あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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まずは拙作に目を通してくださった皆様に惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも144932、感想数も497件(2022/11/26 7:39現在)まで増えました。誠にありがとうございます。これもひとえに読者の皆様が拙作をひいきにして下るおかげです。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価していただき本当にありがとうございます。こうして何度も評価してくださって作者としても身に余る光栄です。重ねてお礼申し上げます。

今回二つの話を投稿させていただきました。一つは前の幕間で削った分に+αしたお話、そしてこちらの話です。ちなみに削った分は詳しい描写を出さないだけで後に触れることになるので別に読まなくても大丈夫です……聡明な読者の皆様はこれで作者が何を言いたいかがわかると思います(ニッコリ)

そしてこちらの方の注意点としてちょっと長め(約11000字)になっております。ではそれに注意して本編をどうぞ。


幕間三十七 皆が望んだ三流の喜劇

「俺は……間違ってたのか……」

 

「勝てるんじゃ……勝ち戦じゃなかったのかよ……」

 

「ありえない……神の使徒様がおられたんだぞ……反逆者ごときに何故……」

 

 体を岩の鎖で縛られ、その上香織の“廻聖”によって永山らを含む王国軍の人間はギリギリまで魔力を抜き取られたことでロクに抵抗出来なくなっていた。

 

「なんで、どうしてなんだよ……」

 

 多くがうつむいてブツブツと何かをつぶやく中、玉井を筆頭とした永山を除く彼のグループの六人は光輝達の方を見ながら恨みと悔しさのこもった眼差しを向けていた。

 

「玉井……」

 

「どうして必死になって頑張って来た俺達が負けて、裏切ったお前達が勝つんだよ!!」

 

 その嘆きに光輝はどう返せばいいのかわからず、ただ黙るばかり。先程戦った感じからして彼らも相応の修練を積んでいるというのはわかっていたものの、あの奈落を潜り抜けたことによる実力の差というものも彼は理解してしまっていたからだ。自分達は彼等とは一線を画す程の力を得てしまっているのだと。そんな自分がどんな言葉をかければ玉井達の心を慰められるかもわからなかったからだ。

 

「そうだ! やりたくもない訓練して、人も殺して、それでも俺達はずっと頑張ってきたんだぞ!! 苦しくても耐えてきたんだぞ!!」

 

「仁村君……」

 

「ホントおかしいだろ! だったら、だったら……今までの俺達のやったことは何だったんだよ!!」

 

「相川、お前……」

 

 玉井が不満を吐き出すとすぐに仁村と相川も溜め込んでいた感情を爆発させる。望まぬ環境に身を置き続け、それでも足掻いてたのだということが彼らの口から理解できた。そんな様子を雫も悲しく思うものの、幸利の方は『こっちだって死にもの狂いで奈落突破してんだよ。ナメんな』と感じており、それを表情に出していた。

 

「そうよ……なんで白崎達なんかに負けるのよ!! 仲良しこよしで楽しそうにしてるあなた達なんかに、なんで、なんで!!」

 

「辻さん……わ、私達もその……」

 

 そして爆発したのは先の三人だけではない。辻もまた恨みがましい目をこちらに向け、涙をボロボロと流しながら心の中に堆積していた恐怖と敵意、そして理不尽への怒りを吐き出していく。

 

「努力してました、苦労してました、って言うつもり? ふざけないで!!……大して強くも無かった南雲が生きてたんだし、どうせオルクス大迷宮の下なんて楽なところだったんでしょ! そうじゃなきゃ意味わかんない!!」

 

 吉野もまた怒りと恨み、悔しさと恐怖の入り混じった叫び声を上げ、やり場のない感情をただただ香織達にぶつけてくる。

 

「ち、違うよ! 私達だってあそこでかなり苦労して――」

 

「うるさいっ!!……私達が、私達が行けば良かったんだ。あなた達なんかでも大丈夫だったんだから、きっと私達ならもっと楽に、野村くん達と一緒だったら絶対簡単に――」

 

「そんなことない! あそこで私達本当に死にかけて――」

 

「ウソついてんじゃねぇ!! だったらどうして皆生きてんだよ! 誰一人怪我もしてないのにそんなウソつくなんて最低だな!!」

 

 香織は必死に弁解しようとするものの、辻も野村もそんなことなんて聞きたくないと拒絶を露わにして怒りと恨みをぶつけるばかり。玉井達もさっきからずっと光輝達に怒り続けており、何も反論してこないことからただただ自分達はこんなに苦しんだんだと訴えている。

 

「おい吉野、野村テメェ!……あぁ、ったく。香織、もういい。ほっとけ。コイツらは一度頭を冷やさないとどうにもならねぇ」

 

「でも、でも龍太郎くん!」

 

「熱くなってんじゃ何言ったって無駄だろ……俺だって、そうだったからよ」

 

 親友達が悪し様に言われるのを我慢できずに龍太郎にすがりついた香織であったが、その彼の言葉で香織もあることを思い出す。小学生の頃に龍太郎が光輝とケンカをしてそのまま絶交しそうになったあの事件をだ。

 

 その時のことを思い出したからこそ踏みとどまったことを理解し、香織もまた唇をキュッと嚙みながら我慢する。

 

「ま、待て健太郎! 皆も……」

 

「永山君は黙っててよ! これもそれも白崎や天之河が悪いんだから!!」

 

「テメェら、ホントいい加減に――」

 

「ふざけるな貴様ら! それでも神の使徒か!!」

 

 永山が好き勝手言う彼らを止めようとしても逆に反論し、どれだけ自分達が憎いのかと幸利がキレそうになり、愛子も何かを言おうとしたその瞬間であった。いきなり兵士の一人が永山達に怒りをぶつけてきたのである。

 

「えっ……」

 

「な、なんで……?」

 

 一緒に戦ってくれた兵士達は自分達の味方だと信じていたため、相川も吉野も信じられないようなものを見る目つきで兵士達の方を見る。だが誰もが永山達を仇を見るような目で見つめるばかりであった。

 

「さっきから黙って聞いていれば何を軟弱な……お前らはエヒト様から遣わされた存在だろう! だったら役目を果たせ!! 反逆者を殺せ!! その程度のことすら出来ないのかこの役立たずが!!」

 

「冗談じゃない……! この僕に、ランク“金”である“閃刃”のアベルの経歴に泥を塗ってくれたな!! 今すぐにでもお前らを殺してやる!! 絶対に、絶対に許さないからな!!」

 

「エヒト様が遣わした存在がこのような無様を、このような失態をなさるはずがない! 貴様らは偽物だ!! エヒト様の威光を傷つけるまがい物の存在だ!! 死ね!! 今すぐ死んで詫びろ!!」

 

 兵士が、冒険者が、神殿騎士が、誰もが口々に勝手なことをのたまい、自分は悪くない、お前が悪いとひたすらに糾弾していく。信じていた相手に裏切られ、共に過ごしていた彼らに切り捨てられた永山達はただ落涙し、一層心に深い傷を負っていく。

 

「どう、して……」

 

「どうしても何もあるか! この穀潰しが!! 」

 

「ちが……違う! 俺達頑張ってたじゃんか! それを皆褒めてくれて――」

 

「嘘を言うな!……貴様ら、エヒト様の使徒という立場を利用して甘い汁をすすってたのだろう。そのために手も抜いていた。そうに違いない!! そうでないはずがない!!」

 

 必死になって国のため、世界のために頑張っていたと主張しても兵士達は聞く耳を持ちはしない。ただただ自分達が負けた理由を光輝達だけでなく永山達にも求め、ここぞとばかりにその責任をなすりつけようとする。

 

「いい加減にするんだ!! どうして味方の貴方達が永山達を否定するんだ! 答えろ!!」

 

「黙れ反逆者!! お前達が裏切ったからこうなったのだ!! そのせいでコイツらもとんだ腑抜けになったに違いない!! お前らが悪い! お前らが世界の悪なんだ!!」

 

 味方であったはずの相手から悪口雑言をぶつけられ、泣きながら否定する永山達を見て光輝達はいたたまれない気持ちになり、持ち前の正義感から光輝は兵士の一人に食ってかかったが、その兵士も支離滅裂なことを言って自分達は悪くないとばかりに自己擁護するばかりであった。

 

「やめて……やめてよ!! したくもないこといっぱいやってたのに! なんでそんなこと言われないといけないの!?」

 

「こんな考えを持ってたなんてな……心底失望させてくれる。今すぐ、今すぐお前達のために費やした金も時間も返せ!! この寄生虫――」

 

「黙りなさいっ!!!」

 

 彼らが何を言おうともただただお前が悪いと返す兵士達であったが、愛子の一喝と共に一部が姿を消す。先の戦いで魔晶石にストックしていた分も消費していた魔力を自らの身を削って用意し、それで作った落とし穴に落としたせいである。荒い息を吐き、四つん這いになりながらも愛子は落ちた兵士達に向けて声を張り上げた。

 

「頑張ったこの子達に、どうしてそんな仕打ちが出来るんですか!! 答えなさい!!」

 

 憎しみのこもった、世界を呪うような眼差しを受けて兵士達は軽く委縮したものの、彼らは口から唾を飛ばしながらも愛子を口汚く罵っていく。

 

「だ、黙れ神敵が! 豊穣の女神だなんだともてはやされておいて、反逆者に加担するとはどこまで浅ましいのだ!!」

 

「私はこの子達の味方であって、あなた達の味方でも都合のいい道具でもありません!! むしろあなた達が私を政争の道具に利用しようとしてたでしょう!!」

 

「どんな理由を並べ立てたところでお前もエヒト様の敵だ! 必ずエヒト様から神罰が下るぞ! 体を震わせて待っているんだな!」

 

「だったら今すぐエヒトに祈って神罰でも何でも落としてもらったらどうです! そんなに罰するのがお好みなら、今すぐ私が引導を渡して――」

 

「やめなさい愛子さん!」

 

「落ち着いて! 落ち着いてください!」

 

 好き勝手言う彼らに反論を続けていた愛子だが、言葉ではもう止まらないと確信し、永山や光輝達のためにもこいつらを()()()()()()()()と技能を使って生き埋めにしようとする。だが、すぐに鷲三と霧乃に妨害されてそれは叶わなかった。

 

「はな、して! 離してください!! この人達は、こんな人達は生きてちゃいけないんです! だから私が、私が!!」

 

「それが大人のやることではないだろう!」

 

「あなたのやらなければいけないことは理解し合えない大人を殺すことでなく、傷ついた子供達に寄り添うことでしょう!!」

 

 ほとんど力が入っていないながらも駄々をこねる愛子に二人は必死に呼びかける。本当に必要なのは憂さ晴らしではない。今あそこで傷ついた彼等に手を伸ばすことだと伝えれば、愛子もそれに気づいてすさまじい後悔の念に駆られて涙を流す。

 

「わたし、は……わたしは……」

 

「ここはわし達に任せなさい。だから、あの子達を頼みます」

 

「ええ、お願いします。先生であったあなたしか出来ないんです」

 

「……はい」

 

 こんなところで折れてはいけない、と奮い立たせて愛子は今一度永山の方を向いて声をかける。彼らに思いが届くようにとただ願いながら。

 

「……もう、やめましょう。もうクラスメイト同士で争いなんてしなくていいんです」

 

「……でも、だけど!」

 

「じゃあどうしろって言うの! 頭下げて許しを請えって!? 嫌よそんなの!!」

 

「愛ちゃんはどんな思いで俺達が戦ってたのかもわかんないからそんなことを言えるんだ!」

 

「……そう、だな。俺達が、間違ってた」

 

 けれども現実はあまりに冷たく、何を言っても彼らの心が変わる様子は無い。こうなったらひっぱたいてでも正気に戻すべきかと愛子が考えたその時、今までだんまりであった永山が不意につぶやいたことで全員の意識がそちらに向かう。

 

「じゅ、重吾……? お、お前何言ってんだよ!」

 

「そうだよ! 何抜かしてんだよ永山! 俺達は悪くなんか――」

 

「よせっ!……天之河、ひとついいか?」

 

 今度は自分達がリーダーとして仰いでいた彼が裏切ったかのようなことを言ってきたため余計に野村達はパニックを起こす。だが永山は彼らに構うことなく光輝に声をかけ、光輝もまたそれにうなずいて返した。

 

「……お前達の実力なら、きっと俺達を余裕で殺せたんだろう。違うか……?」

 

「それ、は……出来ない。俺達は、皆を殺すために来たわけじゃないから」

 

「ハッ! やっぱり出来ないんじゃないか! やっぱりお前達が勝ったのだってただのまぐれ――」

 

「健太郎!!……つまり、殺すこと自体は出来るんだろう?……一度も“天翔閃”も“神威”も使わなかったからな」

 

 人もクラスメイトも殺したくない、とその意を明らかにすると野村らは言葉尻を捕らえて彼らを馬鹿にするも、永山の言葉に一瞬で血の気が引いていく。そう。彼らは光輝の攻撃に使う技能を知っているし、実際に訓練で見たこともあった。なのにどうして使わなかったのかと疑問も浮かんだが、『切り札なんてそうそう何度も使えない』、『味方を巻き込みかねなかったからやらなかった』と適当に理屈をつけて納得しようとしていた。

 

「……空撃ちは出来るだろうか」

 

「それで納得できるなら……“神威”」

 

 虚空へ向けてノータイムで三度放たれた赤色の光。魔物を食べたことで変色したのとステータスが上昇したことで一層強くなったことを除けば健在のそれを見て野村達だけでなく、鷲三らに分解の羽を周囲に落とされて脅されていた兵士達もまた絶句する。彼らが殺す気なら自分達は消し炭すら残さず消えていた。それを真に理解したからだ。

 

「……悪いけれど、まだ二発は撃てる。それぐらいの余裕はある」

 

「だ、そうだ……俺達は、生かされたんだ。他でもない天之河達に。だから抵抗するな」

 

 静かにそう告げる永山にもう誰も反論する気力も起きず、ただただ絶望を噛みしめるだけであった。最初から勝負にすらならなかったのだ。本気だったら先の“神威”を一発撃つだけで一割近くが消えてただろう。それを何度も繰り返せばどれだけ士気が高くとも戦意を喪失して誰もが逃げ回るのも想像が出来たからである。

 

「永山、俺は――」

 

「それと天之河。頼む……俺の首一つで、皆を許してくれ。俺についてきてくれた野村達も、兵士の皆もだ」

 

 そして光輝は永山に手を差し伸べようとした時、彼の述べた言葉で幸利達も言葉を失ってしまう。死ぬ気だった。死んで皆を助けようとしてたからだ。

 

「な、永山! 俺はそんなつもりなんてない! 俺が皆を説得して、一緒に行こうと思って――」

 

「……それは、お前達を殺そうとした奴が相手でもか?」

 

「それ、は……」

 

 それでもと光輝は手を差し伸べようとするが、永山は乾いた笑みを浮かべながらそう返したことで何も言えなくなってしまう。彼とてわかっていたのだ。人を殺すことの重さが。それを正当化したことがあったとしても、こうして彼らに殺意を向けたことが無かったことにはならないと理解していたから。

 

「健太郎達は俺のせいでこんなことをしなければならなくなった……だから、頼む。アイツらだけは、アイツらだけは……帰してやってくれ。家族の、下に」

 

 震えながら光輝に頼み込む少年の姿を見て野村達も遂に正気に戻る。リーダーとしての責任を取るつもりだと。自身が犠牲になってでも自分達を地球へと帰そうとプライドも何も投げ捨てたのだと。

 

「や、やめろ……やめろ重吾! お、俺も悪かった! 謝る! 何度だって謝るから!! だから頼む! 重吾を殺さないでくれ!!」

 

「お、俺も頼む!! リーダーは、永山は俺達のために頑張ってくれてただけなんだ! だから殺すな! 殺さないでくれよ!!」

 

「そ、そうだそうだ! アイツだけが悪いんじゃねぇ!! お、俺達も……俺達だって同罪だよ!」

 

「永山は俺達の代わりに色々頑張ってくれただけなんだよ! だから殺すな! やってほしいことがあるならなんだってするから!! だから!!」

 

「お願い! どうか永山君を助けて!! 彼は、彼は何も悪くないの!!」

 

「やれっていうならなんだってやるから! 何度でも謝るし、どんなお願いだって聞くから! だから永山君にひどいことをしないで!!」

 

 だからこそ野村達も必死になって頭を下げる。こうして自分達を率いてくれた頼もしい彼を自分達のせいで失いたくない。その一心でただただ訴え続ける。光輝達は互いに顔を見合わせると、すぐに彼らを岩の鎖から解放していく。

 

「な、なぁ、もしかして……」

 

「もしかしても何もないよ。俺達は殺そうとなんて最初から思ってなんていなかったから」

 

 その言葉を聞いて野村達は心の底から安堵する。永山は死なずに済む。ただそれだけのことに。

 

「でも無罪放免、って訳にもいかないだろ。光輝」

 

「幸利の言う通りだ。ハジメや鈴ならともかく、恵里の奴が特に嫌がるだろうしな」

 

 しかしこのまま何もしない、という訳にもいかないだろうと幸利と龍太郎が述べると永山らの表情は少し強張る。当然だ。自分達は彼らを殺そうとしたのだから。本来なら何をやられても文句を言えない立場だと理解したからこそ、どんな処分も受け入れるしかないと考えていた。

 

「……でしたら彼らは私が身柄を預かります。それでいいでしょうか?」

 

「その、私はいいけど……恵里や檜山君達が納得するかしら?」

 

「させます。私を含めてどれだけ粗雑に扱っても構わない代わりに確約してくれれば」

 

 その時愛子が挙手して自分が預かる旨を伝える。雫もやはり恵里のことや、この場にいない大介らのことも危惧したが、それでもと愛子は粘った。もう教師と名乗れないような失敗を繰り返した自分でも、彼らを親元に連れていくことは果たさねばならないという決意を露わにしながら。

 

「それともう一つ」

 

 愛子がそう言うと、彼女は永山の頬をぺちんと力無く叩き、荒い息を吐きながら永山グループの皆を見やる。

 

「これは、あなた達への罰です。どんな理由であれ、クラスメイトを殺そうとしたことの報いです……もし今後またやるというのなら、私が命を張ってでも、暴力を振るってでもあなた達を止めます。絶対に」

 

 覚悟の定まった彼女の言葉に重吾達は真剣な表情でうなずいて返す。もう自分達も間違えない、と。暴力を振るうことをよしとしなかったはずの彼女にこんな真似を、こんなことを言わせたことを悔いながら。絶対に繰り返さないと誓って。遂に地球から来た子供達の絆は修復され、結ばれることになったのであった。

 

 

 

 

 

「皆さん、どうか落ち着いてください」

 

 一方その頃。城下町に降り立った使徒を仕留めた後、話し合いをした恵里達。そして話し合いを終え、何の目的かは不明なものの、奴が話をしていた住民の前へと鈴は出ていき、精一杯平静を装いながら声をかけた。

 

「ハッ……お、お前反逆者か! し、使徒様はどうした!」

 

「そ、そうだそうだ!! 使徒様を返せ!!」

 

「くたばれ。“限界突破”アンド“静心”」

 

 当然鈴の方にヤジが飛ぶがその直後、恵里が“限界突破”を使いながら全力の“静心”をその場にいる全員にひたすら叩き込んでいく。住民の心が一挙に沈静化されると同時に、鈴は恵里からの“念話”のカンニングを受けながらセリフを吐いていく。

 

「えっと……神の使徒様は天上の世界に帰られました。私はその代弁者としてここに残ってい……おります」

 

「そ、そんな……」

 

「嘘だ……どうして」

 

「使徒様が……なぜ……」

 

 精神を一度極限までフラットにされたせいかすぐさま激情を露わにするということは無かったものの、それでも困惑する様子が見え隠れしている。そこで鈴は恵里から伝えられた言葉を心底嫌がりながらも口にしていく。

 

「使徒様は仰せになられました。その罪を償う意志を示すのならば汝を許そうと。寛大な心を持つエヒト様もまた、私達が贖う意志を見せるのならば水に流そうと。私達、罪深い反逆者を生かしてくださると仰せになられたのです」

 

「お、おぉ……」

 

 恵里が思いついたのは『自分達はエヒトから許しを得て、これまでの行いを悔い改めて生きることになった』という大嘘を吐くことである。そうすることでこの場を切り抜けようと画策したのだ。

 

「う、嘘を言うな! お前達は魔人族の手先だと使徒様が――」

 

「えいっ“呆散”」

 

 しかし既に神の使徒がやってたことが実を結んでいた様子であり、自分達はいつの間にか『魔人族の手先』という扱いになっていたようだ。そこで即座に恵里が“静心”の元になった魔法である“呆散”を発動し、広場にいた鈴以外の全員の意識をぼんやりとさせていく。

 

「しと、さま……?」

 

“はい鈴とっととまくし立てる! しばらくはこっちでどうにかするから!!”

 

「やってることが悪の秘密結社だよぉ……コホン。皆さん聞いてください! 確かに私達は魔人族の手先としてこの世界に来てしまいました。ですがこうして自分達の罪を認め、悔い改めたいと神の使徒様に懺悔しました!!」

 

 意識がぼんやりしたことで鈴の言葉もあまり疑うことなく耳を傾けるようになり、恵里に急かされるままに鈴は言われたセリフを必死になって口に出していく。

 

「私達が罪深いことは理解しています! ですがどうか! 今の私達は皆様のために力を使いたいのです! どうか、どうかお許しいただけますか!!」

 

 そしてカンペ通りに頭を直角に下げ、相手の出方を待つ……すると聴衆がぼそぼそと何かをつぶやき始め、鈴はそれを聴こうと必死に耳に意識を向ける。

 

「いいんじゃ、ないのか……?」

 

「たしかに……だめだったら使徒様が来られるだろ」

 

「そうね……使徒様がここにいないのがその証拠よね……嘘だったらエヒト様が天罰を下すでしょうし」

 

“よし、これならきっと大丈夫! ねぇ恵里、次は――”

 

「待て……」

 

 その言葉に鈴は成功を確信する。すぐさま“念話”で上手くいった旨を二人に伝えるも、ふと何人かがいきなり待ったをかけてきた。

 

「私達は使徒様から反逆者を……国王と教皇を討てと言われたのだ……」

 

「私達の使命は……奴らの始末……それを邪魔するというのなら……」

 

「えっ!?……あーいや、その、えーっと……」

 

 しかもかなりヤバいことを抜かしながら。恵里の“呆散”を食らってもこうしてしっかりと話してくる辺りどう考えても普通ではない。未だ鋭い眼光や言葉遣いからして神の使徒に洗脳されたことは見て取れるのだがそれを解決出来るのは自分でなく恵里なのだ。

 

“恵里どうすんの!? そこから洗脳解除出来る!?”

 

“無理無理無理!! ちょっと遠すぎる!……あーもう厄介なことしてくれちゃって。ちょっと待ってて!”

 

“はい恵里これ使って! まだ予備があって助かった!”

 

 どうしようどうしようとすぐに“念話”を送れば、頭をかいて荒れている様子の恵里が鈴にも幻視出来た。すると洗脳された住民の言葉に同意している聴衆のつぶやきに混じってシャーっと何かが滑る音が鈴の耳に入ってくる。

 

“はい鈴受け取って! これで洗脳とっと解除!”

 

“ありがと恵里! よし、頑張る!!”

 

 かかとに軽い何かが当たったのを感じると、すぐさま鈴は“光絶”を下敷きにして浮かせ、ミルフィーユのように重ね上げて手元まで持ってくる。愛しのハジメが作ってくれた洗脳解除用の指輪型アーティファクトことエアヴァクセンであった。すぐさまそれを左の薬指に通し、魔力を注ぎ込んで起動していく。

 

「これから向かおう……俺達で国王と教皇を倒そう……」

 

「そうだ……私達で世界を正すんだ……」

 

「え、えーと、大丈夫です! そんなことしなくてもいいから!!」

 

 このまま放置して置いたら絶対に収拾がつかなくなるから時間はかけてられない。ハジメが作ってくれたものだから悪影響が出ないことを信じ、鈴は最大出力で洗脳の解除を行っていく。かけられた洗脳もまだ浅かったのか、発動して十秒足らずでおかしな言動をしていた人間がバタバタと倒れていく。

 

「だ、大丈夫ですかー!! し、しっかりしてー!!」

 

 もちろんこうなった原因は自分だとわかっていながらも鈴はすぐさま倒れた人間を介抱していく。頭を打ったことも考えて“天恵”を連続行使し、気を失っている彼らが起きることを願いながら何度も言葉をかけていく。

 

「あれ? おれは……」

 

「目を覚ましたんですね。良かったぁ……」

 

 横たわらせていた一人が目を覚まし、思わず鈴も安堵のため息を吐く。そして他の倒れた人間も目を覚ましたところで自分を遠巻きに見ていた住民の一人が問いかけてくる。

 

「なんとお優しい……あの、すいません。確かにこの人達が言ったように使徒様は俺達を騙した国王と教皇も討てとおっしゃったんですが……」

 

“あーそうだった! どうすんの恵里! ハジメくんも!! なんかいい方法ない!? このままだと絶対マズいよぉ!!”

 

“ホントもうエヒトのクソ野郎!! あー、クソッ……考えろ考えろー……何か、何かないか……”

 

“ヤバいよそれ!! えーとえーと……そうだ二人とも! これだったらどう!?”

 

 洗脳自体は解いたものの、まだ『国のトップもぶっ殺せ』とあの神の使徒が命じてたことは解決していない。どうしたものかと三人はパニックを起こすものの、ふとハジメの頭脳にあることが閃き、それを皆に伝えるよう鈴に言う。

 

「え、えっとその……た、確かに討てと使徒様は仰いました。ですがそれは悪しき意志です! 何も命を奪えと仰った訳ではありません!! 良からぬ心を捨てぬというのならばまだしも、そこまでやれとは仰ってません!!」

 

「で、ですが……」

 

「だとしたら私はどうなるのですか! かつてエヒト様に、皆様に害を加えようとした罪深い私達は許されて、国王陛下や教皇様は許されないというのは筋が通らないじゃあないですか!!」

 

 いっぱいいっぱいになりながらも鈴は必死になって、ハジメから伝えられた言葉を一言一句変えることなく町の住民に聞かせていく。すると誰も彼もハッとした顔つきになり、ざわめきだした。

 

「そ、そうだ……確かにそうじゃないか」

 

「神の使徒様が仰ったのはそういうことか……俺達はなんて恥ずかしい間違いを!」

 

 どうやらとっさに思いついた適当な言い訳は功を奏したらしく、誰も彼もその言葉を信じて考えを改めてくれたようである。

 

“も、もう無理……もう限界……”

 

“お、お疲れ恵里。あとは鈴とハジメくんでどうにかするから”

 

“うん。後は僕達に任せて”

 

 と、ここで恵里が遂に根を上げた。さっきから魔晶石の魔力も使って発動し続けていた“呆散”の維持も流石にしんどくなったらしく、それだけを伝えてすぐに恵里は“念話”を切った。するとハジメも自分がどうにかするよと言ってくれたことで鈴も心強く感じ、今度はどう出ようかと新たに意気込んだところであった。

 

「ありがとう……俺達は取り返しのつかない過ちを犯すところでした」

 

「ありがとうございます……慈悲深きエヒト様はここまで寛大な心を示して下さるのですね。ありがとうございます」

 

「え、えっと……はい」

 

「俺達は倒れた人を助けようと考えられなかったってのに……やっぱり変わったんだ。この方は生まれ変わったんだ!」

 

“あ、あれ~……な、なんか鈴やっちゃった?”

 

“え、何やったの? 僕だってエアヴァクセンにこんな効果搭載してないよ!?”

 

 ところが、なんだか住民が自分に向けてくる視線がちょっと変わってきたことに鈴は気づく。どこか熱っぽく、畏敬の念が混じっているような感じに。おかしい。何かやっちゃった? とハジメに“念話”を送れば彼も同様の意見を返してきた。まるで意味が解らない。

 

「こうしてエヒト様に許されて、我等をお救いくださった……聖人だ。この方は聖人となって我らの下に来てくださったのだ!!」

 

「えっ」

 

「そうか! そうなんですね!! なら向かいましょう聖女様! 間違った行いをした国王と教皇に悔い改めてもらうよう訴えに行こうではありませんか!」

 

「えっ!?」

 

「そうだそうだ!! 俺達を悔い改めさせてくれた聖女様の言葉ならあのお二人にだってきっと届くはずだ!! 行きましょう行きましょう!!」

 

「えぇっ!?」

 

 そして事態は思いもよらない方向へと転がっていく。段々と熱気が沸いていき、いつの間にやらお祭りムードにまでなってしまった。無駄にテンションが上がった女性に手を引かれ、鈴は連れ去られてしまう。

 

「お前らー!! 皆で聖女様と一緒に王宮へ向かおう!!」

 

「乱心された国王と教皇の心を取り戻すんだー!!」

 

 しかも事情を呑み込めてない住民に勝手に吹聴し、一緒にエリヒド王とイシュタルに考えを改めてもらうよう訴えに行くという流れが出来上がってしまう。もうここまで行ってしまったら恵里もハジメも止める手段が考え付かなかった。

 

「た、助けてぇ~!! ハジメく~ん!! 恵里ぃ~!」

 

「お、お二人も近くにおられるのですか!? さ、探せー!! 絶対に探し当てろー!!」

 

「お二人も悔い改められたのですよね! どうか聖女様と共に来てください! 共に国王陛下と教皇様に訴えましょう!!」

 

「……早まっちゃった?」

 

「……多分」

 

 悲鳴を上げる鈴を遠巻きに見ながら恵里とハジメは顔を引きつらせる。どうすれば収集がつくかなんて考え付きもせず、とりあえず鈴を一人にはさせておけないと宝物庫から着替えを取り出すのであった。




今回の話で皆様も『何か』が変わったことに気付いていただけたら、作者としても冥利に尽きます。だって、いつまでもやられっぱなしは誰だって嫌でしょう?
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