これもエヒトさまのため……エヒトさまばんざい」
「わたしのしめい……はんぎゃくしゃをたおすたおすたおたおたおたおたおすすすすす……」
迷う者達は『使命』を与えられ、それを疑わずに
「国はわたしたちをたすけ……たすけた? たすけたすけうら、うらうらうらうらぎったたたた……」
「まじんぞくをたすけるため?……そう、そうそうそうそうただしいただしいしとさまはまちがってないまちがってないただしいただしい」
疑う者も与えられた使命を
「ころせ……殺せぇ!! 反逆者を皆殺しにするんだ!!」
「エヒト様万歳!! 反逆者に死を!! 人間族の裏切り者に神の鉄槌を!!」
怒りに震える者も
「では信徒達よ、戦いなさい。全てはエヒト様のために。信仰を取り戻すために」
天の使いは全ての人間に『決意』をさせた訳ではない。ほんの少し
「では私はこれにて主の御下へと戻ります――エヒト様のご加護があらんことを」
そう伝えると共に戦乙女は天へと戻る――狂気に蝕まれた衆愚の咆哮を聞きながら。一団となった暴徒が暴れる様を見ることなくただ空を仰いで。
「よくも……よくも私の体を汚してくれたなぁっ!!」
神の使徒『であった』玉井淳史の世話をし、契りを結んだメイドであるミア・カルムは激昂していた。無論、この世ならざる美貌の乙女から『世界の真実』を聞かされたためだ。
家の命運を賭けて自身の純潔を捧げた相手は実は魔人族の手先であり、自分は知らずにそれに加担したことを知った。聞いた直後はまさかとは思ったものの、宗教画に描かれたエヒト様の御姿に負けず劣らずの美しさ故か何故か
「ふざけないでよ……あの男めぇぇえぇ!!!」
「あの女を抱かずに済んだのは幸運だったが……ああ吐き気がする!! あんな薄汚い輩如きに媚びを売っていた己がひたすらに恨めしい!!」
それは共に『真実』を聞いていた同僚もである。仁村明人の世話を任されたエリナ・ロベリアも、吉野真央の身の回りの世話をしていた執事のトム・アコーニーもまた怒りと嫌悪で体をかきむしっている。
正直な話、体を重ねる羽目に遭った面々はそうならずに済んだトムに加え、彼と同じ執事であり辻綾子の担当をしていたワイト・ホバローク、野村健太郎の担当をしていたメイドのショコラ・フリティラリアにも彼らは嫉妬と憎しみを抱いていた。だがそれを表立って向けることはしていない。『まだ』報復したい一番の相手への復讐は済んでいなかったからだ。
「あんな考えるだに悍ましい奴らは後で殺すとして――僕達もあちらに向かいませんか?」
そこでワイトはあることを提案する。それは神の使徒と名乗った存在に『説得』された他の兵士達と共に、自分達にこんな役割を
叶うことならば今すぐにでも自分が相手をしていた
「……行きましょう。このまま怒りを我慢しきれそうにありませんし、何より私達の手で正義を成すチャンスです。あの愚王の血は確実に絶やさなければ」
ショコラもそれに応じて先んじて兵士達の後を歩いていき、その後を他の奴らもついていく。
(許さない……絶対に許しはしない。必ず、必ず私の手で始末してみせる……永山重吾っ!!)
そんな彼らの中で一際怒りをにじませていたのはシーナであった。その手から血が滴る程に強く手を握りしめており、ひどく目が血走っている。彼女が永山に入れ込んでいたのは『神の使徒』という特別な存在であることはもちろんであったが、その中で特に尊い“勇者”という天職を持っていたことも挙げられる。
貴重な天職である分同僚達から羨ましがられ、彼らからの尊敬の眼差しをシーナは一身に受け続けていた。だがこうして永山の勝利を待っていた時にもたらされた真実は彼女の心をズタズタにする辛く苦しいものであった。あまり驕ることも無かったため、魔人族の手先らに騙されてたと同情や哀れみの視線を向けられるだけで済んだものの、それがひどく彼女のプライドを傷つけたのである。
(もうこの体が穢れた以上、手ぶらで家に戻ることは出来ない……! せめて、せめて私達の手でエリヒドを葬り、魔人族の手先の首も持って帰らなければ! そうでなければ父様にも母様にも顔向け出来ない!)
そして彼女が最も恐れたのは自分の実家がどう動くかということだ。これは他の神の使徒の世話をしていた人間全員に言えることなのだが、全員もれなく自分の家の繁栄のために動いている。自分達が世話をしていたのは魔人族の手先であることは
(待っていろ人間の屑め……)
(僕達を裏切った罪、絶対に贖わせてやる……!)
(恥知らずの死体からどれを持ち帰ればいいアピールになりますかね……あぁ、早く殺さなければ!!)
だから全てが知られてしまう前に成果を上げ、家に捨てられないよう取り計らう。言われずともシーナ達の意志は一つとなっていた。
「とりあえず近くに調理場があります。護身用の武器がないならそこで手ごろな武器を持って行くとしましょう」
「……こんな時ほど自決用のナイフが嬉しかったことなんて無かったわ」
トムの言葉に何人かがうなずき、すぐさま彼らは調理場へと向かっていく――彼らが血と狂気に全てを染めるのも秒読みの段階に入っていた。
「――全員揃ったな。これより緊急会議を始める」
ヘルシャー帝国の議場にて、急遽側近のベスタに指示を出して大臣を招集した皇帝のガハルド・D・ヘルシャーはすぐさま会議の開始を告げる。
「“神の使徒”から話を伺わなかった者はいるでしょうか」
「いる訳がねぇだろうがベスタ。とっとと始めろ」
無論、今回の議題に挙がったのは例の神の使徒からもたらされた真実、そしてこれからヘルシャー帝国がどう動くかについて取り決めようというものだ。幸いにもこの話は直接、人伝を問わず知っている様子であったため、皇太子であるバイアスの指摘通り誰もがそれにうなずいて返す。本来ならガハルド辺りが諫めるのだろうが今はそうする時間すら皆惜しく感じ、すぐさま会議が始まるのであった。
「お前らも知っての通り、ハイリヒ王国の上の奴らも反逆者という事をあの女は言っていた……フィリオ支部長」
本来ならばこの場に出席することなどまず有り得ないのだが、この場に来ていたヘルシャー帝国首都の冒険者ギルド支部長であるフィリオ・セントスが、既にガハルドに伝えたある重大な事実を打ち明ける。
「ええ……先程、私自らが出向いて皇帝陛下に伝えたのですが、他の街でも同じようなことが起きております」
そのことに議場は軽くざわめくものの、それが本当に言いたかったことではないとこの場にいた多くが気づいており、彼らはフィリオの次の言葉を待っていた。
「デマでないとするならば、既に『何か』が起きている筈です。そうですわよね支部長様?」
「無論ですトレイシー様。各街のギルドからの通信の様子、一部は領主自ら出向いてもいます。それは――」
そして続く言葉に誰もが言葉を失い――そして破顔する。欲の深い、狩人の目つきを多くが浮かべていた。
「そういう訳だ。お前ら、俺はこの機会を逃す気はない。ヘルシャーが出る意味も大義名分も十分存在する――盗るぞ。このトータス全土をな!!」
それは現皇帝であるガハルドもまた例外でなく。この議場にいたほとんどの人間が彼の言葉に従い、鬨の声を上げる。これ以上ないヘルシャーの版図拡大の機会を目の前にして。
(……妙ですわね)
……それを疑問に思ったトレイシーら数人を除いて。
(あまりにタイミングが、都合が良すぎる。確かにこのタイミング以上にいい機会など存在しないでしょう。ですが――)
そう考えながらトレイシーは議場の机に広がった世界地図に目を通していく。視線はすぐにヘルシャーから離れ、ハイリヒ王国周辺の諸侯の領地、最後に王都へと向かう。
(何故、どの王国の領地も
不自然な世界の動きにただ、得体のしれないものを感じながらも、この流れに抗う術を彼女は持っていなかった。
「燃やせ、燃やすんだ!!」
「反逆者の手にかかった作物はどこだー!!」
ウルの街に火の手が上がった。そしてそれをやったのはほとんどがこの地に住まう農夫である。
「やめろ! やめてくれー!!」
「あの女……よくも俺達の畑を駄目にしてくれたな!!」
狂乱した人々は自他問わず表に出した様々な作物を一か所に集めては燃やし、今度は自分達の畑まで火をつけていく。
「あぁ……備蓄してあった食料が……」
「あぁそうだよ! おかげで食料が全部パァだ!! あいつのせいで俺達は終わりだ! 冬を越せずに死んじまうんだ!!」
彼らがこんな愚かしい真似をしているのは神の使徒が去った後、ある農夫がつぶやいた一言が原因だった。『もしかしたら、教会が派遣してたあの女が俺達の畑に何かしたんじゃないか』と口にしてしまったことだ。
神の使徒によって
そうなれば抱いた憎しみが疑惑を生み出すのはあまりに容易で、話を聞いていた農夫全員は自分達の畑が彼女の手によって
「止めろー!! 火をつけるなー!!」
「止まれ止まれー!!」
だがもちろんそんな蛮行を誰もが黙認している訳ではなく、すぐに派遣された兵士や冒険者達が事態の収拾のために奔走していた。火災が起きる可能性を危惧して水属性の魔法が使える者達は優先的に消化を、風属性の魔法が使える人間は延焼を防ぐために風を吹かせて火の粉を可能な限り何もない場所へと送る。他はとにかく暴徒の鎮圧だ。
「そんなことをしなくても教会の人間に調査してもらえば済むことだろうが!!」
「その教会の人間が送ってきたのがあの女だろう! 信用なんて出来るか!!」
無論土地や作物の方に異変や汚染が起きてないかを調べることは教会の人間ならば可能だろう。だがそんな芸当が出来る人間が派遣されるまで相応の時間がかかるし、何より畑山愛子は教会を介して派遣されたのだ。上層部の
「いい加減止まれぇー!!」
「うるさい!! お前達が、お前達のせいで!!」
幸いまだ教会に火の手は上がっていないようだが窓ガラスやステンドグラスなどは割られており、怒り狂った農民達は今も教会に火をつけようと必死になって抵抗している。
「もう……もうお終いだ……」
「どうやって、どうすればいいんだ……」
何もこんなことが起きてたのはウルの街だけではない。畑山愛子が巡った場所の幾つかで似たような光景が繰り広げられていたのである。ある村では全ての作物が灰となり、畑に成った作物も全て農具でめちゃくちゃにされてたりと目を覆うような事態になっていた。
「クソッ、大損だ! 折角ウルの街から仕入れたばっかりだってのに!!」
「安全なのはアンカジだけか!……元手なんてもうねぇ、店をたたむしか……」
フューレンでもウルの街から仕入れられた作物が大量に郊外に破棄され、そして火をつけられて処分されている。目ざとい商人の一人がこっそりやったことがバレて波及し、今では取り扱っていた誰もがそれをやる。結果、崩れてぐちゃぐちゃになった作物が山のようにそびえることとなった。
「急ぎ手配せよ! とにかくウル産のものは廃棄! アンカジと伝手のある商人に連絡を取れ!! お触れを出すんだ!」
神の使徒と立ち会えた領主もまた、畑山愛子が行ってない
『愉快。実に愉快なものよ。よく我を愉しませてくれる』
かくしてトータス全土で混乱は続く。それを遥か上で眺める存在は、地獄と化した地上を見てただ笑みを深めるだけであった。
……いかがでしたでしょうか? 自分のお気に入りであり真に書きたかったところは最後の展開です(オリジナル笑顔)
皆様も感じませんか? 人間の可能性を――人はどこまでも愚かになれるってことをさぁ!!